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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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惑星代表争奪戦、開幕

「全部の惑星から最初に出るメンバーの情報が届いたよ。これから転送が始まるから準備してね」


 部屋の中に、ゼウスの声が響き渡る。全員がその声を聞いて顔を上げた。




「それじゃあ、手筈通りに。頼んだぞ」


 ネリムは最初の三人に、確認を促す。三人の軍人は「はい!」と返事を合わせ、戦う者の顔つきへと表情を変えた。





「それじゃあ、行ってきます!」


「ええ。くれぐれも無茶はしないで」


 ラキアはこれから戦う兵士たちに心配の声を掛ける。そんな彼女の顔を見て、三人の兵士はクスっと笑って、静かに手を振った。





「我々は強い。この勝負、勝つぞ」


 シヨクは激励の言葉を贈る。オークたちは言葉を受け取り、静かに頷いた。




「いよいよだね。みんな、準備はいい?」


 キユは三人に確認する。心配などしていない。薄情なのではない、空たちが強いこと、そしてチームに勝利をもたらすと確信しているのだ。


「おうよ! 待ちわびたぜ」


「ああ。いつでも出れる」


 セッキ、シンスイがキユの呼びかけに答える。空も彼らに続いて小さく頷いた。


「それじゃあ、後のことは任せるよ。好きに暴れてきて」


 キユの言葉はこれ以上ないほどに適切だった。プレッシャーを感じさせるわけではない、ましてや、期待していないわけでもない。心地よいほどにちょうど良い言葉。二人はそんな言葉を受け取り、気を引き締める。空も初めて気を引き締めた。


 次の瞬間、三人は光に包まれ始めた。これで三度目。いい加減、この転送にも慣れたいところだが、相変わらずの眩しさに、やはり瞼を閉じざるをえなかった。


 空は転送の途中、瞼を閉じて静かに思った。先ほど以上に、より強く。


――彼女を救う、と。




 閉じていた瞼をゆっくりと開ける。足から伝わる硬い感触が、コンクリートの上に立っていることを悟らせる。さほど、眩しくはない。しかし、奥内に居る感じもしない。首を振って辺りを確認すると、ビルの陰に包まれる場所に立っていることを自覚した。


 どうやらそこは、ビルとビルの間にある路地裏のようだ。なにかと縁のある路地裏から動かず、ひとまず様子を伺う。これから何かが起こり得るのかを確認するためだ。


 今自分が立っている場所を確認すると共に、近くにセッキとシンスイが居ないことに気が付いた。特に慌てるようなことでもなく、「一人一人が別々の場所に転送される」という情報を得られたことを認識する。


 現状を確認し、空がその場で立ち尽くしていると、頭の中から声が響いた。


「それで? これからの作戦は何かあるんですかね、死神サン」


 最初に口を開いたのはリエガだ。なぜか憎まれ口調で、ギハンに質問を投げかける。そんな口調ではあるものの、特に怒っているというわけではない。この口の悪さがリエガの性格を表現しているだけだった。


「そうですね。ひとまずの行動は空に委ねますが、一つだけ心掛けてください。敵と対峙する時は一対一の戦いを意識すること。相手の力量が未知数である以上、多対一で戦うことはおすすめできません。まして、空は一人です。他のメンバーの協力はあてにできませんので、人数的には圧倒的に不利になります。その点さえ気を付けていただければ、後はご自由に行動していただいて構いません」


 ギハンの説明を受けて、小さく頷く。まずは、敵を見つけようと一歩踏み出した。


 その時、何かが打ち上がり弾ける音がした。花火のような音は、微かな火薬の匂いと共に廃墟と化した町全体に響き渡った。


「な、なんだ⁉」


 リエガはその音に驚きを示す。


「もしかしたら、敵の合図か何かかもしれませんね」


「合図? そんなことしたら、敵に自分の居場所がバレちゃうんじゃない?」


「それが狙いかもしれません。敵をおびき寄せる罠か、味方を呼ぶ信号か、あるいはその両方か。いずれにせよ、そこに人が集まる可能性は高いでしょう」


「だってさ。どうする、空? 行ってみる?」


 いつもなら、問答無用で連れて行こうとするリギラだったが、今回も空に確認という手順を踏む。それは、空に自我が芽生えた影響だった。


 空はまた小さく頷いてリギラに応えた。そして、音のした方向に向かって走り出した。




「……今のは」


 別の場所で弾ける音を聞いたシンスイは、音のした方向に首を向ける。そしてそのまま遠くの空を睨んだ。彼女は今、ボロボロのアスファルトの上に立っている。


「罠か、それとも合図か。 ……どちらでもいいことか。今は情報がないからな。ひとまず、音のした方へ向かうとしよう。どうせ皆、そこに集まろうとするだろう」


 シンスイは一人結論付けて、音のした方向に駆け出す。ヒールの音を奏でながら開けた道を走っていると、道の合流地点に差し掛かった。建築物が立ち並び見えていなかった反対側の道が、やがて姿を現す。


 そこに居たのは、同じように音のした方向に向けて走るオークの姿。


「「‼」」


 両者相手に気が付くと、すぐに距離を取って、体の向きを音源から相手に向け直した。そして、両者は睨みあった。


 オークが相手を認識すると、口を開いた。


「オマエは、チキュウノモノか」


「そういう貴様は…… いや、その容姿を見れば言わずとも分かるか」


 両者は好き好きに言葉を並べる。しかし、二人の言葉はどちらも前口上。どのような相手かを知るための言葉に過ぎない。


 目の前には敵、そしてここは戦闘舞台。戦いを避けることなどできぬことを、当然理解していた。


 しばらく睨み合うと、両者は構える。一方は大きな武器を。一方は素手を。


 静寂が走る町中で、一つの戦いが幕を開けようしたその時、とある声が響き渡った。


「その戦い、私も参戦していい?」


「「‼」」


 激しく警戒していた二人は、すぐに声のした方向を向いた。頭上から声が聞こえた気がして、咄嗟に顎を上げて周りを確認した。


 すると、屋根の上に一人、腰を掛けて二人を観察する姿が。


「どうも」


 二人が自身に気が付いたと分かると、その子は小さく微笑み手を振った。


「貴様は、セスの者か」


「ご名答~。自己紹介は必要ないよね。タブレットで名前は見れただろうし、それ以前に私たちは敵同士だもんね」


 セスの女兵士は軽口を言うと、ひらりと宙に身を投げた。二人はそんな彼女を見て、さらに身構える。そんな二人の下にやがて彼女は着地した。


 わざわざ敵二人に挟まれる場所に着地した彼女は、一見、警戒心が低いようにも見える。しかし、隙が無い。彼女もまた、この戦いに参加できるほどの実力者だということだろう。


「ところでさ。あなたたちのどっちかに提案したいことがあるんだけど」


「「?」」


 このような状況下でそれを言うとは、罠か作戦か、それとも性分か。彼女がどのような思惑を抱こうとも、二人の警戒心は揺らがない。


「どっちか私と組んで、余った方を倒さない?」


「「!」」


 女兵士の提案に二人は驚く。まさか、そのようなことを提案してくるとは。一方は呆れ、一方はその提案について考えた。


「ナゼ、ドッチかというテイアンだ? コノバアイ、ヨワイモノとクんでツヨイモノをタオスのがセオリーだ」


 オークはあえて自分を強い者だと言わなかった。そう言ってしまえば、自然と弱い者がシンスイになってしまう。それは相手を軽んじる行いだ。その行いを戦士として、するべきでないと理解していたのだ。


「普通はそうだろうね。けど、その場合はあんたが敵でそっちのおばさんと組むことになるけど?」


「おばっ、」


 おばさんと言われて、軽く傷つくシンスイ。確かに彼女は貫禄もあり、高身長でスーツ姿。見た目だけで言えば、かなり年上に見られてもおかしくはない。


 固まるシンスイを他所に、オークは女兵士と話を続けた。


「ソレならソレでカマワナイ。ナゼならどんなジョウキョウであろうと、センシはカツからだ」


「大した自信だね。なら、私とは組まないってことでいいのかな?」


「ソウだ」


 オークは彼女の提案について、一考の余地なく断った。鼻息を荒くするオークの目には戦士の灯が宿っていた。


「だが、ソレはソレとしてオレとクもうとしたリユウがキになる。ハナせ」


「話せって…… まぁ別にいいけど」


 彼女は命令口調で話をするオークに対して不満を抱きつつ、回答に応じる。そして、息を吸い込んで彼女はその答えを口にした。


「理由としては単純な話、地球軍が気に入らない」


「⁉」


 あっけなくオークに振られた女兵士だったが、特に凹む様子もなく淡々と答える。


 そんな彼女の言葉を聞いて、シンスイは引っ掛かった。


「どう? この答えで満足した?」


「……ああ。ジュウブンだ」


 シンスイの反応などお構いなしに、彼女はオークに確認を促す。オークもその返答に納得の言葉を並べた。


 そんなオークの反応にも、シンスイは引っ掛かった。


 何故、彼女は地球軍をあれほど敵視しているのか。何故、オークはそうも簡単に納得したのか。考え付いたのはゼウスのやらかし。もしくは地球との過去の因縁。


 おばさん呼ばわりされたことといい、様々な考えが頭の中を駆け回り、上手く思考がまとまらない。


「それじゃあ、おばさんはどう? 私と組んであのオークを倒さない?」


 彼女はオークから顔を反らして、反対方向に居た悩んでいるシンスイに提案を持ち掛ける。


 二度もおばさん呼ばわりされたシンスイは顔を引きつらせた。ただでさえ考えることが多いのに、追撃のおばさん呼び。


 嫌味ある単語を何度も聞いて、シンスイは何かが吹っ切れたように笑みを浮かべた。そして、しばらく俯いた後に、彼女の顔を見て言い放つ。


「私もその提案は断らせていただく」


 シンスイがそう言っても、彼女は何食わぬ顔をしていた。まるで、断られることを前提にしていたような、断られても問題ないような、そんな表情だ。


「ふーん。一応理由も聞いておこうかな。なんで?」


「簡単な話だ。貴様から出てくる発言は全て薄っぺらい。ただそれだけだ」


「そんな浅はかな理由? 常々気に入らないね。おばさん」


 女兵士は地球軍を毛嫌いしているようだ。理由は定かではないが、彼女の発言がそれを物語っている。


 が、そんなことはどうでもいい。三度目。おばさん呼びした回数だ。色んな思考がごちゃ混ぜになっていたシンスイの思考は、そのことだけでいっぱいになった。そして、シンスイは付け加えるのだ。


「ああ。貴様の提案を断るもう一つの理由があった」


「?」


「私をおばさん呼ばわりするような礼儀知らずと、組むようなことなどない!」


 力強く言い切った。


「いや、どこからどう見てもおばさんじゃん。認めたくないのは分かるけど、現実はちゃんと見ないと」


 彼女は諭すように話す。その目は痛い者を見る目だ。現実が見えていない夢見がちな人間を見る目。


「貴様の目は節穴か! 私はまだ二十七だ!」


「嘘ッ⁉⁉⁉」


 これまですまし顔をしていた女兵士は、とびっきりの驚く顔を作ってみせた。目の前の人間が嘘を付いているようには見えない。ならば、本当におばさんではなくお姉さん? そんなのありえない! とでも言いたげな顔だ。今まで本気でおばさんだと思い込んでいたのだろう。


 シンスイは彼女の顔をしっかりと捉えていた。それに加えて、オークの驚く顔も見逃さなかった。


 オークもシンスイのことをおばさんだと思っていた。彼女の年齢を聞いて、自分の妻と同じ年齢であることに驚いたのだ。


 あまりにも失礼な態度を取る二人を見て、シンスイは心に決めたことが一つあった。


――こいつら、絶対に殴ってやる。





 話は少し遡って、花火のような音が打ちあがった頃。


「ん?」


 彼もまた、別の場所でこの音を聞いていた。薄暗いビルの中、彼は立っていた。


「なんだ、今の音?」


 彼は音のした方向に顔を向ける。しかし、今はその音の正体がなんであるかなど興味はなかった。それ以上に興味を引き付ける何かが、彼の目の前にあったのだから。


「ワカランが、イマはソンなことドウでもイイ」


 彼の興味を引き付けていた者が、同じ方向を向いていた顔を彼に向け直しながら、そう言った。片言で話す巨体はオークだった。暗いビルの中で佇むオークは、嫌というほど不気味に見えた。


「それもそうだな」


 オークの言葉に同調する。確かにその通りだ。音の正体がなんであるかなど、どうでもよい。今、重要なことは一つだけ。目の前には敵。しかも、とびっきり強い奴。


 彼も同じように、オークの方に顔を向けた。


「じゃ、やるか」


 そう言うと、すっと拳を前に構えた。その仕草に続いて、オークも武器を構えて応える。


 そんなオークを見て、彼は悟った。これは熱く激しい戦いになると。相手は想像以上に手強いだろうと。出し惜しみなく全力を出す必要があると。


 しかし、彼は悟るだけでその思いを口には出さない。彼、いや、彼らは分かっているのだ。既に言葉は必要ないことを。


 会話はとうに終えた。語り合うなら拳で。


 彼の名前はセッキ。悪魔を喰らい、悪魔並みの身体能力を手にした男。そして、目の前の強者を倒す者。


 空のようにエネルギーを行使することなどできはしないが、彼には強固な肉体だけで十分。なんでもぶっ飛ばせる腕力と、決して挫けない心さえ持っていれば、どんなことが待ち受けていようが乗り越えられることを知っているからだ。


 二人は何かを合図にする訳でもなく、一斉に前に飛び出した。




 これまた、別視点。花火音が打ちあがる前。


「……」


 黒い服に身を包んだ男が、腰を屈めて黙々と作業をしている。建物の中、部屋の片隅。男は周囲に警戒しつつも、その手を休めることはない。


「……よし」


 作業を終えて、一息つく。そしてすぐに、外へ出るために立ち上がった。物陰から覘き、外に誰もいないことを確認すると、急いで路上へ飛び出した。道の真ん中で再び屈み、先ほど調整した装置をセット。すぐさまその装置を起動させた。


 次の瞬間、装置の筒部分から上空に向かって何かが発射され、やがてそれは爆音と黒煙を作って爆発した。


 男はその一部始終を黙って観察した。


「ひとまず任務完了。コード番号03が来るまで、身を隠して待機する」


 男はすぐにその場を離れ、打ち上げた場所が見える配置にまで移動した。周囲を警戒しつつ、仲間の到着を待った。


 しばらくすると、同じ服装をした女性がこそこそと向かってくるのを視認した。男はすぐさま合図を送る。彼女もそれを確認。二人は急いで合流した。


「ここに来るまでに誰か見たか」


 会って早々、男は心配する素振りもなく、行ったのは情報交換。ただ忠実に任務をこなさんとする姿がそこにはあった。


「いいえ、誰も。近くに誰かが居た気配もないわ」


 こちらも同じように淡々と返す。その姿勢は男と全く同じ。


「そうか。ではこれより、次の作戦に移行する。それぞれ持ち場に点いて、爆発音に釣られてやって来た相手チームを一斉に叩く」


 男は作戦を口にして再確認する。女性はそれを聞いて小さく頷いた。


「それでは散開!」


 男が号令を掛け、二人がその場を離れようとした。その時、近くに何かが飛んできて、大きな音と砂煙を巻き上げた。


「「⁉」」


 リープ軍の二人は驚いて、咄嗟のことで動くことができなかった。二人は飛んできた方に顔を向ける。揺らめく砂煙に巨大な影のシルエットが浮かび上がった。


 その影は煙の中から鋭い目つきで二人のことを睨んでいた。


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