他のとこでも作戦会議
―惑星リープー
「しかし、これは許せませんね」
軍人の一人が口を開く。目線は下に、手元にはタブレットを持っていた。
タブレットに開かれていたページは、地球軍の情報が記載されている箇所が。先ほどの口ぶりからしても、その軍人が地球軍の何かに不満を抱いていることは明白だった。
「そうですよ! 俺たちが一刻を争う事態だってのに、こいつらは未来のことで悩んでやがる。今を悩む俺たちにとっては腹が立つ理由ですよ」
別の軍人が愚痴をこぼす。こちらも同じく地球に対して不満を抱いている様子だった。
「ふぉっふぉっふぉ。誰にだって事情はある。わしらには理解できん何かがそこにはあるのかもしれんしのう」
こぼされた愚痴を拾い上げ、老人、ネリムは笑いながら自身の思いを言葉にする。軍人たちはその言葉を聞いて、注目をネリムに集める。そして、ネリムの放つ次の言葉を待った。
「だが、そんなことは関係ない。お主たちは他所の情報や作戦に惑わされずに、ただ計画に専念しておればよい」
笑顔から一転、ネリムは真面目な表情で軍人たちに言葉を贈る。その言葉で喝が入り、
「「はい‼」」
ネリムの言葉に答えるべく、全員が大きな声で返事をした。
(ネリム殿の言うことは尤もだ。しかし、それはそれとして……)
軍人の一人が声に出さず、思いを巡らせる。その思いは地球に対して納得していないものだった。
―惑星セスー
「くだらないですね」
女兵士が小言を言う。その者の手にもタブレットがあり、地球軍のページが開かれていた。
「ええ、本当に。資源の枯渇だなんて、一体どんな贅沢な暮らしをすれば、そのような事態に陥るのでしょうか」
別の兵士が次いで、小言を漏らす。こちらは不満や怒りを通り越して、呆れが色濃く出ていた。
「そうかもしれないわね」
二人の兵士の後に声を発する女性。その声には他の者にはない覇気があり、ほんの少しの言葉だけで、周りの者に存在を知らしめる。恐怖や不安などではない、魂を震わせるその声を聞いて、女兵士たちは声の主に注目を集める。
そこに居たのは、彼女らをまとめる頼れるリーダー、ラキアの姿があった。
「彼らがこの戦いに参加する理由は、私たちには理解できないものなのかもしれない。けど、それは私たちも同じじゃないかしら」
期待していた言葉とは別で、予想外の言葉が聞こえて、一同はざわめく。ラキアは気にせず話を続けた。
「私たちがこの戦いに参加する理由だって、他の惑星の方にしてみれば理解し得ないものなのかもしれない。なぜならば、その状況に陥っていないから。その人の苦しみや問題点は、同じ立ち位置にいないと分からないものだと思うわ。だから、頭ごなしに否定するのではなくて、その人たちのことを知ってから、判断してほしいの」
ラキアは優しく諭す。暴君のように意見を押し付けるのではなく、同じ目線で話そうとする彼女の声に、誰しもが耳を傾け、黙って聞き入っていた。
ラキアは思わずはっとして、周りを見る。そして、みんなが自分に注目していることに気が付いた。
「ご、ごめんなさい! あなたたちの意見を否定したいわけじゃないの。ただ、目先のことだけに囚われて視野を狭めてほしくなかっただけで……」
先ほどの凛々しく気高い姿はどこへやら、そこに居たのはおどおどと可愛らしい挙動を振りまくただの女の子だった。
その姿を見て、兵士たちはくすりと笑う。そんな、彼女たちを見て、ラキアは頬を赤らめて、軽く咳払いを一つした。
「さっき言った視野を狭めないことは、これからの戦いでも言えることよ。あなたたちの行動を制限する気はないけれど、一時の感情に身を任せて後悔してほしくないの。そのことさえ意識すれば、あなたたちならきっと勝てるはずよ」
ラキアの助言で吹っ切れたのか、不満で険しい顔をする者はだれもいなくなった。表情は明るく、希望に満ちていた。そんな彼女たちを見て、ラキアも安堵の笑みを浮かべた。
「しかし、ラキア隊長は他の人に見せる態度と、私たちに見せる態度が全然違いますよね」
「そ、そうかしら?」
「そうですよ。さっきまでは男っぽい口調で話していたのに、私たちの前では女の子らしい話し方で」
「確かに。最後のセリフなんて『なるほど。承知した』ですよ?」
「も、もう分かったから! それ以上言わなくていいから!」
茶化す女兵士の発言に慌てふためくラキア。笑顔振りまき仲間と談笑する様は、普通にしていれば、やはりただの女の子にしか見えなかった。
戦いの前とは思えぬほどに、その部屋は朗らかな空気で満ちていた。
(隊長はああ言ってたけど、それでも……)
兵士の一人は思いを馳せる。憎しみや嫉妬などの負の感情はなく、一つの決意を胸に拳を静かに握りしめた。
―惑星グリンー
「コノワクセイにスむヤツラはゼイタクだ」
オークの一人が片言で、低い声を発した。人間の手と同じ形をした分厚い手でタブレットを掴む。開かれているページは地球。比較的知能の低いオーク種であっても、地球軍の抱える悩みは贅沢なものであるという認識が取れるほどのものだった。
「ミズもタベモノもアルのに、イマのクラシをヨくしようと、タタカッている」
別のオークも不満を垂れる。他の者も同じ思いを抱いているのだろう、話を聞いて、表情が険しくなる。そして、同調した。
「よせ、お前たち」
不満を口にするオークたちを、たった一言で黙らせた。迫力のある声を聞いて、オークたちは口を噤んだ。
「どんな事情があるにせよ、彼らも国のために戦う戦士だ。そこに敬意を払わないでどうする。賞賛こそされど、不満を言われる筋合いなどないはずだ」
流暢に、そして、堂々とオークのリーダーは話す。この後に戦う敵だとしても、リスペクトの精神を忘れない。彼の名はシヨク。オークたちの中で最も強い男だ。そんなシヨクの話は続き、戦士たちは黙って尖った耳を傾けた。
「だが、お前たちの怒りも尤もだ。我々は今日明日の飲み水に困っているというのに、彼らは未来について嘆いている。そんな彼らに不満も覚えよう」
シヨクは周囲を見回す。オークたちは頷いたり、目を閉じることでシヨクの言葉に同意を示す。その通りだ、と。
「ならば、その怒りを拳に乗せて戦え」
オークたちはシヨクの言葉を聞いて、再び焦点を彼に合わせる。そこに居るのは、みんなの前に仁王立ち、鬼気迫る勢いで言葉を述べる、最強の戦士の姿があった。
「お前たちは誰だ? 誇り高きオーク種から選び抜かれた戦士たちだろう。ならば、戦え! その気高き信念を持って! 勝て! その剛腕な腕を振るって! そして、証明しろ! 自分たちこそ、明日の運命を切り開く戦士なのだと!」
シヨクは最後に、大剣を片手で上に翳した。戦士たちはそれを見て高揚する。そして、同じように武器を上に持ち上げ、雄叫びを上げた。
「ウオオオオオォォォォォ‼」
戦士たちは誰よりも、隣に居る戦士よりも大きな声を上げる。自分こそが戦士なのだと、戦士はここに存在するのだと。自身の誇りを知らしめんと、声を荒げた。
(ソウだ。オレはセンシ。オモウことがアルなら、タタカッテカツ!)
戦士たちは心と体に闘志を燃やした。伝えたいことを言い終えたシヨクは、雄叫びを上げる戦士たちを見て、これ以上何も言うことはないと、満足して座った。
そんな彼らを、部屋の隅で壁にもたれ掛かり眺める人影。
その人影は、オークたちにタブレットの使い方を教えた後もその部屋に残り、一部始終を見ていた。そして、彼らの話が一区切りついたところを見て、人影は不敵に微笑んだ。




