表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
PR
42/108

今度はこっちで作戦会議

 空はモニター正面のソファに腰かけた。ふと隣を見ると、ふてぶてしい顔でセッキが座っている。セッキがこちらに気付き、睨みを効かせる。どうやら、中のリエガを見ているようだ。頭からリエガの唸る声が聞こえてきたから、きっとそうなのだろう。空はそっぽを向くように前に顔を向け直した。


「それじゃあ作戦会議をはじめよう。みんなタブレットに目を通したはずだから自己紹介は必要ないよね。進行は僭越ながら僕が、主な作戦立案はシンスイにしてもらうつもりだ。他に代わりたい人が居たら構わずに言ってほしい」


 モニターの前に立ったキユはそう言って、みんなの顔色を伺う。隣にはシンスイが腕を組んで立っていた。


 当然、誰も手を挙げようとしない。皆黙って、キユの方を見るばかりだ。唯一、この男を除いて。


司会進行そんなもん、お前以外に好き好んでやる奴なんていねぇよ。いいからさっさと始めろよ」


 悪態を付くセッキ。そんな口の悪い彼にも、目の前のイケメンは爽やかに微笑みかけた。司会をそのまま進めて良いことを伝えてくれてありがとう、と言わんばかりの表情だ。


「誰も異論はないということで、このまま続けさせてもらうよ。途中で変わりたかったらいつでも言ってくれて良いからね」


 爽やかな笑顔でそう言い放つキユは、そのまま司会進行を続け、作戦会議が始まった。それと同時にその場の空気が一瞬にして引き締まった。今回は、それを空も感じ取っていた。


「早速だけど、みんながルールを把握している前提で作戦立案をしようと思う。シンスイ、お願いできるかな」


 キユはシンスイの方を見て確認する。目が合ってシンスイは黙って頷き、それがバトンタッチの合図になった。


「それでは私の方から作戦を伝えさせてもらう。作戦、とは言っても誰でも思いつくような安直な物だ。もう少し時間があればより緻密な策を練れたかもしれないが、如何せん今は全く時間が足りていない。言い訳と言われればそれまでだが、今考え付く最善の策を提示できると思う」


 自信なさげなことを言うシンスイ。簡単な策しか思いつかなかったのが余程悔しいのか、その顔は暗かった。しかし、気を引き締め直したように、すぐに顔を険しいものへと戻し、しっかりと前を向いた。


「作戦は主に二つだ。一つ目、実力が低い者から転送すること。二つ目、集団で行動すること」


「妥当ね」


 シンスイの作戦を聞いて、レセントは納得の言葉を述べる。他の者もすぐに理解を示し、小さく頷いた。ただ一人、セッキを除いて。


「妥当…… なのか? なんでだ?」


「セッキ。今回のルールに当たって重要なポイントはどこだと思う」


「どこって。そりゃあ、五人出れるところだろ?」


「そうだ。残り人数が五人になった時、五人で出場できる。これこそが今回の戦いにおいて着目すべきところだ。五人で出るとなれば場合によっては数的有利を取ることができるし、連携の幅も広がる。そこが最大の特徴であり、最高のメリットだ」


「言ってる意味は分かるが、それが作戦となんか関係あんのか?」


「もちろんあるとも。残りの五人は実力が高い者を残した方が良いということは分かるな? 最高戦力を投入させて最大火力で相手陣営を一掃できる可能性があるからだ。だから、実力の低い者を先に転送し、強い者を温存。それに、上手くことが運べばこちらは強い手札を残して相手の戦力を減らすことができるかもしれない。これが一つ目の作戦の理由だ」


「……言いたいことはあるが、先に二つ目の作戦の方も聞いといてやる」


 セッキの声のトーンがやけに低い。空は横目でセッキの表情を見た。相変わらずの強面があったが、その迫力が増しているように見えた。空は何も言わず、シンスイの方へと視線を戻した。


「二つ目は先ほど言っただろう。数的優位だ。恐らく相手も同じ手段を取ってくることが想定されるだろうが、集団行動を意識掛ければ数の差でまず負けることはなくなるだろう。単純な理由だ」


「あ? なんだそりゃ?」


 シンスイの説明に納得がいかなかったのか、セッキは不満げに悪態をつく。異様な空気感の中、メンバーの視線がセッキへと注がれた。


「強い奴を残すだの集団でつるむだの。お前の作戦は弱い奴が考えることじゃねぇか」


「なに?」


 セッキは毅然とした態度で発言した。その目は真っ直ぐにシンスイを見て、ぶれない。鋭い眼差しで相手を見つめる。


 シンスイは冷静に、ひとまずセッキの話を聞き入る。相手の言い分も聞こうという姿勢だ。だが、その表情は眉をひそめている。


「いいか? お前の作戦は先に出る五人を見下したもんだ。最初っからその五人がやられる前提で話が進んでやがる。それに、集団行動ってのは弱ぇ奴らがするもんだ。地球軍代表に選ばれるほど強ぇ奴らがすることかよ」


「それは傲りというものだ、セッキ。相手は強いことはさっきの顔合わせで分かっただろう。こちらも全力で挑まねば敵わない相手だということはお前も理解しているはずだ」


「いーや、分かんないね。分かりたくもねぇ。俺様が本気を出せば勝てねぇ相手はいねぇ。それに、全力っつうのは味方同士仲良しこよし、お手々繋いで協力し合うことじゃねぇよ。己の全部を絞り出して勝つことだろうが」


 セッキは目を反らすことなく、堂々と言い切った。自分の強さに慢心し、油断しているわけではない。根幹にあるものは圧倒的な自信と自身。誰にも揺らがせない、己の中にある真っ直ぐ太い線。セッキの中には確かにそれがあった。


「それが傲りだと言うのだ。相手の強さを認め、作戦を立て、共に立ち向かうことは弱さではない。己の強さに慢心し、視野を狭め、勝てたはずの勝利をもこぼす者こそ、真の弱者なのではないか」


 シンスイも負けじと、芯のある声を響かせる。こちらも、決して他人には影響されない硬いなにかを感じさせた。


 口論は熱く、その熱の高まりは留まることを知らない。どちらの主張も納得できるものがあったし、どちらが正しいというものでもなかった。それは、シンスイだけでなく周りの者も理解を示していた。


「はいストップ」


 二人の言い合いを見かねて、キユが手を叩き話の流れを変える。シンスイは言い争いをひとまず止めて、キユの方を見た。一方のセッキは、まだまだ言い足りなかったのか不満げにそっぽを向いた。そんなセッキを見て、キユは残念そうにため息を吐いた。


「本当は、満場一致でシンスイの作戦で決定する流れになることを望んでいたんだけど、やっぱりそう上手くはいかないね」


「あの馬鹿が折れれば済む話だ」


「俺は曲げる気はねぇ」


「うん。シンスイの作戦案はすごく良かった。けど、セッキの話も共感できる部分があったよ」


 途中で暴言を交える二人に対しても、キユは真摯に対応した。


「みんなの中にももしかしたらセッキのように、一人で戦いたいって人もいるんじゃないかな」


 そのようにキユが発言すると、ここぞとばかりに何人かが手を挙げる挙動を示した。カーシェスとシノブ。さらにそこに空も加わって、セッキを除いて三人が賛同した。


「それ見ろ! 俺と同じ考えの奴が全然居るじゃねーか!」


 セッキは勝ち誇ったような顔をして、嬉しそうにシンスイの方を見た。しかし、シンスイは何も言わずに、様子を伺っていた。その場に流れる空気に身を任せるように。


 そんな調子に乗った態度を取るセッキに発言したのは、シンスイでも、ましてやキユでもない。先ほど手を挙げたカーシェスだった。


「勘違いするなよ、チンピラ風情が。俺の場合、一人の方が役に立てるから賛同したにすぎん。行動を共にすることで勝ちの目が出るなら、進んで協力するし、役割は全うするつもりだ。お前の浅はかな考えになんぞ一ミリも共感しとらんわ」


「……右に同じ」


 きつい言葉をお見舞いするカーシェスに次いで、シノブも同意を示す。シノブの声は中性的で、やはり性別は判別しづらい。


「なんだとてめぇ」


 考えが同じ仲間だと思った矢先、すぐに梯子を外されたセッキは、怒りの矛先をカーシェスに向け、睨む。


 カーシェスは強面に睨まれても怯むことなく、「ふんっ」と一言で一蹴するだけだった。


「はいはい、喧嘩しない」


 おかんのような言葉遣いで、キユは再度仲裁に入る。その言葉で、カーシェスとセッキは目を反らし合った。キユは軽く咳払いをして、話を続けた。


「まぁ、セッキほどではないにしても、空みたいに多少なりとも不満を持つ者も居るだろう。そんな状態で協力しあって、果たして彼らに勝つことができるだろうか」


 キユはまた、みんなの顔を見回す。九人は、表情こそ顔に出さなかったが、面には「無理だ」としっかり出ていた。


「不可能、だろうな」


 全員の意見を代表して、シンスイが口に出す。キユはその言葉を聞くと小さく頷いた。


「連携を取りたくない者に強制しても、それが上手くいく保証はない。それ以上に、悪手に成り得る可能性の方が高いと、僕は踏んでいる。そこで、こういうのはどうだろう」


 キユは暗いトーンから、急に明るいものへと変化させ、新たな作戦を提示する意思を示した。


「一人で行動したい人は最初の方に出場して、できる限り敵の数を減らしていく。そのまま勝ち残ってくれてもいい。共闘しても良いって人は後に残って、出番が来たらチームプレイに徹する。これなら、みんなの意見を尊重できるんじゃないかな」


「……それなら、まぁ、いいか」


 セッキはキユの提案に、渋々賛同した。先ほどまで否定ムーブをかましていた手前、堂々と賛成するのが難しく、そういう言い方になったのが見え見えだった。


「ちょっと待て。その作戦だと、もし仮に一人で行動したい者が残ってしまったら、後の者と連携が取れなくなってしまうのではないか?」


 丸く収まると思った矢先、懸念の声を上げたのはシンスイだった。


「それならそれで問題ないんじゃないかな。もし仮に、最後まで残っているのだとしたら、一人で戦っても勝ち残ることができる強さを持っているわけだから、そうそう負けることもない。相手がそれほど強くない可能性もあるけどね」


「なるほど。あえて作戦には参加させずに自由に行動させることで、相手の力量も図ることができるというわけか」


 シンスイは納得した表情を浮かべた。キユはその言葉を聞いて、小さく頷いた。


 全員が作戦に納得しかけたところで、今度はキユ自身が己の作戦に口出しした。


「ただ、この作戦だと、強い人を後に残すっていう案が成立しなくなってしまうんだ」


 懸念点が思い浮かんだような表情をして、キユは発言した。セッキはその言葉を聞いて、口角が上がる。


「まぁ確かに? 俺様を後に残せないってのはなかなか不安になるよな? けど、お前もさっき言ってたじゃねぇか。最初に出ても勝ち残ればいいって」


 不安げなキユに、鼻高々に発言する。先ほどまでの怒りはどこへやら、そんなことを感じさせる雰囲気は微塵もなかった。


 そんなセッキを見て、キユは困り顔から疑問を浮かべた顔へと変貌させた。


「安心しろよ。俺様は最後まで絶対に残ってるやるから。だからお前らはなんにも心配せずに、作戦だのなんだのをやってればいいさ」


「いや、その心配はしてないよ」


「へっ、」


 自信たっぷり、全て俺様に任せとけムーブをかますセッキに、キユは淡々と言葉を返す。キユが心配している部分はそこではなく、むしろ検討違いなことを言うセッキに少し疑問が出るほどだった。


「だって君、もともと先発組じゃないか」


「……今、なんと?」


「君はもともと先発組じゃないかって」


「んー。え? いやいや。そんなわけないよな。聞き間違えちまったか~。もう一回言ってくれ?」


「だから、君はもともと先発組に選ばれる予定だったんだよ。そもそも僕が心配しているのは君に関することじゃない。カーシェスとシノブに対することだよ」


 セッキはキユの話半分に聞いていた。その顔にはアホ面が。呆けた顔で、明後日を見るように目は遠くを見つめていた。


「二人はシンスイの作戦だと、後ろの五人に残す予定だったんだ。けど、さっきの話で手を挙げていたからね。強い人が先に出てしまうこと、そこを残念がっていたんだよ」


 呆けた顔をするセッキを他所に、キユは話を続ける。そこに、悪気という二文字は一切感じさせなかった。キユの目線がカーシェスとシノブに向く。その目は、何かを促す目。二人の意見を聞きたがっている目だ。


「さっきも言ったが、俺が協力することで得られるもんがあるなら従うさ。なにも一人で行動することにこだわりがあるわけじゃない」


「然り。『協力』が指示であるのなら、それに従事るまで」


「良かった。ありがとう」


 キユの意図を察して、二人は自身の意見を述べる。


 カーシェスはその顔に相応しい大人な対応を見せる。その仕草に、淡々と仕事をこなすハードボイルドさを感じさせるものがあった。


 一方のシノブから発せられた言葉には感情や思いはなく、伝わってくるのは「忠実さ」のみ。自分の意思ではなく忠義で物事を行わんとするそれはまさに、忍そのものだった。空とは異なる自分の意思がないその在り方は、同じ意思のない物でも格式が違ったように見えた。


 そんなシノブに、キユは爽やかな笑顔で返した。


「……おい、空。絶対に俺らで全員倒してやろうぜ」


 空気と化したセッキが空に耳打ちをする。静かで穏やかながらも、その声には燃え上がる闘志と沸き立つ怒りが込められていた。


 空は黙っていたが、セッキの提案には最初から賛同していた。先の通り、空に「連携」というものは存在しない。最初から一人で戦うつもりだったし、全員一人で倒すつもりでいた。セッキが言い出さなくとも、シンスイの作戦を無視してでも一匹狼を貫くつもりだった。


「さて。ある程度の方針が決まったところで、出場する順番を決めようか」


 キユの発言は、再び全員の注目を集めた。全員の視線が自分に集まったことを確認すると、キユは話を始めた。


「とは言っても、さっきの話合いで順番が変わったわけじゃない。もともとセッキや空はスターティングメンバーだったし、シノブやカーシェスの意思も確認できた。おかげでシンスイと考えた順番を崩さなくて済みそうだよ」


 胸をなでおろすように話すキユ。その発言にも悪意はなかったが、セッキとリエガの心を抉った。二人は同時に舌打ちをする。それに気が付いて両者目を合わせる。初めて共感し合った瞬間である。だがそれも一瞬で、先ほどの出来事を思い出し、二人はすぐに顔を反らした。


 二人をおいて、キユは浮かび上がっていた朗らかな表情を、凛々しいものへと変貌させた。その一瞬の出来事で、キユの表情だけでなく、明らかに流れていた空気が変わった。その空気は他の者にも伝わり、全員の身を引き締める。


「それじゃあ順番を発表したいと思う。まずは先発組の三人、空、セッキ、シンスイ」


 名前を呼ばれた者は、それぞれ異なる反応を示した。セッキであれば不敵に微笑み、シンスイであれば静かに頷いた。そして、空は無反応の反応を行った。


 それぞれが反応を示しながらも、キユの発表は続く。


「次に、出場する四人は、ソーシャ、シオリ、カーシェス、ライナ」


 四人もまた、名前を呼ばれると気を引き締め直すように、それぞれが反応を示した。


「そして、最後に残る三人、シノブ、レセント、それから不肖ながら僕、キユが務めさせてもらう」


 これまで反応を示した他の者に比べて、シノブもレセントも特段なにか反応することはなく、黙って流れに身を任せていた。


「……て、おめーも先発組じゃねーか! よくもまぁそんなんで、作戦がどうだの言えたなぁ!」


 発表が一段落して、セッキが華麗なツッコミをお見舞いする。その相手は当然、シンスイだ。


「ふっ。私がいつ後発組だと言った? 私はただ作戦立案をしただけだ!」


「威張って言うことか!」


 堂々と言い張るシンスイに、セッキの華麗なツッコミ第二弾が炸裂。しかし、そんな言葉も堪えることなく、シンスイは高らかに笑うだけだった。


「それじゃあ、先発組は準備をしてくれ。最後に残る五人は、それぞれの長所を活かせるチームプレイができるように、別で話し合おう」


 キユの号令を合図に全員が行動に移す。空もその合図に従い、準備を進める。作戦会議の時も、現在も空の頭の中にあるものはただ一つ。ラキアのこと。空は誰しもが持つ「思い」というものを胸に秘め、戦いが始まるそのときを待った。


――この戦いに勝って、彼女を助ける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ