情報収集と作戦会議
空とリギラたちの会話が続く中、空の前にタブレットが差し出される。
差し出されたタブレットを持つ手には、白い手袋が。さらにその手はメイド服から伸びていた。
「よろしければ、どうぞ。皆さまはすでに拝見済みですので」
メイドは一言だけ言い残して、笑顔でお辞儀をした後、元居た定位置に戻っていった。ふわりとスカートをなびかせると、背筋を真っ直ぐに伸ばし、一寸のぶれなく直立した。
一同がメイドの一連の流れを見送った後、リギラが口を開いた。
「これ、何?」
「おそらく、先ほどゼウスが話していたタブレットでしょう。確か、相手の情報が載っているとも言っていましたね」
ギハンの話を聞いて、視界をメイドからタブレットに戻した。早速、画面をタップして電源を入れると、横文字で三つの項目が分けられていた。
上から、「INFOMATION」「REGISTRATION」「REPORT」と分けられる。下二つは、先ほどゼウスが話していた「登録」と「報告」の項目だろう。気になったのは一番上の項目、「情報」の欄。下の二つには目もくれず、迷わず上の項目を押す。
すると、さらに四つの項目が現れた。上から、「グリン軍」「セス軍」「地球軍」「リープ軍」。最初は英語表記だったのに次が日本語表記なのは、あの神のことだからどうせ、恰好を付けたかったのだろう。おそらくこれらの項目は、「地球軍」という項目からして、各惑星の名前を表していることが窺える。そして、それらを押せば各惑星のメンバーなどが表示されるのは明らかだ。
「これは何?」
リギラは出てきた項目の欄について、見当が付かず疑問の声が上がる。
「これは…… 地球軍という項目から察するに、他の惑星についての情報ではないでしょうか」
ギハンも同じ見解を口にする。そして、項目を見て浮かんできたのはまたも、彼女の顔。早速、彼女の情報を確認しようと、項目を押そうとした。
しかし、どの項目が彼女の所属なのかが分からない。空は試しに一番上の項目を押した。
その項目を押して最初に出てきたのは文章。そこにはその惑星の大まかな説明と、この戦いに参加した理由について記載されていた。五人はタブレットを覗き込んだ。
惑星グリン。その地のほとんどを乾いた大地や砂漠が埋め尽くす惑星。過酷な環境のせいか住んでいる生物も少なく、主たる種族はオーク族のみ。彼らは食料や水を求めては彷徨い歩き、住処を転々として生き永らえる。飢餓に耐えられず死んでしまった同胞も少なくなく、時には死した仲間を糧として命を繋ぐことも珍しい話ではない。
彼らがこのゲームに参加した理由は、食料と水に困らない生活を送るため、飢えで泣く元気すらない子供を救うため、これ以上仲間を死なせないため。そんな熱い闘志を抱いて、選りすぐりの戦士たちは立ち上がった。
「……可哀そうだね」
リギラの嘆き悲しむ声が頭に響く。まさに、天使らしい発言。悪魔のリエガも、さすがにこの時ばかりはツッコミは入れなかった。
空は黙って下にスクロールした。次に現れたのは顔写真とその下には名前らしき文字が。一番上に、リーダーであるあのオークの写真があり、その下には三枚ずつ写真が並べられていた。試しに一番上の写真をタップすると、出てきたのはリーダーのプロフィール欄だった。
シヨク。オークたちを治めるリーダー。他のオークたちよりも知能が高く、腕っぷしも彼に並ぶ者がいないほど強い。知力、武力、共に優れた彼は、グリン軍を勝利へと導く。
「さっき、話してたやつか」
リエガは先頭に立って話していたオークのことを思い出しながら、シヨクの写真を覗き込む。しばらく黙って眺め続けた後、リエガは意外な言葉を口にした。
「こいつ、相当強ぇな」
「おや、あなたからそんな言葉が聞けるなんて。てっきり、空以外の強者は認めないものかと思っていました」
「ばーか。ちゃんと強ぇやつなら俺だって認めるさ。相手の強さを認められねぇほど愚かなつもりもねぇ。だがあいつらは違ぇだろ」
リエガが「あいつら」と指を差す方向には、セッキたちの姿があった。先ほどのルールに関わる話をしているのだろうか、談笑している様が見られた。
「あいつらにも実力があるのは認めてやるよ。空よりも強ぇことも、甘んじて受け入れてやる。だが、僅差だ。俺の見立てじゃ、空とあいつらにさほど差はねぇ。そのくせに及第点だの、足手まといだの好き勝手言いやがって。思い出しただけでも腹が立つ」
ここぞとばかりに不満を吐くリエガ。憂さ晴らしのように見えるその様を見ると、相当鬱憤が溜まっていたのだろう。
「それならば、こちらの陣営にはリエガが認めるほどの逸材はいない、ということですか」
「俺の目利きを確かめるような言い方すんじゃねぇよ。お前も気付いてるくせに。居るだろうが。一人、明らかに空より強ぇのが」
リエガの視線の先には、先ほどゼウスと喋っていた男、メイの目に留まったイケメンが居た。
空も同じようにその男をしばらく見たが、あの女性のように興味が惹かれない。変化を感じられない。何も思わない。
しばらく彼を見た後、タブレットのほうに視線を戻した。そしてこれ以上目ぼしい情報がないと、四つの惑星項目の画面へと戻した。
「あ! てめぇ勝手に!」
なんの相談もなく、好き勝手に操作する空を見て、リエガは軽くキレる。憤慨していないのはそれほど怒る内容ではなかったためか。あるいは、いつもと違う空の行動にどのような対応をして良いか戸惑っているためか。
怒りの言葉を口にするリエガのことなどお構いなしに、タブレットの操作を続ける。
グリン軍の下にあった項目はセス軍。空がその項目をタップすると、また文章から始まる画面が表れた。すぐに、他の四人もタブレットを覗き込む。
惑星セス。自然の恵みが豊かな惑星。緑溢れる肥沃な大地の真ん中に、彼女たちは王国を作り穏やかな暮らしを送る。王国内に建てられた王宮に女王様が暮らし、彼女は巨大なクリスタルから子供を作る。特殊なことに、クリスタルから生まれてくる子供は皆女性。彼女たちは隣り合う自然と共に、静かに暮らしている。
彼女たちがこの戦いに参加した理由は、国防の強化。女性しかいないことや、生まれてくる子が皆容姿に優れていることから、他の惑星の者から多く狙われ、拉致や凌辱の危険に度々曝されている。国の兵士だけでは防衛を賄うことができず、他の惑星から軍力を増加させるために、彼女たちは華奢な体で剣を振るう。
「ここも。かなり深刻な問題を抱えているようですね」
ギハンは静かに語る。
空も胸が締め付けられるような感覚になった。グリン軍の説明書きを見たときは、こんな症状に陥ることもなかったのだが。セス軍の説明を見た時だけこうなったのは、やはり彼女が関係しているのだろうか。
逃げるように下の方へとスクロールして、彼女たちの顔写真を映し出した。真っ先に目に飛び込んで来たのは、一番上にあった彼女の顔写真。その下に、「アド=ラキア」という名前らしき文字が記載されていた。
「アド=ラキア……」
静かにそう呟き、彼女、ラキアの顔写真をタップした。出てきたのは、シヨクの時と同じ、ラキアのプロフィール。空は黙々と綴られた文字を読む。
アド=ラキア。女王に仕える王宮騎士を束ねるリーダー。女王を守る者として、戦場にその身を捧げる剣士。その美貌と相まった豊艶な姿態は、敵対する相手でさえも虜にしてしまうほど。
「……」
空と一緒に文を読んでいたリエガとギハンは、呆れて言葉を失った。何に対してか? 決まっている。空が文章の通りになってしまっていることに対してだ。
空が彼女に対して抱いている感情がそれなのかは分からない。だが、記載されている文章と空の話を照らし合わせると、その可能性が格段に高くなる。二体は
(空も男だな/ですね……)
という性に合わぬ安直な感想を抱いた。
「どう? なにか分かった?」
そんな二体の感想とは裏腹に、リギラから出たものは空に掛ける疑問の声だった。
「何も分からなかった」
リギラの言葉に対して、首を横に振って言葉を返し、二重で否定の意思を表明した。
「うーん、そっかぁ。彼女のプロフィールを見れば何か分かると思ったんだけど」
少し残念そうにリギラは話す。空はしばらく沈黙した後、再び口を開いた。
「……一つ、思ったことがある」
「そうなの?」
「…………彼女を、助けたい」
「!」
リギラは空の言葉に驚いた。そして空の様子を伺う。空はいつものように無表情で、何を考えているか分からない。しかし、闘志を燃やさずとも、その目は真っ直ぐに前を見据えていた。
そんな空を見て、リギラも何かを感じたのか、決心したように言葉を発した。
「分かった。初めての空の要望だもんね。そのくらい叶えてあげなくちゃ、天使の名が廃るってもんだよ」
リギラの声は自信に満ち溢れていた。これぞリギラと言わんばかりの元気な声は、間違いなくリギラを感じさせるものだった。確証のない文言だったが、妙な安心感と言うべきか、恐らく上手くいくだろうという不確実な信用があった。
溢れんばかりの元気は、他の三種族にも伝わり、三体も何かを決心したように思い思いの言葉を並べ始めた。
「はぁ。しょうがねぇ。こうなったらうちのアホは話を聞かねぇからな」
「確かにリギラは言い出したら聞き分けがないですが、今回はそれが良い方向に持っていく気がしますね」
「私も空のお願い事、叶えてあげる! 難しいお話はよくわかんないけど、誰かを助けることはいいことだもん!」
四体は好き勝手に話し始め、収拾がつかなくなった。しかし、それはいつもの光景。いつものみんなだった。いつもと違うことは空の心情だったが、黙って四体のやりとりを聞く様子は、いつもの空のままだった。
「よしっ! それじゃあ、」
まとまりのないみんなの声を、リギラの元気な声が制止した。それに続いて、三体はリギラの方を見る。その後に続く言葉を期待して。
「みんなでどうするか考えよう!」
がっかりした。というか、呆れた。リギラに期待した自分たちが馬鹿だったと反省した。いや、むしろここまで能天気に徹するリギラに恐怖さえ抱いた。
それぞれが呆れることに時間を費やした後、我に返ってリギラとの対話を行う覚悟を決めた。
「天使の名、廃ってんじゃねぇか」
「てっきり、既に作戦を思いついての発言かと思っていましたが、そんなわけありませんでしたね」
「いやだな~。ボクがそんな作戦思いつくわけないじゃないか。ということで、作戦立案は頼んだよ、ギハン!」
「……心の底からそう思っていることが何より怖いのですが」
ギハンはキョトン顔をするリギラを眺めながら、作戦を考えるために黙りこくった。そして、張り巡らせた思考の末、無い瞼を見開くような挙動をし、考え出したことを披露し始めた。
「考え付いた案は三つあります」
「三つも⁉ 流石ギハン! すごい!」
「ですが、どれも確実なものではなく、内二つはほぼ実現不可能なものです」
「それでも何も策がないよりは良いでしょ。教えてよ!」
リギラのきらきらとした眼差しが、ギハンに注がれる。リエガも黙って耳を傾けていた。メイに関して言えば、すでに理解することを諦め、イケメンと忍装束の者を再び凝視していた。
「分かりました。それでは一つ目の案から。それは彼女の惑星を勝たせるという案です。これは、彼女を救うということを重視した案になります。わざと負けるように動いて彼女たちを勝たせた後に、彼女らが望む国防強化に影から助力するというものです」
「却下だろ、そんなもん。わざと負けるなんてありえねぇ。というかそもそも、地球軍の奴らがそれを黙って許すと思うか? 真っ先に敵になって空を潰しに来んだろ」
「そうだね。それに、その案だと無関係な地球の人たちも大勢巻き添えになっちゃう」
他人の考えた案に、間髪入れずダメ出しを入れる二人。ギハンが先に実現不可能と公言したせいか容赦がない。
「ええ。私もこの案はまず無いと思いました。例え、彼女の惑星が勝ったとしても、その後空と彼女の縁が繋がる確証もありませんし、リギラやリエガの言う欠点もある。この案は没でいいでしょう」
ギハンは自分の考えた作戦をばっさりと切り捨てる。
「それでは二つ目の案。この戦いに勝って、彼女を空のものとするのはどうでしょう」
ギハンがその発言をした時、空は少し不快感を抱いた。表情こそ変化はなかったものの、内心穏やかではなかった。
「それ、どういう意味? 変な意味じゃないよね?」
空の気持ちを代弁して、リギラが疑問を呈する。焦った口調のリギラを見て、同じ気持ちを抱いているようで少し安心感を覚える。
「ええ、もちろんです。地球軍が勝った暁には、惑星セスを空の所有物としてもらい、後の統治を空が行う、というものです」
ギハンの補足説明を聞いて、ひとまず安心した。
……先ほどから安心したり、不安になったり、やはりどこかおかしい。
「良かった~。そういうことか。急に不安なこと言うから焦っちゃった」
「お一人で心中葛藤しているところ申し訳ないのですが、この作戦も上手くいく可能性は低いですよ」
「え、なんで? 空がまだ子供だからダメなの? それとも、空が変なことしそうだから?」
「……」
空は何も言わなかったが、思うところはあった。しかし、上手く言語化できず、ただ黙って聞くことしかできなかった。
「いえ、そうではなくてですね。彼女の惑星が負けた場合、その所有権が空に渉る可能性が低いということを言いたいのです。その惑星の所有権は神、最悪の場合はどこぞの知らぬ国のものになる可能性だってありますよ」
「ま、要するにたかだか一介の高校生にその手柄が回ってくるわけじゃねぇってことだな」
「そういうことです」
「それってあんまりじゃない? 戦ってるのは空たちなのに」
あまりの割の合わなささにリギラは憤慨する。リエガ達にその様子はなかったが、同じ感想を抱いていた。
「仕方のない、なんて言葉で片したくはないですが、受け入れるしかありませんね」
「ねぇ、なんとかならないの? 直接ゼウス様にお願いしてみるとかさ」
「そう、それが三つ目の案です」
ギハンは待ってましたと言わんばかりにリギラの話に間髪入れず、言葉を発する。
「今回の件で、我々の力だけではどうすることもできないことが少なからずあります。先ほど私が述べた事例もその一つです。ならば、どうすれば良いか。答えは単純、私たちよりも力を持つ者を頼ればいいのです。今回で言うところのゼウス様に当たるわけですが、話を持ち掛ければ何とかしてくれるかもしれません。例えば、惑星セスの所有権を空に移譲する話でしたり、獲得報酬から人権を省いたり。この際、同盟を持ち掛けるのもありかもしれませんね。そうすれば、一方的に搾取されることなく持ちつ持たれつの関係を築き、彼女も救われるのではないでしょうか」
長々と説明するギハンに待っていたのは、みんなの「お~」という声。話を聞いてたリギラたちは納得の声を表明した。
「その案すごくいいよ!」
「まぁ、それでいいんじゃねぇか? 確かに上手くいく保証はねぇが」
「え、なんで? 上手くいかない要素が分からないんだけど」
水を差すリエガにリギラは疑問の声を上げる。
「この作戦の不安要素は、決定権が他者に委ねられているという点です。結局のところ、ゼウス様が首を縦に振らなければ、せっかくの話も無駄に終わる可能性だってあるわけです。そもそも、交渉の場を設けられるかどうかすら、怪しいですね」
「で、でも、他にいい方法はないんだよね?」
「残念ながら、私の頭ではこれ以上の策は思いつかず……」
ギハンの声は悔しがる思いを感じさせるものがあった。
「じゃあ、その案でいこう。失敗する可能性があっても、何もしないよりかはましだからね。空もそれでいいでしょ?」
リギラに言われて、空はただ黙って首を縦に振った。
「それじゃあ決まり! この戦いに勝ってゼウス様に交渉する! そして、彼女を助ける!」
リギラが作戦を復唱すると、空、リエガ、ギハンは小さく頷いた。メイも場の空気に流されて、訳も分からぬままに首を縦に振った。
「よーし。それじゃあこれから。これから…… これから何をすればいいの? 瞑想?」
リエガとギハンはまた呆れたようにため息をついた。リギラの発言は本当に気が抜ける。
ギハンは、渋々重い口を開いた。
「……取り敢えず、今は残っている惑星の情報を見ましょう。瞑想はその後でもできますから」
ギハンは冷やかしのつもりで言葉を並べたが、リギラがその意図に気付く素振りを見せることはなかった。
空はギハンの言葉に続いて、タブレットを操作し始めた。四つの惑星の名が表示されている画面に戻り、「リープ軍」の項目を押そうとした。
「ちょっと待て。なんで地球の項目を飛ばそうとしてんだお前は」
「リープ軍」を押そうとした空の指を、リエガの声が止める。空には、リエガが止めた理由が分からなかった。
相手の情報を得ることならば、理解できる。今後の戦闘で、有利に立つことができる情報が記載されているかもしれないからだ。しかし、味方の情報は違う。味方の情報を得たところで、何か役立つわけではない。必要のない作業だ。
空がそう思った理由は、これまでの経験が原因だった。空は何をするにしても一人で行動してきた。普段の生活もそうだが、タスクを行う時や、リエガたちと死闘を繰り広げた時も、リギラたちの補助はありながらも、その身で戦うのは空一人。今までもそうだったし、これからもそのつもりだったのだ。
「連携」。一人で戦ってきた空にとって、そんな単語は頭の片隅にも残っていなかったのだ。
一方で、リエガが地球軍の情報を見ようと思った理由も、彼らと連携を取りやすくするため、などではではない。地球軍のリーダーが誰かという疑問を払拭するための確認と、空よりも強いと言われる奴らの情報を仕入れるためである。
リエガは、一部を除いて空よりも強いことを未だに疑っているし、未だに認めてはいない。そのように言われている奴らが果たしてどのように記載されているのか。興味本位な部分が強かった。
空は仕方なく地球軍の項目を押す。上二つの時と同じように、最初に出てきたのは文章だった。
惑星地球。広大な海の青と大陸上の緑が彩る惑星。陸の上にはおよそ七十億の人類が、数百の国に分かれて生活している。国家間、国内問わず多少の貧富の差や、発展の差はあれど、その多くは平和な生活を送る。しかし、人類の繁栄と共に、彼らは多くの問題を抱えることとなった。
そんな彼らがこの戦いに参加した理由は、衰退を未然に防止するため。いずれ足りなくなる資源と、新たな知識を導入し、人類が今後も生活できるように、選ばれた代表たちは戦い抜く。
「ゼウス様に聞いた話と変わりありませんね」
ギハンの言葉を風切りに、空は下へとスクロールする。出てきたのは、地球軍メンバーの顔写真。そこにはいつ撮ったか分からない空のものも、きちんと載せられていた。
「やっぱり。リーダーはこいつか」
リエガの視線の先には、一番上にあった顔写真。そこに載せられた顔は、例の通り、あのイケメンだった。その下には彼の名前であろう、キユという文字。空はキユの写真を押して、画面を変えた。
ゼウスを除いた場合のリーダー。普段は大学という名の教育機関に身を置く学生。文武共に優れる彼は、その能力をいかんなく発揮し、困っている人がいれば助ける精神を併せ持つ。心優しき青年、キユは後に困る人類のために今日も戦う。
「……寒気がするほど優男だな」
リエガは、キユの性格が悪魔的に受け付けないのか、苦手意識を持った。
「そうだね。とっても良い人そうで良かった」
対して、リギラは性格の良さが気に入ったようだった。
「……」
メイはじっとキユの写真を眺め、何も話さない。
「やはり、というべきか、これだけでは何もわかりませんね」
「だな。ゼウスも技やらは載せてないって言ってたしな」
ギハンとリエガは少し残念そうにしながらも、予想通りの結果に特に不満はなかった。
これ以上、得られる情報がないと、空は画面を地球軍メンバー一覧のところに戻した。
「他のやつもこんな感じか?」
「だとすればさほど意味はないかもしれませんね。取り敢えず、名前だけでも確認しておきましょう」
ギハンやリエガの読み通り、試しにセッキの情報を確認したが、目ぼしいものは見つけられなかった。悪魔に関することも記載されておらず、どうやら戦闘に関係しそうな事柄はことごとく省かれているようだった。
空はギハンの言う通り、写真と名前だけを確認した。キユ、セッキ、シンスイをはじめ、写真と名前が並べられている。
金短髪の中年。開いた目からは碧眼が覘き、服装はスーツで腰に銃を携えたカーシェス。
黒髪ロングに黒の瞳は日本人特有の大和撫子。おっとりとした顔だちは優雅さを演出。おまけに袴を華麗に着こなすシオリ。
身長も体格も黒の衣服に包まれている。忍装束で素顔も性別も分からぬシノブ。
オレンジのショートボブに瞳。キャラを一層際立たせるメイド服を着たソーシャ。
足まで届く長い白衣に、眼鏡。手元には一冊の本。鋭い目元に紫色の髪をなびかすライナ。
そして、先ほどセッキと話をしていたポニーテールの大人びた女の子、レセント。
この九人に空を加えて、計十人が地球軍チームである。リエガたちがそれぞれ気になる者の写真を見つめる中、この中に興味を持てる存在がいない空は、さっさと四つの項目へと画面を戻した。
「お前な」
リエガは自分のペースでタブレットを操作する空に、今度は呆れ口調で言った。しかし、空の様子を見て聞く耳を持ちそうにないと判断し、言いかけてた言葉をため息に変換した。
空が最後に押すはリープ軍の項目。最初に出てきたのは毎度おなじみ、惑星リープに関する説明書きだった。
惑星リープ。荒野が広がる惑星。国家間での戦争が絶えず起こり、国民の半分が軍人や戦争に関する職の者ばかり。日夜、銃撃戦が繰り広げられ、爆撃音が途絶えることはない。
そんな彼らがこの戦いに参加した理由は、蔓延した未知の病を治すため。多くの国で同じ症状に苦しむ者が現れ、もはや戦争どころの話ではなくなった。他の惑星にはこの病気を治すための薬があることを知り、戦いに参加することを決意。未曽有の危機に立ち向かうべく、国同士で手を取り合い、チームを結成。今なお病に苦しむ者たちのために、銃の照準を人から惑星へと向けた。
「ここの惑星も他と同じですね」
「うん。やっぱりどこの惑星も事情があるみたいだね」
リギラとギハンは他の惑星を憂う。しかし、事情があるのはこちらも同じ。空はひとまず下にスクロールして、相手陣営の情報を確認した。
一番上の写真は、当然あの老人。下の名前の欄にはネリムと書かれていた。
「さっきも思ったんだが、全然強そうに見えねぇな」
「ええ。それほど未知の相手、ということでしょう。要注意人物の一人です」
リエガとギハンは警戒を促す発言をする。空は更なる情報を求め、どうせ無駄だと思いつつもネリムの写真をタップした。
ネリム。とある王国に身を置く科学者。この戦いではリーダーを務めている。科学者の名のもとに、その英知を活かしてリープ軍を勝利に導く。
「やっぱ、大した情報はねぇな。しかも文章短ぇ」
「情報の秘匿を重視した結果でしょう。しかし、あの神の場合、紹介文を考えるのが面倒くさくなった、と思わせるものがありますね」
ギハンが発言したとき、リギラとリエガは妙に納得した。あの神ならありえると。
「ま、まぁ、他の惑星の方について、名前が分かっただけでも良しとしましょう」
微妙な空気になりかけた雰囲気を、ギハンは勢いで押し切った。その言葉に二体は激しく同意を示す。二人も謎の空気を他所へと流したかったのだろう。
「さて。それでは、今後の具体的な立ち回りについてですが……」
次の話題にシフトしようとしていたその時、
「失礼、読み終わったかな?」
空に声が掛かった。
頭ではない、耳に直接届くその声を聞いて、聞こえてきた方に顔を向ける。そこに居たのは、眩しい笑顔を空に向けるイケメン、もといキユの姿があった。
「これから作戦会議を行う予定なんだ。良かったら君も参加してくれないかな」
キユは笑顔そのまま、モニター前へと視線を誘導した。そこに置かれたソファにメンバー全員が集まり、じっとこちらを見つめていた。その様子から、読み終えるのを待っていたように捉えられた。
「どうするの、空」
リギラが空に判断を仰ぐ。いつものリギラなら、ここで空に話を聞くことなどしなかっただろう。十中八九、
「なにかの役に立つかもしれないし、参加するべきだよ‼」
と言って、空の意思など関係なく判断しただろう。それをしなかった原因は間違いなく空にあった。
そしてその空はモニター前に移動することで、作戦会議に参加する意を示した。そんな空の様子を見て、キユは小さく微笑んだ。




