二人の時間
「……」
セッキたちが空を取り囲み、勝利の味を噛み締めている中、空をじっと見つめる女性がいた。
彼女は、声を掛けるべきか、それとも、なにも言うべきではないのか、一人葛藤していた。
「……」
やはり一言声を掛けるべきだろうか。しかし、なんと切り出せば良いものだろうか。
「約束は守ってもらうぞ」
だろうか。
いや、それはあまりにも失礼だし、自分のことしか考えていないみたいでよろしくない。
では、無難に、
「優勝おめでとう」
だろうか。
確かにそれなら自然だ。自然なのだが、あの輪の中に敵である自分が入っていけば、雰囲気を壊してしまうのではないだろうか。
そのような葛藤を、ラキアは一人渦めかせていた。
その時、背中から誰かが押した感覚を覚えた。
「⁉」
一歩前へ足を踏み出し、誰が押したのかと顔だけ振り向かせると、やはりというべきか、そこにいたのはミサだった。
「……」
ミサはなにも言うでもなく、ラキアのことを見て微笑んだ。文字通り、背中の後押しだった。
「!」
ミサから言葉が発せられることはない。だが、ラキアは確かに彼女の言わんとしていることを汲み取った。
顔を前に向け直し、一歩二歩と足を進めていく。
やがて空たち地球陣営の者と距離が近くなると、向こうも彼女の存在に気が付いた。
「ああ⁉」
ただし、気が付いたのは空だけではない。周りを囲っていた他の者たちも、彼女が近づいていることに気が付いた。
「なんだぁ? 誰かと思えば空に負けた女じゃねぇか。なにしに来やがった。空に文句の一つでも言いに来たか? あぁ⁉」
なんという粗暴な態度。これまで出会った男どもと変わりない。
と、思ったが、これが普通。今まで通りなのだ。あくまでも空が異常。言葉、態度、意思。彼から感じる力強い説得力がおかしいのだ。
「なんとか言ったらどうなんだよ?」
セッキはずかずかと彼女に詰め寄る。
しかし、こんなものは慣れっこなもので、彼女は毅然とした態度でセッキと目を合わさず、空の方を見た。
「てめっ、無視してんじゃ……」
セッキが怒りを露わにしようとした。その時、彼の前に細い手が伸び、静止する形になった。
「あ⁉」
ふと、後ろから伸びてきた手に注意を惹かれ、そのまま腕を追っていくと、その手は空の体へと繋がっていた。
「空?」
なにも言わず、彼女のことを見つめる空を見て、なにかを悟ったのか、セッキは小さく笑った。
「……へっ」
そのまま彼女と空の間から体をどかし、静かに身を引いた。
「どうした? お前があっさり引き下がるとは、珍しいこともあるものだな」
様子を伺っていたシンスイが、黙って流れを譲ったセッキに違和感を覚え、声を掛ける。
「……あいつの目を見たからな」
「目?」
セッキが隣に並ぶ瞬間を見守って、シンスイは視線を空へと戻す。こちらからでは背中しか見えない。セッキの見たものだけが頼りだった。
「あいつの目…… 鋭かった。あ、いや、目つきはそのままなんだけどよ。なんつーか、真っ直ぐだったつーのかな? しっかりと相手を見てる感じの目だった」
セッキの説明を聞いて、今度は背中からラキアに視線を動かす。サラサラの黒髪。くっきりとした目元。シミ一つない肌。同性の自分でも目を奪われそうな美しさだった。
「‼ つまり、そういうことなのか⁉」
確認を促すようにセッキの方を見ると、口角を上げてニヤついていた。
「ああ、そういうことだ」
目を反らさず、堂々と、セッキは自身の感じたことを述べる。
「あいつの目は、敵を倒した奴だけがする、勝者の目だ‼」
見当違いの意見を。
「……」
あまりの観察力のなさに、シンスイは思わず顔を引きつらせた。
そのまま顔を空の方に向け直し、心の中に誓った。
「セッキになにかを期待するのはやめておこう」
あまりにも的外れな彼の予想を耳に、自身の予想を立てた。
(セッキの話や二人の雰囲気から察するに、どこからどうみても、恋愛絡みだろう)
二人を見る目は、若いものの青春を見るおばさんそのものだった。
(……なんだか今、無性にイラっとしたな)
……




