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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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二人の時間

「……」


 セッキたちが空を取り囲み、勝利の味を噛み締めている中、空をじっと見つめる女性がいた。


 彼女は、声を掛けるべきか、それとも、なにも言うべきではないのか、一人葛藤していた。


「……」


 やはり一言声を掛けるべきだろうか。しかし、なんと切り出せば良いものだろうか。


「約束は守ってもらうぞ」


 だろうか。


 いや、それはあまりにも失礼だし、自分のことしか考えていないみたいでよろしくない。


 では、無難に、


「優勝おめでとう」


 だろうか。


 確かにそれなら自然だ。自然なのだが、あの輪の中に敵である自分が入っていけば、雰囲気を壊してしまうのではないだろうか。


 そのような葛藤を、ラキアは一人渦めかせていた。


 その時、背中から誰かが押した感覚を覚えた。


「⁉」


 一歩前へ足を踏み出し、誰が押したのかと顔だけ振り向かせると、やはりというべきか、そこにいたのはミサだった。


「……」


 ミサはなにも言うでもなく、ラキアのことを見て微笑んだ。文字通り、背中の後押しだった。


「!」


 ミサから言葉が発せられることはない。だが、ラキアは確かに彼女の言わんとしていることを汲み取った。


 顔を前に向け直し、一歩二歩と足を進めていく。


 やがて空たち地球陣営の者と距離が近くなると、向こうも彼女の存在に気が付いた。


「ああ⁉」


 ただし、気が付いたのは空だけではない。周りを囲っていた他の者たちも、彼女が近づいていることに気が付いた。


「なんだぁ? 誰かと思えば空に負けた女じゃねぇか。なにしに来やがった。空に文句の一つでも言いに来たか? あぁ⁉」


 なんという粗暴な態度。これまで出会った男どもと変わりない。


 と、思ったが、これが普通。今まで通りなのだ。あくまでも空が異常。言葉、態度、意思。彼から感じる力強い説得力がおかしいのだ。


「なんとか言ったらどうなんだよ?」


 セッキはずかずかと彼女に詰め寄る。


 しかし、こんなものは慣れっこなもので、彼女は毅然とした態度でセッキと目を合わさず、空の方を見た。


「てめっ、無視してんじゃ……」


 セッキが怒りを露わにしようとした。その時、彼の前に細い手が伸び、静止する形になった。


「あ⁉」


 ふと、後ろから伸びてきた手に注意を惹かれ、そのまま腕を追っていくと、その手は空の体へと繋がっていた。


「空?」


 なにも言わず、彼女のことを見つめる空を見て、なにかを悟ったのか、セッキは小さく笑った。


「……へっ」


 そのまま彼女と空の間から体をどかし、静かに身を引いた。


「どうした? お前があっさり引き下がるとは、珍しいこともあるものだな」


 様子を伺っていたシンスイが、黙って流れを譲ったセッキに違和感を覚え、声を掛ける。


「……あいつの目を見たからな」


「目?」


 セッキが隣に並ぶ瞬間を見守って、シンスイは視線を空へと戻す。こちらからでは背中しか見えない。セッキの見たものだけが頼りだった。


「あいつの目…… 鋭かった。あ、いや、目つきはそのままなんだけどよ。なんつーか、真っ直ぐだったつーのかな? しっかりと相手を見てる感じの目だった」


 セッキの説明を聞いて、今度は背中からラキアに視線を動かす。サラサラの黒髪。くっきりとした目元。シミ一つない肌。同性の自分でも目を奪われそうな美しさだった。


「‼ つまり、そういうことなのか⁉」


 確認を促すようにセッキの方を見ると、口角を上げてニヤついていた。


「ああ、そういうことだ」


 目を反らさず、堂々と、セッキは自身の感じたことを述べる。


「あいつの目は、敵を倒した奴だけがする、勝者の目だ‼」


 見当違いの意見を。


「……」


 あまりの観察力のなさに、シンスイは思わず顔を引きつらせた。


 そのまま顔を空の方に向け直し、心の中に誓った。


「セッキになにかを期待するのはやめておこう」


 あまりにも的外れな彼の予想を耳に、自身の予想を立てた。


(セッキの話や二人の雰囲気から察するに、どこからどうみても、恋愛絡みだろう)


 二人を見る目は、若いものの青春を見るおばさんそのものだった。


(……なんだか今、無性にイラっとしたな)


 ……


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