種族たちも大喜び
瞼はやがて、輝度を小さくした視界を前に、静かに開く。辺りを見渡すと、地球によく似た滅びた惑星。つまり、戦場に戻ってきたのだ。
そこには全員が集められている。惜しくも控室に送還された三十八名の選手たちと、傷だらけで倒れ込むシヨク。そして、惑星代表争奪戦にて勝利という栄光を掴んだ少年、空。
「空‼」
小さな少年を見つけて、最初に大声を上げたのはセッキだった。全速力で空へと近付くと、思いっきり地面を蹴りあげ、飛び掛かった。
「てめぇやりやがったなこの野郎‼ たった一人で全部倒しちまうなんて、漢見せたじゃねぇか‼」
肩に腕を回し、頭をわしゃわしゃする。
「……」
空は、いつも通り無表情でされるがままに突っ立っていた。
それでもセッキは嬉しそうに、髪をわしゃわしゃしている。そんな二人の元に、ぞろぞろと地球の代表メンバーたちが集まってくる。
数名で空を囲んでは、皆ぞれぞれ、空に思い思いの言葉をぶつけた。
「一時はどうなることかと思いましたが、なんとか今回も、難を逃れましたね」
勝利を満喫するメンバーたち。その中心で、無言で立ち尽くす空を見たギハンは、言葉を発した。
「ギリギリだったけどな。あそこで空が力を覚醒しなくちゃ、負けてたのは間違いなくこいつだった」
リエガの視線も空へと向く。その表情は相変わらずの無で、本当にこいつがシヨクに勝ったのかと、疑問が浮かび上がるほどだった。
「たらればの話をしても仕方がないですが、確かにリエガの言う通りですね。今回の勝利は奇跡にも近しいものでした」
「珍しいな。いつもなら、『空のポテンシャルが勝った』とか言いそうなのによ?」
意外にも辛口評価を下すギハンに、リエガは思わず茶々を入れる。
しかし、ギハンのそれは建前であることを、次の発言で悟ることとなった。
「辛口評価などではありませんよ。高評価です」
「はぁ? どっからどう見ても、酷評だっただろうが」
ギハンは一拍間を空けると、自身の思いを綴った。
「空はこれまで、多くの戦いを経験してきました。しかし、そのどれもが、『奇跡』に近しいものだったと思います」
ギハンは思い出すこれまでの戦いの数々。空が経験してきた、その多くを。
「リエガ(あなた)との戦いは見ていないので分かりませんが、死神との戦いだったり、妖精との遊びだったり。ネリムやラキアとの戦いも、常にギリギリでした」
そうだったか? と、リエガも空が経験してきた戦闘を思い出す。言われてみれば確かに、空が圧勝した記憶がほとんどない。
タスク処理の悪魔弱体化を除き、その戦闘のほとんどで、空は怪我を負い、瀕死の状態に追いやられていることもあった。グリンのオークや、セスの兵士でさえ傷を負い、一時は負けそうになる場面もあった。
空の戦いはいつもギリギリで、余裕ある勝利などほとんどないのだ。
「そしてそれは、シヨクとの戦い(今回)でもそうです。最初こそ空が優勢でしたが、その立場はすぐに逆転し、敗北寸前まで追いやられました」
今、種族たちの頭の中には同じ光景が流れている。空が吹き飛ばされた先で、血まみれで倒れている瞬間である。
「しかし、そこからが空の真骨頂。持ち前の戦闘センスと、タスクを絶対にこなす使命感で、シヨクを打倒。いつも通り、我々の期待に応えてくれました」
「……そうだったな。こいつはいつもそうだ。負けそうでやばい、ってなった時も、いっつも俺たちの予想遥か上を飛んでいきやがる」
ギハンの大鎌、メイの悪あがき、ネリムの大火炎放射、ラキアの一刀、シヨクのオーガ化。空はいつも、それらを上回る力で、苦難を乗り越えてきたのだ。
「だからこそ、俺たちもこいつに憑いたんだよな」
リエガの一言に、ギハンは激しく同意した。
思い出すのは、空に憑いた初めての日のこと。あの日あの時、ギハンは彼の潜在能力に引かれた。彼が巻き起こす奇跡を見たいと思った。その初心をも思い出した。
そして、彼に憑いて良かったと思った。
「……ところでよ。戦闘センスでシヨクを倒したって言ってたが、その中に『天使化』は含まれんのか?」
「それは……」
ギハンはちらりと隣の天使を見る。相変わらずなにを考えているのかよく分からない。リギラは黙って空のことを見つめていた。
「ん? なに?」
だがすぐに、ギハンたちの熱い視線に気が付き、二人を視界に入れた。
「……さぁ、どうでしょう?」
はっきり言って、空のあの覚醒が計算されたものなのか、偶々なのかは分からない。リギラの態度を見れば、十中八九後者だろうが、ポテンシャルを見出した可能性もゼロではない。空に対する信頼には、そう思わせるものがあったのだ。
「ねぇねぇ、どうしたの? なんでこっち見たの? なんで? ねぇ、なんで?」
「……」
取り敢えず、鬱陶しいくらいに構ってくるリギラを、今はただ無視した。




