敗北。しかしそれでも
「嘘っ⁉ 本当に、あの少年が⁉」
驚きを露わにするのは、なにも地球陣営だけではない。約束を交わしたセスの者たちも、少年の勝利に、歓喜と驚嘆の悲鳴を上げた。
「じ、じゃあ、私たち、本当に助かるの⁉」
兵士たちは、微かな希望を抱き、顔を見合わせる。その顔は、ほとんどが戸惑いの色に染まっており、奥底に僅かな期待が見え隠れしていた。
「おぬしら、まだそんなこと言っておるのか⁉」
しかし、ロリ兵士だけは違った。少年の勝利に浮かれることもなく、自分を律するように、怒った形相で周りを叱る。
「そんなこと言って~。本当は嬉しいんっしょ? あの男子が勝った時、こっそりガッツポーズしてたの見てたかんね」
ロリに腕を回し、彼女の秘密を暴露するのはギャル兵士だった。
ギャルは、空が勝利を掴んだ時に、小さく拳を握ったロリの姿を見逃してはいなかったのだ。
「なっ、なにをバカなことを⁉ わしはそんな……」
「言い訳は良くないって~。うち、しっかり見てたからさ~」
弁明の余地も与えず、ギャルはロリの頬をつつく。
このような微笑ましい雰囲気も、全ては空の勝利によるもの。一度は敵対し、そして、約束を誓った中だとしても、空が敵であることは紛れもない事実だった。
その上で喜べるのは、空が戦いの中で見せた真摯さ。そして、美しさ。
絆されただけかもしれないが、セスの兵士たちは、空が勝利したことを喜び、微かな希望を見出していた。
「空……」
それはもちろん、彼女もそう。ラキアは、モニターに映る、ガッツポーズをする少年を見て、胸をなでおろした。
「良かったわね。彼が勝って」
そんな彼女に、一人の兵士が肩を叩きながら声を掛けてきた。
「ミサ……」
「信用した、とは言っても、彼が勝てなくちゃ意味がないものね。シヨクが鬼のようになったときは尚更。絶望した分、彼の勝利はより喜ばしいものになった」
ミサもモニターを眺める。輝かしく、かっこよく。王子様のような少年がそこには居た。
「……そうね。彼が勝って素直に嬉しいわ。仲間じゃない誰かの勝利を、ここまで喜ぶことができたのは、生まれて初めてかも」
嬉しそうに彼女は微笑む。純粋で、素直で、素敵な笑顔だ。
ミサはその表情を見て、踏ん切りがついたような、諦めたような、そんな表情をして、軽いため息を吐いた。
「それにしても、あの麗しい戦場のお姫様が、誰かに恋をする日が来ようとはね」
「……へ?」
なにを言われたのか、一瞬脳をフリーズさせて、ラキアはミサの背中を眺めた。
「好きなんでしょ? 彼のこと」
なにを言われたのか、一瞬どころかしばらく脳をフリーズさせて、ラキアは肩越しに笑うミサを見た。
隙? 好き? なにが? 誰が? 私が? 誰を? なにを? 彼を?
……? ……⁉
「いぇぇぇぇええ⁉ すすすすす好き⁉ 私が⁉ 彼のことを⁉」
「あら、違うの?」
「ちちちちち、違うわよ! 好きじゃないわ⁉ 好きじゃないわよね⁉」
予想外の言葉に、テンパりを見せるラキア。頬を赤らめ、瞳には創作物でしか見ないようなグルグル。戦場に立っていた時に見せた、優美華憐な姿はどこにもない。
予想以上の反応を見られたミサは、してやったりな感情で小さく笑い、それを最後の反抗とした。
「ごめんなさい。ちょっと冗談が過ぎたわね」
「え? 冗談?」
ようやく我に返ったラキアは、自身の慌てふためく様子を思い出し、頬をさらに赤らめた。
「もう、ミサ!」
怒りの言葉を背中に食らいながら、ミサは仲間の話の中へと潜り込んでいった。
「……」
一人残されたラキアは、モニターを見つめながら自問自答する。
「……違うわよね?」
頬に残る熱さを感じながら、自身の抱く感情が一体なんなのか、ただひたすらに考えた。
一方こちらは、セスの控室と比べて、静寂に包まれていた。
地球の少年が、誰も勝てないと思っていた化け物に勝った。そんなお知らせも、彼らにとってはどうでも良いこと。
自身たちは敗北し、どちらかの奴隷となる。故郷で帰りを待つ家族たちと一緒に。そんな残酷な結末が待っていては、少年の勝利など喜ぶことなどできようはずがないのだ。
ただ唯一、この男を除いては。
(勝った! 勝ちよったわい! 本当に! あの少年が!)
震える拳は悲しさとして誤魔化す。流す涙は辛さとして演出する。
本音は凄く嬉しい。ものすごく嬉しい。
だが、そんな感情を、ここにいる全員の前で披露するわけにはいかない。ネリムは、心の中で空の勝利を喜んだ。
(ありがとう少年。ありがとう……)
ひたすらに祈る。体が黄金色の光に包まれたのはその時だった。
「! この光は……!」
それは、この戦いでさんざん見た絶望の光。我々を死地へと追いやり、敗北を突き付ける悲しき光だった。
そんな黄金色の光が、控室に居る十人を照らしている。
やがて光は一瞬で全員を呑み込み、その場から姿を消した。




