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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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敗北。しかしそれでも

「嘘っ⁉ 本当に、あの少年が⁉」


 驚きを露わにするのは、なにも地球陣営だけではない。約束を交わしたセスの者たちも、少年の勝利に、歓喜と驚嘆の悲鳴を上げた。


「じ、じゃあ、私たち、本当に助かるの⁉」


 兵士たちは、微かな希望を抱き、顔を見合わせる。その顔は、ほとんどが戸惑いの色に染まっており、奥底に僅かな期待が見え隠れしていた。


「おぬしら、まだそんなこと言っておるのか⁉」


 しかし、ロリ兵士だけは違った。少年の勝利に浮かれることもなく、自分を律するように、怒った形相で周りを叱る。


「そんなこと言って~。本当は嬉しいんっしょ? あの男子が勝った時、こっそりガッツポーズしてたの見てたかんね」


 ロリに腕を回し、彼女の秘密を暴露するのはギャル兵士だった。


 ギャルは、空が勝利を掴んだ時に、小さく拳を握ったロリの姿を見逃してはいなかったのだ。


「なっ、なにをバカなことを⁉ わしはそんな……」


「言い訳は良くないって~。うち、しっかり見てたからさ~」


 弁明の余地も与えず、ギャルはロリの頬をつつく。


 このような微笑ましい雰囲気も、全ては空の勝利によるもの。一度は敵対し、そして、約束を誓った中だとしても、空が敵であることは紛れもない事実だった。


 その上で喜べるのは、空が戦いの中で見せた真摯さ。そして、美しさ。


 絆されただけかもしれないが、セスの兵士たちは、空が勝利したことを喜び、微かな希望を見出していた。


「空……」


 それはもちろん、彼女もそう。ラキアは、モニターに映る、ガッツポーズをする少年を見て、胸をなでおろした。


「良かったわね。彼が勝って」


 そんな彼女に、一人の兵士が肩を叩きながら声を掛けてきた。


「ミサ……」


「信用した、とは言っても、彼が勝てなくちゃ意味がないものね。シヨクが鬼のようになったときは尚更。絶望した分、彼の勝利はより喜ばしいものになった」


 ミサもモニターを眺める。輝かしく、かっこよく。王子様のような少年がそこには居た。


「……そうね。彼が勝って素直に嬉しいわ。仲間じゃない誰かの勝利を、ここまで喜ぶことができたのは、生まれて初めてかも」


 嬉しそうに彼女は微笑む。純粋で、素直で、素敵な笑顔だ。


 ミサはその表情を見て、踏ん切りがついたような、諦めたような、そんな表情をして、軽いため息を吐いた。


「それにしても、あの麗しい戦場のお姫様が、誰かに恋をする日が来ようとはね」


「……へ?」


 なにを言われたのか、一瞬脳をフリーズさせて、ラキアはミサの背中を眺めた。


「好きなんでしょ? 彼のこと」


 なにを言われたのか、一瞬どころかしばらく脳をフリーズさせて、ラキアは肩越しに笑うミサを見た。


 隙? 好き? なにが? 誰が? 私が? 誰を? なにを? 彼を?


 ……? ……⁉


「いぇぇぇぇええ⁉ すすすすす好き⁉ 私が⁉ 彼のことを⁉」


「あら、違うの?」


「ちちちちち、違うわよ! 好きじゃないわ⁉ 好きじゃないわよね⁉」


 予想外の言葉に、テンパりを見せるラキア。頬を赤らめ、瞳には創作物でしか見ないようなグルグル。戦場に立っていた時に見せた、優美華憐な姿はどこにもない。


 予想以上の反応を見られたミサは、してやったりな感情で小さく笑い、それを最後の反抗とした。


「ごめんなさい。ちょっと冗談が過ぎたわね」


「え? 冗談?」


 ようやく我に返ったラキアは、自身の慌てふためく様子を思い出し、頬をさらに赤らめた。


「もう、ミサ!」


 怒りの言葉を背中に食らいながら、ミサは仲間の話の中へと潜り込んでいった。


「……」


 一人残されたラキアは、モニターを見つめながら自問自答する。


「……違うわよね?」


 頬に残る熱さを感じながら、自身の抱く感情が一体なんなのか、ただひたすらに考えた。




 一方こちらは、セスの控室と比べて、静寂に包まれていた。


 地球の少年が、誰も勝てないと思っていた化け物に勝った。そんなお知らせも、彼らにとってはどうでも良いこと。

 自身たちは敗北し、どちらかの奴隷となる。故郷で帰りを待つ家族たちと一緒に。そんな残酷な結末が待っていては、少年の勝利など喜ぶことなどできようはずがないのだ。


 ただ唯一、この男を除いては。


(勝った! 勝ちよったわい! 本当に! あの少年が!)


 震える拳は悲しさとして誤魔化す。流す涙は辛さとして演出する。


 本音は凄く嬉しい。ものすごく嬉しい。


 だが、そんな感情を、ここにいる全員の前で披露するわけにはいかない。ネリムは、心の中で空の勝利を喜んだ。


(ありがとう少年。ありがとう……)


 ひたすらに祈る。体が黄金色の光に包まれたのはその時だった。


「! この光は……!」


 それは、この戦いでさんざん見た絶望の光。我々を死地へと追いやり、敗北を突き付ける悲しき光だった。


 そんな黄金色の光が、控室に居る十人を照らしている。


 やがて光は一瞬で全員を呑み込み、その場から姿を消した。


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