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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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勝った者への興奮

 二人が出会った時、誰しもが思った。シヨクの完勝だと。


 しかし、その予想はシヨクの不調と、空のセンスに覆された。


 誰しもが理解した。空の逆転勝ちだと。


 しかし、その予測は、シヨクの覚醒で覆された。


 誰しもが悟った。シヨクに勝つことは不可能なのだと。


 しかし、その絶望は、空の白色の光で振り払われた。


 誰しもが確信した。空の勝利を。


 そして、その期待が覆されることはなかった。




「はぁはぁ」


「はぁはぁはぁ」


 一人は地に伏し、一人は天を仰ぐ。そのどちらとも、肩で息をする。両者、体はボロボロだった。


「……長い長い激闘の末、その決着は着きました」


 アナウンスが流れる。控室だけではない。その声は戦場にも響いた。


「はぁはぁはぁ」


 だが二人は気に留めない。これまで、控室ではこの放送が流れていたのかと推測しても気にしない。今ここで、この放送が流れることが「なにを意味しているのか」を悟っても、二人はまったく気にしなかった。


「ここまで、多くの戦いがあり、多くの勝者、多くの敗者を生んできた『惑星代表争奪戦』。その最終決戦にまで残った、二人の戦士」


 どこから流れているのか分からない。だがそれでも、二人の熱した体には、空気を震わすその声がなんとも心地良かった。


「一人。グリンの超戦士。圧倒的な強者。全ての挑戦者の、越えられない壁としてそびえ立ち、絶対王者として君臨しました」


 心当たりのある一匹のオークは、未だ呼吸を荒くする。既に体は、元のオークに戻っていた。


「一人。地球の少年。未知なる挑戦者。全ての者の予想を裏切り、数々の快挙を成し遂げ、ダークホースとしてその名を響かせました」


 心当たりのある一人の少年は、未だ呼吸を荒くする。羽とリングは未だ健在である。


「そんな二人の最後の戦いは、まさに締めくくるに相応しい、素晴らしい戦いとなりました」


 二人はようやく呼吸を整え始める。しかしそれでも、その場を動くことはない。ただじっと、結果が決まる瞬間を待った。


「神ももはや、送還は不要と判断しました。最後はその場で留めさせてあげたいという、二人の戦士への敬意の表れです。そして、その行為には誰しもが納得することでしょう」


 少年の手から双剣が消える。続いて、羽も、リングも。消耗したのではない。既に不要と判断して、姿を元に戻したのだ。


「いつまでも見たいほどの戦いでしたが、勝者と敗者が決まることは戦いの定め。ここでもその例に漏れることはなく、二人の役割が決定いたしました」


 細い手を天へと伸ばし、小さな手を開く。流れ出るは、血と汗。それこそ、なによりの勲章であり、天へと掲げるは、勝者の特権だった。


「激闘を制し、栄えある『優勝』という称号をもぎ取ったのは、この男‼」


 グッと手を握り、勝ちを掴み取る。真顔で、喜びも見せず、いつも通りに。


「今戦いのダークホース‼ 白時ぃぃぃ、空ぁぁぁぁぁぁぁ‼」


「うおっしゃぁぁぁぁぁ‼」


 画面に映った、拳を掲げる空を見て、セッキも思わず拳を握る。戦うためではない。喜ぶためだ。それでも、握った拳は、戦う時よりも遥かに硬かった。


「まさか、本当に勝ってしまうとは……!」


 未だに信じられない、といった目と表情を浮かべるシンスイ。それでも、口角は上がり、少年の英雄譚を目の当たりにしては、興奮を抑えることはできなかった。


「だから言っただろうが! あいつは絶対に勝つってよ! お前ら、見る目が無かったな!」


 一人、勝ち馬を引き当て、桁違いに喜びを堪能する。それに合わせて全員を煽るような発言をするも、誰一人として、彼に反論しようとはしなかった。


 面倒くさいというのもあったが、それ以上に、空の勝利を祝福していたことが大きい。過程がどうであれ、空が勝ちをもぎ取ったことは事実。セッキの発言も受け流せるというものだ。


「……」


 ただ一人、キユはゼウスと同じような目つきで空のことを見つめていた。


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