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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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天使VSオーガ

「……」


 過去最高の速度がここでも更新される。もはや、ラキアなど比ではない。


 しかし空は、これを容易く捉える。天使化の恩恵であることはまず間違いないだろう。視力も、体力も、運動力も、そのすべてが向上していた。


 空も同等の速度で突っ込んだことで、それは証明されることとなった。


――ガァァン‼


 これまでで最大の音、衝撃波、風が巻き起こる。煙は吹き飛び、瓦礫も…… 吹き飛んだ。


 その騒乱の中に居るのは二人の戦士。彼らは音を奏でるのを止めない。


――ガァァン‼ ガガァァン‼


 鈍い音。金属が混じり合う音にしても酷い。それが表すは、二人の攻撃力の高さ。一太刀一太刀が必殺の一撃。相手を殺すための重い一撃だ。


 一人。オーガと化した獣。その剣戟はあまりにも荒く、剣戟と呼ぶも怪しい。ただ剣を振り回すだけ。しかしそれだけで、相手を破壊する強力な一撃となる。


 一人。天使と化した人間。その剣戟はあまりにも美しく、繊細だ。か細い双剣で対抗できるのは、放つ剣戟が鋭かったからだ。重い攻撃に対抗できるほどに。


「フハハハハハ‼」


 笑いながら剣を振るい、笑いながら拳を突き出す。この戦いが、命のやり取りが、全力で渡り合える存在がなにより嬉しいといった表情だ。


「……」


 無言、無表情で剣を振るい、空を舞う。この戦いが負けられないものと知ってなお、表情が崩れることはない。気持ちを芽生えさせてなお、表情を崩さないのは、やるべきことが変わらないからだ。


「ふんっ‼」


「っ」


――ガァァン‼


 音は再び鳴り響いた。




「凄まじい…… 凄まじい攻防が繰り広げられています!」


 手汗握り、モニターから目を離すことなく、オタガミの喉は震える。


「シヨク選手の斬撃! しかしこれを空選手が躱す! すかさず空選手のカウンターが繰り出される! しかしこれはあえなく宙を空ぶった! おっと! 今度はシヨク選手の攻撃だ!」


 実況が止まらない。いつ呼吸しているのか疑うレベルの手腕だ。もはやゼウスの介入を許さない。


 それだけ口が回るオタガミが凄いのか、その状況を作り出した二人が凄いのか。


「……」


 ゼウスは黙ってモニターを見る。そう、黙って、静かに。


 手汗を握ることはない。心に焦りが生まれることもない。なぜなら神は知っているからだ。この戦いの勝者が誰なのか。次に起こる展開でさえも。


「……」


 ゼウスは心を切り替える。そして、空を見る目つきを変えた。




「フハハハハハ‼ 良い、良いぞ! 楽しいな、少年‼ 命すれすれのやり取り! 激しい攻防! 戦っている感じがする! これこそ、戦士の戦いに相応しいものだ‼」


 戦いの最中、シヨクは高揚するあまり、攻撃だけでなく言葉も出した。


「なのになぜ、貴殿はそのような顔をする⁉ 戦いが楽しくないのか⁉ この……」


 シヨクはグッと拳を握る。


「ひりつくようなやり取りが‼」


 そして、空へと繰り出した。


「……」


 空はその攻撃を両腕で受け止めると、そのまま後ずさりした。


「ふん!」


 鼻息を吹かすシヨク。まだまだもっと楽しみたいといった様子だ。


「……なんで、」


「ん?」


「なんで、それほど楽しくしていられるんだ?」


 それを疑問に思った空は、鋭い目つきでシヨクを見た。


「なんで? 逆質問か? なら逆に聞きたい! 高め合えるライバルがいて! 全力をぶつけられる相手がいて! なぜ、昂ることができないというのだ⁉」


「その必要がないからだ」


「……は?」


 間断なく答えた。


 シヨクの言葉は空には届かない。強力な敵を見てワクワクするなど、ただの戦闘狂の考え方だ、空は戦闘狂ではない。だから単純に、理解できない。理解しない。


 一方で、シヨクも空の言葉の意味を理解できなかった。


 「必要がない」とは一体どういうことなのか。いや、意味自体は理解できる。強力な敵を相手に昂る必要がないということなのだろう。


 だが、なぜ必要ないのかが分からない。それが戦う意味であるし、戦いはそれが全てだ。それ以外に意味など必要がないのだ。


 だからこそ、目の前の少年の言葉を理解できないし、相容れない。


「必要がないとはどういうことだ? 昂り、高揚し、満喫する。戦いは戦士の娯楽だ。それが必要ないとは…… それでも俺のライバルか?」


 怒りはない。だがどこか、呆れたような口調。


「ライバルになったつもりはない。お前が勝手にそう言っているだけだ」


「悲しいことを言う。だが、俺が貴殿をライバルだと認めた事実は……」


「それに、お前の戦う理由が、『強い敵と戦う』ことなら、」


「?」


「俺は絶対に、お前には負けない」


「!」


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