高揚するシヨク、無の空
「……貴殿。なんだその姿は⁉」
天を仰ぎ、空中に留まる少年の姿を見る。見たこともない姿だ。惑星グリンにはあのような生物はいなかった。
しかし、シヨクは直感する。「あれは強い」と。
「……」
空は黙ってシヨクを見下ろしていた。
答えるつもりはない。だが、答えることができない。空は、自分がなぜこのような姿になっているのかも、これが果たしてなんなのかも知らないからだ。
「『この姿はなにか?』ですか」
空は答えない。代わりに、全てを見聞きしていたギハンが口を開いた。
「それはこちらが聞きたいですね」
見当は付いているが、確証はない。そんな言い方だった。
だがそれでも、ギハンの中で既に答えは導き出されており、恐らく正解だろうという確信があった。そして、それは間違いではなかった。
「ただ恐らくは、リギラの…… 天使のエネルギーが溢れ出した結果、空にもたらした変化だとは思いますがね」
ギハンの言う通り、それは天使のエネルギーが溢れ出したもの。エネルギーを使う道具としてではなく、体の一部として取り入れた結果。
これまでの月日で馴染んだ天使のエネルギー。この戦いで大量に循環させた天使のエネルギー。それは紛れもなく、空とリギラが培った、時間の結晶と言える代物だった。
「……一人で何言ってやがんだ、てめぇ」
疲労も落ち着き、なんとか普通の言葉で話せるようになったリエガは、ギハンに疑問を呈する。いや、疑問というよりも、くだらないものを見たという呆れの方が近いだろう。
「ああ失敬。空の留まることを知らない成長に、思わず柄にもないことを。私がこれほどのキャラを崩すくらいに、今の空は驚きに満ちていると言いたいのです」
「……そうはならねぇが気持ちは分かるぜ。なんてったって、今のあいつの存在は紛れもなく天使に近い。見た目は言わずもがな、実力もな」
リエガはじっと空を観察する。目に見える変化はたった二つ。羽とリングだけ。表情も佇まいも、いつもの空となんら変わらない。
それでも、元人間の少年から放たれるオーラは、あまりにも荘厳で、綺麗だった。
「……これをあなたは狙ってやったというのですか?」
ギハンは驚きの目を、もう一体の天使に向ける。
確かに変化を成し遂げた空も凄いが、最も凄い存在は別にいる。空が天使へと至るきっかけを作った最初の天使、リギラだ。
「……」
リギラは自身満々に空の方を見る。まるで、全てを見透かしていたと言わんばかりの表情だ。
それを見て、ギハンは確信した。
「なんかとんでもないことになっちゃったね」
リギラなら絶対にそう言うと。
「……つまり偶然そうなったということですね」
「い、いやぁ別に? そんなわけないじゃん? 確かに、空を回復させればなにか起こるかなーとは思ってたけどさ? こうなるとは思わないじゃん?」
文の中で矛盾が生じている。もはや自分でもなにを言っているのか理解していないのだろう。
それほどまでに、空の姿は予想外だったのだ。
「……ま、どちらでもいいですけどね」
「ふえ?」
呆れ口調が炸裂するかと思いきや、ギハンの口から出たのは別の言葉だった。
それがどういう意味かは理解できなかったが、リギラは、流れるようにシヨクの方を見る、ギハンの横顔を眺めていた。
「さぁ。これは分からなくなってきましたよ」
これからの戦いにギハンは胸を弾ませた。
「……答えるつもりはないということか。まぁどちらでもいい。質問をしておいてなんだが、俺も、貴殿がなぜそうなったかは興味がない」
シヨクは剣を強く握り、プレッシャーを跳ね上げた。
「大事なことは、」
空を睨む。興奮と、期待と、殺意を持った眼差しで。
「貴殿の『それ』が、戦うに相応しいかどうかだ‼」
これを待っていたと言わんばかりの形相で、シヨクは空へと突撃する。




