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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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高揚するシヨク、無の空

「……貴殿。なんだその姿は⁉」


 天を仰ぎ、空中に留まる少年の姿を見る。見たこともない姿だ。惑星グリンにはあのような生物はいなかった。


 しかし、シヨクは直感する。「あれは強い」と。


「……」


 空は黙ってシヨクを見下ろしていた。


 答えるつもりはない。だが、答えることができない。空は、自分がなぜこのような姿になっているのかも、これが果たしてなんなのかも知らないからだ。


「『この姿はなにか?』ですか」


 空は答えない。代わりに、全てを見聞きしていたギハンが口を開いた。


「それはこちらが聞きたいですね」


 見当は付いているが、確証はない。そんな言い方だった。


 だがそれでも、ギハンの中で既に答えは導き出されており、恐らく正解だろうという確信があった。そして、それは間違いではなかった。


「ただ恐らくは、リギラの…… 天使のエネルギーが溢れ出した結果、空にもたらした変化だとは思いますがね」


 ギハンの言う通り、それは天使のエネルギーが溢れ出したもの。エネルギーを使う道具としてではなく、体の一部として取り入れた結果。


 これまでの月日で馴染んだ天使のエネルギー。この戦いで大量に循環させた天使のエネルギー。それは紛れもなく、空とリギラが培った、時間の結晶と言える代物だった。


「……一人で何言ってやがんだ、てめぇ」


 疲労も落ち着き、なんとか普通の言葉で話せるようになったリエガは、ギハンに疑問を呈する。いや、疑問というよりも、くだらないものを見たという呆れの方が近いだろう。


「ああ失敬。空の留まることを知らない成長に、思わず柄にもないことを。私がこれほどのキャラを崩すくらいに、今の空は驚きに満ちていると言いたいのです」


「……そうはならねぇが気持ちは分かるぜ。なんてったって、今のあいつの存在は紛れもなく天使に近い。見た目は言わずもがな、実力もな」


 リエガはじっと空を観察する。目に見える変化はたった二つ。羽とリングだけ。表情も佇まいも、いつもの空となんら変わらない。


 それでも、元人間の少年から放たれるオーラは、あまりにも荘厳で、綺麗だった。


「……これをあなたは狙ってやったというのですか?」


 ギハンは驚きの目を、もう一体の天使に向ける。


 確かに変化を成し遂げた空も凄いが、最も凄い存在は別にいる。空が天使へと至るきっかけを作った最初の天使、リギラだ。


「……」


 リギラは自身満々に空の方を見る。まるで、全てを見透かしていたと言わんばかりの表情だ。


 それを見て、ギハンは確信した。


「なんかとんでもないことになっちゃったね」


 リギラなら絶対にそう言うと。


「……つまり偶然そうなったということですね」


「い、いやぁ別に? そんなわけないじゃん? 確かに、空を回復させればなにか起こるかなーとは思ってたけどさ? こうなるとは思わないじゃん?」


 文の中で矛盾が生じている。もはや自分でもなにを言っているのか理解していないのだろう。


 それほどまでに、空の姿は予想外だったのだ。


「……ま、どちらでもいいですけどね」


「ふえ?」


 呆れ口調が炸裂するかと思いきや、ギハンの口から出たのは別の言葉だった。


 それがどういう意味かは理解できなかったが、リギラは、流れるようにシヨクの方を見る、ギハンの横顔を眺めていた。


「さぁ。これは分からなくなってきましたよ」


 これからの戦いにギハンは胸を弾ませた。




「……答えるつもりはないということか。まぁどちらでもいい。質問をしておいてなんだが、俺も、貴殿がなぜそうなったかは興味がない」


 シヨクは剣を強く握り、プレッシャーを跳ね上げた。


「大事なことは、」


 空を睨む。興奮と、期待と、殺意を持った眼差しで。


「貴殿の『それ』が、戦うに相応しいかどうかだ‼」


 これを待っていたと言わんばかりの形相で、シヨクは空へと突撃する。


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