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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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敗北と諦めと絶望と

「Guruaaaaa‼」


 理性の欠片もない、猛獣のような雄叫びが響く。大気の震えよりも早く、シヨクは空に攻撃を仕掛けた。


「!」


 視神経にエネルギーを集中させても、ギリギリでしか捉えることができない速度だった。


 それはまるで、リエガと戦った時と類似する。強大な敵、圧倒的な速度、破壊力マシマシのパワー。シヨクが格上で、空が挑戦者。表情さえも、あの時と同じだ。


 ただ違うのは、戦いのクオリティ。リエガ戦の時よりも、遥かにレベルの高い高度な戦いを繰り広げている。


 ただし、空とシヨクが相対していることを戦闘と呼ぶのなら、ではあるが。


 それはあまりにも、一方的過ぎた。


 シヨクの攻撃は、すべてが致命傷になり得る。それが絶え間なくポンポンと出てくるのだ。殴り、蹴りの格闘だけではない。いよいよ見せた彼の剣戟さえも、空を容赦なく襲った。


 その一撃を、空はなんとか受け止めるも、悲鳴を上げた。どの部位か? 言うまでもなく、心に潜む悪魔である。


「クッソが! なんつー重いパンチを出しやがる! 一瞬でエネルギーをごっそり持っていかれたぞ!」


 なんて悲鳴を上げるも、その余裕さえすぐになくなった。


 エネルギーがなくなっては練り上げ、また体に循環させてもすぐに消えていく。ただエネルギーを絞り出すことに集中するしかできなくなった。


「Guruaaaaa‼」


 それでもこの獣は止まらない。空が避けては追撃を食らわし、防御をとっても、それを上回る攻撃力で破壊していった。


「なんですかこれは⁉ こんなの……」


 惨い展開。対処できない化け物を相手に、ギハンは戸惑いを隠せない。冷静でいたところで、なんの意味もない。「戦闘中には冷静さを」なんて言っている場合でもない。


 ただ目の前の相手の破格の力量に、言葉を失うだけだった。


「怪物……」


 今のシヨクに似合う言葉がまさにそれだった。どんな手を打とうにもすべてが失敗に終わるような、そんな感覚。ギハンは、敗北の文字がはっきりと見えた気がした。「勝てない」と。


「Guruaaaaa‼」


 止まらない。もはや、空でも、キユであっても、三十人全員で挑もうとも勝てないと思った。こいつが居る限り、グリンの優勝は確実だと悟った。


 そして、その事実は揺るぎないものへと昇華する。


 シヨクの荒々しく振るった大剣の一撃が、空を地面へと叩き潰すように斬り伏せたのだ。


「っぁ」


 言葉にもできない。


 それは、空や種族たちだけではなかった。


 実況のオタガミは別として、あとの誰も、キユやゼウスですら、口を開こうとはしなかった。空の勝ちの目が潰えた瞬間、あるいはそれよりも前、シヨクが覚醒した瞬間に、全員が敗北を思ったのだ。


 「あれは卑怯だ」、「あいつがいる限り勝てない」、「最初から勝負は決まっていたことだった」。心の中に秘められた思いは、全員がマイナスなもの。あまりにも絶望的な状況に、涙を浮かべる者もいた。


 もう誰も空の勝利を信じてはいない。地球も、グリンも、セスも、リープも。セッキやネリム、ラキアだってそうだ。空は勝てないと思った。


 だが、裏切られたとは思っていない。あれは仕方がないことなのだと、妙に腑に落ちた。ネリムも、心の中で納得していた。呆れたロリ兵士も、涙を流した男軍人も、自分たちの敗北は、仕方のないことだと、すぐに把握した。


 誰しもが運命を受け入れたところで、事態は終わりへと向かう。


 シヨクが空の足を掴み、空中に放り投げると、最後の攻撃をしようと空へ迫った。


「空‼ 避け……」


 リエガかギハンか。どちらでもよいことだった。焦りと悲痛であることは言うまでもないだろう。


 シヨクの攻撃が、その言葉よりも早くに空に降りかかることも。


「ふんっ‼」


 ラストショット。剛腕な腕が、空の腹に突き刺さった。


「 」


 少しの言葉さえも出ない。出てくるのは血反吐のみ。


 空は、後方へと盛大に吹き飛ばされた。


「ぁ、あぁ」


 敗北が決まった瞬間だった。誰もがその光景を目に焼き付けた。


「まじ、かよ……」


 膝から崩れ散るセッキ。


「……終わったのう」


 脱力するネリム。


「……」


 無理だったか、と目を瞑るキユ。


「……っ、」


 悔しそうに拳を握るゼウス。


「……空」


 悲哀に満ちた声で呟くラキア。


 控室にオタガミの実況が鳴り響く、誰もが、その音をただの雑音として耳に入れ、モニターをただボーっと眺めた。敗北の味を噛み締めながら。


「空‼ しっかりしてください‼ 空‼」


 血まみれの空を見て、ギハンは焦りと不安の乗った声を掛ける。もはや冷静で聡明な死神はそこにはいない。ただ一人の人間を心配する、心優しい死神だった。


「ぜぇ、ぜぇ、そ、ら、」


 息を切らしながらも、その意識は空へ。今にも閉じそうな瞼をギリギリで押しとどめ、空に心配そうな声を掛ける。そこに、「悪魔」の姿などなかった。


 期待、希望、願望。そのすべての一身に背負った地球の少年、白時空。血を流し、霞む瞳を閉じかけ、天を仰ぐ。何も話さず、無表情のまま。


「……こんなものか」


 オーガ、ではなくシヨクは、遠く吹き飛び姿が見えなくなった空を意識し、ポツリと呟いた。


「残念だ」


 寂しそうに言葉を発して、勝利を確信した。そのはずなのに、嬉しくなさそうだった。


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