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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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反応は当然暗く

「おぉっと⁉ 追い詰められたシヨク選手、ここで切り札を投入だ!」


 モニターを見つめながら、オタガミの実況が唸る。マイクを強く握りしめ、額に汗を流しては、命を懸けて喉を震わせた。


「あの形態について話しを取り上げる前に、二人の戦いの生末を簡単に実況していきましょう!」


 声の準備は既に完了しているようで、オタガミは意気揚々と口を開いた。


「注目の最終決戦。新進気鋭の超少年、地球が生んだダークホース空選手対、圧倒的な重戦車、グリンの誇る最強の戦士シヨクの一戦。開幕早々、凄まじい戦いが繰り広げられました! しかし皆さん、心の奥底で思っていたのではないでしょうか? 『どうせシヨクが勝つ』と」


 見ている者たちの心を見透かすように、オタガミは皆の気持ちを代弁する。


 事実、控室に居るほとんどのメンバーは、シヨクの勝利を疑っていなかった。


「そのような予測は、またしても少年にぶち壊された! もはや彼の実力を疑うものはいないでしょう。つい先ほどまでの状況を鑑みれば、誰だって彼の強さは実感できます!」


 実況というよりも、どちらかと言えば解説に近しい言葉を並べながら、オタガミは話を続けた。


「一方的な展開。そのようなことにはなりません! むしろその逆の展開が待ち構えておりました! 空選手が相手を上回って、優勢に立ったのです! 中々良い勝負をするだろうと踏んだ私も、まさかこのような結果になるとは思ってもいませんでした!」


 チラリと横に目を向ける。ゼウスに向かって目配せだ。次は君の番だと言わんばかりの眼差しを向けた。


「……それは僕も同じことを思ったよ。いくらシヨクが弱体化したとはいえ、戦いが始まる前の空だったら即座にやられていた。ここまでの展開に持っていけたのは、間違いなく彼の成長による恩恵だと思うよ」


 オタガミの意思を察したゼウスは、いつものと同じように、渋々マイクに声を通す。面倒くささが前面に出されつつある言い方でも、所々に空への期待が隠されていた。


 唯一、オタガミがそのことに気が付いていたが、特になにかをするわけでもなく、実況を続ける。


「まさに『人間』というものを垣間見た気がします! 空とシヨクの戦いはこのまま終幕へ! 誰しもがそう思っていた時に、あの形態が発生した、というわけです!」


 ようやく実況が現状に追いついた。しかし、オタガミの口は休まらない。ゼウスを巻きこんで二人の実況・解説は深くまで入り込んでいく。


「解説のゼウス様。追い詰められたシヨクの体が赤く変色したのですが、あれは一体なんなのでしょうか?」


「……シヨクの話を聞いていたら分かると思うが、あれはオークたちに伝わる奥義だよ。代々、最強のオークしか扱うことができず、最強の戦士としての象徴でもあった。体毛は赤く染まり、筋肉は増強する。言わずもがな、スピードもパワーも段違いになる代物だよ」


「やはり、『パワーアップ系』ですか。確かに、モニター越しでもひしひしと彼の強さが伝わってくる気がします! その奥義に名前を付けるとしたら、『オーガ化』と呼ぶのが相応しいのではないでしょうか⁉」


「……呼び方はまぁ置いといても、確かにオーガのような鬼気迫る勢いがあるのは確かだね。空と見比べると迫力がまるで違う。さっきまでとは比べ物にならないね」


「あれが見掛け倒しということはあり得ますでしょうか⁉」


「ないね。純粋に強いよ。少なくとも、今の空より遥かにね」


 モニターを見つめる。その視線の先には空が居た。空は、オークの動きを警戒、あるいは気圧されて動けなくなっていた。


「皆さま、お聞きになりましたでしょうか⁉ そうです! 評価が覆りました! 皆さまが一番最初に思い描いていた展開に戻ってしまいました! シヨク優勢、空劣勢です! これまで多くの奇跡を見せてきた空選手。果たして、ここでもその奇跡を生み出すことができるのでしょうか⁉」




「……」


 セッキは苦い顔でモニターを睨んでいた。勝ちを確信したその瞬間、シヨクの力が膨れ上がり、確信を吹き飛ばしていったからだ。


 今は勝ちの確信ではなく、敗北の予感を脳裏によぎらせていた。


「……ライナの言った通りだったな。まさか、奴が実力を隠していたとは」


 モニターを見つめるシンスイが口を開く。額には冷汗が浮き出ていた。


「……ただそれでも、ここまでのものだとは私も思っていませんでしたが」


 ライナの一言で控室が静まり返る。誰しもが、緊張と不安を心に抱え込んでいた。


「だ、大丈夫だろ⁉」


 から元気なセッキの声が響き渡る。若干の震えを聞いた一同は、セッキが無理をしていることなどすぐに見抜いた。


「だってほら、空にも秘められたポテンシャルがあるんだろ? だったらあいつも、それを覚醒させればいいだけの話じゃねぇか!」


 まるで言い訳のような話すセッキの表情には、焦りが色濃く出ている。手も少しばかり震えているし、目も泳いでいる。


 しかし、それを見てもバカにする者は一人も居なかった。セッキの言う通り、空が勝つためにはそれしか方法がないことを理解しているからだ。


「なぁ、そうだろ? キユ⁉」


「……」


 セッキの返答にキユは黙っていた。


 セッキの言い分は正しい。ただ、そう簡単ではないことを理解しているし、単純に同意することが難しかったからだ。


「……」


 キユは黙ってモニターを見つめる。もはや、空の覚醒を信じるしか道がないからだ。騒いでも、焦っても、なんの意味もない。黙って空の生末を見守った。


「っ、」


 なにかを言おうとした。しかし、その口から言葉が出てくることはなかった。


 キユの様子を伺っていたセッキも、焦って顔をモニターに向けた。最強と期待が相対している。ただ、見守ることしかできないことを悟った。


「頼むぜ、おい……」


 拳を握りしめて、小さく祈った。


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