ルーキーとチャンピオン
ラキアと別れ、重い願いを託された少年、空。彼は、最後に待ち構えるボスの元へ、ひた足を動かしていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
呼吸が荒くなる。それもそうだ。さっきからずっと働きっぱなしだったのだから。息も整わず、疲れでぶっ倒れそうになるのをこらえて、ギハンは口を開いた。
「はぁ、はぁ。エネルギーを練るのも、かなり労力を使いますね。はぁ、からっきしになるまで練り続けるなど、過去にしたことがなかったので、疲れました、はぁ」
息も絶え絶えに、自身の疲労を報告する。この言葉に隠された真の意味は、「死神のエネルギーはもう使えない」ということ。それでも休まず、意識を保っている理由は、空が辿り着く結末を見届けたいという思いからだった。
誰しもが、死神のエネルギーを使えないことを理解している中、一人の悪魔はまったく別の意味で捉えていた。
「……やっぱ無理そうか?」
柄にもなく心配そうに声を掛ける。だが、この言葉にも隠れた意味が宿っている。そのことを理解しているギハンは、疲れ果てた口調をあえて印象付けて、わざとらしく答えた。
「無理ですね。彼女との戦いでエネルギーを激しく消耗してしまいました。ですので、『頑張ってください』ね?」
ギハンの言葉に隠れた意味が姿を現す。そう、リエガには「一人でシヨクと戦う分のエネルギーを補充しろ」と聞こえていたのだ。
先ほどの、心配そうに声を掛けた裏側は、「俺一人にそんな大変な役目を押し付けるな」だ。
ラキアでさえ、とんでもないエネルギー消費量。次の相手がどれほど使うのかなんて、想像に難くない。
「はぁ。やっぱそうなんのか。めんどくせぇ」
不満を垂れつつも、一人でエネルギーを補充する覚悟を決めた。
天使のエネルギーは使えない。万が一、致命傷を負った時に、回復する手段がなければならないからだ。悪魔のエネルギーがなくなればやむを得ないだろうが、それまでは一人で持ちこたえなければならない。
「なんかの奇跡で、シヨクの奴が弱くなってればなぁ」
「ありえない希望に縋っても仕方がないですよ。ほら、相手が見えてきました」
「げっ。もうかよ……」
気持ちの整理も付かず、空は大広間へと足を踏み入れた。
瓦礫があちこちに散乱している。戦闘の余波はあるだろうが、相変わらず建物群は頑丈である。
そんな硬いアスファルトの上、奴はそこに立っていた。
「……来たか」
背中越しに気配を察知する。
空は警戒心剥き出しに、相手の様子を伺った。真っ向勝負を好む彼が不意打ちを仕掛けるなんて思っていないが、彼から放たれる凄まじいオーラに、警戒を出さざるを得なかったのだ。
「……直感だが、貴殿が最後の相手になると予想している。キユ殿との戦いの熱が冷め止まないよう、貴殿との戦いが熱くなることを期待しているぞ」
上からの物言いだ。それもそのはず、実力はシヨクが上で、空が挑戦者。下馬評も、認識も、さっき殴った時だって、二人の格付けは既に終わっているのだ。
「……期待に応える、なんてことはどうだっていい」
「なに?」
物怖じしない、空の強気な口調。種族たちは、空の変化に目を見張りながら、耳を傾ける。空の成長を見守る保護者目線で。
一方、シヨクの表情は少しばかり苦々しい。相手が「あの程度のパンチしか打てない少年」というのもその一端だろうが、なによりの理由は、「期待に応えない」と宣う点だ。
キユとの戦闘で高ぶった感情。「惑星代表争奪戦」最後の戦い。幕を閉めるに相応しいものをという期待。そのすべてが一蹴された気分だった。
この戦いに掛ける思いが人それぞれなのは理解しているものの、こうもはっきり言われると気分は良くない。例え、最後の戦いに掛ける思いが、勝手に人一倍強いとしても。
「俺はただ、なすべきことをなすだけだ」
「!」
だが、不機嫌な感情を吹き飛ばす発言が、空の口から吐き出される。結局は「掛ける思いは人それぞれ」ということに集束するのだ。
「ほう。では聞こう。貴殿がなすべきこととはなんだ?」
傲慢に、高らかに、挑まれる者の立場として、強者の振舞いを務める。
そんな彼を前に、空は堂々と言い放った。
「『約束を守ること』だ」
「!」
予想と違った言葉を聞いて、驚きの色を浮かべた。もちろん、驚いたのは言うまでもなく、種族たちの方だ。
「彼女を救う」。空の口から度々聞いた言葉だ。種族たちは、空の口から出てくる言葉はそれしかないと思った。
だが実際は違った。空の中で、「彼女を救うこと」は決意ではなく、契りに代わっていたのだ。その思いは、口だけ言っていたものよりも遥かに強いことを、種族たちは知っている。強い気持ちを、意思を、熱意を持っていることを知っている。
託されたからだ。彼女から。彼女と他の者たちから。だから、空の言葉には重みがあった。力強かった。だから、空は負けないと思った。
「良い答えだ」
そして、その強い思いをシヨクも感じ取った。
「ならばやってみせよ! 俺は最強の戦士として、貴殿の最後の壁となろう!」
それだけ言い残して、シヨクは拳に力を込め、いつでも戦えるよう準備を整えた。
「はぁ。どうしてオーク共はどいつもこいつも……」
呆れ口調に、リエガは頭を掻く。焦りは無い。恐れもない。緊張や不安は少し残るが、動じていない。
ギハンが使い物にならない以上、指示を送るのはリエガの役目。戦闘の合図はリエガのタイミングに委ねられた。
「準備はできてるよなぁ、空⁉」
大声で確認を取る。高まる興奮を押さえつけようと、声を荒げることで緊張を解す。その声に合わせて、空も戦闘態勢を整える。悪魔のエネルギーを腕に回し、ガントレットを装着、拳を前に構え、準備が完了した。
「もはや言葉はいらない。さぁ、始めようか」
惑星代表争奪戦 最終決戦
空対シヨク
――開幕




