変貌は後悔をも飲み込む
無人になってしまった要塞の帝国。ウォーラの仕掛けた薬だけならば、もしかしたら生存者は居たかも知れない。だが、正確にここが無人であると言えるだろう。この俺、フィクターはもう人間では無いようだ。もし、人間であったとすれば、あの波によって死んでいた。
「おーい、何処へ行ったんだ? 返事をしてくれ、ムア」
ムアはまだ生きている筈だ。人に死をもたらす波も、ドラゴンには効かないらしい。もし効いていたとしたら、その場合でも俺は死んでいたからな。正直、荒れた馴染みの場所を歩き続けるのは気分が落ち込む、見れば人が居ないだけで、荒れては居ないのだが、俺の気分がそう見せているのかもしれない。
「あれ? フィクターなの?」
やっと見つけた。まるで空から落ちてきたかのように、少し窪んだ道の上で、ドラゴンの姿のムアが丸くなっている。普段であれば呆れるところなのだが、この状態で一人ではないというのは中々に心強い。それに、全てを失ったわけでは無いからだ。
「どうした? 何かに驚いて落下でもしたのか?」
「もう、いくらなんでも飛ぶのに失敗なんかしないよ」
これくらい言い合える相手と居るのは、気分が落ち着く。そんな信頼関係には、人間であるかなんて関係ないんだろう。最も、俺自身の見た目がどうあれ、ドラゴンになってしまっているんだけどな。
「怪我をしてくれていないよな?」
「ふふん! 天才の私がこの程度で怪我すると思ってるの?」
その自信が何処から溢れ出てくるのか解らないが、大方、なにか無茶でもしたんだろう。アルケミスト・コミュニティ関係なのか、他のドラゴン関係なのか。人の姿であったとしても、竜の姿であったとしても、変わらず表情豊かで何よりだ。
「お前が天才とは、中々にいいセンスだ」
「もー! 絶対私の事、バカだと思ってるよね!」
ムアは尻尾と翼をバタバタさせて、怒りを身体全体で表しているが、本気で怒っている訳ではないな。ドラゴンの時間で言えば短いかもしれないが、人の時間で言えば中々長い間一緒に居たものだ。この時間が有限であることは、正直惜しいと思ってしまう。
「お前がその姿なのは、何かあったんだろう? 言いたくなければ、言わなくてもいい」
ムアは何か非常事態でも起きない限り、人の姿のままでいる。だから、何かあったかなんて簡単に解る。バツの悪そうに、目を背ける辺り、アルケミスト・コミュニティ関係では無く、ドラゴン関係だろう。イニシエン様の不在にちょっかいをかけてきた感じか。
「あー、うん。人の姿に戻った方が良いよね? 服とか、無くなっちゃったけど」
服が無くなったんじゃなくて、破いてしまったの間違いだろ? 後先を考えないから毎回こうなる。本当に、面倒な事はしてくれないで欲しい。どちらにしても、ムアに人の姿になってもらう必要は無くなった。
「いや、そのままでいい」
「あー、やっぱり、服が無いのは不味かったのかな?」
不味いに決まっている。どうしてこれだけの時間を人と暮らしても理解が出来ないのかと、説教したくもなるが、それをした所で今更だ。それに、ムアにはもう、人の姿になってもらうことはないだろう。その必要が、これから無くなるからだ。
「それもあるが、そうじゃない」
「そうじゃないの?」
まだ、全てを失った訳じゃない。俺にとっての唯一が、目の前のこいつだ。あの波で解ること、世界が滅ぶまで時間が無いんだろう。だからこそ、今決断する。残りの時間を、どう生きるかを決めた。その為には、必要なことなんだ。
「ムア、頼みがある」
「急にどうしたの?」
「俺を……完全なドラゴンにしてくれ」
驚いているみたいだが、俺は決めたんだ。残りの時間を共に過ごすために、後悔をしないために、同じ存在に変貌することを




