終戦と絶望
クレイクァールは、静かになった<要塞の帝国>内に侵入していた。この戦いでミクスミャルムが亡くなり、ギアを道連れにすることまで想定内であり、やけに静かすぎること以外は完全に予想の範疇。ここで、最後の仕上げを済ませるつもりなのだ。
「長きに渡る戦いも、これで終わりですね」
その手に握られているのは、銀貨。かつてウォーラに集めさせていた銀貨の内の一枚。その集めた銀貨には、クレイクァールの力が付与されてあり、今では流通に乗って各地に散らばっている筈だ。そして、多くの人の手に渡った銀貨には、相応の想いが宿っているだろう。
「何が終わりなんだ?」
クレイは、自分の一人言に答えてくれる人が居るとは思って居なかった。それも、わざわざ居ないときを見計らって来たというのに、何故かラギ・イニシエンがこの場に立っている。
「どうやら、一手及ばなかったようですね」
「白々しい、俺は化かし合いが苦手なんだ」
そもそも、イニシエンが戻ってきていたのは<要塞の帝国>の民が亡くなった事を感じ取ったからであり、その時点で勝利も何もないのである。しかし、それはウォーラの仕掛けによって、行われた事であるために、クレイクァールからしてみれば何の話か解らない。
「流石に、貴方に勝とうだなんて、そんな事は思えませんよ。諦めましたので、はやく終わりにしてください」
その表情は読めないが、どうにも疲れたような雰囲気を声に滲ませる。その言葉通り抵抗する気が無いのか、近くにあったベンチに腰かける。
「話を聞けよ。死んだら終わりだけどな、生きていれば選択することは出来る」
イニシエンはクレイクァールを殺す気は無い。力を振るうことは多々あったとしても、命までは奪わない。全ての人間が幸せになれることを望むというのは、敵であったとしても変わらない。
「エンシェント様とは大違いですね」
「ハハハハ! 俺様は甘いと良く言われるが、それだけ余裕が有るって事だ! ……お前は、全ての人が幸せに暮らすことの出来る楽園を、実現することは出来ると思うか?」
イニシエンはクレイクァールの言葉を笑い飛ばし、そして、真剣な眼差しで問う。その答えは人それぞれではあるが、あまりにも夢物語な理想でしかない。
「無理ですね。世界がそれを許しませんし、人がそれを阻むでしょう?」
「無理とは言わねぇけどな、実際にそれを実現するのは難しい。だから俺は、先ずは全ての人にチャンスをやれる世界にする事に決めた」
「チャンスですか?」
「そうだ。足掻き続ける限り、何度でもチャンスをやれる世界だ。何度も挑戦していれば、何時かは掴めるだろ?」
「だとしても、甘い考えですね」
クレイクァールは呆れたように返事をするが、イニシエンは気にするようなこともなく笑い飛ばす。甘い考えなのは承知の内であるし、最終的には全ての人が幸せになれる世界にするのだから、それくらい出来なくては困るのだ。
「お前は、多くの人の未来を奪ったな? 例えもうすぐ世界が滅ぶとしても、あり得たかもしれない可能性をそれだけ消し去ったんだ」
一転、イニシエンの表情から笑顔が消え去る。全ての人の幸せを望んでいたとしても、それはそれ、これはこれ。クレイクァールが敵である事に変わりはないのだ。
「私に、何を求めているのですか?」
「お前が奪った未来の数だけ、未来を切り開いて見せろ。俺と共に来るんだ。世界を変えるために、お前の力を使わせてもらうぞ」
イニシエンは仲間になれと言い放ったのだ。流れる沈黙、そして、ゆっくりとクレイクァールは、首を横に降った。
「世界が巡り続けるというのは、何かを失い続けるという事なのです」
「ならば、その流れを止めてしまえば良い」
「戻ることはない。折れてしまった私には、真実を知りつつも、前に進む貴方方が、眩しかったのかもしれません」
「先導は俺がする。お前も後ろについて来たら良い!」
それでも、尚もクレイクァールは首を横に振る。明確な拒否である。イニシエンの仲間になるつもりは毛頭無いと。
「もはや、私には先へ進むことは出来ないのです。そして、なんと言われようと、今の私には貴方と共に歩むことは出来ないでしょう」
「……そうか」
「もし、次の世界で会うことがありましたら、私に声をかけてください。持ち得る力全てを、貴方の為に使うと約束します」
そして、クレイクァールは、隠し持っていた銃で、自らの頭を撃ち抜いた。それと同時に、アルケミスト・コミュニティは本当の終わりを迎えたのである。どちらが勝利したとは言えない、散々な結果だけを残して。
「……本当に、残念だ」
少しの間、黙祷するイニシエンではあったが、自分自身も動かなければならないことは忘れていない。他の管理者を味方につけ、中立の管理者を打ち倒し、<零の映写機希構>にアクセスして世界の転生を止めなくてはならないのだ。先ずは<救済の島>を目指そうとした、その時。世界は災いの波によって変貌した。




