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守護竜の終わり

 グラレアの姿をした誰かは、弓部隊の方へ向かっていく、どうやら協力してくれるようだ。だが、ギアにはその存在が誰なのか察していて、どうしてその姿になっているのか、攻撃を開始したミクスミャルムを牽制しながらも、問いたださなくてはならない。


「お前、ロアだろ!」


「そうか、そうか! この姿だから解らないんだな。俺は水竜ロア・バクアだ!」


 ギアがミクスミャルムの動きを封じ、その間にロアが水の槍を振るい、アルケミスト・コミュニティの弓部隊を蹂躙している。また、槍を振るうにとどまらず、いくつもの水球を操り、ぶつけたりしている。手数の多さでもって、完全に優勢だ。


「その肉体をどこで見つけたんだ!」


「この身体の持ち主に、お前と対等に戦うのなら、俺が同じ立場になれば良いと言ったんだ。そして、一度だけお前を助ける代わりに、この肉体を貰った」


 ロアがグラレアの肉体を無理やり奪ったのではないかと考えていた。だが、その話を信じるならば、強引に奪われたのではなく、取引として使われたらしい。ギアは昔の自分を思い出させるようで複雑な気分になる。この、グラディ・エルクの身体も、約束の末に託されたものだったから。


「あいつは……」


「さて、さて! 俺は契約は順守するぞ! 契約を守り、正々堂々と戦う事が、俺の誇りだからな!」


 ギアとしては、色々な事が起こりすぎてどう整理したものかと頭を悩ますが、だからと言って目の前の敵から意識を逸らしてはならない。ミクスミャルム単体であったとしても、相手はどんな策を持っているのか想定できないのだ。


「これは、よそうがいだ」


「奇遇だな。俺もだ」


 ミクスミャルムは、攻撃を繰り出しながらも、場所を変えていく。ギアはその攻撃を全て受け流し、それでも相手を逃がさない。硬直状態にも見えるが、時間がどちらの味方かと言うのは明白だ。この場において、ロアの動きを止められる存在は居ない。


「さて、さて! あそこに集まってたやつらは皆倒した。後はお前だけだな?」


 ミクスミャルムを除き、アルケミスト・コミュニティは容赦の無いロアの攻撃によって倒された。水の槍で身体に風穴を開け、水球を操りぶつける、それどころか喉を水で塞ぎ窒息させるなど、昔よりも操作精度が上がっているようにも見える。


「わたしは、おわるのか」


 ミクスミャルムの目の前にはギアが立ちふさがり、後ろには弓部隊を殲滅したロアが槍を構えている。どう考えても逃げる事は出来ず、勝利する事は尚更に不可能だろう。しかし、そんな状況に絶望している様子はない。


「やっと、お前を仕留められる」


「そうみたいだね」


 ミクスミャルムは淡々と答える。既に抵抗する意思は無いようで、その場で座り込んだ。この目の前の敵の事以外にも、ギアは色々と気になる事はあるのだが、意識を分散して良い事は無い。先ずは目の前の問題を解決する事にする。


「それにしては、余裕そうだ」


「わたしがしんだとしても、なにもかわりはしないから」


「それは、命乞いか?」


「まさか、はやくわたしをころすといい」


 まるで、早く終わりにしてほしいような事を言うミクスミャルムに、ギアは嫌な予感がする。今まで、攻撃してきたことはあっても、何か実害を〈要塞の帝国〉に及ぼしたことは無い。寧ろ、どちらかと言うと囮として動いている。


「今回も時間稼ぎか……。言え! 今度は何を企んでいる!」


「わたしはやくめをおえる。ここでしぬことで、すべてがおわる」


「ならば、吐き出させてやろうか」


 ギアはミクスミャルムの首を掴み、死なない程度に締め付ける。そして、地面に叩きつけ、剣で両足を貫いた。だが、意思が堅いのか、何も話さないどころか、一つの悲鳴も上げない。そんな状態に飽きたロアは、ギアの元まで歩いて来た。


「ギア、こいつ何にも話すつもり無いみたいだし、さっさと終わりにしようよ」


「少しでも聞き出せれば……」


 アルケミスト・コミュニティが何かを企んでいた場合、ここで時間を使うのは良い方法とは言えない。だからと言って、情報も無く相手の行動も、どう対処すべきかも解らない。更に言えば、その企みがあるかどうかさえも解らない。だからこそ、ミクスミャルムから情報を聞き出したいのだ。


「わたしの、ちからは、びんのなかの、へんかをとめる」


「そんなことを言っていたな」


 急に、淡々と話し始めたミクスミャルムを不思議に思いながらも、ギアは聞くことにした。具体的な事は何も無くとも、何かアルケミスト・コミュニティの行動のヒント位はあるかもしれない。


「わたしの、ちから。つかったら、とかないと、とけないけれど。わたしがしんだら、そのちからはどうなる?」


「ロア! この場から離れるぞ!」


「ギア? どうしたんだ?」


 ギアは理解した。ミクスミャルムの瓶は、その命をトリガーに解放される、時限爆弾のようなものと。この場所に誘導されたとするならば、何かが仕掛けられてもおかしくはないのだ。


「わたしのこえがきこえないなら、そのめに、そのからだに、とどけるだけ」


 ミクスミャルムの身体が爆散したその直後、ギアとロアの足元が爆発し、地面は崩れ始めた。巨大な落とし穴の中に、二人は叩き込まれた。そして〈要塞の帝国〉は、仕掛けられた神経毒によって滅びる事になる。

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