後悔する終わり
「私は天才だから、貴方如きには負けない!」
「天才なんて笑わせるね。私に君の狙いが解らないとでも思っているのかな?」
ムアは竜の姿となって、上空に向かっている。三次元的な戦いにおいて、高さとは有利だ。もう一つ、本命は争う場を空にすることで〈要塞の帝国〉に被害を出さないようにすることだ。そこまで解っていて、リアは追う事にした。
「ふふん! 私を追ってきた時点で、作戦は完遂してるんだよ!」
「全く、君の頭は都合の悪いことを忘却するみたいだね? 私を誘き出したは良いけれど、どうやって倒すつもりなんだい?」
ムアは竜の姿になったとしても、姿を誤認させる権限、攻撃力の無い黒霧のブレス、高い再生力を持つ身体しかない。戦闘持久力はあるが、致命的に決定打に欠けている。更に言えば、リアは最も防御力に優れた竜であり、勝てる見込みなど無いに等しい。
「昔の私と一緒にしないでほしいな!」
ムアは黒霧のブレスを吐き出す。単なる目くらましではあるのだが、このブレスは日光完全に遮断することが出来る。つまり、姿を誤認させる権限が使い放題になる。とは言うものの、把握していれば対処するのが簡単な力である事は変わりない。
「まぁいいや、そこまで言うなら、乗ってあげるよ」
まき散らされた黒霧によって視界が悪くなるものの、それが何ごとも無いかのように、リアは爪を振るい、ムアの身体を引き裂いた。しかし、それにしては手ごたえも無く、当たった際の音さえも無い。
「私の力には、こんな使い方もあるんだよ!」
姿を誤認させる権限によって、爪で引き裂かれたかのように誤認させたのだ。つまり、ムアの目の前で爪を空ぶり、それが当たったと誤認させたのだ。そして、そんな隙だらけのリアに、全力のパンチを叩き込む。
「それで? 次の策は何かな?」
パンチを叩き込まれたものの、全く動じていない。まるで全くダメージを受けていないようだ。ムアは比較的非力ではあるが、ドラゴンの全力で出したパンチが可愛い威力である筈がない。何か引っかかる事があるとすれば、リアの姿が、いつもの鳥の羽では無く、ドラゴンらしい鱗に覆われている事。
「全然効いてないし、寧ろ私の手が痛い! その姿が硬いのは知ってたけど、硬すぎでしょ!」
「私の鱗はね、あらゆる物理的な影響を受けないんだよね。だから、君が視覚をおかしくする力を使って、カウンターを狙っていたんだとしても、解ったうえで受け止める事が出来るんだよねぇー」
リアの権限は、鱗と羽を切り替えて、鱗はあらゆる物理的な影響を受けず、羽はあらゆる物理的以外の影響を受けないという、防御に特化した力。両方同時にと言う、完全防御は出来ないが、ムアに物理的な手段しか攻撃方法が無い以上、鱗の姿になった時点で、ダメージを与える事が出来ない。
「こうなったら、時間稼ぎでも何でも! とにかくあなたの動きを止める!」
「死肉ばっかり貪ってるから、脳まで腐ってきてるんじゃない? 私はね、別に君に勝つ必要は無いんだよ」
お互いに大した攻撃手段がない。そうなれば、とにかく動きを留めれば〈要塞の帝国〉に被害を出さないという、ムアの目的は達成させる。だが、リアからすれば相手をする意味も無い。そう考えたのか、更に上空に向かって飛んでいく。
「逃がさない!」
それをムアは追う。この場から逃げ出そうとしたのかと考えたが、実際は違ったようだ。リアはある程度上に行ったら止まり、鱗から羽に戻す、そして、大きく羽ばたいて地上に向け、羽を数枚飛ばした。
「運が悪いのが居たら、事故が起こってしまうかも知れないねぇ?」
リアが再度、羽から鱗へと変化させると、飛ばされた羽も鱗となり、人も切り裂ける凶悪な武器へと変貌した。もしかしたら誰にも当たらないかもしれない、だが当たってからは遅い。ムアはその身体を盾に、攻撃を受け止める。
「痛い! だけど、私の再生力なら、これくらいの怪我。すぐ治る」
「そうかい? そういえば、この下って君が拠点にしてた家が近かった筈だから、頑張って受け止めないとねぇ?」
……
相変わらず無傷なリアと、いくつもの鱗が突き刺さり、傷だらけのムアが相対している。あれから戦局は大きく変わらず、一方的な攻撃ばかりが続いていた。このままではどちらが勝つかは明白である、しかし、それには大きく時間がかかる事も簡単に解る。
「そろそろ、諦めたら……?」
「本当に、私には理解できないね。竜は何時だって身勝手なんだ。君が何を考えようとどうでも良いんだけど、そんなにあの人間が大切かい?」
「私の、仲間だから」
「ふーん? 流石に、これ以上止められるのはちょっと困るし、君は無駄にしぶとすぎる。私にはね、中立の管理者様の末路を見届けるっていう、愉快な役目があるんだよ。だから、君の目的は達成したって事だよ、良かったね。精々、残った時間を過ごすと良いよ」
リアはそれだけを言うと〈無知の国〉へ向かって飛び去って行った。本当に、これ以上〈要塞の帝国〉へ手を出すつもりは無いようだ。息も絶え絶えのムアは、一気に脱力するかのように地上へと降りていく。
「疲れた……」




