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変貌する終わり

「どうして、裏切ったんだ……?」


 僅かに震える声で、フィクターは問う。ウォーラがアルケミスト・コミュニティに通じている可能性は、ほとんど確信に近いものであった。それでも、間違いであって欲しいとも思っていたのだ。だが、現実は非情である。


「悪いな、俺って初めからアルケミスト・コミュニティだったんだよ。この国に潜入してた時から、だから裏切った訳じゃないんだ」


 ウォーラはまるで、雑談でもするかのような気軽さで話している。この状況を何とも思っていないようだ。フィクターは手を、自分の銃に重ねる。


「初めから、仲間では無かったと言うのか……」


「いやいや、勘違いしないでくれよ。俺は今でもこの国の奴らを仲間だと思ってるって」


 必死になって首を横に振るウォーラ、今となっては信じられたものでは無い。だが、フィクターは話だけは聞いておこうと考えた。ただの人間、銃の一撃で仕留められるのだから。


「それなら、経緯を話してくれるよな?」


「解ったから、まだ撃つなよ? 撃つなら、話し終わってからにしてくれよ?」


「解った。だが、変なことはしてくれるなよ?」


 ここまで言うのだから、ウォーラには何か策があるのかもしれない。それでも、フィクターは話を聞く事にした。どうにも、嘘を吐いているようには聞こえないのだ。


「そもそも、アルケミスト・コミュニティってさ、元々はコミュ障の錬金術師が、集まって何か話でもしようよっていう集会だったんだ。俺って錬金術師じゃないけど、クレイの姉の、クイラクァミアと仲良かったから、なんとなく入ってた」


「おい、待て。どうしてこうなったんだ?」


 現状のアルケミスト・コミュニティと比較すると、解離が酷いなんてものではない。何をどうしたら、何か話でもしようという集団が、こんな攻撃的な組織になるのか。


「全ての始まりは、クイラが亡くなってから。クレイは生き返らせる方法を探すって森の奥に姿を消したんだ。それから、戻ってきたあいつは、別人のようだったよ」


「……そうか」


 身近な人が亡くなって、人が変わったかのようになってしまうのは、良くあることだ。フィクターも、シャルサーが亡くなったとき、ムアが居なければ、別人のようになっていたのかもしれない。そう思うと、何とも言えないのだ。


「クレイは秩序の管理者、エンシェントに会ったらしい。それで、世界は正常に巡らなければならないんだってさ。それから、あいつの持ってた。想いを感じとる力が、想いを重さに変える力に変化してしまったんだ」


「力が……変化した? それに、秩序の管理者エンシェントだと?」


 秩序の管理者エンシェント、四体の管理者の内の一体ではあるが<沈黙の森>の奥深くに居るらしいという情報以外は、何も解らない存在だ。


「何か話をしたのか、その辺は解らない。何も教えてくれなかったからね。そして、クレイは<要塞の帝国>を、世界を変える可能性がある危険因子って、滅ぼすべきだと言ったんだよ」


「……止めなかったのか?」


「止めたよ。けど、ミクスがクレイの味方をしてさ、あの二人の力に、誰も逆らえなかったよ」


 圧倒的な力を持つクレイクァールと、高い戦闘センスのミクスミャルム。ただの一般的な錬金術師に、この二人を止められる訳が無かった。そして、今のアルケミスト・コミュニティがある。


「それで、お前がここに送られて来たという訳か」


「そうなるね。でも、俺はさ、この国の奴らを嫌いにはなれなかった。……クレイは、非情だ。イニシエンが居なくなったこのタイミングを待ってたんだよ。この場所そのものを、圧し潰す」


 フィクターは、そんな事が出来るのかと疑問に思うが、クレイクァールの力は、想いを重さに変える力。この場所〈要塞の帝国〉はきっと、とてつもなく多くの人の想いが宿っているだろう。そう考えてしまうと、確信に変わってしまう。


「早く止めなくては……!」


「フィクター、落ち着いてくれ。だから、俺は、この国中に罠を仕掛けた。ミクスの死と同時に、この国は強力な神経毒で包まれる。皆は、苦痛を感じずに逝ける筈だ……。お前は、ドラゴンになりかけてるから、効かないと思うけど」


 ウォーラは〈要塞の帝国〉の至る所に、ミクスミャルムの瓶を仕掛けていた。瓶の中の変化を封じる力が途切れた時、中に封じられた神経毒が気化して、瓶を破裂させ、辺りの人の命を奪うだろう。幸いなことは、痛覚を失わせるため、言葉通り苦痛を感じず、眠るように逝ける事。


「お前……! 何をしてくれているんだ!」


「だから、落ち着けって。クレイは止められないし、潰される痛みを味合わせたくないんだよ。それに、どちらにしても皆死ぬんだ……」


「……」


「なぁ、フィクター。本当に大切なものってさ、近くにあり過ぎて見えないんだよ。後から気づいたとしても、時間は許してくれない。もう、クイラは戻ってきてくれないんだ。お前は、そんな後悔をするんじゃないぞ? 終わりは、間近に迫ってるんだからさ」


 それだけを言うと、ウォーラは隠し持っていたナイフで、自ら命を絶った。いつも陽気だったその表情は、とても悲しそうに見えた。


「何だ……? 頭痛が……!?」

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