守護竜の因縁
<要塞の帝国>から、各地へと兵が散っていった後。そのタイミングを見計らっていた、ミクスミャルム率いるアルケミスト・コミュニティ。そして、来るだろうと予測して動いていた、ギア率いる防衛部隊が相対していた。
「ああ、はなて!」
「対処しろ!」
アルケミスト・コミュニティの放つ矢には、ビンが付けられている。恐らく、割れたときに爆発なりするのだろう。そんな事は防衛部隊も解っている、表面が木で出来た盾で矢を受け止め、弾くのではなく、突き刺すことによって瓶が割れるのを防ぐのだ。既に、手慣れたものである。
「こんかいでおわりだ、すべてがおわる」
「そんな妄言、聞く価値も無い!」
ミクスミャルムは体術を、ギアは剣を駆使して、攻撃と受け流しの応酬を続ける。ここまでは、いつもの硬直状態。ある意味、お互いに解りきっている予定調和とでも言えば良いだろう。
「おまえは、わたしのちからを、しっているのか?」
「ウォーラが言っていたが、爆発物を生成する力らしいな」
ウォーラ曰く、空気に触れると爆発する物体を生成する力で、密閉したビンの中に生成する事によって、取り扱いを可能にしている。という風にギアは聞かされていた。実際、ミクスミャルムは爆発する瓶を多用しており、割れる事以外をトリガーにしたことは無い。
「ちがう。わたしのちからは、びんのないぶのへんかをとめること」
だが、それは間違いであり、本当は瓶の内部において、その変化を止めることが出来る力。爆発しやすい危険物も、瓶の中に詰めてしまえば、持ち運びに便利な兵器と化する。だが、それは、瓶に付加した力によって左右されるという事でもある。
「おい、まさか……!?」
ミクスミャルムは一気にギアから距離を離す、勿論追うのだが、それをアルケミスト・コミュニティの弓部隊が集中的に矢を放ち足止めする。こうなると、防衛部隊をけん制する為の余力がなくなる。その隙を見逃すわけがなかった。
「さあ! きんこうはくずれた!」
防衛部隊は、しっかりと訓練された兵士、戦いのプロである。矢がギアに向いたと判断した瞬間、距離を詰める為に一気に移動する。アルケミスト・コミュニティは、その殆どが錬金術師、つまりは研究者であり、弓と言う遠距離攻撃と〈要塞の帝国〉そのものを攻撃できるアドバンテージによって、ようやく均衡を保っていたに過ぎない。距離を詰められてしまえば、どちらが勝つかは明白である。
「……!? 罠だ! 止まれ!」
近づく防衛部隊に、ミクスミャルムは視線を向ける。その瞬間、盾に刺さったままの弓に付けられていた瓶が、破裂していく、爆発が起きた訳では無い。だが、防衛部隊は次々に、脱力したかのように倒れていく。慌てて口を抑える者も居たようだが、既に遅い。
「どうだ? しんけいどくのあじは。こうなったら、まもるのはふかのうだよ」
ミクスミャルム含め、アルケミスト・コミュニティは濡らした布で口元を覆っていた。竜には効かない薬なのか、防衛部隊側はギアだけは立っていた。だが、最強の竜と言えども、数を相手出来ない。いや、出来なくも無いのだが、守るものがあるというのは、それだけでその力を大幅に削いでしまう。そもそも全力で戦う事が出来ないのだ。
「……。俺の意思は折れたりはしない、逆境であろうと、全てを守ってやろう!」
放たれる矢、最早剣だけでは防ぎきる事は出来ず、炎を放って撃ち落とす。度々爆風にさらされるが、それでもギアは怯まず、剣を振るい、炎を放ち続ける。ただ、防ぐだけならば、前方に巨大な炎の壁でも発生させれば良いのだが、それは出来ない。ギアは、炎を発生させる事は出来ても、消すことが出来ない、大きすぎる炎は、仲間も巻き込む可能性がある。
「どうした? わたしたちをやこうとおもえば、いつでもできるはずだよ。ほんらいのすがたになれば、けんげんをかんぜんにあつかえるでしょう?」
ギアの本来の戦い方は、焼かれぬ身体と、無尽蔵に発生させる事の出来る炎によるごり押し。在りとあらゆるものを無差別に焼き尽くす。自身が焼かれないからこそ、制御なんて要らなかった。人の姿ではそうもいかない、権限が弱まる事もあって、制御する事を学んだのだ。逆に言うと、人の姿に拘った結果、竜の姿の時に権限を制御しようとしたことは無く、本来の姿に戻って完全に権限を扱った場合、仲間どころか〈要塞の帝国〉さえも焼いてしまう可能性がある。
「お前ら如きに、全力を出すまでも無い!」
強がるギアであるが、矢による連続攻撃によって、無傷とは言えないようだ。矢そのものは鎧で防げるとしても、処理が遅れ、至近距離で起こしてしまった爆発の衝撃までは、防ぎきれない。ミクスミャルムは、攻撃を弓部隊に任せ、傍観に徹している。
「むだだよ。そのままたおれる? それとも、わたしたちを……」
ギアに語り掛けるミクスミャルムの面前を、水で出来た槍が通り過ぎる。その、見覚えがありすぎる槍の飛んできた方向に視線を向けると、見覚えのある、人の姿が目に映る。
「そうか、そうか! ピンチなようだな!」
「お前は……!?」
「ギア! お前を倒すのは俺だ! 折角同じ立場にまで降りてきたんだ、こんな所でくたばるのは許せないな!」
グラレア・エルクが、水で出来た槍を持ち、凶悪そうな笑みを浮かべる。




