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後悔は喪失を患う

 ムアは南区の屋敷、ウォーラの住居に侵入し、あるものを回収した。そういった仕事に、姿を誤認させる権限は有用であり、実際にそれをフィクターまで届けるのは難しい事では無かった。


「急がないと……!」


 途中で見かけてしまった白い姿に、ムアは悪寒を感じていた。だからこそ、フィクターに届け物をした後は、すぐに外に飛び出し、それを探している。だが、どうやら先に見つけたのは向こう側であったらしい。


「おや、奇遇ですねぇ。誰かをお探しですかぁ?」


 ムアが見上げると、建物の上で羽を休める鳥、では無く、白竜リア・メキアは見降ろしていた。その好奇に満ちた目は、明らかに見下しているようでもある。実際、このドラゴンには全ての存在が玩具でしか無いのだろう。


「こんな時に出てくるなんて、何を企んでるの!」


「企むなんて人聞きの悪い事言わないで欲しいなぁ。私はね、愉快な喜劇の前に、前座として、ちょっとした混乱でも起こそうかなと、楽しい事を考えていただけなんだけどねぇ」


 残酷かつ、享楽的なリアの言う楽しい事と言うのは、どう考えてもロクなことでは無い。しかも、今はイニシエンと悪魔は不在であり、ギアはアルケミスト・コミュニティに対抗するために外で陣取っている。対抗できるような戦力が、今は無い。


「どうせ碌な事しないんでしょ、私が止めてあげる」


「無駄な事はやめておきなよ。地を這う下等生物の皮を被っても、その小賢しい知能さえも手に入れられて無いんでしょ? 考えるだけ無駄って事だよ」


 明らかにムアを馬鹿にしている。とはいえ、このまま挑発に乗っても相手を喜ばせるだけであり、何の打開策にもならない。何とか気持ちを落ち着かせ、対処法を考えるしか無いのだが


「ふふん、私は天才だから。他の人が思いつかないようなことを思いつくだけだよ!」


「はいはい、言葉を選べる時点で君の知能はあるってことだね。でも、ごめんねぇ? そんな低次元の話をしてる訳じゃないんだよ? まぁ、知能に差がありすぎると会話が成り立たないとはよく言うから、君のせいでは無いよ?」


「あー、もう! ムカつく! 鳥のくせに! 焼き鳥になっちゃえばいいのに!」


 最近は落ち着いてきたとはいえ、どちらかといえば感情的なムアは言い返してしまう。そして、尚更にリアが煽るものだから、言い争いばかりが過熱するのであった。実際に、実力行使となってしまうと、力の差が明白な為、意図せず最善を引いているのかもしれない。


「死肉を貪るとか、なんて野蛮なんだろうねぇ。ハイエナとか、ハゲタカの方がお似合いだよ?」


「食べるつもりもないのに、命を弄ぶ方が野蛮だよ! ずっとそこら辺の草でも毟ってれば良いでしょ!」


「命を弄ぶのは強者の特権だよ。それに……ドラゴンとしての役目を果たしているという視点なら、どっちが正しいか、それくらいは分かるよね?」


 その言葉に、ムアは黙ってしまう。ドラゴンの役目は、人の敵意をその身に集める事であり、人同士の争いを防ぐための抑止力、その為に力を持ち、その力を振るうシステムの一部なのだ。そういう意味で、リアはその役目を全うしているとも言える。


「……。だけど、私は失いたくないよ……」


「お気楽な話だと思わないかい? 何をしたところで世界は滅ぶんだよ? どうせ滅ぶなら、この力を振りかざして、面白おかしく過ごしたって良いだろ?」


「……解ってるけど」


 リアはムアがこの考えを受け入れられないことを理解している、理解しているからこそ、それを突きつける。そして、苦しむ様を見て、愉悦に笑みを浮かべる。力でもってねじ伏せるよりも、心をへし折って苦しめる方が好みなのだ。


「どうせ滅ぶなら、君の手の中のもの。全部、君の手によって壊してしまえば良い。そうすれば、それは永遠に君だけのものになるって訳。それをするだけの力くらいはあるんでしょ?」


「そんな事……」


「出来ないのなら、私が代わりに壊してあげよう! この場所を、瓦礫で埋め、血で染めてみようか! ……もしくは、君が動くのでも良いんだよ?」


 そのどちらを選択したとしても、愉快なことになると確信してリアは嘲笑う。本当は、フォルフルゴートの所へ向かう前の、ちょっとした寄り道でしかなかったが、思ったよりも楽しめそうだと。


「そんな事……させない……! 私はきっと、ずっと後悔してるのかも。だけど、今を手放したくないし、壊させもしない!」


 だが、ムアはそのどちらかを選ぶことなんて出来ない。それなら、とれる手段は一つしかないのだ。建物の上から見下すリアを睨み付ける。その反応に驚いた様子は無く、ただ、呆れているようだ。


「君は愚かだよ。全部壊してしまえば、失う苦しみも無くなるのに」


「そう言う貴方は哀れだと思うけどね」


「まぁ、君が何て言おうと、私には関係無いんだけどね。それに、解ってるでしょ? 竜は何時だって身勝手なんだ。だから、愉快な遊びに付き合ってもらうとしようか!」

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