変貌は友情さえも
「フィクター、久しぶりだなー」
フィクターの屋敷に、唐突にウォーラが遊びに来た。アルケミスト・コミュニティによって被害を受けたあの日以降、あまり会うことはなかった。お互いに忙しくなったという事もある。
「ウォーラか、こんな日にどうしたんだ?」
「こんな日だからだよ。俺ってさ、あまり騒がしいのは苦手なんだよね。お前こそ、引きこもってて良いんかよ?」
「俺も騒がしいのが好きではないからな」
そう、こんな日というのは、イニシエンの作戦決行の日である。今頃は門の付近では、次々に出発する兵士達と、それを見守る人々で賑わっているだろう。それにフィクターが参加せず屋敷に閉じこもっているのは、騒がしいのが好きではないという事もあるが、やるべきことがあるからだ。
「ふーん。そういえば、ムアちゃんは?」
「ムアなら出かけているぞ。面倒を起こしてくれていなければいいが」
特に興味無さげに答えるフィクターであったが、実はある調査をムアに頼んでいて、その結果を心配していたりする。基本的に、守護竜の影としての活動は他言してはいけない訳だが、今回の調査はある意味個人的に動いている。
「なんだ、残念だなー。そうそう、最近さ、この東区で銃声をよく聞くようになったって話を聞いたんだけど、お前って射撃趣味でもあったっけ?」
「身を守るために多少は訓練しておかないといけないからな」
「シャルサーの事もあったもんなぁ、そりゃ危機感も持つわけだ」
ウォーラは納得したのか、うんうんと頷いている。フィクターが守護竜の影に所属していることは知らないようだ。そもそも、そんな組織があること自体把握していない可能性もある。どちらにせよ誰が所属しているかなんて、所属している本人も知らない訳だが。
「お前はどうなんだ?」
「俺ってか弱いからさ、戦うのは無理だって。そういうのは防衛部隊に任せるよ」
フィクターはちらりと窓の外に視線を向ける。外では権限で変装したムアが日傘をさしていた。その傘の色が青であることを確認すると、カーテンを閉める。だからこそ、この話をしなくてはならない。
「お前らしいな。……そうだ。興味深い話があるんだが、聞きたいか?」
「そう言われて気にならない訳がないだろ? 俺とお前の仲だろー、もったいぶるなよー」
ウォーラの反応を観察するが、裏なんかないような明るさで、その好奇心を隠そうともしていない。まるで子供のようだと脱力しそうにもなるが、今からフィクターが話すことは、他言を禁じられている事であり、気を引き締める。
「シャルサーを含め、あの時の被害者は銃によって殺害されていた」
「お、おい! それって、アルケミスト・コミュニティは銃の製造に成功したっていうのかよ!」
「いや、奴らは未だに弓を使う。おそらく、この国から流した奴がいる。作るにしろ、実物が無ければ不可能。奪ったのなら直ぐに分かる筈」
この〈銃〉という武器は今まで〈要塞の帝国〉以外で作られたという話を聞かない。そして、その製造法は秘匿されている。更に言えば、その製造数さえも管理されている。秘密兵器ではあるが、あくまで力のない人でも脅威になり得る兵器というだけで、あまり数を作っていない。だからこそ、無くなれば直ぐに分かる筈、それなのに報告が無いという事は、隠蔽されている事になる。
「それ、俺に話したら不味い事だったり、しないよな?」
「他言無用に決まってるだろ?」
「うわー! やっぱりそういう系かよ!」
こんな話が広まってしまえば、国が混乱してしまうことになる。何しろ、どこかに裏切り者が潜んでいるという事になるのだから。アルケミスト・コミュニティがわざわざ銃を使ったのは、そういう意図があるのかもしれない。
「さてと、そろそろ戻ってきてるんだろ?」
フィクターの問いかけに答えるかのように、ムアは部屋に入ってくる。呼ばれるまで部屋の外に待機していたようだ。ウォーラは特に然したる反応はしていない、いつの間に戻ってきてたんだと思っている程度だろう。
「あ、ムアちゃんじゃん。久しぶりー」
「うん、久しぶり。フィクター、頼まれてたの持ってきたよ。私、ちょっと行かないといけないから、後はお願い」
微妙に挙動不審なムアは、フィクターにあるものを渡すと、そのまま出て行ってしまった。何か急用ができたのか、この場に居たくなかったのかは分からない。ただ、これでこの場に必要な物が集まったと言えるだろう。
「あれ? なんか妙にそわそわしてたけど。それに、ムアちゃんが持ってきたそれって銃?」
「これか? これはただの銃じゃない」
そういって、フィクターはムアに渡された銃の引き金を引く。銃声が鳴る、しかし、ただそれだけだ。部屋の中にあるものを一つとして傷つける事の出来ない、銃の形をした音の出るおもちゃ。
「ただの銃じゃないって、銃ですらないじゃん。それがどうしたん?」
「これは、南区の屋敷。ウォーラ、お前の部屋から持ってきてもらった銃だ。それなら、区の管理人になった際に渡された、本物の銃は何処に行ったんだ?」
実はあの悲劇が起きた後ある場所を密かに調査していた。かつて、ウォーラと共にクレイクァールを相手した場所、そこには何処にも銃痕が残っていなかった。これが意味する事は、その時点で偽物の銃を、本物に見せかけていたという事だ。最早、アルケミスト・コミュニティとの繋がりは明らかだと確信している。
「うーん。もう弁解する意味も無いと思うから言っちゃうけど。俺ってさ、アルケミスト・コミュニティの一員なんだよね」
ウォーラは、悪びれる事もなく、平然と、まるで日常会話でもしているかのように、事実を突きつける。




