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変貌する休息

「ねぇ、フィクター。そろそろドラゴンになっても良いんじゃない?」


「何度同じことを言ってくれるんだ? 復帰してからそればかり聞くんだが」


 ミクスミャルムの爆発に吹っ飛ばされて気絶していたところを、防衛部隊によって助け出されたらしい。それから丸一日眠っていたようだが、竜化によるものなのか何なのか、体調におかしなところは無い。強いて言えば、目が覚めてからムアがやたらとドラゴンになるのを勧めているくらいだ。


「ドラゴンの身体は丈夫だよ?」


「それは知っているし、今回の事で実感した。だが、慌てずともいずれはそうなるんだろ?」


 未だに竜化は進んでおり、浸食の速度は物凄く遅いものの、十年か、二十年位経った頃には、全身が鱗で覆われているかもしれない。下手したら、その頃には翼なりが生えてきている事も考えられる。そんなものだから、急いでドラゴンになりたいとは思っていない。そもそも、そう思ったことは無い。しかし、ムアはその返答に不満そうであった。


「でも、その状態だと、あまり身体強くないんだよ?」


「元が人間なんだから仕方ない……アルケミスト・コミュニティに襲われた事を心配しているのか?」


「うん。だって、フィクターは仲間だし」


 フィクターの予想通りらしい、確かにドラゴンとなっていれば、再びミクスミャルムに襲われたとしても、命を落とす心配は殆ど無いだろう。仲間という発言については、少し疑問に思ったものの〈要塞の帝国〉に所属している自覚が出てきたのかと納得する。


「安心しろ、ギアが居る限り壁の内部に敵が入ってくることは無いし、当分は外に出るのも控える」


「えぇー」


 ムアは納得していないらしい、このままでは近い内に再度聞かれるだろう。フィクターは書類を整理する手を止める。そういえば、目が覚めてから一度も外に出ていない、気分転換に外の空気を吸うのも良いかも知れないと思い、玄関まで移動する。


「少し気分転換すれば、スッキリするかも知れない。だから、余計な事をしてくれるなよ?」


 そういって、扉を開くと、目の前に二人の人物が立っていた。今まさにノックしようとしていたのか、手を振り上げていたディーアと、仮面を付けていて素顔の見えないアウトーク、もとい正義の天使アウトークシアだ。


「……。何か用事があったのか?」


「いや、気分転換しに外に出ようと思っていただけだが……」


 このまま二人を外に出しておく訳にはいかないと考えたフィクターは、屋敷の中に案内する。ディーアは兎も角、アウトークシアは悪目立ちしすぎる。最も、本人が何を考えているのか全く掴めはしないが。


「急に訪ねて悪かったな。説明しておきたいことがあってな……」


 屋敷の中でも、比較的日差しが良くて、テーブルの置いてある部屋にて、四人は椅子に座る。ムアは、特に何も考えて無さそうにぼーっとしている。ディーアは、なんだか複雑そうな表情だ。アウトークシアに関しては……何も言う事が無い。


「この前の事か?」


「この前の事ではあるな。……急に自身の怒りが抑えられなくなった事は無いか?」


「あぁ、そういえば」


 ミクスミャルムに襲われた時の事を思い出す。最初の頃は防御に徹しなくてはと考えていた筈なのに、いつの間にか苛立ちに変わって、攻撃に転じようとしてしまった。こんなに短気だったかと、フィクターは苦笑する。


「すまない。それが私の権限なんだ。怒りを伝播させて、冷静な行動を封じる憤怒の力の一つ。どうやら、無意識に使ってしまっていたらしい」


「なるほど……」


 更に思い返すと、苛立ちを覚え始めたタイミングで、矢の命中精度が悪くなってきていたような気がする。伏兵も、怒りによって集中力を欠いたのかもしれない。その割には、ミクスミャルムは冷静だったようだが、それは伝播した怒りを精神力で押し込めたのだろう。


「私の権限は、無差別なものが殆どで、何かを守るには適さない……。だからこそ、お前にはいざと言う時に、この場所を守って欲しいんだ」


「あまり期待はしてくれるなよ……?」


 フィクターからしてみれば、この場所を失いたくないという気持ちが強い。だが、ミクスミャルムの襲撃であのザマなのだ。どうしても素直に頷けない。そもそも、もっとここを守る力がある存在が居るのではないかとさえも思い、アウトークシアの方に視線を向けてしまう。


「言っておきますが、私はこの場所へ直接関与する事は在りません。オールグローリアの時に動いたのは、天使が関与していたからです。公平では無くなってしまうのは、正義の天使として、あってはならない事なのですよ」


 何を基準に行動しているのかは解らないが、アウトークシアが〈要塞の帝国〉を守るために行動する事は期待でき無さそうだ。確かに、悪魔の支配する国を、天使が守る義理は無いと言えば、無い。


「そういえば、お前は何故付いて来たんだ?」


「私が何処に居る事に、理由が必要ですか?」


 どうやら、アウトークシアはなんとなく付いて来たらしい。天使のふわっとした返答に、なんとも言えない気分になる。それを聞いたディーアはため息をついているし、案外マイペースなのかも知れない。


「あぁ、そうか……。話す気が無いんだな……。さて、そろそろ私達は仕事に戻る事にするよ」


 椅子から立ち上がり、玄関まで移動する。そして、二人が屋敷から外へ出る直前に、アウトークシアがぼそりと、フィクターに告げる。


「……後悔しない事を願う」


「何を……?」


 アウトークシアはそれに答えることなく、ディーアと共に外へと出て行ってしまう。何を伝えたかったのか、フィクターには全く理解することが出来ない。


「フィクター、まだ病み上がりなのだから、無理はするなよ」


 ディーアはそれだけを言うと、玄関を閉じる。とりあえず、今日は外出するのをやめようかと、部屋に戻ろうとしたところで、ずっと無口だったムアがようやく口を開く。


「フィクター、ドラゴンになったら守る力も手に入るよ?」


「何度同じことを言ってくれるんだ……?」

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