変貌する危機
「それにしても、久しぶりに壁の外に出たな。お前は未だに頻繁に外に行っているのか?」
「最近は無いな。ムアをあまり放置していると、何をしてくれるか解らないからな」
ロアとの戦いが終わり、ギアが帰った後に、フィクターとディーアはその場に留まり雑談をしていた。立地的に閉鎖的な〈要塞の帝国〉に比べ、ここの草原は広々としていて、ほのぼのとした気分になることが出来る。
「さて、私はまだやるべきことが……! 避けろ! フィクター!」
「ディーア! 何が……!?」
何かに気づいたらしいディーアに、突き飛ばされる。その直後、二人の間に何かが投げ込まれ、爆発が起きる。体制を立て直しつつ、何かが飛んできたその方向に視線を向けると、薄笑いを浮かべた女性がこちらを見ていた。
「あいつはミクスミャルムだ! フィクター、時間を稼いで貰うぞ!」
ディーアはそう叫ぶと、どこからか取り出した丸い何かを空に向けて放り投げる。すると、一瞬まばゆい光が発生した。これを頼りに防衛部隊がこちらに向かってくる筈だが、それまでは二人で乗り切らなくてはならない。
「ああ! はなて!」
ミクスミャルムが何かを言うと、彼女の後ろからいくつもの矢が放たれた。どうやら、一人で来たわけでは無く、伏兵が数人は居るようだ。
「おい! こんなのどうしろと……」
「フィクター! 自分の身くらいは自分で守れ!」
放たれた多くの矢に、どうしようもなく動くことの出来ないフィクター。そこに、一歩前に歩を進めたディーアは、いつの間にやら持っていた黒い大鎌を一閃し、命中するはずであった矢を粉砕してしまった。
「おにもつ、まもりながら、きみはたたかえるか?」
どこからか放たれる矢は大鎌によって寸断され、ミクスミャルムの放り投げる爆発する瓶は、斬らずにはじき返す。悪魔として強大な力と技量を持つディーアであっても、フィクターを守りながら戦うのは難しい。
「フィクター! お前の能力は守る事に特化している筈だ! せめて相手の攻撃を防げるようにしろ!」
「そんな事、簡単に言ってくれるな!?」
「敵は待ってくれない! 東から一本来るぞ!」
もうどうにでもなれと、半ばやけくそに権限を使用する。フィクターはドラゴンとしての要素を持った時に、竜化した部位を鋼とする権限を手に入れた。その権限を使い、鋼と化した右腕で飛んできた矢を叩き落とした。
「おい、ディーア!? これで良いのか!?」
「フィクター! 集中を切らすなよ! 東から二本! 北から一本!」
ディーアは指示をしながら、攻撃を捌いていく。始めは動揺していたフィクターも、徐々に矢の処理に慣れていく。一応武器としては、銃を持ってはいる。だが、攻撃に回るのは良くはない。何しろ、慣れてきたとは言え、下手な事をして、権限の制御が上手くいかなくなってしまえばそれまでなのだ。
「さすがだね、ちょくせつあくまをたおすのは、ひとのみにはむずかしい」
ミクスミャルムが何かを言っているが、全く聞き取ることが出来ない。飛んでくる矢の処理に意識を向けているというのもあるが、その発音が稚拙過ぎて、そもそも把握するのが難しいのである。それ故に、気が狂っていると言われてしまう理由でもあったりする。
「俺がミクスミャルムの相手をする。防衛部隊が来るまで何とか耐えてくれ!」
そう言って、ディーアは攻勢に転じる、対するミクスミャルムも、爆薬を使って距離を取らせたり、上手い事攻撃を阻止したりと、互角に戦っている。そして、徐々にフィクターから離れていく。
「本当に、面倒な事をしてくれたな!」
ディーアの指示が無くとも、ある程度矢の対処が出来るようになってきていたが、それでも全てを捌ききることが出来ない。躱しきれなかった矢のいくつかが、鋼化していない身体を掠っている。だが、何故か痛みを感じていない。竜化の作用なのか、単純に痛みの感覚がマヒしているのか。
「そろそろ諦めろ。お前に勝ち目は無い」
「いってくれるね、こうかいするなよ」
大鎌が大きく振るわれた時、ミクスミャルムは鎌の上に飛び乗り、そのまま左足を軸に、ディーアの頭めがけて蹴りを放つが、咄嗟に鎌を手放し、両腕をクロスさせて蹴りを防ぐ。だが、これは周囲からしてみれば大きな隙であり、いくつもの矢が突き刺さる。
「いい加減にしろ……!」
流石悪魔の生命力と言うべきか、何本もの矢が刺さろうととも、関係ないとばかりにディーアは大鎌を振るい続けている。そして、その苛立ちに対応するかのように、何故か矢の命中精度が悪くなり、ミクスミャルムは守りに徹している。
「これが、ふんぬのちから、おもったより、やっかいで、たいしょしやすい」
フィクターは、どうしてこんなことになってしまったのか思い返す。結論として、全てはミクスミャルムがこんな所に現れて、襲い掛かってきたせいだ。そう考えると、酷くいら立ってきた。どんな身体能力があろうと、所詮は人間である。銃で急所を撃ち抜いてしまえば、それで終わりだ。
「本当に面倒な事をしてくれたな。要塞の帝国の技術、その身で味合わせてやる」
フィクターは、ミクスミャルムに向けて走り出す。確実に命中させるには、距離を縮めなくてはならない。こういった不意を撃つ攻撃は、一撃目が肝心なのだ。
「おい! フィクター! 冷静になれ!」
ディーアが意識を逸らした瞬間、ミクスミャルムが瓶をばらまき、爆発と共に周囲を煙で充満させ視界を奪う。慌てたフィクターが発砲するが、そんなものが当たる訳が無い。
「おまえ、よわすぎ」
煙が晴れた。フィクターの目の前にはミクスミャルムが立っている。そして、一つの瓶を投げつけてきた。それを咄嗟に鋼化した腕で防ぐも、割れた瓶は大爆発を起こし、それに巻き込まれて意識を失った。




