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変貌する傍観

「そうか、そうか! その姿のままで俺に勝てると思ってるんだな!」


「何度も言った筈だ。お前は俺に勝てない」


 <要塞の帝国>の北に広がる大きな草原にて、いつもの重鎧で剣を構えるギアと、この前の騒動の元凶らしい、水竜ロアとか言う、その水晶みたいな鱗のせいで、日の光を反射してやたらキラキラしてるドラゴンが相対していた。


「なぁ、ディーア。俺は何を見せられているんだ?」


 そして、その二体を見学するかのように、離れた場所でフィクターとディーアが立ち尽くしていた。とは言え、ただの見学というには生易しく、時折飛んでくるものを防いだり、回避したりはしている。


「ロアに何度も襲撃を受けては面倒だ。こういう時に、これを使うべきだろう」


 ディーアが掲げるそれは、ただの紙にしか見えないが、悪魔の使う<契約書>というものらしく、そこには。ギアとロアの試合を許可し、それを邪魔しない。敗者は勝者に三年間勝負を挑むのを禁ずる。といったような事がつらつらと書いてあり、つまりはギアが勝てばロアの行動を三年間封じる事が出来る。というような内容になる。


「凄い道具だな」


「簡単に使えるものでは無いがな」


 悪魔の<契約書>は、そこに書かれた内容を強制させる力があるが、その影響を直接受ける人物が、全員内容を承諾しないと、その効果は適応されないのだ。ロアがこの内容に納得しなければ<契約書>は効果を発揮しない。だからこそ、期限を定める必用があった。


「いや、そうじゃない。俺がここに居る意味があるのか?」


「意味がないとは言わないが……。そうだな、この戦いが終わった後は、ロアの鱗が拾えるんじゃないか?」


「何か誘導されてる気がするが、今回はされても良いかもな」


 そんな会話をしている間も、戦いは続いている。見た感じは、どう考えてもロアの方が有利にみえる。人の姿とドラゴンの姿の体格差、飛行能力の有無はどう考えても大きな隔たりだろう。ギアは火を放って遠距離攻撃はできるが、三次元に自由な動きをする相手には、命中精度が悪すぎる。


「当たるかよ! そんなもの!」


 ロアは水を操る権限によって形作られた、水の槍を大きく振るい、飛んできた火を打ち消しつつ、上空から攻撃を仕掛けている。水で出来ているからと言って、威力が無い訳では無い。ドラゴンサイズの大きな槍は、その重量でダメージを与えるのだ。


「その程度か!」


 ギアは地面に向けて炎を放ち、その反動に、跳躍力を乗せて、大きく飛び上がる。そして、ロアの槍を回避しつつ、炎をまとわせた剣を振るう。


「そうか、そうか! それくらい読めている!」


 ロアは水の槍を、無数の水球に分けて空中に浮かばせる。そして、そのいくつかの水球を炎の剣にぶつける事で、軌道を逸らす。攻撃を逸らされ、落下していくギアにいくつかの水球が追い打ちを仕掛ける。


「その程度ならば、問題ない!」


 ギアが咄嗟に放った炎は、迫ってきた水球とぶつかり、一気に気化して辺りは水蒸気に覆われる。視界が悪く、上手く見えない中で、ロアの操作している水球全てがそれぞれ槍の形になる。


「穿て、穿て! その視界で避けられるものなら避けてみろ!」


 四方八方から水の槍が放たれる。分割した為に、かなり小さくなっているが、代わりに細くし、速度を乗せる事で貫通力を上げている。蒸気でよく見えないが、ギアも炎で抵抗しているようだ。それでも、水の槍は無数にあり、取り囲むように全方位から連続攻撃をしている。


「ディーア、ギアの奴ヤバいんじゃないか?」


「戦いは最後まで解らないものだ」


 ロアが全ての槍を撃ち尽くし、水蒸気が晴れると、おそらくギアが着地していたあろう場所には、誰も居なかった。フィクターがその姿を探すと、やけに焼け焦げた鎧を身にまとったギアが、ロアの真下に立っていた。


「どこに消えた!」


「ロア、お前の負けだ」


 ギアは剣先を上に向け、放った炎の反動と、跳躍力で、一直線にロアへと向かう。慌てて放ってしまった水を集めようとするがもう遅い。速度の乗った剣は、硬い鱗を貫き、深々と突き刺さる。そして、そのまま地面へと落下した。


「勝者、ギア! 契約は成された!」


 ディーアがそう宣言すると、契約書は淡い光を放ち、そして勝手に丸まって手の中に納まった。一応は、この契約書を燃やす事によって効果を打ち消す事は出来るが、内容の中には〈要塞の帝国〉に属するものに攻撃してはならないという記述もあるので、ロアからしてみれば簡単な事では無く、時間感覚が人と違うドラゴンは、だったら三年待てばいいかとなってしまう。


「ロアは生きているのか?」


「あれくらいでドラゴンは死なない。……耐性があるとは言え、全身火傷だらけだ。俺はもう休む」


 戦いが終わり戻ってきたギアは、疲れたような声で答える。実は、自分自身を炎で包み、強引に槍の包囲網を突破していたのだ。自身の耐性をフルに使った無理やりな方法であり、下手すれば自分自身の権限によって焼き尽くされてしまう苦肉の策でもあった。


「ディーア、この戦いを見せて、何を企んでくれているんだ?」


「そう不審がらないで欲しい。こんな戦いもあるんだって見せたかっただけだ。万が一〈要塞の帝国〉に何かあった時、防衛を手伝ってもらう可能性はある」


「そんな面倒な事を起こしてくれない事を願っておくよ」

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