後悔する共有
「ねー、グラレアー、私暇だよー」
「ムア様、フィクター様が服を取りに行ってから二分も経っていないのであります」
「だって、最近暇っていうのから遠ざかってたから、意識すると余計に暇と言うか。やっぱり大きな体は小回り効かなくて良くないね」
ずっと寝て過ごしている事も多いドラゴンであるが、その中でもムアは比較的活動的であるし、最近は暇な時間なんてものがそんなに無い生活をしていた。ある意味刺激的な生活は、余計に暇を意識させるのか、人と比べると大きなその体を揺らしている。
「私は、ある意味、ムア様が羨ましいのであります」
「どうして?」
「大きな体、強靭な鱗、どこにでも行ける翼。誰かを守るのに、適した力であります」
グラレアの言葉に、どう返事をすれば良いのか解らない。ムアからしてみれば、ドラゴンの力が欲しいのなら、血を気安く渡してしまうだろう。その後ギアから怒られそうではあるが、精々少し痛い目に合うだけだ。そんな未来の事なんて気にして行動していない。
「うーん。でも、それって身代わりって事だよね」
「ドラゴンの生命力、防御力であれば、誰かの盾として動きやすいのであります」
「なんで、他の人の為にそこまでするの? 別に仲良くない人なんてどうでも良いでしょ?」
ムアの純粋な疑問であった。他人に全く興味が無いような言葉であるが、ドラゴンの中ではマシな方であり、ギアが異例過ぎるだけだ。ロアも執着しているようで、自身の強さにしか興味は無いし、リアなんかは他人が苦しんでいる様を喜んだりもする。だが、それでも、その考えには大きな隔たりがあった。
「私に居場所をくれた、イニシエン様への忠誠の証。そして、次は私が守る側になるという覚悟であります」
「忠誠と覚悟かー、私にはよく解らないよ」
ムアは何の気はなしに流すが、グラレアからしてみればそうでは無かったようだ。真剣な眼差しの中に、少しの失望。しかし、それに気づくことも、気づかせることも無い。
「……。私達、防衛部隊は任意でありますが、兵士には悪魔の力と言うものを身に宿して、強力な力を得ているのですが、それは私の思う守る力では無かったのです。ドラゴンの力も、違うものでありますな」
「力なんて、何の為に使うかってだけだしねー。力その物に期待しちゃだめだよ。そのせいで、何体ものドラゴンが人間に落とされてるからね。私は天才だから、そんな事にはなんないけどね!」
軽い嫌味に気づかないどころか、こんな返しをされてしまえば、もはや何も言えない。グラレアの苦笑いにさえも気づかず、爬虫類の表情なんて解ったものでは無いのだが、ムアは陽気に笑っているようだ。そんなところに、フィクターが戻ってくる。
「私も精進が足りないのでありますな……。フィクター様、お疲れ様であります!」
「ディーアが用意してくれたから、そんなに走らなくて済んだ。ムアは問題を起こしてないか?」
「問題は起きていないのであります」
「ちょっと! なんで私が問題を起こすことになってるの!」
「面倒な事をしてくれていないなら別に良いんだ。服を持ってきたから着替えてくれ」
服を放り投げるフィクター。そして、そのままムアの顔に引っかかる。余りにも雑な対応と、明らかに問題扱いされている事にぶつぶつ文句を言いながらも、人の姿に戻って服を着る。真っ黒ではあるが、素材は良いものらしい。
「もう、フィクターは雑なんだから。着たよ。どこに居るの?」
「ムアに言われたくないな。帰るか」
フィクターは服を着ている間、物陰に隠れていたらしい。出てくると、そのまま屋敷へと歩き出す。それにムアも合わせてついていく。少しの無言の時間が流れていくが、その沈黙が破られる。
「ねぇ、フィクターは忠誠とか、覚悟とか、あったりするの?」
「急に何を言うんだ? グラレアに何か言われたのか?」
フィクターがまさかその言葉をムアから聞くとは思わず、驚いているようだ。そもそも、本人がそんなことを言うようになるなんて思っても居なかったわけで、苦笑するしかない。
「まぁ、色々話はしたね」
「俺は、居場所をくれたイニシエン様には忠誠を誓ってはいるが、覚悟があるかと言えば、どうだろうな。こう見えても、流されて生きてきた部分はあるから、いざと言う時は解らないな」
「もし何かあったら、私と逃げちゃえば良いじゃん」
「あの人はあれで甘いところがあるから、許してくれそうではあるが……。と言うより、お前とこんな話をすることになるなんて、予想もして無かったな。妙な事は、してくれるなよ?」
「私もこんな話をする時が来るなんて思ってなかったよ。だけど、本当にそんな時が来たら、それも良いかなと思っちゃうんだよね」




