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後悔する因縁

「さてとー、私は何してようかな」


 ムアは会議には参加しない。そんな時、いつもは書類の整理をしていたり、見回りと言う名目の散歩をしていたりする。そして、今日は特にやる事が無い訳では無いが、急ぎの用事もない訳で、のんびりするつもりで居る。


「ムア様。その残念な頭を回している所申し訳ありません。サボりついでに買い物をお願いします」


「別に良いけど。そろそろ私に対する評価を改めて欲しいな」


 ムアが外出しようとした所を、シャルサーに呼び止められ、いつも通り笑顔で黒い事を言いつつ、買い物を頼まれるが、最早慣れたものであった。確かに出会いは最悪であり、良い印象を持たれてなくても仕方ないのかもしれないが、どちらかと言うと面白がっているだけのようにも思えてしまう。


「それでは、よろしくお願いします」


 シャルサーからメモと銀貨を受け取ると、そのまま外へと歩いていく。外は良い天気であり、絶好の散歩日和でもある。ムアは日の眩しさに眼を細めるが、突如何らかの影によって遮られる。


「えっ、嘘でしょ……」


 その日を遮った存在の正体は、空を飛ぶドラゴン。その姿は水晶のような鱗を持ち、それは光を受けて美しく輝いているが、それはムアにとっては恐ろしいものでしかなかった。出来れば相手したくは無かったのだが、向こうからやってきてしまえばどうしようもない。


「お前は、ムアか。弱いやつに興味は無い。さっさとギアを出せ」


「私にそんな事言われても困るよ」


 このドラゴン、水竜ロア・バクアはとても好戦的であり、ギアを敵視というよりも、ライバル視しているような節がある。元々は互いに好戦的という事もあり、昔はよく争っていた。だが、片や炎を発生させる権限であり、片や水を発生させるのではなく、水を操る権限であった。なので、水辺でしか対等に戦えない。とは言え<要塞の帝国>は海に近いし、それを考えられないほどに頭が悪くもない。


「あーそうか、そうか。お前がここに居るという事は、ギアとは無関係ではない筈だ。あてにはなりはしないが、無いよりはマシと考えるか」


「えっ? ちょっちょ待ってよ!?」


 ロアはムアを掴む。ドラゴンの姿であれば、人ひとり掴むことは容易であり、そもそも人の姿を未だに持っていない一体でもある。そして、そのまま空へ飛びあがるが、その直後。大きな音と共に、巨大な炎が打ち上げられた。そしてそれは衝撃を放ちながら空中で爆散した。


「ギア! 見つけたぞ!」


 その炎が放たれた場所。守護竜の待機する塔へと一直線に飛んでいくロア。ムアは無抵抗にそのまま連行されているが、その存在は最早意識の外だろう。そして、塔へとたどり着いた時、その頂上からギアが飛び降り、その手に持った剣で貫くべく落ちてきた。


「ロア! いい加減に諦めろ!」


「そんな攻撃当たるか!」


 そもそも、自由に飛べるロアはひらりと避ける。躱されてしまったギアは、そのまま地面に激突すると思いきや、地面に炎を向けて発する事で、その衝撃を和らげ、着地した。そして、その剣を空を飛ぶドラゴンに向ける。戦いの真剣な空気になる筈だが、余計な存在に気づいてしまった。


「お前、ムアを連れてきて何する気だ……?」


「あーそうか、そうか。これはもういらねぇな」


「えっ? 待って、待ってよ。私頭いいから、この後物凄く嫌な予感が」


「ほい」


 ロアからしてみれば、ギアに会えた時点で掴んで持ってきた事も忘れていた存在は、ただのお荷物と化していた。だからこそ、まるで要らないものを適当に放り投げるように、ムアを地面に向けて放り出したのは必然と言うか、ある意味お約束と言えるが、そのまま地面に激突すれば、中々えぐい光景になるのは間違いない。


「ひぎゃー!! 助けて―!?」


 ムアが地面に激突するまでもう時間は無い。それなのに、ギアは助ける素振りを見せるどころか、そもそも見てもいない。大惨事が脳裏に過ぎった時、何者かによって受け止められた。それは、スーツを着こなした痩せすぎの男、憤怒の悪魔ディーアであった。


「ギア、せめて受け止める位はしてやったらどうだ?」


「竜の姿に戻れば怪我をすることも無かっただろ。ポンコツトカゲには良い薬だ」


「だって、ずっと人の姿だったから、忘れてたっていうか……。私よりもずっと人の姿で居るギアには言われたくないよ!」


 そんな茶番劇が地上で繰り広げられている事に対して、苛立ちを覚える存在が一体。ロアはギアに戦いを挑みに来ただけなのに、余計な奴らが、内の一体に関しては自分が連れてきたという事も忘れて怒りに震えていた。


「ギア! 俺と戦え! この場所を破壊されたくなければ、本来の姿に戻って俺と戦うんだ! 今度こそ、俺が強いのだと認めさせてやる!」


「いい加減にしろ! 強さその物には意味がない。そのままではお前は俺に勝るのは不可能だ」


 ギアは炎を放つが、相手は空を飛んでいるドラゴン。そんなものが当たる訳が無い。放たれた炎を躱すだけの戦いが、ロアの怒りに油を注いだようだ。癇癪を起すかのように、監視塔に向かって尻尾を叩きつけた。その一撃で崩れる事は無かったが、多少のヒビは入ったようだ。


「あーそうか! そうか! 先ずはその邪魔な塔を砕いて、瓦礫の雨を降らせてやろうか! そうすれば少しはやる気になるよな?」


「ムア、元の姿に戻れない訳では無いな?」


「えっ、そりゃそうだけど」


 謎の質問をするギアに対して、素直に答えてしまった瞬間。その腕を掴まれる。そして、ムアが何かを察するその前に、まるで鉄球投げの玉のように、思い切り振り回され


「ギア、それは流石に」


 ディーアの制止も知らないとばかりに、遠心力と自前の怪力と、オマケに放った炎をぶつけて推進力を更に追加して、思い切り空へと打ち上げた。空高く打ち上げられたムアは、ぐるぐる回されて脳みそ掻き混ぜられた感覚と、炎をぶつけられて強制的に意識をはっきりさせられる感覚を同時に味わっていた。


「ムア! そのまま落ちればどうなるか解るな!」


 そんなギアの大声が聞こえたムアは、少し前の事を思い出していた。竜の姿になれば怪我なんてしなかった筈だと。確かに竜の鱗は強力な防具となる。半ば本能的に、元の姿に戻ったのだった。ロアの真上で。


「おい、嘘だ……!?」


 竜の姿になったとは言え、バランスがとれる訳でも無く、たまたま下に居たロアを巻き込みながら地面に落下する。そして、眩暈のする頭を上げ、何とか眼を開くムアの目の前には、巨大な炎が渦巻いていた。


「ムア、よくやった。後は寝てろ」

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