後悔する談笑
「たまには休む事も必要だ。デカイ獲物を狩ってきた、遠慮するな」
「いやいや、ギアさん? 俺も遠慮しようとしてるつもりはないんだけどさ、流石にそろそろ胃が限界って感じになっちまったよ」
大きな鉄板を前に、ギアが何かの肉を豪快に焼きながら、ウォーラに絡んでいる。その言葉の通り、たまには休む事も必要と、他にも複数人あつまって談笑したりしている。ムアは周囲を見渡して、他に見知った人間が居ないか探すことにした。
「どうした、ウォーラ。ギアも言っているんだ、遠慮なんてしてくれるなよ?」
ムアが見つける前に、フィクターの方からこちらを見つけたようだ。近づきながら、ついでとばかりにウォーラに絡んでいく。どうやら味方は居ないらしく、手元の皿に肉が積み上がっている。
「俺、野菜好きじゃないんだけど、野菜が恋しくなっちまったよ……。てゆーか、ムアはともかく、フィクターも元気そうじゃん。なんだよ、既に胃はドラゴン化してんのか?」
ギア主催の肉オンリーな集まりは、ウォーラの胃にダイレクトでダメージを与えているようだが、ドラゴンであるムア、ドラゴンとなりつつあるフィクターは、なんの事は無しに肉を食べている。こうなる前であれば、胃がもたれて平気な顔は出来なかった筈だ。
「あー、何だか知らないが、野菜は食えなくなったな。身体が拒絶する気がする」
「私の血で変化してるからね。もしかしたら、その辺も同じになってるのかもしれない」
そこそこ時間が経っているせいで、集まっている殆どの人間が満腹になってしまっている。それでも、ギアが焼き続けるせいで、ウォーラの持っている皿の大惨事は起きていると言える。ムアからしてみればどうでも良い事なので、そんなの気にせず肉を食べている。
「やっぱり、ドラゴンって肉食なのか?」
「そうとは限らないみたい。リアっていう性根腐ってるドラゴンは草食みたいだよ」
そう言いながら少しばかり嫌なものでも食べたかのような表情をするムア。どうにも性格の悪さもあるが、根本的に性格が合わないらしく、喧嘩ばかりしていたようだ。ただ、能力差が大きく、リアは遊びだとばかりにふざけて相手するので、余計に苛立つのである。
「リアか、あれに関わるのは止めた方がいい。確実に後悔するだろうな」
「ギアさんがそこまで言うって事は、そのリアって奴、相当に腐ってるんだろうな!」
ウォーラは、大袈裟に頷きながら、いい加減ヤバい量になってきた肉を、ムアの持っている皿に移している。フィクターは椅子に座ってうとうとしているし、ギアは変わらず尚も焼いている。
「あぁ、そうだ。グラレア、お前も食え」
「ギア様、私は勤務中であります。お心遣い感謝します」
ギアは、自分の後ろに立っていた、鎧で身を固め、ハルバードを手に持った人物に話しかけるも、勤務中と断られてしまったようだ。この集まりの警備員として、ここに居るらしい。
「ここには俺が居る。お前も少しは休め」
「いえ、職務を放棄するわけにはまいりません」
頑なに拒んでいるこの警備員、グラレア・エルクは防衛部隊に所属している。直属の上司であるギアの言葉にも揺るがない生真面目な性格をしているようだ。この中では一番若いが、それなりの実力者ではあるらしい。
「ㇵッハッハ! なんだ? なんの集まりなんだ? おっ、ムア久しぶりだな」
「私はよろしくしたく無かったけど」
そこに暑苦しい巨体。暴食の悪魔ラギ・ファーアが現れる。ムアは遠目からその姿を確認していたが、関わりたくないので見ないふりをしていた。だが、向こうから来てしまえば反応せざるえない。渋々返事をすることにしたようだ。
「ファーア様、お疲れ様であります!」
「お前は、グラレアだったか? 俺に対して畏まる必要は無いぞ」
「ファーア、お前はグラレアの1割でも良いから真面目になれ」
「ㇵッハッハ、ギアは手厳しいな! あ、そうだ。ムア」
まるで反省の色も見えないファーアに、呆れるギア。何か不審なものが無いか辺りを見渡しているグラレア。何だかこの賑やかさにも疲れてきたムアは、完全に熟睡しているフィクターを起こして帰ろうかなと考えていると、関わりたくない奴に呼び止められてしまう。
「何か用でもあるの」
「気を付けろよ。満たすものを手に入れた時、満足する事を忘れるからな」
「何が言いたい訳?」
「欲ってのは底なしだけどな。穴の無いものを満たせるものは無い。お前は何かで妥協する必要があるんだ」
ファーアは終始明るく、何かを説明するが、ムアからしてみれば何言っているんだこいつ、という事であり、欠伸をかみころす始末である。さっさとフィクターを起こして帰りたいというばかりで、適当な相槌だけうっている。どうにもこのよく解らない話をするのが、苦手な要因なのかもしれない。後は見た目の暑苦しさとか。
「そういえば、ファーア様って、暴食の悪魔ってわりには、そんなに食べてるの見た事ないよなー」
「ㇵッハッハ。ウォーラ、あまりそんな事言うなよ? 俺が暴食の悪魔なのでは無く、暴食の悪魔として俺が居るんだからな」
「俺には難しい話って感じだよ」
「まぁ、その辺は思うほど単純で、単純じゃない。暴食ってのは満たすためのものだろ? 俺は満たないのは勘弁してほしいな! ㇵッハッハ!」
ウォーラの介入によって、ファーアの標的から外れたムアは、フィクターを起こして、そのまま帰る事にした。これ以上残っていたら訳の分からない話を聞かされ続けていただろうし、あまり人が多いところは得意では無いと自覚したからだ。




