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後悔する同胞

「ムア、出かけるぞ」


「え? なんで?」


 アルケミスト・コミュニティとの騒動も落ち着いてきた頃、唐突なフィクターの発言にムアは非常に嫌な予感を感じた。今日は街を散策する予定だったのだ。最初は、シャルサーに言われて嫌々行っていたが、色々な物を見て回るのは案外悪くなかった。


「お前に会わせないといけない奴が居るんだ。面倒な事は、してくれるなよ?」


「えぇ、それって、まさか」


 ムアは嫌な予感が的中したことを悟った。だが、もう遅い。どう考えてもフィクターは連れていく気しか無いようだ。ついでに、その後ろにはシャルサーも控えていて、相変わらずニコニコとしているが、逃げだそうとした瞬間に、その表情のままで捕縛しに迫るだろう。


「その、まさかだ。ギアに貴方を連れて来いと言われている」


「ムア様が、ギア様に苦手意識を持っている事は重々承知しております。ですので、是非ともその抜けた顔を見せに行ってあげてください」


 ムアは冷や汗が流れるのを感じながら、どうすればこの場を乗り切れるのか、考えに没頭するが答えは出ない。実際は非常に短い、とても長い時間が流れている。それでも、最善の方法さえも思いつくことは無い。


「考えるんだ、考えるんだ! 天才の私なら何か方法が思いつくはず!」


 なんとなく言葉に出してみるが、それで何かを思いつくのであれば、こんなに簡単な事は無い。それどころか、シャルサーが何か思い出したとばかりに、報告という名の爆弾を投下する。


「あ、もう一つ報告がありました。今日、日が暮れるまでにギア様の元にたどり着かなかった場合。フィクター様の為にドラゴンのステーキを用意していただけるとの事です。ドラゴンはおいしいのでしょうか? 私も多少は気になります」


「えぇ!? ステーキ!? 私がステーキにされるの!?」


「あ、いえ、興味はありますが、バカがうつりそうなので私は食べたくありません」


「どうして私、ステーキにされそうになってる挙句、こんなにバカにされてるの!? そうじゃなくて、そうじゃないでしょ! 私はバカじゃないし、うつるのは違うものだし、なんか色々言いたいけど! 私の命の危機が問題なのー!」


 シャルサーは明らかに楽しんでいるし、フィクターは呆れるばかりで止めようともしていない。そんなこんなで、ムアはこのやり場のない感情を募らせるしかなかった。どちらにせよ、ギアから逃げるのは不可能であるのだ。


「貴方が余計な事をしなければ、ギアに手を出させないから安心しろ。だから、余計な事はしてくれるなよ」


 逃げる事は不可能な上に、そうまで言われてしまえば、覚悟を決めるしかなかった。ムアは重い足を引きずって、フィクターと共に高い塔の前まで来ていた。そして、そこからは、長い階段が物理的に立ちふさがる。


「ねぇ、ギアに会う前に、私の命が尽きそうなんだけど」


「ただの階段だろ。ドラゴンが人間に負けてどうするんだ」


「だって、こんなに歩くの慣れてないんだよ。もう疲れたよ、休憩しよーよ、きゅーけい」


 どうしてこんな長い階段を上りきれるのか、不思議ではあったが、シャルサーは変な力を持っているし、フィクターも何か変な所があるんだと、ムアは納得する事にした。ともかく、このまま上り続けては倒れてしまうと、強引に休憩を挟みつつ、やっとギアの部屋にたどり着いたのである。


「遅かったな。後二十秒遅れたら、ステーキにしてやろうと思っていたぞ」


 そこには、重そうな鎧を身にまとった人間。に見えるけれど、人間の姿をしただけのドラゴン。ギア・レイアが机に座り、書類を睨んでいたその視線を、こちらに向ける。フィクターは気軽に挨拶をしているが、相手は世界でもかなり強いドラゴンだ。ムアでは完全に相手にならない程に。


「ねぇ、フィクター。約束、約束!」


「ギア、来たんだからステーキにするのは遠慮してくれないか?」


「やはり、ステーキは嫌いなのか。だが、俺は焼くことしかできん……。焼肉ならどうだ?」


 なんというずれた会話をしてくれている。ムアからしてみれば、ステーキにされるのも、焼き肉にされるのも、等しく止めて欲しいのである。そもそも何が変わったというのだろうか、おそらくギアの事だから、ただ言い方を変えただけで、存分に焼くだけだろう。


「ちーがーう! 違うでしょ!? 私は食材じゃないのー!」


「そういう事らしいから、本題に入る。前に、怪我の様子はどうだ?」


 鎧で全身を覆っている為に、解りはしないが。どうやら怪我をしているらしい。ギアは戦闘能力は高いが、再生能力という点ではムアに負ける。それなりに深手を負えば、回復には時間がかかるのだ。


「ふーん。ギアが怪我したんだ。どんな奴だったの?」


 ムアからしてみればかなり興味深い事だった。氷竜ロア辺りが襲い掛かってきたら、怪我くらいしそうだが、前に起きていたあの騒動が原因だとすると、原因が予測できないのだ。


「怪我は大したこと無い。いつものアイツだ。爆弾魔」


「爆弾魔?」


「ミクスミャルムとかいうキチガイ。アルケミスト・コミュニティで唯一名前の知れ渡っている幹部だ。最近、創始者の名前もわれたがな」


「それが事実かは解らない。こちらを混乱させる策かもしれない」


 ムアからしてみれば、素の力では最上位の力がある存在を怪我させることが出来るという事に驚愕してしまう。ギアやメアはドラゴンの中でも最強に近く、次点でロアやリア辺りだろう。


「ギアは何で怪我したの?」


「アイツは爆薬を使って攻撃してくる。まさか俺が焼かれるとは思わなかったがな」


「ぷっ……」


「あん?」


 まさかの火竜ギアが焼かれるとは思っていなかったムアは、つい笑いが堪えられなくなってしまっていた。なにせ、最強のドラゴンが、焼く側が、寧ろ焼かれたというのだから。


「さ……最強の火竜の、ギアが焼かれるなんて、火竜なのに、火竜なのに、焼かれてるなんて、お腹が、お腹がいたいぃー」


「……」


 フィクターはひっそりとその場から距離をとる。その瞬間。ムアの立っていた場所に、火柱が代わりに立っていた。

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