14-1.迷う角にも福来る?
明け方の街の通りを4人の冒険者が会話を弾ませながら歩いている。
ヒューネスの少年剣士、異国風貌なゴブリンの剣士、ドラグネスの女狩人、バルログの少女魔術師だ。
彼らはこれから何時もの酒場兼、冒険者ギルドへ昨日受けた依頼の報告と次の依頼を探しに向かっていた。
少年剣士は指先で依頼書をひらひらさせながら、得意げに笑う。
「いやぁ~、今回は大活躍だったなぁ、オレ!」
「あれぇ~?でもぉ~、一番の大物を仕留めたのはユートくんじゃなく、ソウシロウよねー?」
女狩人はそう言って、後ろから付いてくる少女を振り返った。
「ユ、ユートくんも、多勢相手に頑張っていましたから…」
おどおどと彼女はその言葉に困り顔を作りながら、それでも女狩人の言葉に懸命にフォローする。
「よかったわね~、フラナちゃんはユートくんに優しくて。」
少女に覆い被さりながら、女狩人がからかい口調でそう言うと、 少女の顔が真っ赤に染まった。
ユートは口を尖らせ、不満気な顔で女狩人を睨む。
「あーっと、怖い怖い、ユートくんを怒らせる前に退散ね。じゃ、先に行ってテーブルでも取っておくから~。」
女狩人はヒラリと手を振ると、小走りで先に行ってしまい、その後ろ姿を眺めながら、少年剣士は溜息をつく。
「…ちょっと心配ですね。ナナリナさん…」
「然り、あぁまでの空元気、アレはそうとう重症のようでござるな…」
…
「それで何で、2人してオレを見るんだよ!あの<赤マント>が居なくなったのはアイツ自身のせいだろ!」
2人に責められるような視線を感じ取り、少年剣士は憤慨したように声を上げた。
だが、2人ともそんな彼の抗議には耳を傾けず、逆に呆れた表情を作りながら肩をすくめる。
それは数日前の出来事。
~~~
「いようっ、赤マント!悪いけど、もう今日の依頼は受領しちまったぜ!」
ユートが声をかけた先のテーブルには赤いマントに赤い襟巻きをした黒髪の男が立っている。
「ふーん、あっそう。」
男はユートの方にも見向きせず、興味なさ気に返事をし、その態度にカチンと来たのか、ユートは更に言葉を続けた。
「別に仲間外れにしてるワケじゃないぜ。近頃は寝坊ばっかりで定時に揃って無いアンタが悪いんだからな。」
「…そりゃ、悪かった。だが、よかったな、今後はその心配する必要はないぞ。」
変わらず、男は全く意に介さない様子でユート達に背を向けたままでいる。
「そういえば何をしているのでござる?赤法師殿。」
ソウシロウが尋ねると、赤マント、赤法師と呼ばれていた男は手を止めて振り向いた。
テーブルの上には大小様々な包みが並べられ、開いた背嚢がある。
「何って、見ての通りの荷造りさ。俺もこれから仕事だよ、仕事。」
そう言いながら、男は再びユート達に背を向け、自分の荷物を詰め始める。
「で、でも、赤マントさん、しばらくこの街に居るって…」
「身の振り方が決まるまでは、な。それで昨日、俺の<ボス>から指示がやっと届いたんだよ。だから俺は今後そっちを優先するの。それが<専属>ってヤツだからな。」
「…ダーリン、何処に行くの…?」
「言う必要はないだろ。」
ナナリナが不安そうな声で尋ねたが、赤マントの男は素っ気無く返した。
そのまま黙々と彼は荷物を纏め続ける。
…
「何だよ2人して俺をそんな目でみるなよ。」
だが、ソウシロウとフラナの無言の圧力にたじろぎ、観念したように、赤マントの男は溜息を吐くと口を開いた。
「ったく。ここより北西の最端を渡った先の島、大規模の魔法学院があるのは知ってるか?」
「は、はい。確か<魔法都・レテシア>の魔法学院ですね。魔法都事態に強力な結界が施されている為、部外者の立ち入りが限られており、また内からも外部からも出入りが困難で、その為、魔法の研究が盛んだとか…、それで…」
「あ、うん、そこまでで、大丈夫だから。」
フラナが話を続けようとすると、赤マントの男は片手を上げてそれを遮った。
「す、すいません…」
彼女は慌てて謝るが、赤マントは気を悪くした風もなく、ただ淡々と作業に戻る。
「ま、そこにお呼び出しをくらったワケよ。これでいいか?」
「…こっちには戻ってくるのでござるか?」
「さぁて?ここ付近に直接の<転移門>は通ってないしな。馬車を使っても片道で何日掛かるやら。それに、次の仕事で何処に行くかは皆目検討も着かん。」
ソウシロウの問いに、赤マントの男は肩をすくめ、首を横に振り答えた。
「それじゃあ…」
ナナリナは思わず何かを言いかけたが、すぐに口を閉ざしてしまった。
だがその言葉が最後まで続かなかった事を特に気にする様子も無く、赤マントの男は立掛けた剣を腰に、背嚢を背負うと席を立つ。
「そういうこったな。嬢ちゃんの説明通り、行く先に立ち入れるのは俺だけ、つまりはこのパーティとはここでお別れだ。短い間だったが、世話になったな。」
赤マントの男がそう言うと、手を振りながら4人の間を通り抜ける。
「んじゃ、達者で。」
―――
「急な別れになってしまったでござるからな…。拙者は本来、冒険者になるまでが赤法師殿との付き合いの約束でござったが…」
「ナナリナさん、お別れにせがんで赤マントさんのコンパスの針の写し、貰っていましたね…」
「だから何で2人してオレを見るんだよ!」
ユートが再び抗議の声を上げるが、ソウシロウは苦笑し、フラナは首を横に振る。
「さ、まずは何より、ギルドで報酬を受け取るでござる。」
「そうですね。ナナリナさんを追わないと。」
2人はそう言うと、足早に酒場へと向かう
取り残されたユートはその場でムシャクシャとした気持ちを押さえ込み、2人を追った。
―――
「おい、ユート。」
「何だよ。説教なら簡便してくれよ。」
酒場の店主は尻尾がだらりと垂れ下った客席のナナリナをアゴで指し、ユートに問う。
「…やっぱり説教かよ。」
「お前がパーティのリーダーになるって言うならな、メンバーの気遣いくらいはしてやりな。」
そう、カウンター内で書類をつまはじき、ペンを走らせながら手続きを済ませると、報酬の袋をユートの目の前に置く。
「ナナリナさんの事は、オレじゃどうにかできないよ。」
「お前達も、少しは休んだらどうだ?パーティの人数が増えて調子に乗るのも分かるが、あまり根を詰めすぎるのはよくねぇぞ。」
報酬の手間を終え、店主はグラスを拭きつつ、ユートを呆れた様子で見つめる。
椅子をくるりと回転させながらユートは袋を手にし、中身を確認すると「わーったよ。」と悪態めいて呟き席を離れた。
(休みねぇ…)
3人が座るテーブルに戻ると、ソウシロウが口を開く。
「如何かな、ユート殿。次の依頼で何か目星い物はあったでござるか?」
ユートは報酬の袋をテーブル中央に置くと頭を掻き、他の3人に尋ねる。
「あー、いや、今日くらいは休みってのも悪くないかなーって、さっき思ってさ。」
ソウシロウは「フム。」と考え込むよう、アゴに手を当てた。
「休みにござるか。まぁ、拙者はそもそも見聞を広めに来た身。街を1日巡る機会なれば歓迎でござる。」
フラナもその意見に賛成らしく、こくりと小さくうなずく。
「わ、私も魔導具の店を回ってみたいです!ナ、ナナリナさんはどうですか?」
ユートはちらとナナリナの方を見やるが、彼女は手に摘んだ針を眺めてどこか上の空だった。
「え?、あぁ、うん。いいわよ?私もゆっくりと街を楽しみたいと思っていた所だし。」
声を掛けられるとナナリナは何時もの笑顔で答えるも、それは瞬きの内に消え、表情が曇っていく。
3人は互いに目配せをすると、頷きあう。
「ウム。それでは各自が目を引くものに当たるまで、フラナ殿の買い物に付き添うとしよう。」
―――
そして、4人は街中へと繰り出した。
昼前にともなると、通りは賑わいを増し、商店通りのあちこちでは露天商の手押しワゴンが並び立ち、人々の呼び込みの声が飛び交う。
様々な種族、様々な服装の人々が行きかい、その誰もが活気に満ち溢れていた。
「いやいや、賑やかにござるな。これは少しばかり浮かれてしまうでござる。」
興奮気味に辺りをキョロキョロと見回すソウシロウに、ユートは少し呆れ気味に声を掛ける。
「ソウシロウさーん、勝手に先に行かないで下さいよー!…それで、何処か目星はあるのか、フラナ?」
「う、うん、表通りのは後でもいいから、まずは裏通りの店に行こうと思うの。」
「裏通りねぇ…」
裏通りといえば薄暗く、怪しげな品を扱う店が並んでいるイメージが浮かび上がり、ユートは思わず顔をしかめる。
だが、フラナが言うには、この大通り沿いの露店の何倍も珍しい物が売られているという。
それに商店通りの裏通りは構造が複雑なくらいで、そこまで危険は無かったと彼女の弁だ。
ユートは何時の間にかフラナが自身の知らない範疇で活動的になっている事に驚きつつも、感心していた。
「やや、ユート殿!何やら人だかりができているにござるよ。」
ソウシロウの指差す先を見ると、確かに人だかりができており、そこからは人々の喧騒と熱気が伝わってくる。
カァン、カァンと鐘が響き、群衆の視線が集まると、壇上に1人の男が現れた。
「三等賞、おめでとぉぉぉ~~~ございます!」
男が叫ぶと同時に、大きな拍手が沸き起こり、手にチケットを握りしめた人々が列を成し、何やらハンドルを回しては景品を受け取る。
「ほう、ほう、<福引き>でござるか。こういうのは催しはどの土地見られるものでござるな。」
ソウシロウはその光景を見て、興味深そうに見つめる。
カァン、カァンとまた1つ、鐘が鳴り響き、再び景品が受け渡される。
「さぁさぁ、皆様、寄っておいで!見ておいで!この幸運のハンドルを回すのには前日のチケットなら5枚!当日のチケットなら1枚!チケットは商店通りでのお店のお買い上げで手に入るよ!」
壇上の男は声を張り上げ、手を大きく振るう度、客は我先に抽選機のハンドルへと群がる。
そして、カァン、カァンとまた1つ、鐘が鳴り響き別の客に商品が手渡され、抽選会場は賑わいが増す。
「それでは本日の一等賞をここでおさらいしましょう!もし、そこ行くアナタが、この幸運のハンドルを回し!このきぃ~~んのたぁ~またまたまたま、<金の玉>!を、引き当てられましたら!」
壇上の男は不思議かつ、機敏な腰つきで回転させると、両手を胸に当て、観客に語りかける。
そして、その勢いのまま人差し指を振り上げ、天高く突き上げた。
「ななな、なぁ~~ンとあの既知の秘境!目には見えても踏み入れられないあの蜃気楼の都!<魔法都・レテシア>への招待、旅行パスを差し上げるぞぉぉぉッ!」
歓声が熱狂的に上がりだし、人々はどよめき立つ。
「レテシアにィ~、行きたいかーーー!?」
―――行きたーーーい!!
「ははは、何だか妙な盛り上がりを見せ始めたでござるな。」
「旅行パスねぇ…。でもオレ達は冒険者だもんなー。街から離れる事がそう特別では…」
更に盛り上がりを見せる人々を見やりながら、ユートとソウシロウはやや困惑した様子で顔を見合わせた。
「ん?レテシア…?それって何処かで…」
そして再び、壇上の男の言葉にユートは何か引っかかりを感じ、首を傾げる。
「魔法の都にィ~、行ってみたかぁーーい?」
壇上の男は叫び、人差し指を突き上げ、空へと向け、集る客は呼応するように一斉に声をあげだす。
「「行ってみたぁーーいッ!!」」」
ユートとソウシロウは既知の大声に振り向く。
そこにはフラナとナナリナが並んで立ち、共に片手を上げ、大声で叫んでいた。
「ナナリナさん!」
「フラナちゃん!私の財布も預けるわ。いっぱい買い物しましょう♥」
フラナとナナリナは嬉々として叫んでは互いに手を握り合う。
その様子を見たユートとソウシロウは共に唖然としていた。
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