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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・赤手空拳、西方武侠
52/246

12-5.七光六面の導き

 奮戦が続き、一行は最奥の<石造りの廃屋>の手前へたどり着くと、身を潜められそうな脇の廃屋に隠れた。

内部は川の湿気がこもり、じめついた空気が漂っている中、各々は腰をかけられそうな瓦礫に座り、揃って大きく息を吐き、身体の力を抜くと束の間の休憩をとる。

「疲れはあるんだが…何だか不思議と力が湧くんだよな。」

「う、うん。私も…」

ユートの言葉にフラナは同意するようにうなずく。

「薬湯の効能がでている証拠でござるな。こしらえて貰ったかいがあったにござる。」

うんうんと頷きながら、ソウシロウは腕を組んで自身もその効能を確かめている。

突入前に飲んだ薬湯の効果が出ているようで、疲労はあるものの、休憩で戦えそうな雰囲気が一行の中に戻りだしていた。

「あの味から、この効能が出てるとは余り認めたくないな…」

グランは薬湯の味を思い出しながら顔をしかめる。


「嬢ちゃん。魔力の按配はどうだ?」

グランはフラナに尋ねると、フラナは自分の掌を見つめ、感覚を確かめるように握りしめる。

「は、はい。何とか大丈夫です。…一休みすれば、や、やれます!」

場慣れが出てきたか、先ほどまでの怯えがなくなり、フラナの声は少しだけ張りが出てきていた。

ユートもその様子を見て安心し、一息つく。


「あ、あの、<赤マント>さ…あ、いえ、グランさん。」

「いいよ。<赤マント>が先にでるなら、そっちで呼んでも。最早、名前呼びされてる方が少ないしなぁ。…で?」

フラナの問いかけに、グランは自身の顔色を伺うフラナに対し後ろ髪を掻くと、肩をすくめ気にせず話を続けるよう促す。

「ま、魔法を。普段、何を使っているのか、参考程度に教えて欲しいんです。私は四門<魔導魔法>の内、<無>の領域の3つしか使えないので…」

「フム。俺も大層には使えんのだがな。」

フラナの言葉にグランは全身を上から下まで眺めると、眉根を寄せる。

「そういえば、ここへ足を踏み入れる前、拙者とユート殿に別々に魔法を付与して貰ったでござるな。」

「お前には<エンハンスアーム>。あっちには<アースシールド>な。そこから見せたのは攻撃、破壊系の<エクスプロード>、<オシレイション>。残りは<ファイヤーボール>か。習得後封印指定してるのも無い。」

ソウシロウはグランの上げる魔法を指折りに数え、ふむとアゴに手を当て考え込む。


「<オシレイション>?」

「…道中、前に出て、援護に使ってやっただろ?」

ユートが首を傾げると、グランは思い出させるかのように視線を送る。

「あぁ、突如<猿鬼>が砂塵に足を捕られた、倒れたアレでござるか。」

「てか、何でアンタはその剣を使わないんだよ。俺とソウシロウさんばっかりに前衛勤めさせやがって。」

ユートはグランが肩にかけたまま、コレまで一度も鞘から抜いていない長剣を指差して不満げに言う。

「あんな足場に横3人並んで白兵合戦ができるかよ。だから魔法をちゃんと使ってただろ。」

グランは呆れた仕草を見せながらユートの不満をいなし、フラナへと視線を戻す。


「それで?扱う<領域>は違うが、嬢ちゃんと俺は同じ<魔導魔法>を嗜んでるワケになるが、何を聞きたいんだ?」

「あ、いえ、一人旅が長いみたいでしたので。てっきり他の四門、<真聖魔法>や<霊巫魔法>を使えるのかと思ってましたから…」

「あぁ、そういう事か。」

グランに話を流され、ユートは差した指を振るえさせるも、フラナの会話を邪魔しないように口をつぐみ直す。

グランはそんな様子に苦笑すると、剣で肩を叩きながら言葉を繋げた。


「悪いが俺は魔法の師から<魔導魔法>の中から先天八属の<火>とその律中の対になる<地>。先にあげた魔法の習得以外は術式への修練を積めと言われただけでね。他は全く。」

グランはそう言い切ると、自嘲気味に鼻を鳴らし、再び肩をすくめる。

「あ、あの、それでしたら…他領域を複数習得する際の考えとか…」

「フム。魔法一辺倒で考えるのなら…。その前に嬢ちゃんの先天八属に合わせたものを考えてだな…」

しかし、フラナは質問を続けていき、次第にグランも熱が入りだしてきたのか、真剣に話し始める、内容は専門的に成って行ゆく。

ユートは少しだけ疎外感を覚え、そっとフラナの隣から離れると、自分の装備を確認し始めた。

(そうか、オレは魔法が使えないから、アイツは今まで魔法の事を話せる相手がいなかったのか…)

今更ながら気づき、ユートは申し訳ない気持ちになりながらも、自身の装備の確認を続ける。


「ダメーッ!」

「もがーッ!?」

ナナリナがグランに背後から抱き着き、そのまま顔面を抱え込むようにして羽交い絞めにする。

「フラナちゃんにはユートくんが居るんだから、これ以上ダーリンと会話しちゃダメッ!」

「い、いえ、そんなわけじゃ、いや、そんなわけのそんなわけでなく、そんなわけなんですけど、そうじゃなくて…!!」

ナナリナの言葉にフラナは顔を真っ赤に、慌てふためくきながらも必死になって否定するも、何故か言葉尻が消えていく。


「いい、加減、離せ!なんなんだ!いきなり!」

グランは足で地面を蹴って拘束を解くと、両手を振り回しナナリナを引き剥がす。

「嫉妬しちゃった♥」

「なーるほどぉ、嫉妬じゃしょうがないなァ。…ってなるかぁッ!」

グランは怒りに任せ、ナナリナを掴みあげようとするも、ナナリナはそさくさとソウシロウの後ろに隠れ、間のソウシロウはグランをなだめだした。


「ユ、ユートくん!別にその、あの…」

「なんだよ。別に丸一日話してたっていいんだぜ?ここは、敵地のど真ん中だけどよ。」

「ご、ごめん…」

ユートの言葉にフラナはしょんぼりと項垂れると、チラリとナナリナからの視線に感づく。

ユートが視線を合わせると、ナナリナはフラナへ気を配るよう促すとウィンクし、ユートはバツ悪く視線を逸らした。

「まぁ、でもお前とは今後も組んでいくんだからさ。話しておきたい事があるなら時間があるときに気を遣わずに言えよな。」

ユートは照れ隠しにぶっきらぼうに言うと、フラナの顔を見ずに背を向ける。

ナナリナとソウシロウはそんな2人を見てニコニコと笑顔を向け、微笑まし気に眺めだす。

フラナも2人の視線に気づいたのか、耳まで真っ赤にして俯いたまま動かなくなった。


「き、休憩もそろそろいいだろ。残りの<スーク鬼>達が湧いて出ない内に動こうぜ!」

「……はて、そうなると妙でござるな。」

ユートは恥ずかしさを誤魔化すように大声を出し、皆に出発を促すと、ソウシロウはアゴに手を当てて首を傾げる。

休息をとってかれこれ、半刻以上は経過したというに、外からは<スーク鬼>達の気配がしない。

「もしかして、全滅させちゃった?」

「流石に<アレの中>を調べずして、それは無いだろ。」

グランは瓦礫壁の隙間から覗かせる<石造りの廃屋>を指差すが、ナナリナの疑問に答えつつ、自身も眉をひそめる。


「そうなると、居るよなぁ、<上位種>が。ま、居てくれた方が<退治の証>になるけども。」

「確か、<猿鬼>の中にはヒトの技、術を模倣するものが居るそうでござるな。」

後ろ髪を掻き、面倒くさげに呟くグランに、ソウシロウは記憶を手繰り補足する。

<スーク鬼>の<上位種>は、ヒトが扱うような武器や防具を使いこなし、中には魔法を使う個体も存在する。

更に厄介なのは、支配下にした下位種や他の魔物を従え、集団戦闘を仕掛けてくる事だった。

「そんなのが居ても、回っていって全部退治していけばいいだけだろ。」

「ただ身体能力が他より優れている<戦闘型>ならまだしも、なんだがな。」

ユートはこれまでの戦いから軽く言うも、グランは渋い顔を浮かべる。


「他の<上位種>だと、何か問題があるのですか?」

「…ナナリナ。上から見た<アレ>はどうだったんだ?」

フラナの質問を遮り、グランはナナリナに<石造りの廃屋>の上から見下ろした感想を聞く。

「背の低い円塔が最奥に大1つ、比べて小が並んで2つ。それぞれを繋ぐ通路があったわ。」

ナナリナの言葉を受けると、グランは腕を組んで考え込みながら遮ったフラナの質問に答えだした。

「問題なのは<上位種>が<統率型>の可能性があるってことだよ。」

「ならば、現に外に1匹も出ないという事は…」

「わかったわ。<統率>できるのが、私達、<侵入者>に警戒して守りに入っている事ね。」

グランの説明を察したソウシロウに続き、ナナリナも理解を示す。


「それでその<統率型>だと何がまずいんだよ。」

「…私達がどれかの塔に、踏み込んだ後、他の塔から敵が攻め込んで来たら対処できない…」

「つまり、敵側は拙者らを<挟み撃ち>にする準備を整えている。という事にござるな。」

ユートが問うとフラナは、<石造りの廃屋>に視線を向け、仮定した状況に危惧しては表情に影を落とす。

これまでは地の利は相手にありながらも、地形で一度に相手取る数、それによる崩れにくい陣形などで、こちらが優位に戦ってこれた。

だが、敵の数も質も変わり、そして敵側には<上位種>が加わる事でその優位性は消え、むしろ数の不利からくる、不利な戦いを強いられる可能性が出て来たのだ。

ここからは今までのように、単純に敵を倒せば良いという訳ではない。

敵の頭である<上位種>を倒し、指揮系統を潰さなければ、延々と増え続ける敵から逃げ場のない状態で袋叩きに遭う事になる。


「三手に別れるか。同時に塔を攻め込んで、相手の戦力が他へ移らないようにする。」

「三手って。オレ達は5人だぞ?最低限、全部が2人組でも組むべきだろ。」

グランの提案にユートが難色を示す。

「俺が最奥の大円塔に行く。ソウシロウと嬢ちゃん。ナナリナと<リーダー>が残りの小円塔に向かう。どっちかに<上位種>が居ればそのまま倒せばいい。」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!いくらなんでも1人は無茶だろ!」

「あぁ、無茶だね。俺が内部の敵全てを相手取った場合だが。」

「それでも1人で乗り込める根拠があるの?」

ナナリナが険しい顔付きになり問い詰めるも、グランは肩をすくめ答える。


「こういった<統率型>ってのはな、自分が安全でない限り守りを手薄にする事はない。つまり、今守りを固めているのがその根拠だ。」

「ふむ、なるほどにござるな。赤法師殿は大円塔の中で<侵入したと>圧力を掛けるだけで役割は十分という事でござるか。」

「そういう事。後は各々中の<退治>が終われば別の塔にへ向かえばいい。」

確かに大円塔に<上位種>が居るのであれば、わざわざリスクを犯してまで、無理に戦う為に中に入る必要はないのかもしれない。

だが、当の提案者が敵に見つかり、やられる事になればその計画は破綻してしまう。

その絶対的なリスクにユートは納得がいかず反論する。


「…やはり、全員で行動するべきだ。塔内の敵を通路まで誘き出せば戦い様があるだろ。」

「結局それは誘き出す役が1人で行動しなきゃいけないが?それに俺はソウシロウもナナリナも1人で十分に戦えると踏んでいる。」

「な、まるでオレ達が…!!」

「足手纏いなら最初から一緒に来ていないわよ。」

ユートの言葉を遮り、ナナリナが声を上げ、ソウシロウも続いて力強く頷く。

だが、グランからは、赤マントの男からは変わらず冷淡視線が向け続けられている。

「ま、他の提案も聞くのもいいんじゃないのか?」

そう促されるも、他の3人からはどちらも否定する言葉が出ず、沈黙だけが辺りを支配する。

「…それなら、<コイツ>でオレかアンタの案でいくか決めようぜ!」

ユートは祖父の形見、<虹色の六面賽>を突き出し、グランへ振るように要求した。



カラカラと椀の中でグランの振り投げた賽が瓦礫から漏れる日差しが輝き回り、そして止まった。

「…6と6。」


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