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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・赤手空拳、西方武侠
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12-4.七光六面の導き

 「これは…<猿鬼>共が随分…いや、既に依頼書の半数近くは見れるでござるな。」

ソウシロウは遠眼鏡を受け取り覗いて確認すると、思わず眉根を寄せた。

そこには、古漁場の周辺を囲む様に多くの<スーク鬼>達が徘徊しており、時折何かを探す様な素振りを見せつつ周囲を見回したりと不審な動きを見せている。

「ったく。あの様子なら奥にはもっと居る事になるな…」

「本丸はナナリナ殿の見立て通り、<石造りの廃屋>の様でござるな。」

ソウシロウは遠眼鏡を2人の間を覗き込むユートへと手渡し、腕を組み思案を始めた。


「で、どうだい、<リーダー>。昨晩アンタの言っていた<策>は上手くいきそうかい?」

ユートは遠眼鏡を顔から離すとグランの嫌味に顔をしかめる。

「火攻め、水攻め、毒餌撒き、それらによる一網打尽。あの様子で拙者らが策を弄するには、何かと不足が多いでござるな。」

「いやぁ、まぁ、<砦落し>の常套句を恥かしげもなく、あそこまで延べられたもんだ。」

「う、うるせぇなぁ!もっと、こー、何か上手くいくイメージがあったんだよ!」

「拙者らより数10倍は<人手>のある村人達がその<策>を講じなかった以上、やはり拙者らに<砦落とし>は難しいでござるよ。」

2人の言葉にユートは口をへの字に曲げて押し黙り、ふて腐れるユートを見て、グランとソウシロウは互いに目配せし、肩をすくませた。


「そういえばお前、<スーク鬼>に関しては質問してこないな。」

「ふふふ、拙者も色々と勉強に励んでいるのでござるよ。」

遠巻きに古漁場を眺めているグランの言葉に、ソウシロウは以前手渡された小さい図鑑を取り出し、得意気に答える。

「だが、まぁ、実を言うと、拙者ら<ゴブリン>と<猿鬼>共は浅からぬ因縁がござってな。」

ソウシロウは本をパラパラと捲り、スーク鬼の項を開くと、何かを想うに頁を撫でる。


「ど、どんな因縁があったんですか!?ソウシロウさん!」

ユートが喰い付くよう、興味津々に尋ねると、ソウシロウは困った顔で微笑みながら答える。

「赤法師殿には少し触れたでござるが、拙者らの国はかつてゲンペイと二家で争乱の大戦(おおいくさ)をしていた時代があるのでござるよ。」

「あぁ、ゲンペーの<ペー>が負けて、勝った<ゲン>の方も内輪揉めが酷くなったとかいうヤツだっけ?」

「ははは、まぁ、大雑把にはそんなところでござる。それで敗走を余儀なくされた者達はこの大陸に逃れ、まこと恥ずかしながら、荒らし回っていたそうにござってな…」

ソウシロウは笑い顔を絶やさぬも何処か顔をしかめつつ、本を閉じ言葉を続けた。


「そんなのがあってか、かつての大陸で馴染みの無い拙者らは<猿鬼>共と一時期我等を同一視されていたそうなのでござるよ。」

「でも、お前は<ヒノモト>に残った方の子孫だろ?何か関係あるのか?」

「…そうなのでござるが、<ヒノモト>はコレまで他国との交流を避け、閉じていた国。この地に渡る際、大陸の者らが拙者をどのように見るか、中々気が重いものでござってな。」

ソウシロウはグランの言葉に苦笑いしながら頭を掻き、溜息をつく。

ソウシロウの表情からは、彼がその事を随分と気にしている事が伺えた。

彼の言葉を聞いていたユートは何かを閃いたように声を上げる。


「<ゴブリン>を<スーク鬼>共なんかと同じに考えるヤツなんていませんよ!それよりも本物の<サブラヒ>を間近で見れる方が嬉しいですって!」

ユートの言葉を聞いたソウシロウは一瞬、驚いた顔を見せるもすぐに照れ臭そうに笑う。

「で、実際はコレだったと。まさにお前達の言う、百聞は一見に如かずだな。」

「ははは、これは一本返されましたな。それは<ヒノモト>の文化をこの地へ広めに渡った先人達に感謝せねばならぬでござるな。」

グランの皮肉にソウシロウは自分の心配が過ぎた事に気づき、頬を緩めた。


「おとぎ話なんですけど、<スーク鬼>の中には<ロブ・スーク>という大きく、善性の種もいると聞いたことがあります。もしかしたらそれがソウシロウさんみたいな<ゴブリン族>だったのかも知れません。」

そう、火の番をしていたフラナが湯気立つカップを持って3人の元に来て、1つをソウシロウに手渡す。

「ふふ、そうだといいでござるな。それはこっちに流れても、悪事を働く事なく暮らした我等と、それを見てきた人々が居てくれた証左でござるからな。」

ソウシロウは受け取ったカップを口に付け、中身をすする。

「気にする事ねぇって、ソウシロウさん。」

ユートはフラナからカップを受け取り適当な岩の上に腰掛けると、ソウシロウに笑いかけた。

「そんなら俺ら<ヒューネス>なんて他種族と世界を二分してまで争って、あまつさえ負けた種族だぜ?おまけにこっちの赤マントは名前が<グラン>って。<ヒューネス>がかつての敵の総大将の名を名乗るとか…どう思いますよ?」

ユートのからかい気味の言葉にグランは露骨に嫌そうな顔をし、2人は手持ちのカップに口へと運ぶ。


「「うっすッッッ!!」」

カップの中の液体から見受けられる濁り、漂う香り、それとは相反する味の薄さ、もはやただの水や白湯の方がはるかに飲み物として成立しているのではないか、と思うほどのそれに、ユートとグランの声が重なった。


***********************


サブラヒ流・即席ブレンド薬湯


***********************


「ま、不味かったですか?」

「いやいや、頼んだ通り、よく出来ているでござるよ。即席ながらお見事でござる。」

不安げなフラナにソウシロウは満足気な顔を浮かべて答える。

「な、なんじゃぁこりゃぁ…」

グランはそう呟きながら、複雑な表情を覗かせながら液体の入ったカップをまじまじと見つだす。

「うむ。ユート殿とフラナ殿から聞きかじったもので、道中山菜を摘んでいたのでな、そこから効能で厳選し、分量を記してフラナ殿に任せてみたのでござるよ。」

「あ、私は結構、味は好きです…」

フラナは少しだけ照れた様子を見せつつ、自分の分のカップに口を付ける。

「まぁまぁ、不慣れなら一気に飲むでござるよ。水辺は冷えやすい、身体が温まるでござるよ。」

ソウシロウに促されるまま、ユートは再びカップに口を付け、一気に口に流し、空になったカップを確認しながら飲み込むとその表情が固まった。


「なぁに?私だけ仲間はずれで盛り上がってるの?」

ナナリナが高台からの監視を終え、戻ってくるなり、少し口を尖らせ、不満そうに声をかけてくる。

「おぉ、戻られたか、して、首尾は如何がか。」

「対岸に敵影無し。古漁場の周囲にまで<スーク鬼>が縄張りを広げた様子は無かったわ。手早く乗り込んじゃいましょ。」

ナナリナの報告を聞き、男3人は立ち上がると互いに顔を見合わせ、無言で小さく頷き交わす。

「…って、あー。あはは、これ、お爺ちゃんとかが好きなヤツ~!」

そして、ナナリナはフラナから労いに薬湯の入ったカップを手渡され、一口飲んで楽しげに笑うと、ぐいっと残りの中身を煽る。

ユートとグランは3人が薬湯の味に対し抵抗なく飲んでいる事に驚き、思わず自分の手元にあるカップを凝視してし、また互いが同じ反応をしている事を察すると渋い顔を晒した。


…


「ダーリン、がんばったご褒美にハグして♥」

出立の用意をする最中、ナナリナはグランに向かって両手を広げてはしゃぎ声を上げる。

「…普段みたいに抱き着いて来ればいいだろ。避けるけど。」

しかし、グランはその要求には応えず、そっぽを向く。

「えー、ダーリンからハグしてくれなきゃ、ご褒美にならないじゃない。」

「差は何なのだ…」

呆れるグランの反応にナナリナは膨らませ、その場、両手を広げたままの格好で跳ねてはせがみだす。

「あのなぁ、そういうのはせめて人目のある様な場所での要求はだな…」

「人目が無い場所がいいの!?もー、そうならそうと…。あ、でもそうなると心の準備が…」

ナナリナは横髪を弄り、腰をもじもじとさせながらも尻尾はその嬉々たる感情を表すように激しく揺れ動く。


「…どうならどうと!?。それに今は仕事だ、仕事。終わったら考えてやるよ。」

自分の世界に酔いしれているナナリナの様子にグランは呆れ、荷物を手にすると脇目も振らずに歩き出す。

ナナリナはそんな彼の後ろ姿を見ると、「はぁい…」と頬を更に膨らませ口を尖らせるも、すぐに笑みを浮かべて小走りで追いかけた。

「じゃ、後で3倍にしてね♥」

「ハグの圧を!?時間を!?」

ナナリナの言葉にグランは思わず振り向き、叫ぶ。


その2人のやり取りをユートは苦々しい顔をしながら眺め、フラナはどこか微笑ましげな表情を浮かべていた。

「さぁ、いざ出陣にござるよ。」

ソウシロウの声かけと共に一行は目的地へと歩を進める。


―――


「とおおぉぉぉりゃッ!」

「Gueeoeooo!」

ユートの剣閃が<スーク鬼>の胴体を切り裂き、吹き飛ばす。

血飛沫が舞う中、続けざまにナナリナの弩から矢が放たれ、後方の<スーク鬼>を射抜き。

更にはソウシロウの振るう一太刀が別の1匹、2匹を次々に切り伏せていく。

フラナの魔法による援護も加わり、川岸において、一行の戦闘は順調に進む。


「止まるな、止まるな!古漁場への橋へ急げ!」

最後尾、殿に立つグランが叫び、一行の足取りを促し、煽る。

「くっそ、あの赤マント!仕事してねぇじゃないか!」

「ユート殿!怯んだ<猿鬼>を!」

ユートは不満を垂らすもソウシロウの指示に従い、フラナの魔法を受け、膝を着く<スーク鬼>にとどめを刺す。

そのとき、ユートの足元に石が跳ね上がり、その方向へ目を向けると数体の<スーク鬼>が橋の堆積物の瓦礫上に陣取り、石を投擲しだしていた。

飛来する飛礫を盾で受け弾きユートは耐える。

「ナナリナ!」

「了、解♥」

グランの呼びかけに応じ、ナナリナは駆けながらも弩を構え、矢を放つ。

彼女の放った矢は見事に<スーク鬼>の頭部を貫き、絶命させた。


「ユート殿!フラナ殿!橋に向かって走るでござる!」

ソウシロウの号令の元、ユート、フラナは駆け出し、3人は橋の手前までたどり着く。

続いてナナリナが上方の敵を射抜きながら追いつき、最後にグランも到着すると、グランは赤いマントを翻し振り向くと、1枚の詠唱札を引き抜いた。

「イグニ、<エクスプロード>!!」

赤マントの男の一声に札が先端から輝き崩れ、追って来る<スーク鬼>達の中で爆発が起こり、その勢いで後続の敵がまとめて吹き飛んでいく。

「さぁ!進むでござるよ!」

呆然と後方の爆炎に目を奪われるユートとフラナに激を飛ばし、ソウシロウは古漁場の奥へと駆け、踏み込みだす。

ユートとフラナも遅れまいと走り出した。


―――


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