12-2.七光六面の導き
「して、赤法師殿。掲示板の依頼を受けるにはどうすればいいでござる?」
「ンー…、見た所もう依頼書は取り終えられてるか。ま、俺なら<薬草採取>で結構なんだが。」
掲示板を前に張り紙を覗き込む2人の男。
異国風貌、長身痩躯、長い髪を後ろで結わえ、顔立ちは小ざっぱりの優男が問う。
それに答えるのは赤い襟巻き、赤いマントにすっぽりと身を包んだ黒髪短髪の男。
赤マントの男は掲示板から目を離さずに、隣の男の質問に答えている。
「街を移動しない事を条件とするならば、<招請状>は張られているから、お前はそこから選んだらどうだ?」
「<招請状>?これにござるか。」
赤マントの男はブツブツと依頼書を読み上げながら、それらが張り出されているのとは違う別の掲示板を指差してみせる。
「既に依頼を受けたヤツが更に人手を要すると感じたら張り出すものでな。直に依頼を取れるワケじゃないが、選択は広がると思うぜ。」
「ほほう、中々手の行き届いた<しすてむ>にござるな。」
異国風貌の男は関心するように腕を組み、うんうんと頷きながら口元に手を当て、指差された掲示板を眺めだした。
「これなんてどうでござる?戦士の募集と、あと同じ案件で何かしら武器か魔法が使えるなら誰でもいいようでござるよ?」
「何ともアバウトな内容だなぁ…」
「でも、これなら2人で同じ依頼を受けられるでござる。実に拙者らに御誂え向きではござる。」
「……俺は別にお前と同じ仕事を取る必要は無いんだが…。まぁ、手続きが省ける分それでいいか。」
赤マントの男は残る掲示板の依頼書をチラリと見やり、軽く溜息を吐くと、後ろ髪をくしゃくしゃと掻きながら異国風貌の男から招請状を受け取った。
「して、これを受付に持っていけばいいのでござるかな?」
「それは普通の依頼書。<招請状>は既に依頼を受けたヤツが居るから、向かうなら指定された合流場所。あぁ、あのテーブルだけ人が座ってるからあそこだな。」
赤マントの男は顎で示しながらそう言うと、異国風貌は目を輝かせながらユート達の居るテーブルへと向い足を踏み出した。
「では、早速参ろう!…って、どうにかしたでござるか?赤法師殿。」
「いや、何処か、見覚えのあるようなヤツが…」
…
「…やっぱり!あの赤いマントは!!♥」
「ナナリナさん?」
ナナリナは椅子をガタンと鳴らしながら立ち上がり、興奮気味に声を上げると、ユート達は驚いた様子を見せる。
ナナリナはそんなユート達の様子など気にも留めずに、赤マントの男へと駆け出した。
「ダーーーッ!」
「だ?」
「アーーーッ!」
「あ?」
「リィィ~~!」
「り?」
「ン~~~~!!♥♥」
「…ん?ってお前!たしか、ナナリ…ぶほッ!!」
ナナリナは向かってくる赤マントの男に向かってそのまま加速、突進すると飛び上がり、両手足を広げ、頭部へ抱き付くように全身で男を押し倒す。
赤マントの男は突然の事に対処できず、勢いのまま床に倒れ込み、その上に覆い被さるようにナナリナも倒れた。
その光景を見たユートとフラナは呆気に取られ、ポカンとした表情を浮かべている。
「んもぉ~、ダーリンったら♥あの後、勝手に居なくなっちゃうんだもの。」
ナナリナの尻尾が上機嫌そうにゆらり、ゆらりと揺れる。
「恥かしがり屋で、照れ屋なのは始めて会った時にわかったけど、せめて別れるときに顔を合わせてもよかったじゃない?」
頬に両手を当て、腰を尻下ものに擦り付けながら甘えた声で喋るナナリナだが、赤マントの男は手足をバタつかせながら必死に抵抗していた。
「それでね、それでね、私も冒険者に登録してみたの。」
そんな事はお構いなしとばかりにナナリナは話を続ける。
赤マントの男の方は一向に起き上がれる気配が無く、バタつかせていた手足も徐々に力尽きていく。
「そうすれば、あの<針>が貰えるのでしょ?そしたらぁ……アレ?ダーリンは?」
「…あー、お主の言う<だありん>とやらは、お主の尻の下でのびているでござるよ。」
「お尻?」
赤マントの男と並んでいた異国風貌の男は苦笑いを浮かべながら、そう答えた。
ナナリナは座った姿勢で後ろに下がり、股を広げて覗いてみると、確かに赤マントの男が仰向けで倒れたまま、ぴくりとも動かずにいる。
その表情は少し青ざめていて、意識が無いようだ。
「あ~ん!ダーリン、死なないけど死んじゃダメー!!」
「……オレ達は何を見せられているんだ?」
「さ、さぁ…?」
ユートとフラナは目の前で繰り広げられた光景についていけず、溜息交じりに呟き、首を傾げるしかなかった。
その横で異国風貌の男は一人楽し気に笑っていた。
―――
「<ゴブリン><ヒノモト><カタナ>!つまりは<サブラヒ>!!マジで!?ホンモノ!?スッゲー!!」
ユートは目を輝かせ、興奮気味に異国風貌の男の自己紹介に食いついた。
そして何より、<6と5>の出目の<招請状>をこの異国風貌の男、<ソウシロウ>が出してきた為である。
「そ、そんなにスゴイ人なの?」
「バッカ、お前!<サブラヒ>だぜ!?剣を持つものなら意識しないワケねーよ!極東の<ゴブリン族>の島国<ヒノモト>の剣客集団<サブラヒ>!」
ユートの説明にフラナが目を丸くして驚き、ソウシロウが恥ずかしげに頬を掻く。
「モテモテだな。」
「ここまでベタ褒めされると、なんだか面映いでござるな…」
「くぅ~ッ。サンキュー、じいちゃん!こんなにヒトに出会えるなんて。じいちゃんの形見のおかげだぜ!」
ユートが両手を握り締め興奮気味に話すと、正面に座っているソウシロウは嬉しげに微笑む。
「ユ、ユートくん!もう1人方の…えっと…」
「あぁ、あー、えーっと…。赤い…アンタだれ。」
「…隣との温度差激しいな、オイ。」
あからさまに赤マントの男に興味の無い様子を見せるユートに、異国風貌の男は苦笑いを浮かべた。
「こちらは赤法師殿。短い中、共に旅をしてきたでござる。剣と術、どちらの腕前も確かにござるよ。」
「私のダーリン♥。火の魔法は使えるし、<飛竜>の<咆哮>を平気で耐えちゃうくらいスゴイ頑丈で強いのよ♥」
「…こういうの俺自身がアピールしなきゃダメじゃね。俺が恥ずかしくね。」
ソウシロウの紹介に対して、ナナリナが補足するように赤マントの男を紹介すると、赤マントの男は不満そうにぼそり、と言った。
「と、いい、ます、か!何で、俺が、お前の、<ダーリン>なんだよ!?」
赤マントの男は腕に抱きつくナナリナを強く振りほどくと、抗議の声を上げる。
ナナリナはそんな赤マントの男に頬を膨らませて拗ねたような表情を見せ、口を尖らせた。
「だってぇ、名前すら教えてくれないまま居なくなっちゃうんだもの。身を挺して守ってくれた男の人なんて<ダーリン>って呼ぶしかないじゃない。」
ナナリナの言葉を聞いた赤マントの男は、一瞬だけ呆けた顔をすると、すぐに頭を抱え、大きく溜息を吐いた。
「あーハイハイ。俺の名前は<グラン>な。よし、覚えたな。もう言うなよ。名前で呼べよ。そして離れろ。」
「わかったわ。ダーリン♥」
「わかってないし!!」
赤マントの男グランはナナリナの抱擁を裁きつつ、ソウシロウへ助け舟を求めるように視線を向けるがソウシロウは笑った顔のままでいる。
「ははは、赤法師殿も隅に置けないでござるな。」
「隅も隅に押し込んで鼠穴があったらそこに詰め込んでくれッ。」
「あのー…。3人は顔見知りなんですか…?」
「いや?拙者はこの娘とは初顔にござるな。」
「私もダーリン以外はみんな初対面よ?」
フラナが小さく手を上げ恐る恐ると尋ねると、ソウシロウとナナリナはお互いを見つめ合いながら答えた。
「俺が2人を見知ってるだけだな。もしや、談合でもして人数比の圧力で報酬にケチでも付けてくると思ったか?」
「い、いえ、そういうワケでは…」
グランはナナリナを振りほどきつつ、フラナの質問に答えたが、その視線はユートに向いていた。
ユートは少しバツの悪い表情を浮かべると、あからさまに目線を逸らし、そっぽを向いてしまう。
「じゃ、じゃあ、招請状をこちらにください。受理してきますので。」
フラナはユートをフォローするかのように、慌てて立ち上がると3人の前へと歩み出る。
「えぇ、頼むわフラナちゃん♥」
「コレを渡すだけで良いのかな?」
3人は各々の招請状をフラナに手渡し、フラナはそれを大事そうに受け取っていく。
「なぁ、ところで。」
「は、はい?」
「この端に書いてある数字は何だ?」
グランがフラナに手渡そうとする際、用紙の端に数字が書かれている事に気が付き尋ねる。
「き、気にしないでください!た、ただの<ゲン担ぎ>ですから…ので!」
「ふぅん、占術かなんかか。意味は…、ま、問わないでおくか。何にせよ御眼鏡に適うといいな。」
「す、すみません。」
フラナは何度となくペコペコしながら受付へと向かっていく。
「…?。俺、何か変な事言ったか?」
グランは首を傾げていたが、ナナリナもソウシロウも肩をすくめ首をかしげる。
ただ、賽の目の意味を知るユートだけは赤マントの男の<ゲン担ぎ>が御眼鏡に叶わない事を祈るばかりであった。
―――
ユート、フラナ、ナナリナ、ソウシロウ、グラン。
5人が揃ってギルドを発ち、依頼主の元へ辿り着く頃には夕暮れの茜色の空が地平線に広がりだす。
街道から外れた丘へと入り、歩くと5人を出迎えたのは小さな村だった。
「ユート!久しぶりじゃないか!元気そうで何よりじゃないか!」
依頼主、つまりは村長宅へ訪れた一行には、恰幅、体格の良い中年女性が出迎えた。
女性は一行の顔を見るなり、笑顔で駆け寄ってきたが、その勢いのままに抱きつくとユートの背中をバンバン叩く。
まるで子供をあやすかの様に頭を撫でられつつも、ユートは苦笑いを浮かべている。
「セルヴァンじいさんの葬儀以来だから3年ぶりかい。冒険者になったとは聞いたけど本当だったんだね。フラナも相変わらずユートに振り回されてるのかい?」
「アレーサおばさんも、村を移ったとは聞いていたけど、まさか村長に成ってるとは思わなかったよ。」
「ご、ご無沙汰してます…」
フラナは照れ臭そうな顔をしながらも、頭を下げる。
「まぁ、単に厄介ごとを押し付けられたもんさね。それで、そちらさんはユートの友達かい?」
「と、友達じゃねぇよ!同じ冒険者のパーティ!仲間だって!」
ユートが訂正するように言うと、今度はアレーサの方がパーティに向かって目を丸くした。
「おぉ~、その身形、風貌。あんた、<ヒノモト>の<サブラヒ>!!」
女性が手を広げ向ける先にはソウシロウの姿があった。
ソウシロウは軽く会釈すると微笑みかける。
「知ってるよ~、知ってる。セルヴァンが大陸東部の冒険の自慢話をしてたからね。たしか挨拶が<スシ>~?」
「それは…料理の名前でござるな。」
「じゃあ<テン・プーラ>だったかい?」
「それも…料理の名前でござるな。基本は共通語と変わらないでござるよ。」
ソウシロウは笑ったまま答えた。
「なんだい残念だね!あのじじい、死んでからも私をホラ話に付き合わせてたのかい。困ったもんだよ!!」
アレーサはやれやれと言った感じで溜息を吐くとソウシロウの肩を豪快に笑いながら叩く。
ソウシロウは気にも留めずアレーサの笑い声に合わせて爽やかな笑顔をみせる。
「それよりおばさ…いや、アレーサ村長。依頼の件について詳しく聞きたいんだけど…」
ユートは話が脱線する前に切り出す。
「そうだね。あくまで<冒険者>としてお前は私の前に現れたんだ。贔屓は無しだよ。」
ユートの言葉に、アレーサは真剣な眼差しを向けて問い、ユートは一瞬だけたじろくも、すぐに表情を引き締めて力強く頷く。
それにアレーサは満足そうに笑うと、客間へと一行を案内した。




