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紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・赤手空拳、西方武侠
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11-3.さすれば今より冒険者

 だが、老人はグランの視線を気にした風も無く、鼻をフンと鳴らす。

「まぁ、よい。キサマらは、そこらの雑魚どもと遊んでおれ。時間稼ぎにはなるようじゃしの。時が来れば迎えに来てやる。」

そう言うと、老人は墓碑に向かって手をかざす。

すると、まるで見えない力に引き寄せられるように、ソウシロウとグランの周りに更なる<ロスト・マン>が集まりだしてきた。

まるでこの場を任せたと言わんばかりに、その光景を見て満足げに微笑むと、老人は墓碑の中へと消えだす。

老人を尻目にグランとソウシロウは無言のまま互いに頷き、背を合わせ、武器を構え、目の前に迫る<ロスト・マン>と対峙する。


「おぉ、そうじゃ。1つ忠告だ、そこの赤いの。ここは郊外だが<街領内>じゃ、ワシはともかく、流れ者のキサマは使う魔法に気をつけろよ。」

そして、老人は姿を消し、それに反応したかのように、周囲の<ロスト・マン>達が一斉に襲いかかってきた。

「どういう事にござる!?」

「要はコレだけの数を<攻撃の魔法>は無しで倒せって事だよ!」

亡者からの攻撃を左腕の小手でいなし、グランが叫ぶ。

ソウシロウも体捌きで攻撃を避けつつ、右手に持つカタナで亡者達の首を跳ね飛ばしていく。

しかし、いくら斬っても切りがない。

減っているのかさえ分からないほどに、<ロスト・マン>は次々に現れる。



ソウシロウは、迫る<ロスト・マン>達を次々と斬り伏せていく。

しかし、その表情は決して楽観できるものではなく、むしろ苦々しいものだった。

グランの方も、次々と襲い来る亡者達を相手に防戦気味に戦い続ける。

「按配はどうですよ。サブラヒさん。」

「…流石に一刀、一刀、間合いを読みながら倒し続けるのは難儀にござるな。」

目の前の敵を掃討し終えると再び背を合わせ、互いの状況を確認し合う2人。

「アンタにも苦手な状況があると解ると、何だか少しホッとするね。」


軽口を叩くグランだったが、その額には汗が浮かび、呼吸も荒くなっている。

ソウシロウも同じ様なもので、全身に疲労が蓄積されてきているのが分かる。

状況は変わらず、このままではいずれ押し切られるだろう。

「グライ、<アースシールド>!」

グランは詠唱札を1枚取り出し、ソウシロウへと向けて魔法をかける。

「…?、これは?」

「盾の魔法だ。付与の魔法ならまぁ大丈夫だろ。だが相手の攻撃を防ぐ意識は持てよ、でなきゃ微塵も効果が無いからな。そして、悪いが少し引き付けてくれ。」

そう言ってグランは身を屈め、何か細工をかけながら別の魔法の詠唱を始めた。

「赤法師殿はどうなされる!?」

「イグニ、フル、オーン、サス…」

だが、グランはソウシロウの言葉に答えず、詠唱に集中したまま。

ソウシロウは一瞬迷ったが、言われた通り目の前の敵を引き付ける為に走り出し、敵の攻撃を捌く。


「なるほど、見えぬ袖鎧か!確かにこれは頼りがいがあるでござる!」

敵の数は多いものの、動きが単調である事に加え、連携と呼べるほどの行動が出来ない事から、何とか凌ぎ続けていた。

しばらくすると、グランが立ち上がり、剣を振り払うと地面に突き立て、更なる詠唱を続けていく。

「レカ、キレル、キレル、ボルゾ、レカ、マジナ…」

グランの赤い剣はより一層赤く輝き始め、次第に周囲へ熱気が広がっていき、突き立てた剣に両手を添え、更に詠唱を重ねる。


周囲に満ち溢れる<圧>の流れを感じ取ったソウシロウは思わず目を見張った。

「オン、アグナ、ライノ!…<エンハンスアーム>!」

グランの詠唱が終わると同時に、突き立てた剣は眩く燃え盛るような赤い光を纏い、まるで炎を凝縮したような刃と成る。

そして、グランは地を駆り、周囲の<ロスト・マン>達の群れへと一気に飛び込む。

グランが振り払う剣戟は火炎流が奔り、瞬く間にそれは火竜の息吹が如く、無数の呻き蠢く人影達を焼き尽くし屠り、次々と消し炭と化しゆく。

火の粉が舞い、その場最後の1体を両断すると同時に、グランはその場に片膝を付き、肩を大きく上下させる。

その表情は決して満足げではなく、むしろ険しいものだった。


亡者達が一掃され、場に静寂が戻りだそうかという矢先、突如、地面は奥底より響くように震え、轟き渡る。

黒い霧が、消えぬ亡者達の残骸と共に集い、混じり合い、まるで溶け合うようにし、2つの形を成していく。

その身体は、先程まで戦っていた<ロスト・マン>と比べ、ゆうに2~3倍はある巨体だった。

「ったく、雑魚を倒せばデカブツが出てくるのがお約束だな!」

グランは悪態をつくも、その表情には余裕も余力も無く、ただ必死に立ち上がり、武器を構えんとする。


しかし、そんな暇も、隙も、容赦なく眼前の敵は巨大な腕を振り降ろす。

グランは慌て、地面を転り回避するも、その一撃により巻き起こった衝撃と飛び散る瓦礫によって体勢を崩してしまう。

再び立ち上がろうとするも、今度はもう1体の<巨体ロスト・マン>からの横薙ぎに伸びる腕がグランに襲い掛かった。

グランは回避しきれず、地面へと押し潰され、そのまま地中へめり込む程の圧力を受け潰されていく。


「赤法師殿!」

ソウシロウは剣を鞘に納め、助けに向かおうと足を向け、地を踏み締めるが、もう1体がそれを許さない。

腕を勢い良く伸ばし、ソウシロウを押し潰さんと迫る。

だが、ソウシロウは臆する事無く、駆け出すと、攻撃を左手でいなす様に構えた。

攻撃を魔法の盾が弾き、激しい音と火花が散る。

そして、懐に入り込むと、ソウシロウは抜刀し、<巨体ロスト・マン>の腹を一閃、いや二閃。

黒い飛沫を上げ、胴を3つに切り裂かれた巨体は崩れ落ちた。


「…ふぅ。拙者は所詮、試合稽古で腕が達つに過ぎんでござるな。まだこちらのほうがやり易いにござる。」

ソウシロウは呟くと、カタナを構え、グランを押し潰さんとする残る<巨体ロスト・マン>の頭上まで飛び上がる。


―――キンッ!


ソウシロウの鞘口が鳴り、カタナが再び鞘に収まる。

<巨体ロスト・マン>の肩に着地すると、その両腕が崩れ落ち、地面に伏す。


腕の拘束が解けると、グランは即座に起き上がり、赤い剣を構え、地面を踏み締め、その勢いで突進。

己を拘束していた<巨体ロスト・マン>の腹を貫き、その剣戟は背を粉砕し、吹き飛ばした。

「BoFofffuuuuffuuuufuu!!」

<巨体ロスト・マン>は断末魔の声を上げると、やがて全身がひび割れ、黒い塵となり霧散していった。


ソウシロウは軽やかに崩れ消え行く足場から軽やかに飛び降り、へばり倒れた赤マントの男の下へといき、手を差し伸べる。

「要らぬお節介であったかな?」

「いや…、助かった。」

グランは差し出された手を握り、立ち上がる。

しかし、それは勝利を分ち合う状況にはまだ遠い事を2人は理解していた。

まだ地の底からは呻き声のような音が響いている。

グランは再び剣を構え、ソウシロウは視線を交わし、臨戦態勢に直ぐ様切り替えた。

その時、地面から蛍火が舞い上がり、その湧き出す光は徐々に強く照らしながら、辺りを、2人を飲み込んでゆく。


眩い光の渦が消え、周囲を再び見渡すと、そこには無数の<ロスト・マン>達が佇んでいた。

だが、その姿勢は今までのと違い、背筋が伸び、直立し、静寂で、それは彫像のようにも見る。

一陣の風が何処からか吹き抜けると、並ぶ彫像は白化していき<巨体ロスト・マン>同様に塵となって霧散し風に乗っていく。

その光景を見た2人は、自然と剣を鞘に収め、光が収まる頃には辺りの薄暗さも晴れ、青空が覗かせて来ていた。


「フン、生きて居たか、肉体、精神、魂の三位が欠けているワケではなさそうだの。」

再び先の老人が無縁墓碑から姿を現し、ゆっくりと歩き近づいてきた。

「ご、ご老人、この所業。貴殿がこの街の司祭殿にござろうか!?」

警戒しながらもソウシロウは老人に声をかけ、老人は杖の石突を鳴らす。

「如何にも。それで、お主達は…、外の者、その身なり、冒険者に相違ないようだのう。」

「いえ、正式な冒険者は、こちらの赤法師殿でして…」

ソウシロウはグランを手で指し示す。

グランはその言葉に反応せず、ただ黙って老人を見る。

その視線には、先の敵意は消えたもの、どこか見定める様な雰囲気があった。

それを見たソウシロウは何か言おうとしたが、その前に老人の方が口を開く。

「まぁ、よい。詳しい話は中でも良いじゃろ。少なくともキサマらはワシを食いに来たわけではなさそうじゃ。」

そう言うと、老人は墓標の奥へと消え行こうとする。

2人は顔を見合わせると、互いにうなづき合い、その後を追う。


空間が歪み、一瞬の浮遊感と共に景色が変わった。

外の土臭さは無くなり、そこは石造りの床と壁の広い部屋、天井はドーム状で、まるで神殿の内部を思わせる。

外延には水路があり、水の流れる音が聞こえ、湿気が鼻に付く。

部屋の中央には祭壇が設えられ、そこに3つの像がある以外は何も無く、先の<老司祭>が祭壇前の敷物に腰掛けており、指を床に指して2人を招く。


「さて。」

2人が席に着くのを確認すると、老人はグランを目利きするかの様に見つめる。

「なんスか。」

グランは無表情のまま、その視線を受け、ぶっきらぼうに返す。

その様子に、ソウシロウはハラハラしながら見守っていたが、老神父は気にした風も無く、グランを見て微笑む。

「フン。心穏やかにあらず、しかし交渉の便宜を図れる程度、目上に対せる態度を知って居るか。多少の教育は受けとるようじゃの。」

「えぇ、手厳しい師匠に散々しごかれてますからね。」


グランの態度をみつめ、老司祭は何やら考え事あるように、アゴをさすり、後ろの翼を小さく羽ばたかせている。

「礼欠いたのはワシの方だったな。だがキサマは<ヒューネス>ではあるまい。ワシの<目>には<動かぬ心臓>が見える。しかし、<ロスト・マン>では無い。ならば何者じゃ。」

「…司祭殿。拙者らはあくまでエフィム殿から頼みを聞き、参っただけにござる。ここは穏便に…」

「ワシは迷える魂、彷徨える亡者を在るべき所へ導く為にこの生業をしておる。例え<会話>が成り立とうとも亡者なら容赦せん。それがワシの役割じゃからの。」

だが、ソウシロウの言葉を遮り、老人は問いをグランへと続けた。


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