11-2.さすれば今より冒険者
「あの、それで、ご用件はどのような。」
「おぉ、そうでござった、コレで拙者の身を立てられると、街の酒場にて伺ったにござるが…」
ソウシロウは懐から先の十字架を取り出し、エフィムに手渡してその真偽を尋ねる。
「あぁ、コレはこの近辺の住まう方が集会にいらした際、お渡ししてるものですね。しかし何故コレを貴方が?」
「旅の途中、少々人助けをしたもので…、その際に頂いたものでござる。ここの街で困り事があれば見せ、頼るといいと言われましてな。」
エフィムは受け取った十字架を手の中でくるりと回して眺めながら、疑問を口にする。
ソウシロウは少し気恥ずかしげに頬を掻くと、この十字架を貰った経緯を述べた。
だが、エフィムは少し困ったような表情になり、顎先に指を当てて考え込む。
「ですが、私にはコレをお渡しされても…貴方のその行動を認める権限を持ち合わせておりませんので…、やはり司祭様に直接お会いになって頂かないと…。お力に成れず、お力に成れなくて申し訳ありません…」
エフィムの返答にソウシロウは残念そうな表情を見せるも、流石に堂々巡りにも慣れたのか、特に食い下がる事も無く、その手にしていた十字架を懐に戻す。
「うむ、仕方ないにござるな。出直すに…」
「まだ日も高いし、司祭の出先へは直に行けないのか?」
気落ちしながら、出直す姿勢であったソウシロウだったが、赤マントの男が口を挟むようにエフィムへと質問を入れる。
その問いにエフィムの表情は少し怪しげなものとなった。
「…ですが、司祭様の勤めは今、郊外の方でして…」
「街から遠く離れているのでござるか?」
「い、いえ、郊外と言ってもこの街の共同墓地ですので、そこまで遠いわけでは…ないのですが…」
エフィムは言葉を濁しながら返答をし、ソウシロウはそんな彼女の様子に疑念、疑問を抱く。
だが、それ以上に男、グランは眉間にシワを寄せ、難しい顔をしている。
「その郊外は<ホロゥ>や<ロスト・マン>が頻出するのか?」
エフィムはその言葉に少し驚いた表情を見せ、ソウシロウは聞き覚えの無い単語に困惑した視線をグランに向けた。
グランは1冊の本を「ほらよ。」と、何かを聞き出したがっている視線を向けるソウシロウの額に押し付け、エフィムの話を進めようと促す。
「はい。ここは昔、戦場だったそうでして…、未だ彷徨える魂が残ってると言われています。司祭様は定期的に郊外へ出向き、<鎮魂の儀>を執り行っているのです。」
「司祭殿は早朝から?」
「い、いえ儀式は数日掛りで行うので…、出発は2日前にしましたから…、普段通りでしたら今日の午後にでも戻ってくるのでしょうが…」
「…気掛かりな事があるようで。」
「実は、コレを…」
エフィムは1つのコンパスを取り出し、祭壇の上に置く、その針は北を差す事無くクルリと回転し、針は倒れてしまった。
「司祭を追うコンパスか。針が…、何処も指してないな。」
その様子を見ながらグランは呟き、エフィムはこくりと頷き、不安げに話を続ける。
「はい。勤めが終わり、聖堂へ戻ってきている最中でしたら、針が司祭様の方角を指し示すのですが…」
「指し示していないとどうなるでござる?」
「未だ儀式中の影響で針が動かないのか…あるいは…」
「…針の紛失。つまりは、行方知れずか。」
「赤法師殿!」
グランの言葉にエフィムは顔色を変え、ソウシロウは言葉を遮るように声を上げた。
「司祭様からは4日以上、戻らない場合は捜索を出すように言われております。ですが、貴方様がたのお力を拝借できるのであれば…」
エフィムはそこで言葉を区切り、うっすらと目に涙を浮かべながら、祈るように手を組む。
「大丈夫にござるよ、エフィム殿!なんと!ここに居られる赤法師殿は口は悪いが<専属>の冒険者。つまりは腕利きでござる。」
みかねたソウシロウは、自信満々とばかりにグランの両肩を叩き、エフィムに向き合わせると笑顔を向け、その笑みを受け、エフィムの顔色が若干明るくなる。
「お、おい!そこはアンタの腕をアピールする所じゃないのかよ!」
「まぁ、そういう事でござるよ。多少の危険は問題無いでござる!何より、拙者はそういった事の為に来たようなものでござるからな!」
「ほ、本当ですか?」
エフィムの目は期待に輝き始め、その視線は意外にもソウシロウではなく、傍らに立つグランへと向けられた。
その涙目の視線を受けたグランは、少し面倒くさそうな表情で頭を掻くと、諦めたような溜息をつく。
「コイツは単なる<お人好し>で結構ですが、俺への報酬は何かしら捻出しておいて貰いたいね。」
エフィムはその2人の様子に安堵した表情を浮かべ、何度も頭を下げて感謝の意を示し、ソウシロウも満足気に微笑んだ。
―――
2人はエフィムから司祭への手荷物を受け、街の防壁を通り抜け、郊外に出ていた。
街道を外れ、林の中に入り込み、グランは広げていた地図を、ソウシロウは先程手渡された本を確認しながら歩き始める。
「<ロスト・マン>…。現世に残った強い怨念が、瘴気の濃く残る土壌を媒介にし、仮初の肉体を作り上げて実体化した魔物…、に、ござるか。」
「俗に言う<アンデット>、地域によっては<ゾンビ>だか<グール>だったか?…まぁ、大雑把に言えばそんなもんだろう。と言っても<ヒノモト>出のアンタには馴染みがないか。」
ソウシロウは先にランから渡された本を捲りながら、<ロスト・マン>について書かれた項目を読み上げ、道中、その内容を確認していた。
「ふむふむ、いわば亡者の類にござるか。魑魅魍魎でも妖の類でないなら拙者の国で言う<ゲンペイ・オチウド>でござるな。なるほど、エフィム殿の言う<鎮魂の儀>は、荒御霊の<祓いの儀式>でござるか。」
「なんだよ、その<ゲンペー・オチュード>ってのは。」
「はっはっは!幕府平定の世があれど、拙者達の国はじい様達の代まで乱世に継ぐ乱世の、戦の時代が続いたでござるからな。特に国が二家に分かれていた時代、ゲンペイ争乱の時代は荒れに荒れ、その荒御霊が1000年は過ぎよう今でも悪さをするというでござる。」
ソウシロウは朗らかに笑いながら話を続け、グランは興味無さそうに相槌を打ち、足を早める。
「おっかない国だな、ヒノモトってのは…」
「そういえば、赤法師殿もその心の臓を打ち貫かれても丈夫な身体。そうなると<ロスト・マン>の親類なのでござるか?」
「失礼な奴だな、俺は一応は<ヒト>だっての。……まぁ、自称の範疇だけども。」
グランは少しだけ眉間にしわを寄せて呟くと、ソウシロウは己の失言に苦笑した。
そんな話している内に2人は林へと踏み入れ、そのまま暫く歩くと開けた場所へとなっていく。
だが、ソウシロウは周囲を見渡しながら、違和感に対して口を開けた。
「やや?まだ昼に差し掛かる程だというに。曇り?いやまるで夕夜の薄暗さでござるな。」
「…無駄話で時間を潰せる状況じゃなくなってきたな。」
それはソウシロウの言葉通り、まだ陽が沈むには遠いというに、何時の間にか周囲は闇に包まれているかのように暗く、何やら見通しが悪い。
「<闇のオド>が漂い満ちだしてるな。気をつけろよ、<アンデット>の類が群がってる証だ。」
グランはそう言うと腰の剣を抜き、薄暗い中でも赤く煌く刀身を構える。
ソウシロウもまた腰の剣に手を当て、いつでも抜ける様に警戒しながら歩きだす。
そして、暫く進むと、その平地は更に広がり、大きな広場のような場所に辿り着く。
中心には巨大な十字架が建てられ、周囲に色とりどりの花と様々な形の小さな墓標が立ち並ぶ。
その光景は幻想的で美しくもあるが、薄暗さが不気味さと悲壮感を醸し出していた。
「共同墓地、そして、無縁者の墓碑。とりあえずの目標地点か。」
グランは呟いた言葉に反応する様に、周囲の草木から無数の黒い影が這い出し、それらはゆらりと揺れると、人の形を成していき、やがては<ロスト・マン>として現れる。
「Fruoooooofff…」
低い声を漏らし、ゆっくりとした動きが何かを狙い定めると次第に速くなり、それは2人へと襲い掛かってきた。
…
黒い飛沫が舞う。
グランはなびかせるその赤いマント、襟巻きと同じ赤い剣を振るい、一閃し目の前に居た<ロスト・マン>を両断した。
その横ではソウシロウが手に持ったカタナを抜く。
すると刃の軌跡が光の線を引き、同時3体の<ロスト・マン>の首が宙に舞った。
亡者達は断末魔を上げる暇もなく絶命し、地に落ちる頃には飛沫と土くれとなって消えていく。
2人は背中を合わせるように陣取り、周囲を見渡たす。
そこには先程以上の<ロスト・マン>達が現れ、2人を包囲し、身体を成したものから次々へ襲いかかって来る。
「赤法師殿!これでは、キリが、無いでござる!」
「ったく、このままじゃ、人探しなんて、ままならん!」
グランは亡者達を斬り倒しながら不満を叫び、ソウシロウも次々と斬撃を放ち、数を減らして行く。
しかし、倒しても倒しても数は減らず、2人は息つく間もなく切り結ぶ羽目になっていた。
―――まったく、騒がしい。
その時、突然どこからか声が聞こえる。
―――グロウ、バト、イル、マノ、オーン、キラン、ゾル。
すると、ソウシロウ達の頭上に白い光が降り注ぎ、それは瞬く間に広がり、周囲、<ロスト・マン>の群がる墓地を照らし出した。
―――<ブライトダズル>!!
「Foooooofuuffffffuuuuuu………」
そして、光を浴びた<ロスト・マン>は次々と身体を焼かれていき、唸る悲鳴を上げながら消滅していく。
「…やれやれ、その様子だとエフィムが先走ったかのう。」
無縁者の墓碑から現れたのは、白い法衣に身を包んだ老人だった。彼はゆっくりとした足取りでグラン達の元へ歩み寄ると、手に持つ錫杖の石突きを打ち鳴らす。
背に蝙蝠の様な翼、鋭く上向き尖る耳、その顔には深いシワが刻まれ、髪も白く染まり、一見してかなりの高齢に見えるも、その瞳だけは強く輝いている。
「…夜月の種族とか言われる<キュヴァス>が<光の魔法>とか冗談が過ぎるだろ。」
グランの零す言葉に、その老人は肩をすくめる。
「先入感に囚われておるの。どんな種族だろうと、何を身に着けるも何をなそうとするも、自由。それに精霊はあらゆる種族を祝福する存在であろう?ならば、ワシがそれを使おうとも問題なかろうて。」
そして、再び手に持つ錫杖の石突きを打ち鳴らす。
「それに、ワシの<目>からすれば、キサマは<ヒトならざるもの>が<ヒトの真似事>をしているだけにしか見えぬがの。そんなヤツに言われる道理は無いわ。」
疑問、疑念から来た言葉ではなく、まるで己の何か<知った>上での物言いに、グランは現れた老人に対し敵意剥き出しの視線を向ける。




