↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅い喰拓 GRAN YUMMY  作者: 嶽蝦夷うなぎ
・それは不死身の赤マント
37/250

9-3.我が中身を知るヒトぞ 

 とある、昔の話である。

何もかもが破滅し、絶望した1人の男は悪魔に魂を魅入られ、怪物と化し、怒れるまま、全てを壊して回ったという。

怪物と成り果てた男を止められる者は誰もおらず、ただただ、各地は破壊が繰り返されるのであった。

だが、1人の旅の賢人が現れ、怪物を鎮める事に成功する。

そして、賢人は人々の賞賛、褒美を受け取らず、言葉を残し、去ったとされる。


《この先に怪物の眠る黒い柩が奉られている。この柩が白くなったとき、柩を開き、男を目覚めさせ、彼の声を聞きなさい。さもなければお前達は真の敵を知らずに滅ぶ事になる。》


その後、人々は柩の前に幾度と足を運び、柩が白くなるのを待ち望んだが、柩に変化は何時までも訪れなかった。

それから幾年月が流れ、人々が忘れて誰も足を運ばなくなった頃、柩の場所へと誰かが1人迷い込こんだ。

そこには白と黒の塩の瓦礫が山の様に積み重なっており、瓦礫の底には<半分怪物が色濃く残る男>のミイラが横たわっていたという。

結局、彼が再び目を覚まさせる事は二度となくなり、賢人の真意を確かめる事はできなかった。


<ウィザーク>というのは、<柩の中の魔>、この半ば怪物と化したままヒトに戻らなかった男を差す言葉。

そして数ある<ヒト>として記された、最も希少な種族の名前を関するモノでもあった。


…


「…<塩の柩>。あの部屋を<それ>だとすると…」

「我々は<ウィザーク>が生れ落ちる貴重な現場に立ち会った事になりますね。」

「フッ、なら戻ったらあのミイラの肩でも叩いて聞いてみるか。お前は<ウィザーク>なのかと。」

「おや、では返事がありましたら、お茶のリクエストでも聞いておいてくださいますか。ご用意しますので。」

セバスはビルキースの言葉に冗談で返すと、ビルキースは呆れた様に鼻で笑う。


その突如、進行を阻むかのように進路上の地面が大きく隆起し、それは瞬く間に形を成していく。

地面を吹き飛ばし、土煙を上げながら現れたのは柱状の物体で、それはビルキース達の馬車一行に向かって倒れ込みながらも更に伸び続ける。

直後、前方を走る鉱夫達の乗る馬車は、突如表れた<柱>への対処に間に合わなかったか、御者の悲鳴が響いた。


「お嬢様!!」

セバスは手綱を引き、倒れる<柱>の緊急回避をしようとする。

<柱>が倒れる直撃の進路は避けられたが、馬車は強引な操縦により、車体を大きく揺らし、また。馬が暴れだし荷車は大きく傾く。

前方、鉱夫達の馬車はそのまま柱の下敷きとなり、弾け飛ぶ馬車の破片と共に乗っていた鉱夫達が投げ出され、地面へ叩きつけられる。

そして、<柱>もその自重で地面へと叩きつけられ、その衝撃と巻き上がる土煙、砂埃にビルキース達が乗る馬車も呑み込まれ、2人は強い衝撃を受け転倒してしまう。


馬車から放り出された2人は地面に打ち付けられ、激しく身体を打ち付ける。

痛みに顔を歪めつつも、ビルキースは視界が遮られ状況が見えない中、彼女はその場の地面を掻き毟り、即座に周囲を確認し、状況を判断しようと試みる。

「くッ…セバスッ!!」

彼女の叫びが虚しく響き渡る中、ビルキースの目の前で何かが動く。

だが、それはセバスではなく、鉱夫達でもない何者かが砂塵の中、影だけが浮かび上がり、徐々に増え、近づいてくる。

次第に風が吹き荒れ、砂塵が晴れていき、姿を現したのは、武装した全員が同じ滅紫の装束に身を包み、顔も覆われ、表情は一切分からない集団。

ビルキースはその者達の姿を確認しすぐさま立ち上がろうとするも、地面に赤い雫が額から流れ落ち、意識が遠のき出した。


―――


意識を失ってどれくらいが経ったか……。

ビルキースが再び目を覚ましたとき、身動きが取れなくなっていた。

背中には砕け散った馬車の一部だろうかを軸に括り付けられ、手首、足首には縄でキツく縛りあげられている。

霞む視界が戻ってくると周囲は散乱した馬車の残骸で散らかり、装束の一団が右往左往と動き、彼女と同じく拘束され横になる鉱夫の姿が見える。

ただ、鉱夫の怪我の度合いが明らかに自分よりも酷く、生存してるかも定かではないほどに血だらけだ。

そして、動き回る装束の1人が鉱夫を担ぎ上げ、何処かへと運びだす。

それを見追いつつ、視線を動かすと、どうやら一箇所に集められてる様子だった。

その先にあるのは、掘り出したあの死骸。

まるで、象徴の儀式像のように祀られており、その周りに他の発掘品や意識の無い鉱夫達を並べていた。


「おーい、もうちょっとそこはキレイに並べてくれよォ~!」

明らかに他の装束の連中とは違った雰囲気を持つ者が1人声を上げる。

身に着けている衣服こそ、他と変わらないものの、顔を露にし、装飾品を余分に纏い、黒い外套を羽織い、その腰に下ろす剣も飾り立てられた一振り、明らかにこの一団の頭目らしき男。

男は大げさに両手を広げ、わざとらしく溜息をつく。

「全くこれだから素人は困る。いいか?<食事>は儀式の一種!盛り付けは大事だろう!?」

装束の一団を叱咤する男の口調は荒々しく、それでいて芝居じみた物言いをする。


「ヨォーシ!それでいいんだ!そのままキレイに並べ積み上げていくんだぞォ。それで、…おーい!<コイツ>を飾り付けられそうなものは何か見つかったかァ?」

男がそう言うと、他の者とは違う風貌の男が進み出て来て、手に持っていた箱を捧げるように掲げると中身を見せる。

「ほォ~、いいじゃないか、いいじゃないかァ~、こういうのでいいんだよ、こういうのでよォ~。」

男は満足気にうなずきながら眺め、箱から取り出したのはあの<竜核>。

鼻歌混じりで、周囲に敷かれた鉱夫達を踏みつけ、中心に置かれた死骸の前に立とその胸元の穴に<竜核>をすっぽりとはめ込み、更に荷車の破けた幌を飾り付けるように巻き付ける。

それは、まさに生贄に捧げる<祭壇>そのもの、ビルキースはその光景を見て、怒りが込み上げてくる。

(…この外道共め…ッ!!)

彼女は力を振り絞り、必死にもがくも、縛られた手足が軋み、縄が皮膚に食い込むだけでビクともしない。


「お、どーやら、目が覚めたみたいだねェ。ご機嫌麗しゅう、マドモアゼル。ご無事で何より、生死は問われなかったが、生きているほうが高く買ってくれるとの仰せだからな。」

怒る視線と縄が軋む音に気が付いたのか、男はビルキースの方へ顔を向けしばらく視線を送った後、ゆっくりと歩み寄ってくる。

その態度からは余裕が伺え、口元はへらへらとにやつき、彼女の顎を掴み上げる。

「…キサマら、何が狙いだ。」

「何って。それはアンタ自身が一番心当たりあるんじゃないのかァ?ビルキース=パダハラムお、嬢、様。」

男はビルキースの頬を軽く叩き、彼女を小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

ビルキースは男に向かって唾を吐きかけ、睨みつける。

男はまるで子供をあしらうかのような笑顔をみせるが、すぐにその表情は冷酷な瞳をしたものへと豹変し、ビルキースの頬を力強く叩く。

その衝撃で、彼女は地面へと倒れこみ、額の傷口からじわり、と血が流れる。

「おいィ!この女には手練れの護衛が付いていたと聞いたはずだ!そいつはどうしたァッ!」

男は立ち上がり、今度は装束の一団に怒鳴りつけ始め、その問いに対し、1人の装束の者が前に出る。


「ご心配には及びません。お探しの者でしたら、今、ここにおりますので。」

「あ?」

男が前に出た装束の者の言葉を振り向き、聞き返した次の瞬間だった。

「セバスッ!」

ビルキースの声が響き、男が声の先に向き合った刹那、のびる一本の腕がその首筋を捉え、一瞬のうちに組み伏していたのだ。

「…ビルキース様を<お嬢様>と呼んで良いのは、亡き旦那様、その親しき方々、それに私だけです。」

男は状況を飲み込めずに目を瞬かせ、何が起きたかを理解できずにいたが、口に砂が入り、地面に這いつくばっている自分に理解すると叫ぶ。

「こいつを、殺せェェェッ!!!」

それを合図としたかの様に男の周囲を取り囲んでいた他の者達が次々と武器を抜き、一斉に襲いかかった。

<セバス>は一息、強く呼吸をすると組み伏せた男の腕を強く捻り、男の顔は苦痛に染まると、ゴキリ、と鈍く乾いた音が鳴り響く。

だが、装束の者は静止せず、セバスを斬り裂こうと剣を振るう。

しかし、刃先は空を割き、地面に突き刺さり、次の瞬間、襲い掛かった装束の者はセバスの裏拳により顔面を殴られ、宙を舞うように吹き飛ぶと、岩壁に打ち付けられ、動かなくなった。

それを見て残りの者たちは足を止めて唖然とするが、その一瞬が命取りになる。


セバスは既に男の傍にはおらず、そこには脱ぎ捨てられた自分達と同じ装束。

装束の者1人の背後に回り込んでおり、肩をポンと叩くと、また1人装束の者が吹き飛ばされていった。

そして、1人、また1人と男の命令により襲い掛かる装束の者は、吹き飛び、地中に減り込み、不思議な形状にひしゃげていく。

周りにいた装束の者は全て気絶し、セバスは最後に残った者の首根っこを掴むと思いっきり放り投げ、地面へと叩きつけられる音を聞き取ると、パンパンと手を掃う。

「申し訳ありません。脚の痛みを<気>で抑えるのに時間が掛かってしまいまして。歳はとりたくないものです。」

そう、ビルキースの元へ寄ると、その体を縛り付けていた縄を切り解き、肩に掛けて起こす。

「まったく。お前は昔から私のヒーローだよ。」

「恐縮でございます。」


――ピィィィーーッ!!


その時、甲高い指笛の音が鳴り響く。

装束一団の頭目らしき男が片腕をぶらつかせて立ち上がり、セバスの方を睨みつけた。

「おやおや、まだ続けるおつもりですか?数の100や200程度の相手でしたら、私は構いませんが?」

セバスが挑発的に言い放つが、男は笑い飛ばす。

しかしその笑みとは裏腹に、体からは尋常ではない汗が流れ、目を見開き、セバスを睨む目はまるで、化物を見るかのように怯えている様子だった。

『セバス、気をつけろ!周囲にあの<柱>の影や跡すらない!アレの出現が意図的なものだとしたら。』

『承知しております。』

セバスがビルキースを抱き寄せようとした時、男は高笑いをあげながら口を開く。

もはや先程までの冷酷な雰囲気は一切感じられず、むしろ愉快そうな笑みを浮かべている。


「…ハハハハッ!降参だ!降参!部下への手打ちで見逃してやるよォッ!」

「そうですか。では、鉱夫達の身柄と彼方達が集めた積荷を返却してもらいたいのですが。」

セバスは男の言葉を聞くと落ち着いた口調に戻り、要求を突きつける。

だが、男は鼻で笑い横に振ると手を上げた。

すると足元が地鳴りと共に大きな揺れが起き、地下から何か巨大なものがせり上がってくるような感覚を覚える。


「あー…、ソイツは、できねェなァ…」

激しく振動が響く中、男は動じず、腕で懐から<黒い石>を取り出すと、それに口付けをする。

「<アレら>はよォ。もう俺の<ペット>の餌に成る事が決まってるんだわ。」

そして、<黒い石>を後方の<祭壇>へと放り投げ、まるで勝ち誇ったかのような表情と態度を見せると同時に、大地が激しく割れた。

危険を察知したセバスはビルキースを抱きかかえると後方へと跳躍する。


「カァァァムッッオォォンッッ!!俺のエス!エス!アールちゃァァァーーんッッ!」

<祭壇>の地面が沈み、突如として地中へ呑み込まれ、同時に現れたのは尖った岩ような突起物がその周囲に無数に生えるが、その正体はすぐに判明することになる。


―――ドォォォンッッ!!!


轟音、今度は地面が大きく隆起し、それは地面を吹き飛ばし、瞬く間に形を成し、土煙を上げながら現れたのは柱状の物体、馬車を下敷きにした<柱>。

セバスの跳躍の最中でも見上げる程の巨体。

土煙による視界の阻害なく陽の光を受け、その姿を露にする。

「<デス・ワーム>!?」

「操獣者(テイマー)…いや、あの怪物を使役させる程の技を持つ操獣者は聞いた事がありませんな。」

「……操獣系の<異能者>か!!」

それは<デス・ワーム>と呼ばれる、その全長は8身から10身はある巨大なミミズ型の怪物。

<ワーム>の名の通り、地中を掘り進み、獲物を捕食する事に特化しており、地上に生息する他の怪物や魔物とは一線を画す。

こと、ここ大陸中央部に広がるこの荒野ではもはや天災に相応しい生物であり、1匹、地上に現れれば小集落程度ならば容易に壊滅させる程。


「付け加えるぜェッ!手打ちは俺の<ペット>から逃げ切れたならって話だァッ!」

「PoooGrohooo!!」

男が叫ぶと同事に<デス・ワーム>は大きく赤く染まる口を開け、その身体を剃り返し、嘴脇の触覚を震えさせて雄叫びをあげる。

「セバス!」

「…これは少し、骨が折れそうですね。」

着地しビルキースを降ろしたセバスは数歩進み、呼吸を整えた後、拳を構えた。

「さぁいけッ!俺の愛しのエスエスアール!食後の運動の時間だぜェッ!!」

男の号令がデス・ワームにかかり、セバスは迎撃の覚悟と態勢を取る。


…


だが、荒野の風だけが吹きぬけた。

目の前のデス・ワームは先程の雄叫びもあげず静かなままで、セバスは辺りを見渡し警戒するが、何事も起きない。

「あ?どうした?食ったものでも悪かったのか?」

男がデス・ワームを見上げ、心配するように問いかけるが反応はない。


やがて、異変が起きたのはデス・ワームの方だった。

身体が僅かに痙攣すると最も高い頭頂部が膨れ上がり、弾けるとその体液や血がまるで散水塔が如く飛び散った。

男は飛び散る血と体液に塗れながらも呆然とデス・ワームを見上げる。

そして、デス・ワームの全身は赤黒く変色していき、膨張と収縮を繰り返すと、その巨体はゆっくりとお辞儀をする様に倒れていき、背中が割れ、中から人影がゆっくりと周囲を捲り、押しのけ、その身を現すと、デス・ワームの残骸に足を掛け立ち上がる。

全身の殆どが影の如く黒くはあるが、鋭く光沢のある赤い角、赤い嘴、巨大な前腕からは赤い指先、赤い幌を纏い、ゆらゆらと動く尻尾の先も赤く煌く。


その姿を見た3人は思わず息を呑む。

「衣を纏った竜…?」

ビルキースが呟き、風で人影が纏う幌がなびき上がると、胸には陽の光を反射し、<竜核>がその姿を現した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。