↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で魔王を倒したら、金髪碧眼の美少女になって日本に帰ってきた件  作者: もも


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/56

天界どうでしょう~小樽帰還と、最強の妻の鉄フライパン~

ズドォォォォォォォォォンッ!!!


魔王アイリーンが完全に屈服し、大暮陽の足元に平伏して忠誠を誓ったその瞬間。


突如として、何もない空間からけたたましいファンファーレが鳴り響き、ポンッ、ポンッ!と安っぽいクラッカーの音が連続して弾けた。


「――はーい、カットォォォッ!! オッケーオッケー! 大暮さん、長丁場のロケ、本当にお疲れ様でしたァァッ!」


空間が歪み、宙に浮いていた『カメラ代わりの光の玉』が弾けると、そこから三人の人影がドカドカと足音を立てて玉座の間へと乗り込んできた。


純白のドレスを纏った最高位の女神エリシア。


そして、手にはなぜか丸めた台本とメガホンを持った、金髪の上級天使グリセリアと、ビデオカメラを回しながらニヤニヤしている上級天使ウレシリアである。


「いやぁーっ! 大暮さん! やりましたねぇ! まさか魔王をエッチな『絶頂合気』で陥落させて、しかも最後は下僕にするとは! 天界のモニタリングルームはもう大爆笑のスタンディングオベーションでしたよ!」


グリセリアが、まるで深夜バラエティ番組の豪快なヒゲのディレクターのように、バンバンと陽の背中を叩きながらガハハと笑う。


「お疲れ様でしたァ、じゃねぇんだよ!!」


陽は、クレアの美しい顔をこれでもかと歪ませて、思い切り噛み付いた。


「お前らなぁ! 人が命懸けで……しかも貞操の危機と四十九歳のおっさんのプライドを懸けて死に物狂いで戦ってたのに、完全にテレビ番組感覚で見てんじゃねぇよ! どんだけ過酷なロケだと思ってんだ! アマゾンの奥地よりキツかったぞ!」


「いやいや、大暮さん。画面越しにもその熱気、ムンムン伝わってきましたよぉ」


女神エリシアが、人を食ったような薄ら笑いを浮かべて陽の肩をポンと叩いた。


「視聴率、歴代最高をトリプルスコアでぶっちぎりました。天界の放送用サーバーが落ちかけましたからねぇ。スポンサーの神々も大喜びですよぉ」


「カッカッカ……」


ウレシリアが、死んだような目をカメラのファインダーに向けたまま、喉の奥で不気味に笑う。


「大暮さん、あのフタナリ化からの腰のグラインド、実に素晴らしい画が撮れましたよ。人間の業の深さが出てました。カッカッカ」


「撮るな! もう特番は終わりだろうが! 一生どうでしょうしますなんて口が裂けても言わねぇぞ!」


陽がウレシリアのカメラを手で遮ろうとするが、ウレシリアはヒラリと躱して「回ってますよぉ」とニヤつく。


「まぁまぁ、大暮さん。怒らないでくださいよぉ」


エリシアが、芝居がかった手つきで台本をめくった。


「見事、魔王を討伐し、世界を救い、そして番組の視聴率にも多大なる貢献をしていただきました。約束通り、あなたの願いを叶えて差し上げましょう。現世の、愛する奥様のもとへ帰るのですよね?」


「当たり前だ! 祭(まつり)が、俺の妻が、今も病院で俺が目を覚ますのを泣きながら待ってるんだ! さっさと元の身体に戻して、送り返せ!」


陽の言葉を聞いて、ディレクター陣――女神と天使たちの動きがピタリと止まった。


「あー……」


グリセリアが、頭を掻きながらエリシアと顔を見合わせる。


「えーっとね、大暮さん。実はですね、ちょっと現世のほうでトラブルが発生しましてね」


「なんだよ、トラブルって。お前らが『あー』って言う時はろくなことねぇんだよ!」


「あのね、大暮さんの元の身体。病院のベッドで植物状態だったじゃないですか。あれ、魂がこっちの勇者の器に完全に馴染みすぎちゃって、現世の肉体が耐えきれずに、消滅しちゃったんですよねぇ」


「……はぁ!?」


陽の目が点になる。


「だからね!」


エリシアがパンッと手を叩いて明るく誤魔化した。


「大暮さんは、今のその『絶世の美少女勇者の身体ごと』現実世界に送り返しちゃいまーす! あ、ちなみに本来の勇者クレアちゃんの魂と肉体は、こっちの異世界で新品で再生させておきましたよぉ! めでたしめでたし!」


「ふざけんなよ! お前ら神様だろうが! なんだその適当な処理は! そんな金髪巨乳の姿で小樽の家に帰ってみろ! 祭に殺されるだろうが!」


「カッカッカ……小樽で美少女勇者。スピンオフ特番『小樽どうでしょう』、いけますねぇ」


「勝手に新企画立ち上げんな! おい、ちょっと待て! 絶対に元の姿に――」


「はい、それじゃあ大暮さん、現実世界へワープしまーす! キュー!」


グリセリアが容赦なくメガホンを振り下ろした。


「やめろぉぉぉぉぉぉっ!! ディレクターのバカヤロォォォォォォッ!!」


ピカァァァァァァァァァンッ!!!


陽の悲痛なボヤキは、眩い光の中に吸い込まれ、あっけなくかき消された。



* * *



同じ頃。現実世界、北海道は小樽市。


大暮祭は、ふらつく足取りでアパートの鍵を開けた。


「……っ」


ガチャン、と重い金属音を立てて扉が閉まると同時に、祭はその場にへたり込み、両手で顔を覆って声を上げて泣き崩れた。


挿絵(By みてみん)



つい先ほど、病院から信じられない連絡を受けたのだ。


『大暮さんのご主人の身体が……ベッドから忽然と姿を消しました。監視カメラにも何も映っておらず……』


急いで病院に駆けつけたが、陽の身体はどこにもなかった。警察も医者も首を傾げるばかり。神隠しにでも遭ったかのようだった。


「いやだ……っ、陽……置いていかないでよ……っ」


結婚して十年。


暗いリビングの冷たい床に座り込みながら、祭の脳裏には陽との数え切れないほどの思い出が走馬灯のように駆け巡っていた。


出会ったばかりの頃、小樽運河のデート。


陽はカッコつけようとして、不自然に低い声で口説こうとして見事にすべり、二人で大笑いした。


お金がなかった新婚時代、駅前の安い居酒屋で割り勘にして、それでも「いつか高い寿司食わせてやるからな」って、不器用な笑顔で約束してくれた。


喧嘩した翌朝、祭が腹いせに塩をこれでもかと入れたしょっぱい玉子焼きを、「うまい、うまい」って言いながら、顔をしかめつつも全部食べてくれた。


そして、祭が泣いている時。


陽はいつも、不器用な手つきで祭を抱きしめてくれた。


大きな手で、少しリズムの悪い撫で方で、祭の髪をゆっくりと撫でるのだ。


それから、「泣くなよ、ブスになるぞ」って言いながら、祭の鼻を指先でツンツンと二回突っついて。


最後に、ギュッと鼻をつまんで「ブタっぱな」と笑わせてくれる。


あのくだらないスキンシップで、祭はいつも泣き笑いさせられて、心が軽くなった。


「もう……あの手に、触れられないの……? 鼻、つまんでよ……。ブタっぱなって、笑ってよぉ……っ」


絶望と喪失感で、祭は声を枯らして泣き続けた。


もう二度と、あのボヤキを聞くことも、あの不器用な優しさに触れることもできないのだと、心が真っ二つに引き裂かれそうだった。


――ズバァァァァァァァンッ!!!


「きゃあっ!?」


突然、暗いリビングの空間がガラスのようにひび割れ、眩い光が弾けた。


祭が涙で潤んだ目を瞬かせると、そこには見慣れない女性が立っていた。


黄金の髪、抜けるように白い肌、そしてモデルのような長身に不釣り合いなほどの巨乳。白色のシンプルなドレスという飾り気のない格好だが、どう見ても非現実的なまでの絶世の美女だ。


「……え? だ、誰……?」


祭が呆然と声を漏らす。


「あ……」


その金髪の美女は、床で泣き崩れている祭を見た瞬間、泣きそうな顔になり、おっさんのようなガニ股で駆け寄ってきた。


「祭ッ!! 祭、泣かないでくれ! 俺だ、俺だよ、陽だ!!」


「……は?」


祭は目を丸くした。絶世の美女の口から飛び出したのは、紛れもなく自分の愛する夫、大暮陽の、あの独特のウザいボヤキ口調と声のトーンだった。


「信じられないかもしれないけど、異世界で魔王を倒して、ディレクターの陰謀でこの身体のまま帰らされて……!」


陽が必死に身振り手振りで説明する。


挿絵(By みてみん)



「小樽運河のデートで、俺がカッコつけて変な低い声出して大スベリしただろ! 安い居酒屋で割り勘して、高い寿司食わせるって約束しただろ! お前が喧嘩したあとに作る、あの殺人的にしょっぱい玉子焼きが大好きなのも俺だ! 頼む、信じてくれ!」


その必死な形相。言い訳がましい喋り方。そして、自分たち夫婦しか知らないはずの思い出の数々。


「……陽? 本当に、陽なの……?」


祭の声が震える。だが、どうしても目の前の金髪巨乳の美女が、あのくたびれた四十九歳の夫だとは、理性が信じることを拒否していた。


陽は、そんな祭の戸惑いを察すると、ゆっくりと膝をつき、祭をそっと抱きしめた。


「え……」


金髪美女の豊かな胸に包み込まれる。だが、その腕の回し方、力の入れ具合は、祭が何千回と経験した陽の抱擁そのものだった。


「泣くなよ……」


陽は、少しリズムの悪い、不器用な手つきで、祭の髪をゆっくりと撫で始めた。


ぽん、ぽん、と一定の間隔で撫でる、あの懐かしい癖。


そして、陽は祭の顔を覗き込み、美しい指先で祭の鼻をツンツンと二回突っついた。


「こんな姿になっちまったけど、俺は陽だ」


そう言って、陽は最後に祭の鼻をギュッとつまんだ。


「……ブタっぱな」


その瞬間、祭の瞳から、大粒の涙が堰を切ったように溢れ出した。


「痛い……っ。痛いよ、バカ……っ」


姿がどうであれ、魂は間違いなく自分の夫だ。この世界で一人しかいない、自分だけの不器用な人。奇跡的に生きて、自分の元へ帰ってきてくれたのだ。


「陽……っ! 陽ぃっ!! バカ、バカバカ! 心配したんだからね!」


祭は立ち上がり、巨乳の美女となった夫の胸に思い切りしがみついた。


「ごめん、祭……。もう絶対、お前を一人にしないから……」


陽も涙を流し、愛する妻を強く抱きしめ返した。


挿絵(By みてみん)



奇跡の生還。愛の勝利。これで全てが報われる――はずだった。


――ビキビキビキィッ!!!


感動の再会の余韻をぶち壊すように、再びリビングの空間が歪み、巨大な魔法陣が床に浮かび上がった。


「な、なんだぁっ!?」


陽が祭を庇うように立ち塞がると、その魔法陣の中から、見覚えのある一つの影が転がり出てきた。


「ご、ご主人様ぁぁぁっ!! 助けてくださいぃぃっ!」


漆黒のドレスを着た、絶世の美女。魔王アイリーンだった。


挿絵(By みてみん)



「お前っ!! 魔王! なんでお前がこっちの世界に来てんだよぉぉぉっ!!」


陽は完全にパニックになり、頭を抱えて絶叫した。


「お、お前と一緒にいたシンディやピリカたちはどうしたんだよ!」


「あ、あの変態女三人組なら、こっちに来る余裕なんてありませんよぉ!」


アイリーンは息を切らしながら、陽の足元に縋り付いて、異世界の言葉で泣き喚いた。聞いたこともない響きに、祭が涙を拭く手を止めてぽかんとする。


「女神様が、本来の勇者クレアちゃんを異世界で新品の身体で復活させてくれたじゃないですか! クレアちゃんは隣国のイケメン王子様と婚約して幸せになろうとしてたのに、あの欲求不満の三人がそれを許さなくて!」


「……は?」


「『私たちは陽さんというおっさんの魂を愛したが、クレアのその身体も愛している! 婚約を解消して百合の素晴らしさを教えます!』って、夜な夜なクレアちゃんの寝室に忍び込んで迫りまくってるんですぅ!」


「アイツら、現地のクレアにまで手を出そうとしてんのか!」


「クレアちゃん、『私はノーマルです! 過度なスキンシップは絶対禁止です!』ってガチギレしながら城中を逃げ回ってて、異世界は今、勇者とパーティメンバーの壮絶な鬼ごっこで大パニックですよぉ!」


「バカじゃねぇのあの三人……」


「で、私はドサクサに紛れて勇者に殺されそうになったので、ご主人様が私に刻んだ『下僕印』のパスを使って、次元を越えて逃げてきたんですぅ!」


アイリーンが陽の脚にすり寄り、恍惚とした表情を浮かべる。


「ああ、ご主人様ぁ……下僕を置いていくなんて酷いですぅ……。私、もうご主人様のあの『絶頂合気』がないと生きていけない身体になっちゃったのにぃ……現世でも魔王はあなたの便器ですぅ……」


「バカバカバカッ! 余計なこと言うなッ!! ここは北海道の小樽だぞ! お前みたいなファンタジー全開の変態魔王がウチにいたら事件だろうが!」


陽は必死にアイリーンを引き剥がそうとするが、異世界で開発され尽くした『超絶感度』のせいで、アイリーンに脚を撫でられるたびにビクンビクンと腰が跳ねてしまい、まともに抵抗できない。


「さあご主人様、次元旅行の疲れを、このリビングでエッチな愛撫で癒やしましょう……?」


「や、やめろ、俺の太腿を撫でるな! あひぃっ、そこ触るとすぐイッちゃう身体なんだからヤメロって言ってるだろぉっ!!」


静かな小樽の住宅街の安アパート。


そのリビングで、絶世の美少女(中身おっさん)と、絶世の魔王美女が、服をはだけさせながら床で絡み合うという、地獄のような惨状が繰り広げられていた。


――スッ。


その横で。


つい先ほどまで感動の涙を流していた妻・祭が。


無言のまま、スタスタとキッチンへ向かった。


ガチャリ。


金属が擦れる、重く冷たい音がした。


そして祭は、リビングに戻ってきた。その手には、彼女が愛用している真っ黒で分厚い『鉄のフライパン』が、凶器のようにしっかりと握られていた。


挿絵(By みてみん)



「ま、ま、ま、祭ッ!!!」


陽は心臓が口から飛び出そうになりながら、アイリーンを力任せに弾き飛ばして土下座の姿勢をとった。


「ち、違うんだ! これには海より深くて宇宙より広いワケが……ッ!」


「ふーん……」


祭の目が、完全に据わっていた。瞳孔が開き、一切の光がない。合気武道の達人にして、最強の物理アタッカーが、完全にキレた時の顔だった。


「陽が、無事に帰ってきてくれたのは、本当に、本当に嬉しいのよ。生きててくれて、よかったって……心から、感動して泣いたわ」


ギリリッ、とフライパンの柄を握る音が響く。


挿絵(By みてみん)



「だけど……そのいかにもエロそうな女が、ウチのリビングで発情して、わけの分からない言葉で陽に迫ってるのは、全然別の問題よねぇ……?」


「ち、違う! 楽しんでない! いや、異世界ではちょっと特訓で気持ちよかったけど、本意じゃなくて! 俺は世界を救うために必死に……!」


「私の前で他の女とイチャついて……あの感動の涙を返せ」


祭が、合気武道の完璧な構えをとった。


分厚い鉄のフライパンが、陽の美しい金髪の頭部に向かって、無慈悲に振り上げられる。


「タダで済むと思ってんじゃないわよ、このクソボケガエルがァァァァァァァァァッッ!!!」


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!! 勘弁してくれぇぇぇぇぇっ!! ディレクターのバカヤロォォォォォォォォッ!!」


ガゴォォォォォォンッ!!!


小樽の閑静な住宅街に、美しい金髪勇者(中身おっさん)の情けない断末魔と、凄まじい金属音が響き渡った。


魔王を倒し、異世界を救った最強の男。


しかし、彼を待っていたのは平和な日常などではなく。


絶世の美女の身体のまま、最強で最恐の妻と、欲求不満の元魔王に同居を迫られる、現実世界での『新たな地獄の修羅場』の始まりに過ぎなかったのである。


(――『天界どうでしょう!~小樽修羅場編~』、近日放送開始!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。