↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で魔王を倒したら、金髪碧眼の美少女になって日本に帰ってきた件  作者: もも


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/56

倶知安での装備調達と、規格外の収納魔法

八月。


夏の高い空から降り注ぐ陽射しが、小樽の海をキラキラと反射させている。


葉室珠子の運転するソウルレッドのCX-60は、滑らかなエンジン音を響かせながら、倶知安へ向かう国道を快調に走っていた。


「いやぁ、それにしても良い天気だな! ドライブ日和ってやつだ!」


助手席でご機嫌な声を上げたのは、大暮ヨウだ。


黄金に輝く長い髪を背中に流し、透き通るような碧眼を細めて笑うその姿は、息を呑むほど美しい。


今日ヨウが身に纏っているのは、先日札幌で珠子が選んでプレゼントした「青いサマードレス(ワンピース)」と「青いツバ広の帽子」、そして華奢な手首でキラリと光るブレスレットだ。


モデルのような一七五センチの長身と、暴力的なまでに豊かな胸元を包み込む柔らかな生地が、彼女の絶世の美貌をさらに引き立てている。


(……はぁ。やっぱり、ヨウは綺麗だな)


運転席でハンドルを握る珠子は、チラリと横目でヨウを見つめながら、心の中で深い感嘆の息を吐いた。


十九歳の古神道結社・八咫烏のエージェントである珠子にとって、ヨウ――かつての高校時代の担任であった大暮陽は、初恋の相手だ。


中身は四十九歳のおっさんのままで、身体だけがレベル99の金髪美少女勇者に変わってしまったという信じられない状況だが、それでも珠子の想いは変わらない。


むしろ、不器用で困ったような顔で笑う恩師の面影を感じるたびに、(やっぱり、あらためて大好き!)と胸が締め付けられるような恋心を募らせている。


しかし、ヨウには祭という最愛の妻がいる。


だからこそ、珠子はこの想いを胸の奥底に固く秘め、あくまで「協力者」としての距離を保とうと決めているのだ。


「ん? どうした珠子、俺の顔に何かついてるか?」


視線に気づいたヨウが、首を傾げてこちらを向く。


その瞬間。


「ッ!?」


珠子の心臓が、ドクン!と大きく跳ね上がった。


サマードレスの裾が大きくめくれ上がり、ヨウが両脚を無防備にパカンと大股開きにしているではないか。


純白のパンティが、今にもチラリと顔を出しそうな危険すぎるアングル。


(お、おーとっと! ド、ドキドキが止まらないわ! いや、私は百合じゃないし、ヨウの心は男、完全なオスなんだけど! でも、この身体でその格好は破壊力が高すぎる……!)


珠子は、沸騰しそうになる顔の熱を必死に抑え込み、エージェントとしての冷静さを総動員して口を開いた。


「ヨ、ヨウ! 大股開きはやめなさい! はしたないわよ!!!」


ピシャリと叱られ、ヨウはビクッと肩を揺らした。


「うおっ、ご、ごめんごめん! ついおっさんの時の癖で……。珠子がせっかく選んで買ってくれた服なのに、悪かったな」


ヨウは慌ててサマードレスの裾を押さえ、スッと両脚を綺麗に揃えた。


そして、少し照れくさそうに上目遣いで珠子を見つめ、膝の上に両手を上品に重ねる女性らしい仕草を作ってみる。


「……こ、こうでいいか?」


「…………良いんじゃないですか」


珠子は、ぷいっと前を向いてツンツンした態度を装った。


しかし、内心では(可愛い!)と悶絶し、危うくハンドルの操作を誤りそうになっていた。



***



「ところで珠子、今日の仕事って具体的に何なんだ?」


気を取り直したヨウが、流れる景色を眺めながら尋ねる。


「今回の目的は、羊蹄山と尻別岳の登山、そしてその後志(しりべし)霊脈の異常調査です。最近、あの周辺の霊力に不穏な動きがありまして」


「霊脈の調査か。なるほどな」


「ええ。ですから、今回の遠征にかかる必要経費は、すべて組織(八咫烏)持ちです。安心してください」


「じゃあ、俺の装備も?」


「もちろんです。ヨウ、登山装備なんてほとんど持ってないでしょう?」


「……靴すらないな」


「そこからですか。まぁ、予想はしていましたが」


珠子は呆れたようにため息をついた。


車は倶知安の市街地へと入り、大きな登山用品店の駐車場に滑り込んだ。


店内に入ると、珠子のプロとしてのスイッチが完全に入った。


「まずは靴です。足首をしっかりホールドするハイカットのものを。それから、登山用ソックス、吸汗速乾シャツ、防寒着、レインウェア、登山パンツ、帽子、手袋、ザック、ヘッドライト、水筒、行動食、ファーストエイドキット、熊鈴、地図とコンパス、トレッキングポール、着替え……」


「お、おいおい、ちょっと待て! そんなにいるのか!?」


次々とカゴに放り込まれていく大量のアイテムを見て、ヨウが目を丸くする。


珠子は、手にしたレインウェアの機能性を確認しながら、真顔でヨウを振り返った。


「山を舐めたら死にますよ」


「うっ……」


「ヨウの身体能力がいくらレベル99で規格外でも、山の天候変化や遭難のリスクは物理的な力だけではどうにもなりません。登山の『技術』や『経験』がない以上、装備は万全にする必要があります」


ぐうの音も出ない正論に、ヨウは大人しくマネキンのように珠子にされるがまま試着を繰り返した。


やがて、フル装備を身に纏ったヨウが試着室から出てきた。


挿絵(By みてみん)



スタイリッシュな細身の登山パンツに、機能的なジップシャツ。背中にはしっかりとしたザックを背負っている。


「……どうだ?」


「ふふっ。さっきのワンピースも良かったですけど、登山装備も似合ってますね。今度はすごく凛々しいです」


珠子が絶賛していると、不意に背後から陽気な声が掛かった。


「Hi! Are you going hiking? That outfit looks great on you!」


振り返ると、いかにもアウトドア好きといった風貌の、大柄な西洋人の男女グループが笑顔で立っていた。


どうやら、ヨウの完璧な金髪碧眼の容姿を見て、同郷の人間だと思ってフレンドリーに話しかけてきたらしい。


「Which mountain are you planning to climb? We just came back from Mount Yotei, it was absolutely stunning but tough! Highly recommend the Makkari trail!」


外国人の男性が、身振り手振りを交えながら機関銃のような早口のネイティブ英語で話しかけてくる。


四十九歳の元高校教師であるヨウは、当然大学を出ているので単語の端々は拾えていた。


山、羊蹄山、おすすめのルート……。


しかし、いざ言葉を返そうとしても、圧倒的なスピードとネイティブのノリを前に、頭の中の辞書が完全にフリーズしてしまった。


「あ、えーと……サンキュー。イエス、マウンテン……アハハ……」


ヨウが引き攣った愛想笑いを浮かべて固まっていると、見かねた珠子がスッと前に出た。


「Thank you for the advice! We’re actually planning to climb it tomorrow. It’s her first time, so we’re just getting the gear ready.」


珠子の口から、驚くほど流暢で自然な英語が飛び出した。


外国人グループは「Oh, awesome! Good luck to both of you!」と笑顔で返し、珠子も「Thanks, have a great trip!」と笑って手を振った。


彼らが去っていくのを見送った後、ヨウは大きなため息を吐き出して珠子を拝んだ。


「珠子、ありがとう。マジで助かったよ。あんなに早く喋られたらさ……頭真っ白になった」


「ふふっ、慣れですよ。ここ倶知安やニセコ周辺は、世界中からスキーヤーや登山客が集まるので、もう外国みたいなものですからね」


「いや、ここまですごいと思わなかった。前は目的地に行くだけで、街中をゆっくり歩くことなんてなかったもんな〜。英語、ヒアリングもやんなきゃダメだな、こりゃ」


「暇な時に、私が付き合いますよ。エージェントの必須スキルなので」


「本当か? ありがとう」


ヨウは、自分の不甲斐なさを反省しながら、ふとアパートで留守番をしている居候の顔を思い浮かべた。


「あ〜……なんか、アイリーンが偉く感じてきたわ。あいつ、こっちの世界に来てまだひと月なのに、もうあんなに日本語喋ってんだもんな〜」


「確かに。元魔王の知力と適応力は侮れませんね」


二人は顔を見合わせて、クスッと笑った。



***



レジでの会計を済ませると、総額は十万円を優に超えていた。


店の外に出た二人の前には、巨大な紙袋や箱の山がドサリと置かれている。


珠子は車のトランクを開け、気合いを入れるように小さく息を吐いた。


「うーん……私の車、調査用の機材が結構積んであるんですよね」


珠子はそう言いながら、トランク内のケースや荷物をテキパキと移動させ、なんとか新しい荷物を詰め込む隙間を作ろうと奮闘し始めた。


「ヨウ、ちょっと時間はかかりますけど、なんとか全部パッキングしてみせますから、待っててくださいね」


額に薄っすらと汗をにじませながら頑張る珠子を見て、ヨウは苦笑しながら声をかけた。


「おい珠子、無理しなくていいぞ。そんなことしなくても、持って帰れるから」


「え? でも、この量はどうやってもそのままじゃ……」


すると、ヨウはニヤリと笑い、何気なく手をかざした。


シュンッ。


「え?」


珠子が瞬きをした次の瞬間、目の前にあった大量の登山用品の山が、文字通り跡形もなく消え去っていた。


「…………」


珠子は、ぽかんと口を開けたまま、絶句してその場に固まった。


「どうした?」


「今……」


「収納した。アイリーンに教わった『収納魔法(アイテムボックス)』だ。家一軒分くらいなら余裕で入るらしいぞ」


「……収納魔法?」


「そうだけど」


「聞いてません」


「今朝アイリーンに教えてもらったんだよ、言ってなかったな。ごめんごめん」


珠子は、トランクの縁に手をつき、深く、深ーく頭を抱えた。


「ちょっとヨウ。購入した装備のうち、現地で必要なものだけ出せますか?」


「おう。現地で使う分だけ出せばいいんだろ? ほい」


シュンッ、とヨウの手元に、登山靴とザックだけがピンポイントで現れた。


「…………便利すぎません?」


「そうか?」


「登山者が一番苦労するの、荷物の重量とパッキングなんですけど……。あの、ヨウ」


「ん?」


「この魔法のこと、組織に報告していいですか? 輸送コストが劇的に下がる画期的な……」


「絶対にダメ!!」


ヨウが顔を真っ青にして全力で拒否する声が、倶知安の青空に響き渡った。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。