絶対死の迷宮と、おっさんの絶頂合気
チュン、チュン、チュン。
どこか遠くで鳴く呑気な鳥の声が、朝の訪れを告げていた。
石造りの冷たい聖堂の床の上で、大暮陽は重たいまぶたをゆっくりと持ち上げた。
「……ん、あ……い、いてて……腰が、背中が……股関節が……って、なんだこれ」
自分の身体を起こそうとして、陽は猛烈な違和感に顔を激しくしかめた。
全身が鉛のように重く、関節という関節がギシギシと悲鳴を上げている。だが、それは現世でたまにやってしまう四十肩やギックリ腰の痛みとは全く違う。
内側から神経が焼き切れたようなとてつもない気だるさと、お腹の奥深くでジンジンと脈打つ、甘く鈍い熱。
ふと視線を下げると、そこには自分の見慣れたゴツゴツした腹ではなく、抜けるように白い滑らかな肌と、重力に従ってたわわに横たわる二つの暴力的なまでの巨大な胸があった。
その両脇には、戦士シンディと魔法使いピリカが、陽の細い腕や太腿にすっぽりと収まるようにして、裸のまま眠りこけている。
そして陽の下半身には、ライラがまるで蛇のように脚を絡みつかせ、満足げな深い寝息を立てていた。
四人の身体は、昨夜の激闘を物語るように汗と熱の名残でしっとりと光り、部屋中にはむせ返るような濃厚で甘ったるい匂いが充満している。
「……ハァ。夢じゃ、ないんだよな、これ。異世界転生モノのラノベみたいな展開だけど、中身おっさんだぞ俺」
陽は高い天井のステンドグラスを見上げながら、深い、本当に深いため息をついた。
勇者クレアの身体に入ってしまったこと。
そして、魔王アイリーンの恐るべき「快楽攻撃」への耐性をつけるためという名目で、この欲求不満の最強パーティたちと一晩中、それこそ骨の髄までしゃぶり尽くすような乱交特訓を繰り広げたこと。
陽はそっと目を閉じた。脳裏に真っ先に浮かぶのは、現世の病室で泣き崩れていた妻・祭の顔だ。
(祭……。今頃、病院でずっと俺の手を握ってくれてるんだろうな……。すまん、俺は今、金髪美少女の身体で、三人の美女とこんなことになってる……)
キレると魔王より怖い物理アタッカーだが、陽はそんな彼女を本気で愛している。
昨夜の行為は、あくまで魔王を倒し、祭の元へ生きて帰るための「特訓」だ。決して、若い女の子の身体で他の若い女たちとやりまくりたかったわけじゃない。
……いや、少しは男としての好奇心や、おっさん特有の「若いエキスを吸いたい」という下心があったことは否定しないが、根底にあるのは「祭の元への生還」という強い執念だ。
「よし……。感傷に浸ってる暇はねぇ。俺は、絶対に祭の元へ帰る。そのためには、あのフタナリ魔王をぶっ飛ばすしかねぇんだ」
陽は決意を新たに、絡みつく三人の美女をそっと引き剥がし、ふらつく足取りで立ち上がった。
クレアの身体はまだ快感の余韻でブルッと震えたが、陽は長年培った合気武道の呼吸法で強引に気を丹田に沈め、その震えを抑え込んだ。
数時間後。
身支度を整え、それぞれ鎧やローブを身に纏った四人は、円卓を囲んで作戦会議を開いていた。
ピリカは、分厚い魔導書を何冊も広げ、丸眼鏡をクイッと押し上げながら口を開いた。彼女の緑の瞳には、昨夜の欲情した色は微塵もなく、冷徹な学者の光が宿っている。
「結論から言うわ。魔王アイリーンが玉座の間で使ったあのピンク色のガス。あれは単なる媚薬や幻覚剤の類じゃない。伝説の霊薬『フタナリンドリンク』の原液を、特殊な錬金術で気化させ、さらに莫大な魔力を付与した『神話級の呪物』よ」
「呪物? 単にエロい気分にさせる強烈な媚薬ってわけじゃないのか?」
「ええ。直接、脳の快感中枢と魂の形を書き換える極悪な代物よ。だから、物理防御力カンストのシンディも、魔法防御力カンストの私も、状態異常無効のあなたたちも一瞬で陥落した。あれは『攻撃』ではなく『強制的な祝福(快楽)』としてシステムに判定されるから、どんな防御も不可能なのよ」
「うげぇ……なんだそのクソゲーみたいな仕様。運営にクレーム入れるレベルだぞ」
陽はボヤきながら頭を掻いた。
「でも、絶望することはないわ」
ピリカが魔導書の特定のページをバンッと叩く。
「昨夜の、あ……あの、は、はしたない特訓の最中に、私の頭脳が過去の文献と照合して一つの答えを導き出したわ。この呪物の効果を完全に無効化し、魂への干渉を弾き返す古代の聖魔法が存在するの」
「マジか!? なんだよそれ、最初からそれ使えばよかったじゃねぇか!」
「無理よ。その魔法『清浄なる絶対領域(アブソリュート・ピュリティ)』は、数百年前に封印された失われた魔法。現在、その呪文書が眠っているのは……大陸最悪の魔境、『絶対死の迷宮』の最深部よ」
ピリカの言葉に、シンディとライラの表情がピリッと引き締まった。
『絶対死の迷宮』。
そこは、足を踏み入れた者が誰一人として生きて帰ったことがないと言われる、致死率百パーセントの超高難易度ダンジョンだ。
「……なるほどな。その魔法を手に入れれば、あのピンクのガスも防げるってわけだ。よし、行くぞお前ら。ちょっくら散歩の時間だ」
陽がパンッと手を叩いて立ち上がると、三人の仲間は力強く頷いた。
「ええ! 陽さんとなら、どんな地獄の迷宮でも私の斧で切り開いてみせるわ!」
「私の聖なるバフがあれば、陽に指一本触れさせません。昨日の夜は、あんなにいっぱい触れ合いましたけど」
「うるさい聖女、いちいち昨日の話を持ち出すな。行くぞ」
『絶対死の迷宮』。
禍々しい瘴気が立ち込める入り口を前に、歴戦の冒険者たちですら恐怖で足がすくむというその場所で、勇者パーティの四人は――完全にピクニック気分だった。
「はぁぁぁぁッ!!」
ズバァァァァァンッ!!
シンディの振るう巨大な両手斧が、迷宮の第一層を守る体長十メートルの「地獄のケルベロス」を、文字通り一刀両断に粉砕した。
「……弱っ。なにこれ、スライム? 斧を振るう力加減が難しいわ」
シンディは物足りなそうに斧の血振りをする。
「次、行くわよ。邪魔しないで」
ピリカが杖を軽く振ると、第二層にひしめいていた数万匹の「即死の毒蜘蛛」の群れが、白銀の業火に包まれ、一瞬にして灰燼に帰した。
「ふふっ、私のバフ、全くいらないみたいですねぇ」
ライラは呑気に微笑みながら、陽の腕に豊かな胸を押し付けて歩いている。
「お前ら……マジでレベル99なんだな……」
陽は、あまりのオーバーキルっぷりにドン引きしながらボヤいた。
現世のゲームなら、間違いなくラスボス前の最強ダンジョン。だが、すでにステータスがカンストしているこの四人にとっては、ただの「少し埃っぽい地下道」に過ぎなかったのだ。
いかなる凶悪なトラップも、ライラの絶対防壁の前に無力化し、いかなる神話級の魔物も、シンディの物理とピリカの魔法の前に数秒で蒸発していく。
そして、わずか一時間後。
四人はあっさりと迷宮の最深部に到達していた。
そこには、迷宮の主である「深淵の邪神」が待ち構えていた。
『愚カナル人間ドモヨ……我ガ眠リヲ妨ゲル――』
「邪魔だ、どけ!」
ドゴォォォォォォンッ!!
陽がクレアの身体で放った聖剣の一撃。
ただ適当に横薙ぎに振っただけの剣閃が、圧倒的な光の奔流となって邪神の巨体を真っ二つに引き裂き、背後の迷宮の壁ごと吹き飛ばした。
『ギャアアアアアアアアアッ!?』
邪神は断末魔を上げる間もなく光に飲み込まれ、消滅した。
「……はぁ。あっけねぇ。俺、剣の素振りなんかしたことないんだけどな」
陽は肩をすくめた。勇者の身体のチート性能は、おっさんの想像を遥かに超えていた。
吹き飛んだ祭壇の跡地から、ピリカが古ぼけた一冊の呪文書を発見する。
「あったわ。これが『清浄なる絶対領域』よ。ライラ、あなたならすぐに習得できるはず」
「ええ、任せてください」
ライラが呪文書に触れると、光が彼女の身体に吸い込まれていく。数秒後、彼女は自信に満ちた妖艶な笑みを浮かべた。
「完璧です。これで、魔王のどんな快楽攻撃も結界で完全にシャットアウトできます。私たちの心と身体の純潔は守られます!」
「どの口が言ってんだ。お前が一番純潔から遠いだろ」
陽の的確なツッコミをスルーし、三人は「これで魔王に勝てる!」と歓喜の声を上げた。
だが、陽の顔は晴れなかった。
彼は腕を組み、難しい顔で眉間にシワを寄せた。クレアの美しい顔立ちでそれをやると、なんだかとても不釣り合いで、しかし妙な色気があった。
「……おい。本当にそれだけで、あのフタナリ魔王に勝てると思うか?」
「え?」
三人が振り返る。
「いいか? 相手は結界を張った上で、勇者の魂を喰らってパワーアップしたバケモノだぞ。こっちが結界でピンクのガスを防いだところで、それは『マイナスがゼロになった』だけだ。単純な殴り合いになった時、パワーアップした魔王を削り切れる保証はどこにもねぇ」
「それは……確かに」
「俺は現世で合気武道をやってきた。合気の極意ってのはな、ただ攻撃を防ぐことじゃない。相手の力を利用し、自分の力に変えて打ち返す『後の先』だ」
陽は、自らの豊かな胸に手を当てた。
「俺の中には、四十九年間生きてきたおっさんの泥臭い経験と知識がある。そしてこの身体は、魔王の薬のせいで常軌を逸した『超絶感度』を抱えたままのレベル99の肉体だ」
陽の碧眼が、ギラリと鋭く光った。
「防御するだけじゃジリ貧だ。魔王が快楽をエネルギーにしてるなら、こっちもそれを利用してやる。ピリカ、あのピンクの薬の成分……こっちでも再現できないか?」
「は!? な、なにを言ってるの陽! あんな危険な薬を、まさか使う気!?」
「ああ。あの薬の快感を、ただの『状態異常』として受けるんじゃねぇ。限界ギリギリの絶頂のエネルギーを、全て魔力や攻撃力に変換して魔王に叩き返す。……名付けて、『絶頂合気』だ」
「ぜ、絶頂合気……!?」
三人の顔が、驚愕と、そして隠しきれない期待で紅潮した。
「というわけで、拠点に戻ったら地獄の特訓の第二ラウンドだ。俺がこの身体の快感を完全にコントロールして力に変換できるようになるまで……お前ら、手加減するなよ」
「「「はいッ!!」」」
三人の美女の返事は、迷宮のボスを倒した時よりも遥かに気合が入っていた。
拠点に戻ったその日の夜から、真の特訓が始まった。
ライラが聖堂に防音と絶対安全の結界を張り、ピリカが迷宮の残骸から錬成した『擬似フタナリンドリンク』のガスを室内に充満させる。
シュゥゥゥゥッ……。
空間が、再びあの甘く脳を溶かすピンク色の瘴気に包まれた。
「くっ……! きた、これだ……っ」
ガスを吸い込んだ瞬間、陽の――クレアの身体がビクンッと大きく跳ねた。
全身の血が沸騰し、毛穴という毛穴から甘い匂いが噴き出す。胸の先が硬く尖り、身体の奥から熱いものが止めどなく溢れて、太腿を伝っていった。
「はぁっ、はぁっ、ああっ……!」
立っているだけで気を失いそうになる暴力的で凶悪な快感。
普通なら、ここで理性を失い、床を転げ回ってアヘ顔を晒すところだ。
だが、陽は違った。
(耐えろ……。現世で、保護者面談の理不尽なクレームに耐え続けたあのドス黒い忍耐力を思い出せ……! 祭に内緒で買った高い釣り具がバレた時の、あの絶体絶命の冷や汗を思い出せ……!)
「ふぅぅぅぅぅぅっ……!」
陽はゆっくりと長く息を吐き、合気の構えをとった。
襲い来る快感の波を、ただ真っ向から受け止めるのではない。波の力を丹田(下腹部)に集め、それを生命力と魔力に変換して全身の経絡へと回す。
ピカァァァァッ!
陽の全身が、黄金のオーラに包まれた。快楽のエネルギーが、物理的な戦闘力へと昇華された証だった。
「す、すごい……! あの致死量の快楽ガスを吸いながら、理性を保つどころかオーラに変えてる……!」
ピリカが震える声で実況する。
「よし……。第一段階クリアだ。次は、直接的な物理刺激だ。お前ら、こい!」
陽が挑発するように手招きした。
「「「いきますっ!!」」」
三人の欲求不満の美女たちが、獣のように陽に襲いかかった。
シンディが背後から陽を羽交い締めにし、その細マッチョな腕で陽の巨大な胸を力任せに揉みしだく。
「んほぉぉっ! 陽さん、すごい熱いよ! 私、もう我慢できないっ!」
「んぐっ、バカ、力強すぎ……っ、でも、この程度の刺激じゃ、俺の気は乱れねぇぞ!」
正面からは、ピリカが陽の脚の間に滑り込み、その小さな顔を内腿の奥へ深くうずめた。
「ちゅっ、ちゅるっ、れろぉっ……」
「ひゃああっ!? お、おいピリカ、お前昨日より舌の使い方が格段にエロくなって……あひぃっ、そこはダメだ、そこだけは……っ!」
「ふふっ、昨日あなたに教えられたデータを完璧にトレースし、さらに魔法で舌先の感触を最適化したわ! これでも耐えられるかしら!」
そこに、トドメとばかりにライラが迫ってきた。
彼女は自らの理想の聖女ボディを陽に密着させると、陽の唇を強引に奪った。
「んむっ!? んちゅっ、れろ、んぁあっ……」
深いキス。舌と舌が絡み合い、熱い吐息が混ざり合う。
ちゅぷっ、ちゅくちゅくっ……!
三人の執拗な責め苦が、陽の理性の防壁を削っていく。
シンディの両手が、後ろから陽の胸を包み込んだ。指の間からこぼれる柔らかな膨らみを、斧を握る握力のまま揉みしだき、硬く尖った先端を指先で転がす。
「陽さん、ここ、昨日よりもっと硬くなってる……っ。ガスのせい? それとも、私のせい?」
「ど、どっちも、だ……っ、ひぁっ……!」
脚の間では、ピリカの唇と舌がいっそう深く潜り込んでいた。ガスで感度を限界まで上げられた身体は、そのひと舐めごとに腰が跳ね、太腿が勝手に震える。湿った音が、静かな聖堂にやけに大きく響いた。
「データどおりよ。ここを、こうして……」
ピリカの細い指が、陽の奥の、いちばん弱いところを探り当てて、くい、と押し上げる。
「あ゛ぁぁっ!? そ、そこは、反則だろ……っ!」
「反則じゃないわ。昨日、あなたが私に教えた場所よ」
唇を塞いでいたライラが、ようやく口を離し、陽の耳元で囁いた。
「陽。……つらければ、言ってください。止めます」
「……っ、止めんな……! ここで止めたら、特訓に、なんねぇ……っ」
陽は歯を食いしばり、長く、長く息を吐いた。
「あぁっ、あぁぁぁっ、んっ、んくぅぅぅっ……!!」
陽の口から、ついに甘い嬌声が漏れ始めた。
碧眼の焦点が定まらなくなり、白目がちになる。全身の筋肉が弛緩し、ただ快楽を受け入れるだけの身体になりかける。
(ダメだ……イく……! このままじゃ、ただの乱交で終わっちまう……! 祭……俺は、俺は……!)
その瞬間、陽の脳裏に閃光が走った。
(――波に逆らうな。波に乗れ。相手の力を、己の力にしろ)
「……はぁっ、はぁっ……まだだ……! 俺は、イかねぇ……いや、イくけど、ただじゃイかねぇ!!」
陽は、限界まで達した絶頂のエネルギーを、強引に全身の魔力回路へと叩き込んだ。
「んぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッ!!!」
ドバァァァァァァァァァァァンッ!!!
陽が絶頂を迎えた瞬間、その身体から凄まじい衝撃波が爆発した。
黄金の光が聖堂を包み込み、巨大な竜巻となって吹き荒れる。
「きゃあああああっ!?」
「な、なにこれ!? 快楽のエネルギーが、純粋な破壊力に変換されてる!?」
「す、すごいです陽! なんて強大な、そして淫らな聖なる力……っ!」
三人は、陽が放った「絶頂のオーラ」の余波だけで、自分たちも強烈な絶頂の波に飲み込まれ、床に崩れ落ちてビクンビクンと痙攣した。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
光が収まった後。
そこには、全身から莫大な闘気と魔力を立ち昇らせる、大暮陽の姿があった。
クレアの美しい顔には、もはやだらしない快楽の表情はない。四十九歳の歴戦の男が持つ、鋭く冷酷な戦士の眼差しがそこにあった。
「……成功、だな。これが、俺の『絶頂合気』だ」
陽は、ぐっしょりと濡れそぼった太腿を拭うこともせず、ニヤリと不敵に笑った。
「魔王の攻撃を受ければ受けるほど、俺はイく。そしてイくたびに、俺は際限なく強くなる。あのフタナリ野郎、覚悟しておけよ」
それから数日間。
陽と三人の仲間たちは、狂ったように特訓を重ねた。
朝から晩まで、そして夜通し。
ピリカがガスの濃度を限界まで上げ、ライラとシンディがあらゆる手段を用いて陽を攻め立てる。
胸を揉まれ、敏感なところに口づけられ、裸の肌と肌をぬるぬると擦り合わせられながら、陽はその度に幾度も幾度も絶頂を迎え、そのすべてを力へと変換していった。
三人の仲間たちもまた、陽の「絶頂の余波」を浴び続けることで、魔王の快楽攻撃に対する強力な耐性と、桁外れの魔力を身につけていった。
もはや、どんな物理的刺激も、どんな強力な媚薬も、陽を「ただの快楽堕ち」にすることはできない。
彼にとって、快楽とは即ち「武器の弾薬」となったのだ。
そして、特訓最終日の朝。
「……仕上がったな」
朝日が差し込む聖堂で、陽は白銀の鎧を身に纏い、聖剣を腰に帯びた。
その後ろには、同じく装備を整え、決意に満ちた表情を浮かべるシンディ、ピリカ、ライラの三人が並んでいる。
四人の纏うオーラは、数日前とは比べ物にならないほど巨大で、そしてどこか甘く危険な香りを放っていた。
「陽さん。もう、準備は完璧ね」
シンディが、両手斧を肩に担いで微笑んだ。
「ええ。理論上、今の私たちなら魔王アイリーンを確実に討伐できるわ」
ピリカが丸眼鏡を光らせる。
「陽。私たちが、最後までお供します。あなたを、必ず現世の奥様のもとへ帰してみせます」
ライラが、胸の前で聖女の祈りを捧げた。
「ああ。ありがとな、お前ら。色々無茶苦茶なことさせちまったが……頼りにしてるぜ」
陽は、絶世の笑みを浮かべて見せた。
「さあ、行くぞ。あのフタナリ魔王をぶっ飛ばして、このクソみたいなバラエティ番組にエンドロールを流してやる!」
四人は、決意の足取りで聖堂を後にした。
目指すは、再びの魔王城。玉座の間で待ち受ける、魔王アイリーン。
中身はおっさんの美少女勇者と、欲求不満の最強パーティによる、真のリベンジマッチの幕が、今まさに切って落とされようとしていた。
* * *
天界の最上層、「モニタリングルーム」。
壁一面を覆う巨大モニターに、魔王城へと歩みを進める陽たちの凛々しい姿が映し出されていた。
「――はい、カットォォォッ!! よし、特訓編はここで終了だ! 次からいよいよ最終決戦編の収録に入るぞ!」
上級天使グリセリアが、丸めた台本で卓をバンバンと叩きながら怒鳴った。
「いやぁ、すげぇ数字だ! 『絶頂合気』完成の瞬間の瞬間最高視聴率、天界も魔界も過去最高をダブルスコアでぶち抜いたぞ!」
「いいですねぇ、本当に素晴らしいです」
最高位の女神エリシアが、肘掛け椅子で足を組みながら、手元の光るタブレットをスワイプして満足げに微笑んだ。
「四十九歳の高校教師……。中身はおっさんなのに、見た目は美少女。しかも妻への愛ゆえに快楽に耐え、それを力に変える。この泥臭さとエロスの融合、視聴者の心を完全に鷲掴みにしましたねぇ。スポンサーの神々からも、大量の投げ銭(奉納)が届いていますよ」
「カッカッカ……」
もう一人の上級天使ウレシリアが、死んだような目をモニターに向けたまま、喉の奥で不気味に笑った。
「防御の魔法を手に入れておきながら、あえて快楽をエネルギーに変換する道を選ぶ。……人間のオスとしての業の深さと、執念。私の企画した『天界どうでしょう!』の歴史に残る名シリーズになりましたね。おっさん、最高の実験体です」
「さぁて、次はあのフタナリ魔王との再戦だ!」
グリセリアがメガホンを握り直し、カメラマンの天使たちに指示を飛ばす。
「おい! 玉座の間に固定カメラ五台追加しろ! 絶頂合気が魔王にどう刺さるのか、一瞬たりとも逃すなよ! 視聴率はさらに倍増間違いなしだ!」
「ふふっ。陽さん、このまま番組を盛り上げて魔王を倒してくれたら、約束通り願いを叶えてあげますよぉ」
エリシアは、モニターの中の陽に向かって、悪戯っぽくウィンクをした。
「さあ、クライマックスの始まりです。私たちを、もっともっと楽しませてくださいねぇ」




