抱き枕の昼寝と、花火と日本酒のキャンプの夜
ヒューーーゥ……パンッ!!
不意に、腹の底に響くような破裂音が耳に届き、ヨウは深い眠りから意識を引き上げられた。
遠くから、波の音に混じって「わぁっ!」
「綺麗!」という複数の人々の歓声と笑い声が聞こえてくる。
ゆっくりと重い目を開けると、タープテントの奥のコット(簡易ベッド)の周辺は、すっかり薄暗くなっていた。
どうやら、昼下がりの仮眠のつもりが、夕方を通り越してすっかり夜になってしまったようだ。
周りの砂浜でキャンプをしている家族連れや友人グループが、各々持ち寄った花火を楽しんでいるのだろう。
その賑やかな音が、ヨウを現実に引き戻したのだ。
「……んあぁ?」
身じろぎしようとしたヨウは、自分の身体が身動き一つ取れないことに気がついた。
(……重いぞ。そして、無駄に柔らかいぞ……)
ヨウの身体の上に、まるで重たい掛け布団のように、妻の祭がドカッと乗っかっていた。
彼女の豊かな胸と柔らかいお腹が、ヨウの身体に密着している。
さらに、右腕にはアイリーンが、左腕には珠子が、それぞれヨウを抱き枕にするかのようにがっちりと抱きついていた。
金髪美少女勇者・クレアの肉体になってから数週間。
158センチの祭、180センチのアイリーン、170センチの珠子。
三人の美しい女性たちに四方八方から圧迫され、女の身体特有の甘い匂いと柔らかな感触に包まれている。
端から見れば天国かもしれないが、当のヨウにとっては暑苦しくて息が詰まる地獄のような状態だった。
「んんっ……」
ヨウがモゾモゾと動いたことで、上に乗っていた祭が寝ぼけ眼を開けた。
祭は、自分の下敷きになっているのがヨウだと気づくと、トロリとした甘い笑顔を浮かべた。
「んふっ……陽……」
祭は、まだ半分夢の中にいるような顔で、チュッ、とヨウの唇に軽いキスを落とした。
「はい、ありがとうね……旦那様……」
若返りの魔法で十代のようにピチピチになった肌をすり寄せてくる妻。
その可愛らしさに、ヨウが「お、おう」と照れくさそうに返事をしようとした瞬間。
「ハフッ、ハムッ……」
右側から、不意にゾクッとするような感触が走った。
アイリーンが、寝ぼけたままヨウの耳たぶを甘噛みしてきたのだ。
魔王の鋭い牙が、絶妙な力加減で耳の敏感な部分を刺激し、ヨウの背筋にゾワゾワとした変な感覚が駆け抜ける。
「ひゃうっ!? お前、どこ噛んでんだよ!」
ヨウが思わず情けない声を出して身をよじったことで、左側の珠子もハッと目を覚ました。
「……えっ?」
珠子は、自分がヨウの腕にしっかりと抱きつき、あろうことか顔を埋めていたことに気づいた。
バチッ、と目が合う二人。
「ご、ごめんなさい!!」
珠子は顔を真っ赤にして叫び、弾かれたようにバッと立ち上がった。
普段のクールで沈着冷静なエージェントの面影はどこにもなく、まるでパニックに陥った小動物のようにオロオロとしている。
「あ、違うの、これは……その、寝ぼけてて、クッションだと……!」
必死に弁解しようとする十九歳の元教え子に、ヨウは苦笑しながら起き上がった。
「謝ることはないぞ、珠子。お前は疲れてたんだから、ゆっくり寝ててよかったんだ」
ヨウは、珠子の頭をポンと優しく撫でた。
「問題はコイツらだ! 祭、アイリーン! いつまで寝ぼけてんだ、起きろ!」
ヨウは、上に乗っている祭の頬をムニッと挟み、右腕に張り付いているアイリーンをペシッと叩いた。
「お前達は、朝から海ではしゃいで、昼からビール飲んでバーベキューの肉を腹いっぱい食べて、ただ寝てただけだからな! 俺と珠子が汗水垂らして準備して片付けてる間に、どんだけ幸せな時間過ごしているんだよ!」
おっさん特有のボヤキとツッコミが、夜のテントに響き渡る。
目を覚ました祭は、ヨウの文句を聞いても全く悪びれることなく、満面の笑みを浮かべた。
「えへへ……幸せだよ。ありがとう、陽」
祭は、ヨウの首に腕を回し、もう一度チュッと音を立ててキスをした。
しかし、その直後、ハッと周囲を見回し、アイリーンと珠子がすぐそばで自分たちを見ていることに気がついた。
「あ、やだ……見られてた……っ!」
途端に顔を真っ赤に染めた祭は、「ちょっと外の空気吸ってくる!」と言い残し、逃げるようにテントから飛び出していった。
十年の付き合いになっても、人前で夫といちゃつくのは恥ずかしいらしい。
残されたヨウは、右腕にすっぽりと収まったまま、まだ「んむぅ……」と寝言を言っている元魔王に目を向けた。
「おい、起きろ。特大の居候」
ヨウは、アイリーンの白い頬を両手でムニィィッと左右に引っ張った。
「ふぁぁぁいっ!? い、痛いデス! 痛いデス!」
アイリーンはオッドアイに涙を浮かべ、頬を押さえながら抗議した。
「酷い、ヨウお姉さん……! 私、マツリサマト一緒ニ、夢ノ中デ、お肉食ベテタノニ……!」
「夢の中でも食ってんのかよ! 起きろ、外はもう真っ暗だぞ」
ヨウは立ち上がり、大きく伸びをしてからテントの外へと出た。
珠子とアイリーンも、その後を追って外に出る。
「うおおぉぉ……」
テントの外に広がっていたのは、昼間のギラギラとした夏の海とは全く違う、静寂と光に包まれた幻想的な世界だった。
海は穏やかで、波打ち際が白く泡立ちながら、ザザーッ、ザザーッと心地よいリズムを刻んでいる。
見上げれば、空には雲一つなく、北海道の澄んだ空気を通して、無数の星々が満天の星空となって輝いていた。
少し離れた砂浜では、他のキャンパーたちが手持ち花火を楽しんでおり、パチパチとはぜる光と、人々の笑い声が風に乗って聞こえてくる。
それはそれで、とても心地よい、夏の夜の情景だった。
「……綺麗だね」
珠子が、夜空を見上げながらぽつりと呟く。
「ああ。本当に綺麗だ」
ヨウも、海風に黄金の髪を揺らしながら深く息を吸い込んだ。
「さて……」
ヨウは、波打ち際から戻ってきた祭を交え、三人の女性たちに向き直った。
「祭〜、お前、明日のバイトはイタリアンだけだよな?」
「うん。明日は惣菜屋は休みで、17時までにイタリアンのお店に行けば大丈夫だよ」
「珠子は明日はどうなんだ? 結社の仕事は?」
「明日は急ぎの仕事はありません。お休みをいただいています」
珠子が静かに答える。
「よし。それなら時間はあるな」
ヨウは、ニカッと笑って提案した。
「夕食も、ここで食べていくか?」
その言葉に、三人の顔がパッと輝いた。
「「「賛成!!」」」
祭、アイリーン、珠子の三人が、まるで示し合わせたかのように同時に手を挙げた。
しかし、珠子がすぐに現実的な問題に気がついた。
「でもヨウ、食材は足りるかな? お昼のバーベキューでほとんど食べきっちゃったわよ」
「ああ。よし、この近くに塩谷の『トライアル』(24時間スーパー)があるだろ。ちょっと悪いんだけど、三人で買い出しをお願いしていいか? 俺はその間に、バーベキューの準備をしとくよ」
ヨウが頼むと、珠子は少し心配そうに眉を寄せた。
「えっ……でもヨウ、一度片付けた機材を、またセッティングするとなると、一人では時間がかかりますよ?」
「いや、多分買い出しの時間の方がかかると思うぞ。いいから行ってこい。車の運転ができるのは珠子しかいないんだ。祭とアイリーンのお守りを頼むぞ!」
その言葉に、祭がムスッと頬を膨らませた。
「ちょっと陽! 何々、私のこと完全に子供扱いしてない!? ぴちぴちの10代の肌に戻ったけど、中身はしっかり者の29歳よ! 私は!」
「ワタシは、300歳以上デス! 大魔王デス!」
「はいはい。頼むから余計なもん買ってくるなよ。いいから早く行ってこい!」
ヨウに追い立てられるようにして、三人はCX-60に乗り込み、スーパーへと向かっていった。
***
「……遅い」
砂浜に一人残されたヨウは、パラソルの下でポツンと座り、海風を浴びながらため息をついた。
珠子の言う通り、一人でのセッティングは少し手間取ったが、レベル99の勇者の腕力を持ってすれば、三十分もかからずに炭を熾し、完璧な準備を整えることができた。
しかし、買い出しに行った三人は、一時間経っても、一時間半経っても帰ってこない。
最初はスマホで時間を潰したり、砂浜で無意味に綺麗な貝殻を集めたり、夜の海に向かって水切りをして遊んだりしていたヨウだったが、さすがに一時間半が経過すると手持ち無沙汰になってきた。
「あいつら、スーパーで何やってんだよ……」
(……もしかして、事故にでも遭ったか? いや、珠子の運転なら大丈夫なはずだ)
ヨウは、一人でブツブツと呟きながら、砂浜をウロウロと歩き回る。
(……となると、祭とアイリーンのやつ、スーパーの試食コーナーを食い尽くして出禁になったか? それとも、あの二人が食べすぎでお腹を壊して、スーパーのトイレから出てこれなくなってるとか……!?)
四十九歳のおっさんの脳裏に、ろくでもないバカな妄想が次々と浮かんでくる。
(いやいや、しっかり者の珠子がついているんだ。あの二人の暴走だって止められるはず……だよな?)
少しだけ自信が揺らぐ。
待てば待つほど、妙な想像ばかりが膨らんでしまう。
「ハァ……一応、電話してみるか」
ヨウが諦めてスマホを取り出し、珠子の番号をタップしようとしたその瞬間。
ブォォォン……。
ようやく駐車場の方から、CX-60のヘッドライトの光が近づいてくるのが見えた。
「ただいまーっ!!」
祭を先頭に、両手に溢れんばかりのスーパーのレジ袋を抱えた三人が、砂浜を歩いて戻ってきた。
「おっそいぞお前ら! スーパー行くのにどんだけ時間かかってんだよ!」
「ごめんごめーん! トライアル、安くていろんなものがあるから、楽しくなっちゃって!」
祭がケロリとした顔で言いながら、レジ袋の中身をテーブルの上に広げ始めた。
その中身を見て、ヨウは頭を抱えた。
「おいっ……なんだこの余計なものの山は!?」
肉や野菜の他に、大量のスナック菓子、フルーツの盛り合わせ、アイスクリーム、さらにはなぜかシャボン玉セットや、手持ち花火の徳用パックまで入っている。
「お前らなぁ、余計なもの買ってくるなって言ったろ!」
「アイリーン、お前も魔王なら少しは止めろよ!」
「ヨウオネエサン、トライアルは、魔界の宝物庫より、素晴らしいデス! なんでもアリマス!」
珠子を見ると、彼女はスッと目をそらし、「……止められませんでした」と小声で言った。
これ以上ツッコミを入れたら、さらに時間がかかってしまう。
ヨウは深い深いため息をつき、ツッコミを飲み込むことにした。
「ハァ……まぁいい。で、メインの食材は?」
祭が取り出したのは、厚い塊肉ではなく、薄切りのカルビやロース、ウインナーなど、比較的焼くのに時間がかからない食材ばかりだった。
「なるほど、これなら焼くのに時間はかからないな。よし、俺と珠子でガンガン焼いていくから……」
ヨウが言いかけると、祭とアイリーンはすでに、買ってきた大量の手持ち花火の袋を開封していた。
「アイリーン、こっちの火、つけるよ!」
「ハイ! マツリサマ! コレ、キラキラシテ、綺麗デス!」
二人は、ヨウが熾した炭火からロウソクに火を移し、キャッキャとはしゃぎながら花火に火をつけ始めた。
シュワシュワと音を立てて火花が散り、赤や緑の鮮やかな光が、二人の美しい顔を照らし出す。
「……おいおいおい」
肉を焼きながら、ヨウは呆れたようにその光景を眺めた。
「29歳と、300歳以上の子供だよ、ありゃあ」
隣でトングを握る珠子にそうこぼすと、珠子はパチパチと燃える花火の光を見つめながら、フッと優しく微笑んだ。
「いいじゃないですか。2人とも、すっごく可愛い。……大人になってから、ああやって心から童心に戻れるのって、とてもいい事だと思うよ」
ヨウは、手にしたトングを珠子からひょいと奪い取った。
「ヨウ?」
「肉は俺が焼いとく。……お前も、一緒に行ってこい」
ヨウは、珠子の背中をポンと押した。
「えっ、でも私……」
「いいから! 一緒に花火、楽しんでこい!」
ヨウの強い言葉に背中を押され、珠子は少し戸惑いながらも、祭とアイリーンの輪の中へと歩いていった。
「あ、珠子ちゃん! こっちこっち! この線香花火、誰が一番長く落とさないか勝負しよ!」
「タマコ、コレ、凄ク大キイ火花デス!」
祭とアイリーンに両手を取られ、珠子の手にも花火が握らされる。
シュッ、と火がつき、パァッと光が弾けた。
「……わぁっ」
その瞬間、珠子の顔から普段のクールで大人びたエージェントの仮面が、ハラリと落ちた。
現れたのは、十九歳の少女らしい、純粋で、底抜けに明るい笑顔だった。
火花の色が反射する大きな瞳。
心から嬉しそうに綻ぶ口元。
裏社会の重圧など微塵も感じさせないその無垢な笑顔は、目を奪われるほど眩しく、ヨウが思わず見惚れてしまうような魅力に溢れていた。
夜の海。波の音。
そして、暗闇の中で弾ける色とりどりの花火の光。
その光に照らされる、祭、アイリーン、珠子の三人の女性。
彼女たちが心から波打ち際で花火を楽しむその情景は、まるで一枚の絵画のように完璧で、いつまでも眺めていたくなるような美しい景色だった。
ヨウは、焼き網の上でジュージューと音を立てる肉をひっくり返しながら、その光景をいつまでも、愛おしそうに眺めていた。
***
「よーし! 肉が焼けたぞー!」
ヨウの掛け声で、花火を終えた三人がテーブルへと集まってきた。
「いただきまーす!」
「イタダキマス!」
薄切りのカルビやウインナーは、炭火の香ばしさをまとって最高に美味しい。
昼間はビールを飲んでいた祭とアイリーンだが、今度は買ってきたレジ袋の中から、ガラス瓶を取り出してきた。
「ふふふっ、夜はやっぱりコレだよね!」
祭が取り出したのは、コルク栓のワインボトル。
アイリーンが取り出したのは、どっしりとした一升瓶の日本酒だった。
「……おいちょっと待て」
ヨウの顔が引き攣った。
「お前ら、それ本気で飲む気か!? 昼間も海で散々ビール飲んでただろ! さらにワインと日本酒って、どんだけちゃんぽんする気だよ! だいたい、泊まりじゃないんだぞ! 日帰りなんだぞ!」
ヨウが叫ぶと、祭はキョトンとした顔で首を傾げた。
「え? 何言ってるの陽。今日は泊まりだよ?」
「……はぁ!?」
ヨウが驚愕して周囲を見回すと、いつの間にかテントの中には、先ほどの買い出しで仕入れてきたらしい、薄手のシーツや寝具が綺麗に三組、敷かれていた。
さらに、テーブルの四隅には蚊取り線香が焚かれ、虫除けスプレーやランタンなどの夜営グッズが完璧に揃えられている。
「最初から、泊まる気満々だったのかよ!!」
ヨウが頭を抱えると、祭はワイングラスにワインを注ぎながらケラケラと笑った。
「買い出しの時に、三人でこっそり決めたのよ! だって、せっかくの海だもん。夜の海風に当たりながら、そのままテントで寝るなんて最高じゃない!」
「俺だけ仲間外れかよ! 珠子! お前も止めろよ! 明日は仕事休みだとしても、お前はいいのか!?」
ヨウが助けを求めると、珠子は紙コップに麦茶を注ぎながら、涼しい顔で答えた。
「いいよ〜。たまにはこういうのも、悪くないかなって」
完全に包囲網を敷かれている。
ヨウは、諦めきれないようにもう一つの重大な問題を口にした。
「いや、でも待てよ! 俺たち、昼間海に入って、砂まみれで、さらにバーベキューの煙も浴びてるんだぞ!? 風呂はどうするんだよ、風呂は!」
すると、三人は顔を見合わせて、ニヤッと笑った。
「あ、お風呂なら、もう行ってきたよ」
「行ッテキマシタ!」
「……は?」
祭が、悪気のない笑顔で答える。
「買い出しの途中でね、余市町にある『鶴亀温泉』に寄ってきたの! あそこの温泉、茶褐色ですっごく温まるんだよね〜。あー、サッパリした!」
「だからあんなに遅かったのかよ!!!」
ヨウのツッコミが、夜の海岸に木霊した。
スーパーの買い出しに一時間半もかかるわけがない。彼女たちは、買い出しのついでに、ちゃっかり温泉で汗を流してサッパリして帰ってきていたのだ。
「俺は!? 俺はどうすんだよ! 俺だけ砂まみれの煙まみれじゃねぇか!」
ヨウが涙目で抗議すると、祭はワインを一口飲んでから、不思議そうに首を傾げた。
「えー? だって陽、中身は男なんだから、1日くらいお風呂に入らなくても大丈夫でしょ?」
「今は女の身体だよ!! こんな長い金髪に煙の匂いが染み付いて、俺だけ臭いだろが!」
ヨウが自分の髪を掴んで絶叫する。
すると、日本酒を美味しそうにちびちびと飲んでいたアイリーンが、ポンと手を打った。
「ヨウオネエサン。人間タチノ匂イヲ消ス、魔法ガ、あるハズです」
「えっ、マジで!?」
ヨウは、藁にもすがる思いで自分のスキルの海へと意識をダイブさせた。
「えーと、検索、検索……匂い消し、消臭……あった! これだ! 『清浄なる風』!」
ポワンッ。
淡い光がヨウの身体を包み込み、一瞬にして、髪や服に染み付いていたバーベキューの煙の匂いや、汗の酸っぱい匂いが完全に消え去った。
「おおおっ! 匂いは完全に消えた! 便利だな、おい!」
ヨウは喜んだが、すぐに自分の肌を触って顔をしかめた。
「でもこれ、匂いが消えただけで、海水のベタベタとか砂のゴワゴワ感は落ちないのな……。風呂魔法はないのか? えーと、検索検索検索……『極大水流』……ダメだ、テントごと吹き飛ぶ! 『聖なる浄化の炎』……俺が燃えるわ! ……うーん、もういいわ。匂いが消えただけ良しとする!」
ヨウは、完全にヤケクソになっていた。
どかっと椅子に座り直すと、アイリーンが買ってきた一升瓶をガシッと掴んだ。
「こうなったら、俺も楽しんでやる!」
ヨウは、紙コップになみなみと日本酒を注ぎ、グイッと一気に煽った。
「くぅ〜っ! 効くぜ! やっぱり外で飲む酒は格別だな!」
おっさんのように豪快に酒を飲む絶世の金髪美少女。
そのギャップに、祭と珠子は顔を見合わせて、耐えきれずに吹き出した。
「あはははっ! 陽、すっごいオヤジ臭い!」
「ふふっ……」
笑い合う妻と教え子。
その横で、アイリーンは、ヨウの酒の飲みっぷりに少しだけ心配そうな顔をした。
「ヨウオネエサン、ダイジョウブ、ですか……?」
「おー、大丈夫だ! ほら、アイリーン! お前も飲め飲め!」
ヨウは、上機嫌でアイリーンの紙コップにも日本酒をドバドバと注いだ。
「イタダキマス……」
アイリーンは、恐る恐る日本酒を口に運んだ。
そして、ヨウに注がれるがままに飲んでいるうちに、顔がほんのりと赤く染まり、やがて「フフフッ」
「アハハハッ」と、機嫌よく笑い始めた。
波の音が静かに響く、塩谷海岸の夜。
ランタンの温かい光に照らされたタープテントの下で、四人の奇妙で、けれど最高に幸せな宴は、夜更けまで賑やかに続いていった。




