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異世界で魔王を倒したら、金髪碧眼の美少女になって日本に帰ってきた件  作者: もも


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妻の告白と、四人の水着選び

八月の上旬。


小樽の街に、夏の夕暮れが近づきつつあった。


昼間の強烈な熱気を孕んだ太陽が西の空へと傾き、運河の水面をオレンジ色に染め上げている。


開け放たれた窓からは、海風と共にヒグラシの鳴き声が響いてきていた。


安アパートの八畳の居間。


ラーメンの食べ歩きという念願の外食イベントを終え、アパートに帰還した大暮ヨウは、扇風機の風を真正面から浴びながら、畳の上で大の字になっていた。


魂がクレアの肉体に入ってしまって数週間。満腹の腹をさすりながら、ヨウはおっさん特有の気怠い息を吐き出した。


「はぁ〜、食った食った。やっぱりラーメンライスは最高だな」


その隣では、元魔王アイリーンが、再びちゃぶ台に向かって小学生の漢字ドリルと格闘していた。


『ラーメン』


『海』


『美味シイ』など、今日体験した言葉や、これから体験したい言葉を、不器用な手つきで何度もノートに書き連ねている。


「お前、本当に勉強熱心だな。休まなくていいのか?」


「ハイ! 言葉、覚エルノ、楽シイデス! マツリサマト、タクサン、お話し、シタイデス!」


アイリーンが満面の笑みで振り返る。オッドアイの瞳が、西日を反射してキラキラと輝いていた。


その忠犬のような愛らしさに、ヨウが苦笑いを浮かべたその時だった。


ガチャリ、と勢いよく玄関のドアが開く音がした。


「ただいまーっ!!」


底抜けに明るく、そしてどこかテンションの高い声。


昼の惣菜屋のパートを終えた妻の祭(マツリ)が、弾むような足取りでリビングへと飛び込んできた。


「おう、祭! おかえり。今日は早いな。夜のイタリアンは休みか?」


「マツリサマ! オカエリナサイマセ!」


ヨウとアイリーンが振り向くと、祭はスーパーの買い物袋を床にポイッと置き、目をキラキラさせて両手を腰に当てた。


「ねぇ、陽! アイリーン!」


「ん? どうした、そんなに息巻いて」


「いきなりだけど、明日、海に行こう!!」


祭の突飛な提案に、ヨウはぽかんと口を開けた。


「……は? 海? 明日?」


「そう! 海! 青い空、白い雲、そして波の音! 小樽といえば海でしょ! 明日、私イタリアンのバイトも休みになったから、完全オフなの! だから海に行くの!」


「いやいやいや、ちょっと待てよ祭」


ヨウは、半ば呆れたように身を起こし、首を振った。


「お前、海に行こうって言うけど……泳げないのにな!」


ヨウの的確なツッコミ。


そうなのだ。祭は合気武道の達人で、喧嘩もめっぽう強く、陸上では無敵の物理アタッカーなのだが、水泳だけは全くダメなのだ。


かつて新婚旅行で沖縄に行った際も、浮き輪にしがみついてプルプルと震えていたのをヨウはよく覚えている。


「海好きだよな、泳げねぇくせに」


「うるさいなぁ! 海は見るもの! そして、波打ち際で少しだけパシャパシャと入るもの! ガチで泳ぐものじゃないんですぅー!」


祭はプクッと頬を膨らませて抗議すると、突然、着ていたTシャツの裾を掴み、バサッと勢いよく脱ぎ捨てた。


「おわっ!? お前、何してんだよ!」


さらに、タイトなジーンズのボタンを外し、それもスルリと脱ぎ捨てる。


夕日の差し込むリビングの真ん中で、祭はあっという間に上下揃いの、淡いピンク色のセクシーな下着姿になってしまった。


身長158センチと小柄ながら、豊かな胸と大きなお尻を持つ、驚くほどメリハリのあるセクシーボディが、惜しげもなく晒される。


「ちょ、ちょっと祭! カーテン開いてるぞ! 外から見えたらどうすんだ!」


「いいの! 誰も見てないわよ!」


祭は全く気にする素振りも見せず、部屋の隅にある大きな姿見の前に立ち、腰をくねらせてポーズをとった。


鏡に映った自分の姿を見つめ、祭はしばらく黙っていた。


「ねぇ、見てよ。陽」


祭の声が、少しだけ真剣な、そしてどこか切実な響きを帯びた。


「陽の魔法で、肌も髪も、完全に綺麗に戻ったのよ」


祭は、自分の白く滑らかな二の腕や、ハリのある太腿を愛おしそうに撫でた。


「陽が倒れてからね……私、ずっと病院に通って看護して、夜はバイトを掛け持ちして……。心労と、治療費のためのお金の無心で、本当にボロボロだったんだから」


姿見に映る自分の顔をじっと見つめながら、祭の言葉が夕暮れの部屋に静かに落ちる。


「毎日疲れ切ってて、髪には白髪が何本も混じるようになるし、肌はカサカサで化粧ノリも最悪。……おまけに、ストレスで十円ハゲみたいな円形脱毛症にもなったんだよ。まだ二十代なのに、すっかり老け込んじゃったって、毎晩鏡を見るたびに泣きそうだったんだから」


その言葉に、ヨウの胸がギリッと痛んだ。


植物状態になっていた自分を支えるため、愛する妻がどれほどの地獄を味わっていたのか。明るく振る舞う裏で、どれだけ身を削っていたのか。


「でも……見てよ」


祭はクルリと振り返り、満面の、太陽のような笑顔をヨウに向けた。


「綺麗になったでしょ! あの魔法のおかげで、10代の頃みたいに肌はピチピチだし、髪もツヤツヤ! だから……この綺麗な私で、どうしても海に行きたいの!」


ヨウは、息を呑んだ。


夕日を背に受けて下着姿で立つ妻は、本当に、言葉を失うほど美しかった。若返った肉体だけでなく、内側から溢れ出るような生命力と喜びに満ちている。


ヨウは、四十九歳のおっさんとしての深い反省と、夫としての不甲斐なさを噛み締めながら、畳に正座して深く頭を下げた。


「……あっ、はい。ごめんなさい。綺麗です」


ヨウの声は震えていた。


沢山の苦労をかけた事を、あらためて思い知る。自分が倒れたせいで、この愛らしい妻にどれほどの負担を強いたのか。


「本当に、ごめん。祭。俺が不甲斐ないばかりに、お前に苦労ばっかりかけて……」


「もう、謝らないでってば。陽が生きて帰ってきてくれたんだから、それだけで全部チャラよ!」


祭が明るく笑い飛ばしたその時、横からひょっこりとアイリーンが顔を出した。


「マツリサマは、トテモ綺麗です! 可愛い、です!」


オッドアイをキラキラと輝かせ、純粋な称賛の言葉を口にするアイリーン。


しかし、祭はその言葉を聞いて、少しだけ複雑そうな顔をして腕を組んだ。


「なんか……二人に言われると、褒められてる気がしないのよね」


「えっ?」


「だって、二人とも規格外の絶世の美女じゃない」


祭がジト目でヨウとアイリーンを交互に睨む。


確かに、現在のヨウ(クレアの肉体)は175センチのモデル体型で、誰もが振り返る金髪のスーパー美女だ。


アイリーンに至っては180センチの魔王ボディであり、色気と威厳が同居する圧倒的な美の化身である。


そんな二人に褒められても、158センチの童顔である祭からすれば、少なからず乙女心の複雑なコンプレックスが刺激されてしまうのだ。


「陽の身体、腹立つくらい綺麗なんだもん。脚長いし、おっぱい大きすぎるし」


「いやいやいや! ちょっと待ってくれよ祭!」


ヨウは慌てて手を振った。


「俺だって、好きでこの身体になったんじゃないんだけどなー! 中身はおっさんなんだぞ!? そういえば、珠子にもこの間、同じようなこと言われたな……『ヨウに言われても嫌味』って」


「ほら、珠子ちゃんもそう思ってるんじゃない! やっぱり嫌味だわ!」


「違うって! 俺はお前のその、ちょっとムチッとした体型の方が……痛っ!」


ヨウが余計なことを言いかけた瞬間、祭の放ったクッションがヨウの顔面にクリティカルヒットした。


「ムチッとしてて悪かったわね!」


すると、アイリーンが慌てたように二人の間に割って入った。


「チ、チガイマス、マツリサマ! 私は、絶世の美女、です。自分で言うのもナンですが、魔界一の美女でした! でも!」


アイリーンは、祭の両手をギュッと握りしめ、真剣な顔で力説した。


「マツリサマの『可愛い』には、敵いません! 本当に、可愛いです! ゴシュジンサマも、私も、マツリサマのその可愛さに、メロメロなのですぅ!」


「アイリーン……」


アイリーンの真っ直ぐすぎる言葉に、祭は毒気を抜かれたようにふっと表情を和らげた。


「……もう、調子いいんだから。アイリーンにそう言われると、許しちゃうじゃないの」


祭は照れ隠しのようにアイリーンの頭をポンと撫でると、クルリと振り返ってクローゼットを開けた。


「よし、決まり! それじゃあ、水着買いに行きます!」


「……は?」


ヨウは耳を疑った。


「今から?」


「そう、今から! 明日海に行くんだから、今日水着を買わないと間に合わないでしょ!」


「いやいや、もう夕方だぞ!?」


ヨウが時計を指差す。時刻は午後四時を回ろうとしていた。


そのやり取りを聞いていたアイリーンが、不思議そうに首を傾げた。


「海は、行きたいです。……でも、水着、とは何ですか?」


挿絵(By みてみん)



「海に入るための特別な服だよ。アイリーンも買うの!」


「海のための、服! 欲しいです!」


アイリーンが目を輝かせる。


ピンポーン。


その時、絶妙なタイミングでアパートのチャイムが鳴った。


祭が「はーい!」と勢いよく玄関のドアを開けると、そこには、白いブラウスに涼しげなワイドパンツを合わせた、古神道結社エージェントにしてヨウの元教え子、葉室珠子が立っていた。


「あ、珠子ちゃん! 待ってたよ!」


「お邪魔します、祭さん。……さあ、行きましょう」


珠子は、クールな表情を崩さずに、手にしていた車のキーをチャラリと鳴らした。


「……は? 行きましょうって、どこに?」


リビングから顔を出したヨウが、状況が読めずに首を傾げる。


祭はニヤリと笑って、両手を腰に当てた。


「札幌よ! ALBOVE 札幌三越店とか、San-ai Resort northerly 札幌アピア店とか、サッポロファクトリーとかに行くの!」


「さ、札幌!? 今から!?」


「そうよ! だって、二人とも長身で胸も大きいでしょ? 普通の水着じゃ選べる種類が少ないのよ! 小樽の普通の店じゃ、好きなデザインがないかもしれないでしょ! だから、種類が豊富な札幌の大きなショップに行くの!」


「いや、だからって、今はもう四時だよ! これから札幌まで車出して、店回ってたら夜になっちまうぞ!」


ヨウが必死に抵抗を試みる。四十九歳のおっさんにとって、夕方からの急な遠出、しかも女性の水着売り場に付き合わされるなど、苦行以外の何物でもないのだ。


しかし、珠子が冷ややかな、けれどどこか楽しそうな視線をヨウに向けた。


「まだ四時でしょ! ヨウ、行くの!」


タメ口で、ピシャリと言い放つ珠子。


彼女もまた、ヨウや祭と一緒に海に行ける(そしてヨウの水着姿が見られる)というイベントに、内心では並々ならぬ気合が入っているのだ。


「サッポロ! 前に行った、キラキラした街! 行きたいです!」


アイリーンも、前回の札幌での買い物の興奮を思い出し、バンザイをして賛成している。


「ほら、陽! 行くよ!」


祭が、ビシッとヨウを指差した。


「……10代の肌を取り戻して、最高に綺麗になった奥さんの水着姿、見たくないのかしら?」


妖艶に微笑みながら、小悪魔のように首を傾げる祭。


その言葉と仕草に、ヨウのおっさんの魂は、見事に、そして完全に撃ち抜かれた。


「……見たいです」


即答だった。


もう、ヨウには「札幌へ行く」という選択肢しか残されていなかった。


祭たちは慌ただしく準備を整え、珠子の車に乗り込んだ。



***



「はぁ……なんで俺が、こんな場違いなところに……」


一時間後。


珠子の運転するCX-60で高速道路を飛ばし、一行は札幌駅の地下に広がる巨大なショッピングモール、アピアへと到着していた。


その中の一角、華やかな最新トレンドの水着がズラリと並ぶ『San-ai Resort northerly』の店舗前で、ヨウは柱の陰に隠れるようにして身を縮めていた。


挿絵(By みてみん)



店内には、色とりどりのビキニやワンピース水着が飾られ、若い女性客たちが楽しそうに品定めをしている。


いくら現在の自分の姿が金髪の絶世の美女だとはいえ、中身は四十九歳の元高校教師である。


若い女の子向けのフリフリな水着や、露出度の高いビキニが並ぶ空間に足を踏み入れるのは、精神的なハードルが高すぎた。


「ヨウ、何やってるの。早く入りなさいよ」


珠子が、呆れたようにヨウの腕を引っ張る。


「無理無理無理! 俺、こういうキラキラした店、ダメなんだよ! 男の魂が拒絶反応を起こしてんだよ!」


「何バカなこと言ってるの。ヨウの水着も買うんだから、ちゃんと選んで」


「俺は短パンとTシャツでいい! 絶対水着なんか着ないからな!」


ヨウが柱にしがみついて抵抗していると、店内から祭とアイリーンが顔を出した。


「あーっ、陽と珠子ちゃん、遅い! 早く早く!」


祭に腕を引っ張られ、ヨウはついに眩い水着の園へと引きずり込まれてしまった。


挿絵(By みてみん)



「うわぁぁぁ……目がチカチカする……」


「ヨウオネエサン! これ、見てください! 布が、ほとんどありません!」


アイリーンが、興奮気味に手に取ったのは、鮮やかな真紅のマイクロビキニだった。


挿絵(By みてみん)



三角形の小さな布切れと、細い紐だけで構成された、防御力も布面積も限りなくゼロに近い代物である。


「バカッ! そんなの着るな! お前のその魔王ボディでそんなの着たら、海水浴場がパニックになるだろうが!」


「えー? でも、動きやすそうです」


「動きやすさの問題じゃねぇ! 日本のコンプライアンスの問題だ!」


ヨウが慌ててマイクロビキニをハンガーに戻す。


「アイリーンさんには、こういうパレオ付きのセパレートタイプとか、エレガントなリゾート系の水着が似合うと思いますよ」


珠子が、冷静な目で大人っぽい黒のホルターネックのビキニと、透け感のあるパレオのセットを選んできた。


「おお……さすが珠子。センスいいな。それなら露出も抑えられるし、アイリーンの高身長にも映えそうだ」


「クロ、カッコイイです! これ、試着、シテキマス!」


アイリーンは、珠子の選んだ水着を手に、嬉しそうに試着室へと消えていった。


挿絵(By みてみん)



「さて、次は私ね!」


祭は、ハンガーラックの間をウキウキと見て回っている。


「陽、どっちがいいと思う?」


祭が両手に持ってヨウの前に突き出したのは、二つの水着だった。


一つは、白いフリルがたっぷりついた、清純で可愛らしいオフショルダーのビキニ。


もう一つは、祭のスタイルを強調するような、深いグリーンの大人っぽいクロスビキニだ。


「うっ……」


ヨウは、おっさんの視点で真剣に悩んだ。


(白い方は、若返った今の祭の童顔にピッタリ合ってて、間違いなく可愛い。でも、グリーンのクロスビキニは、祭のセクシーなボディラインを最高に引き立てて……たまらん!)


「……どっちも、似合うと思うぞ」


ヨウが鼻の下を伸ばして答えると、祭は「もう、役に立たないなぁ」と笑いながらも、どこか嬉しそうだった。


「じゃあ、両方試着してみる! 珠子ちゃんも、自分の選びなよ!」


挿絵(By みてみん)



「私は、これにします」


珠子が手にしていたのは、スポーティなネイビーのタンキニ(タンクトップとビキニボトムのセット)だった。


肌の露出を極力抑えつつも、彼女の鍛え抜かれた無駄のないスタイルに似合いそうな、機能的でクールなデザインだ。


「お前らしいな。でも、せっかく海に行くんだから、もう少し明るい色でも……」


「いいんです。私は、ヨウと皆さんが安全に海を楽しめるよう、監視と護衛がメインですから。いざという時に動きやすい服装でないと」


エージェントとしての職業病をのぞかせる珠子に、ヨウは苦笑した。


「……さて、残るは陽ね」


試着室からひょっこりと顔を出した祭が、ニヤリと悪い笑顔を浮かべた。


「ひっ」


「陽のサイズ、やっぱり普通のラックじゃなかなか見つからないねぇ。……すいませーん、店員さん! この子のサイズで、一番可愛い水着、ありますか!?」


祭が店員を呼び止める。


「ちょ、祭! やめろって! 俺は水着なんて着ないって言ってるだろ!」


「ダメよ! 海に行くのに、水着を着ないなんて許しません! ほら、これなんかどう!? パステルブルーの、胸元にフリルがついたビキニ!」


「ふざけんな! そんなブリブリの可愛いヤツ、四十九歳のおっさんの精神が崩壊するわ!」


ヨウが必死に逃げようとするが、背後から珠子がガシッとヨウの両腕をホールドした。


「ヨウ、往生際が悪いですよ。観念してください。……私も、ヨウの可愛い水着姿、見たいですから」


「珠子まで!? お前、俺の味方じゃなかったのかよ!」


「お客様、こちらのデザインでしたら、LLサイズまで展開がございますよ。お客様の長身でいらっしゃれば、少しハイウエストのボトムスを合わせると、脚長効果もあって素敵だと思います」


笑顔で完璧な提案をしてくる店員さん。


「ほら、プロのお墨付きよ! 試着室へゴー!」


「いやぁぁぁぁっ! ディレクターのバカヤロォォォォォッ!!」


ヨウの悲痛な叫び声が、札幌アピアの水着売り場に虚しく響き渡った。



***



「……どうだ?」


数分後。


試着室のカーテンが恐る恐る開かれ、ヨウが真っ赤な顔をして姿を現した。


パステルブルーのビキニは、ヨウの抜けるように白い肌と黄金の髪に、憎らしいほど見事にマッチしていた。


胸元のフリルが、その圧倒的なボリュームを辛うじて包み込んでいるが、隠しきれてはいない。


そして、店員の言う通り、ハイウエストのボトムスが、175センチのモデル体型の脚の長さをさらに際立たせていた。


「…………」


その場にいた三人が、一瞬言葉を失った。


店員まで、思わず目を見開いている。


「おい、なんか言えよ! 似合ってねぇならすぐ脱ぐからな!」


ヨウが恥ずかしさのあまり両手で顔を覆うと、祭がプルプルと震えながら口を開いた。


「……陽」


「なんだよ」


「……めちゃくちゃ、腹立つくらい、似合ってる……。すっごく、綺麗で、エロい……!」


「だから俺は嫌だったんだよ!」


ヨウが涙目で叫ぶ。


『ヨウオネエサン! スバラシイデス! 女神ノヨウデス!』


「先生……本当に、お美しいです……」


アイリーンと珠子も、顔を赤らめながら絶賛の言葉を口にする。


「……もう、これでいいだろ! 早く脱いで帰るぞ!」


ヨウは逃げるように試着室のカーテンを閉めた。


中身が四十九歳のおっさんである彼にとって、自分のこの姿を鏡で直視するのは、一種の拷問に近かった。


その後、祭はグリーンのクロスビキニを、アイリーンは黒のホルターネックを、珠子はネイビーのタンキニをそれぞれ購入し、一行は大量のショッピングバッグを抱えて店を後にした。



***



気がつけば、時計は夜の八時を回っていた。


帰りのCX-60の車内。


すっかり日が落ちて、窓の外には石狩湾沿いの暗い海と、街の夜景が流れている。


「あー、疲れた。まさか水着買うだけでこんなに体力使うとはな」


助手席でぐったりとシートに沈み込むヨウ。


「ふふっ。でも、みんなお気に入りの水着が買えてよかったじゃない。ねぇ、アイリーン?」


後部座席に並んで座る祭が笑いかけると、隣のアイリーンが元気よく頷いた。


「ハイ! 私、水着、着るの、楽しみデス! 明日、海! 海!」


「ヨウのブルーのビキニも、本当に似合ってましたよ。明日の海が、ますます楽しみになりました」


運転席の珠子も、バックミラー越しに微笑んでいる。


「お前らなぁ……俺の精神的ダメージを少しは労れよ」


ヨウはブツブツとボヤきながらも、窓の外の暗い海を見つめた。


(……まぁ、でも)


若返って、最高の笑顔を見せてくれた祭。


初めての海にワクワクしているアイリーン。


そして、いつもクールなのに、どこか嬉しそうな珠子。


(こいつらがこんなに楽しそうにしてるんだから、たまにはこういうのも、悪くねぇか)


「よし!」


ヨウは、パンッと両手を叩いて気合を入れた。


「明日は朝から海だ! 思いっきり遊ぶぞ! ただし、俺は日陰でパラソルの下にいるからな!」


「何言ってるの、ヨウも一緒に波打ち際で遊ぶのよ!」


「イヤだ! 日焼けする!」


車内に、四人の賑やかな笑い声が響き渡る。


夏の夜のドライブは、明日の海への期待を乗せて、小樽への帰路を軽やかに走り続けていた。

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