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異世界で魔王を倒したら、金髪碧眼の美少女になって日本に帰ってきた件  作者: もも


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幕間「天界どうでしょう!」第一部編――小樽どうでしょう、始まりました

天界の最上層、「モニタリングルーム」。


壁一面の巨大モニターには、小樽の安アパートの、八畳の居間が映っている。


その真ん中で頭を抱えているのは、金髪碧眼の絶世の美女――大暮ヨウ。


「――はい、第一部、ここまでぇぇっ!! お疲れ様でしたァァッ!!」


チーフディレクターの上級天使フュジェモンが、丸めた台本で編集卓をバンバンと叩いた。


「ガハハハハッ! いやぁ、撮れた撮れた! 魔王討伐から小樽帰還、戸籍づくりに温泉まで! 第一部、撮れ高の山だぞこれは!」


「……あのぉ、フュジェモンさん。声、もう少し小さくなりませんかねぇ」


肘掛け椅子にぐったりと沈んでいるのは、最高位の女神エリシアだ。


純白のドレスに、まばゆい後光。見た目は神々しいが、顔色は青白い。


「異世界と現世を行ったり来たりで、私、まだ次元酔いが抜けてないんですよぉ……」


「何言ってんですか女神様! ほら、糖分糖分! 天界名物『後光まんじゅう』!」


「いりません。もう甘いものは見たくないんですよぉ」


「はい、あーん!」


「むぐっ!?」


有無を言わさず、まんじゅうが女神の口にねじ込まれた。


「カッカッカ……」


部屋の隅で、メインカメラマンの上級天使ウレシリアが、目を閉じたまま喉の奥で笑った。


もちろん、カメラは回っている。


「振り返りの収録も、番組の一部ですからねぇ」


「ふぇれしりあふぁん、ほらなふていいんれふよぉ……」


「何言ってるか分かりませんねぇ。いい画です」


フュジェモンがリモコンを押すと、モニターに第1話の映像が流れ始めた。


「まずはこれだ! 勇者クレア一行、魔王アイリーンに完敗!」


「あそこから全部始まったんですよねぇ。クレアちゃんの魂が喰われて、器だけが残っちゃって」


「で、そこに放り込んだのが――」


モニターが切り替わる。


ナイター中継を見ながらビールを飲んでいた四十九歳の高校教師が、胸を押さえて倒れる映像。


「大暮陽、四十九歳! 植物状態からの大抜擢!」


「抜擢って言うんですかねぇ、あれ……」


エリシアが、申し訳なさそうに眉を下げた。


「奥さんのところに帰りたい一心で、契約してくれたんですよぉ。私、正直、胸が痛かったんですから」


「でも女神様、『送っちゃうから、がんばってね〜!』って言ってましたよね。満面の笑みで」


「あれは台本です! フュジェモンさんが書いたんですよぉ!」


「ガハハハハ! 書きましたねぇ!」


「カッカッカ。台本どおりに人を落とし穴に落とせるんですから、女神様もなかなかですよ」


「次! 大暮さん、『絶対死の迷宮』を一時間で踏破!」


「早すぎて、こっちのロケ隊が追いつかなかったんですよねぇ」


「そして編み出したのが、必殺『絶頂合気』だ! 瞬間最高視聴率、天界も魔界も過去最高!」


「その技の名前、地上波では言えないんですよぉ……」


「快楽を魔力に変える。人間のオスの業の深さが、あそこまで技として完成するとは思いませんでした。あれは芸術ですよ」


ウレシリアが、閉じた目のまま、しみじみと言う。


「芸術って言えば、何でも許されると思ってません?」


「思ってますねぇ」


「そして魔王陥落! しかも殺さずに下僕!」


「クレアちゃんの魂が解放されて、『ありがとう、おじさま』って……。私、あそこで泣いたんですよぉ」


エリシアがハンカチで目元を押さえる。


「女神様、あれは泣いていいところです。俺も泣きました」


「フュジェモンさんも?」


「数字が良すぎてな!」


「そっちですかぁ」


「そして問題の第5話だ!」


フュジェモンが身を乗り出す。


「元の身体が消えちゃったんで、美少女勇者のまま小樽に強制送還! ガハハハハ!」


「笑い事じゃないですよぉ。あれ、完全にこっちの不手際じゃないですか」


「でも女神様、明るく誤魔化してたじゃないですか。『送り返しちゃいまーす!』って」


「……あの時は、ああ言うしかなかったんですよぉ」


エリシアは、遠い目をした。


「大暮くん、最後に『ディレクターのバカヤロォォォッ!!』って叫んでましたねぇ」


「最高の締めでしたね。カッカッカ」


モニターには、小樽のアパートで、鉄のフライパンを振りかぶる黒髪の女性が映っていた。


「出たぁ! 奥さん! 大暮祭、二十九歳!」


「『このクソボケガエルがァ』……あの一撃、魔王の攻撃より効いてましたよねぇ」


「でも、鼻を二回つついて『ブタっぱな』。あれで本人確認しちゃうんですよ」


ウレシリアが、ぼそりと言った。


「顔も声も身体も全部変わったのに、夫婦の儀式ひとつで分かる。……人間の『本人』って、案外そういうところにあるのかもしれませんねぇ」


「急に深いこと言うのやめてくださいよぉ」


「カッカッカ」


「そこへ魔王が転がり込んでくる! 下僕印のパスを辿って!」


「最初は念話しかできなくて、幼児向けのアニメで日本語を覚えて……健気でしたねぇ」


「で、家計は貯金三万二千円!」


「現実が重いんですよぉ……。私、女神なのに、あの家の通帳を見て胃が痛くなりました」


エリシアは、お腹をさすった。


「絶世の美女が、魔王にフォークでシャケ弁当を食べさせる。……あれも、いい画でしたね」


「そして新ヒロイン! 元教え子の巫女さん、葉室珠子!」


フュジェモンのメガホンが唸る。


「雪の運河のコーンスープの話で、先生だって分かっちゃうんですよねぇ。初恋の人ですよ、初恋の」


「で、市役所で新しい戸籍! 『大暮ヨウ』! しかも奥さんの義理の妹!」


「もう『陽』さんじゃなくて、『ヨウ』さんなんですねぇ」


エリシアが、しみじみと言った。


「名前がカタカナになっただけで、だいぶ雰囲気が変わりますよねぇ。……カタカナだけに、肩の荷が、かたっと下りた、なんて」


シーン。


編集室が、静まり返った。


「……」


「……」


「……今のは、なかったことにしてください」


「カッカッカ。ちゃんと撮りましたよ」


「消してくださいよぉ!」


「お揃いのブレスレット! すすきののひつまぶし! 朝里川温泉! そして第一部のラストは――」


モニターに、八畳の居間で頭を抱えるヨウが映る。


「学歴ゼロ! 派遣の仕事は美人すぎてどれも続かない! 高認の参考書代すらない! ガハハハハ!」


「笑わないであげてくださいよぉ。大暮くん、本当に真面目に働こうとしてたんですから」


「で、珠子ちゃんに借金を頼んだら、まさかの『怪異退治』のお誘いだ! 次の部は裏のお仕事編! 撮れ高しかない!」


フュジェモンは、満足げにメガホンを肩に担いだ。


「というわけで、『小樽どうでしょう』、正式にレギュラー化決定です!」


「……あのぉ、大暮くんに『もう顔見せるな! 勝手に撮れ!』って言われちゃいましたねぇ」


「だから『じゃ〜勝手にやる』って返したろ! ここからは『隠し撮り』モードだ!」


「カッカッカ。カメラを意識しない人間のほうが、いい顔をしますからねぇ」


「隠し撮りって言わないでくださいよぉ。人聞きが悪い……」


こうして、天界の光の玉は、誰の目にも見えなくなった。


モニターの中のヨウは、そんなことは知る由もない。


「大暮くん、私たちのこと、すぐに忘れちゃうんでしょうねぇ」


「忘れてもらうための見えないモードですからねぇ」


「……ちょっとだけ、寂しいですけどねぇ」


エリシアの小さな声は、もちろん小樽には届かない。


「ガハハハハ! さぁて、第二部の準備だ! ウレシリア、カメラ五台回しっぱなしでいくぞォ!」


「その前に、コーヒー飲んでいいですかねぇ」


「ダメだ!」


「カッカッカ……ですよねぇ」

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