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参加自由と書いて、強制招集と読む

王妃の離宮。


「……ふむ。」


ヴィクトワール王妃は一冊の報告書をゆっくりと閉じた。


向かいにはドロシー・サンゼッド男爵令嬢が背筋を伸ばして座っている。


「お疲れ様、ドロシー。」


「勿体ないお言葉にございます。」


王妃は再び報告書へ目を落とした。


学園内で聞き取った生徒の証言。

誰が何を話し、誰から聞いたのか。

一人一人丁寧に整理されている。


「綺麗にまとめたわねぇ。」


「ありがとうございます。」


ヴィクトワール王妃はページをめくると、名前の横に赤い二重丸や青い丸が書き込まれていた。


「この赤い二重丸は?」


「めちゃくちゃ怪しい方々です。」


ドロシーは即答した。


「噂を積極的に広めていた方々です。証言も曖昧で、質問を変える度に話が変わります。」


「なるほど。」


王妃は頷く。


「では、この青い丸は?」


「何か知っていそうな方々です。」


「ほう?」


「黒寄りのグレーですね。直接噂を流した訳ではありませんが、誰かを庇っているような印象を受けました。」


「チェックが無い子たちは?」


「本当に知らないと思われます。」


ヴィクトワール王妃は報告書を閉じた。


「よく調べたわ。」


「恐縮です。」


王妃は静かに微笑む。


「では。」


侍女へ視線を向ける。


「赤い二重丸の子たちへ招待状を。」


「招待状、でございますか?」


「ええ。」


王妃は優雅に紅茶を一口飲んだ。


「私のお茶会へ是非ともお越しいただきたい、と。」


侍女は一瞬だけ目を丸くした。


王妃主催のお茶会。それは断れる類のものではない。


「かしこまりました。」


侍女が退出すると、ドロシーが小さく首を傾げた。


「王妃様。」


「なぁに?」


「お茶会、ですか?」


王妃はにっこり微笑む。


「ええ。」


そして穏やかな口調で言った。


「事情聴取よ。」


◇◇◇


数日後。


王城の温室には、招待状を受け取った令嬢たちがガクブルしながら座っていた。


「王妃様がお見えになります。」


その一言で全員の背筋が伸びる。


ヴィクトワール王妃は穏やかな笑みを浮かべながら入室した。


「皆さん、本日は来てくださってありがとう。」


柔らかな声だったが、その場の空気は張り詰めている。


「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。」


王妃は席に着くと、令嬢たちに座るように促した。

令嬢たちは恐る恐る椅子へと腰掛けた。


「今日はねぇ〜……若い子たちの話を聞いてみたいと思ったのよ〜。」


令嬢たちは互いに顔を見合わせた。


「最近、学園で色々な噂が流れているそうね。」


重い沈黙が温室を覆う。


王妃は微笑みを崩さない。


「正直に話してちょうだい。

王族へ対して虚偽の証言をした場合……どうなるか、分かってるわね?」


事実上の死刑宣告だった。


◇◇◇


一方その頃。


王太子宮殿の中庭で、コンラッド王太子は落ち着かない様子で歩き回っていた。


「殿下。」


側近が声を掛ける。


「最近、ゾフィー様へ随分とお声掛けされていますね。」


「あ、ああ。」


コンラッドは咳払いした。


「近頃、忙しくて……。ゾフィーとの時間が取れなかったから……その、お詫びに……。」


「……以前は『忙しい』と仰って追い返しておられましたが。」


「それは……。」


言葉に詰まる。


本当は、少しゾフィーを困らせてみたかっただけだった。

他の令嬢と親しくすれば、少し冷たく接すれば……。


きっと嫉妬してくれる。


泣きながら自分を追い掛けて来る。

そんな子供じみた期待を抱いていた。

だから学園で、軽い気持ちで口にしたのだ。


『この婚約は不本意だ。』


そう言えば、ゾフィーは焦る。自分に助けを求める。


そう思っていたのだが……現実は違った。


ゾフィーは泣かなかったし、怒りもしなかった。助けも求めなかった。


代わりに、国王と王妃が動いた。

婚約解消の手続きまで始まった。


「……何故だ。」


コンラッドの顔から血の気が引いていく。


「そんな話になるはずでは……。」


慌ててゾフィーをランチへ誘った。プレゼントも贈った。

以前なら考えもしなかったことまでした。


だが、ゾフィーは首を傾げるだけだった。


「殿下。」


側近が静かに声を掛ける。


「今更、遅過ぎます。」


コンラッドは何も答えられなかった。


「ベアトリーチェ嬢との過度な接触はお控えください、と何度も申し上げましたのに……。」


「……。」


「婚約は不本意だとのご発言……。

3か月も粘ったのはどこの誰でした?」


コンラッド王太子は、吐血した。

しかし、側近は容赦なく続ける。


「殿下は王族です。ご自分のご発言に責任を持たねばなりせん。

小さい頃からずっと申し上げてきたでしょう。

どうして、初等科の男子生徒のような幼稚なお考えで動かれたのです?

こうなること、少し考えれば分かるでしょう?」


側近は確実に息の根を止めにきていた。

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