公爵令嬢と王妃が本気出してきた
ゾフィーは困った笑みを浮かべた。
「殿下が、わたくしとの婚約が不本意であると申された以上は……ご本人の意思を尊重すべきかと〜。」
王妃は静かに目を閉じて、溜め息を吐く。
「そうねぇ。望まぬ結婚をさせて、外交の場でやらかしてくれた後じゃ遅いものねぇ。」
「はい。申し訳御座いません、せっかく頂戴いたしましたご縁を……。」
「気にするでない。確かに、ヴィクトワールの言う通りだ。
国王と王妃は、貴族や民たちの模範とならねばならぬ。
夫婦仲が拗れた状態で、"夫婦仲良くしなさい!"と説いたところで、どの口が言ってんだ案件だ。」
ジョン7世は深く頷く。
「では、婚約解消の方向で手続きを進めよう。」
国王は自分の侍従を呼んだ。
「アレクサンダー公爵と夫人はスケジュールの確認、それからアポを。
此度の解消は王家の都合だ。私自ら、公爵夫妻へ謝罪に参ろう。」
「かしこまりました、直ぐに手配致します。」
「ゾフィー嬢、誠に良いな?」
「陛下のご判断にお任せいたします。」
「うむ。」
そして、王妃は女官長を呼ぶように伝えた。
数分後。
やって来た女官長は全てを察した顔をして静かに立っている。
王妃の説明を聞いても、眉一つすら動かさない。
「でしたら、宰相に各省の大臣、高位貴族家の当主たち、後宮侍従長を招集いたします。」
女官長はべらぼうに仕事が早かった。
スラスラとメモを取っていると、ふと顔を上げる。
「陛下。差し出がましくも、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「む?なんだ?」
「次の王太子、何方になさいます?」
ジョン7世は腕を組んで、空を見上げる。
「……第一王女のヴィクトリアか、第二王子のランスロットと思うておる。」
「第三王女のスフィア殿下と第三王子のモルドレッド殿下も居られますが?」
「2人とも、まだ10歳になってない。」
「失礼いたしました。」
「そちらの方も手配を。」
「承知いたしました。」
王太子が何気なく言ったであろう軽口は、聞いた人間によって国家案件へと早変わりした。
お茶会から数週間後。
学園ではまた噂が囁かれ始めた。
『王家が本格的に王太子殿下とゾフィー様の婚約解消に動き出した』
『国王陛下と王妃陛下のお耳に入ったそうよ』
『……私たち、大丈夫よね?不敬罪にならないかしら?』
そんなヒソヒソ話を聞きたゾフィーは、鼻で笑う。
「今更、事の重大さに気付いたようね。」
中庭のガゼボで、ゾフィーは優雅にお茶を啜る。
「遅過ぎますよ。あんな状態でシャバでやっていけるんでしょうか?」
「さぁ?でも……人間って追い込まれたら、火事場の馬鹿力を発揮するものよ。」
「成る程。」
ゾフィーは静かにティーカップを置く。
「で、噂の出どころは分かった?
それから、殿下が言っていた、という証言は取れそう?」
「この話になった瞬間、皆様一斉に口を閉ざします。
この間まであちこちでベラベラベラベラ言いふらしていたのに。
……王太子殿下の根回しでしょうか?」
「かもしれないわね〜。」
「今更、惜しくなったのでしょうか。
今日だって、お嬢様にランチのお誘いをされました。
今まで一度も無かったのに。」
「そうねぇ。今更、お茶のお誘い、デートのお誘い、更にはプレゼントまで贈ってくるなんて……。
変なもの食べたのかしら?」
「明日、槍が降ってくるとかないですよね?」
ゾフィーとドロシーは辛辣だった。
「……お嬢様、どうしましょう?私ではここまでが限界です。」
ゾフィーは腕を組んで少し考え、やがて顔を上げる。
「王妃様に相談しましょうか。」
ものすっごい楽しそうな笑顔で言った。
「こういう時は、大人に頼るべきですね。」
「ドロシー、リストを作っておいて。」
「かしこまりました。」




