墨のような色の瞳
この物語は、十三歳(中学生)の橘スズちゃんが、パイロットとしての存在を自問しながら、平和維持組織のノヴァ日本支部の室長の青年や、パイロットたちと協力する話です。
練習部屋に到着した二人のあと、自動扉からバインダーを片手に持ったサクラが、朗らかに言う。
「おはよう、みんな。調子はどう?」
スズは、サクラに向かって会釈をする。
「おはようございます。サクラさん」
「あれ? もしかしてスズちゃん、なんか元気ない?」
サクラに言い当てられたスズは、少しギクリとして言葉を迷う。
「え、えっと……いえ、別に……」
スズは、首の後ろに手を当てる。なんで……。
「大丈夫? スズちゃん?」
「え?」
「顔色悪いけど……大丈夫?」
彼女は、パタパタと両手を振る。
「これは、その、なんでもないです」
「何かあったら、医務室に行ってね? 私、付き添うから」
「あ、はい。ありがとうございます。あの、サクラさん、昨日は、音源を渡すって言ってましたけど」
「はい。これがその音源だよ。音源は、今みんなのケータイに送るからね——っと」
各々の携帯電話から、小さい着信音が聞こえる。三人には、一通の音源のm5dが送られてきた。
「それと、はい。こちらがダンスのプリントね」
サクラから、人数分のプリントを渡されると、スズは、ありがとうございます、と会釈しながら受け取る。
サクラは、注意事項をみんなに伝達する。
「皆さん、くれぐれも無理しないくださいね。水分補給は大事ですよ?」
サクラは、小さくピースサインをすると、それから、カエデもプリントを受け取る。
「プリント、ありがとう」
「ううん、私からもお礼を言わせてよ、カエデさん。ご協力感謝いたします。困ったら私に、なんでも相談してね」
主任に言われ、カエデは墨のような色の瞳を丸くし、少し唇を引き締める。
「困ったこと——」
ふと、カエデの脳裏に、昨夜のスズが思い起こされた。ああいう年頃の娘は、年上の女性の裸を、ああもまあ、恥ずかしがるものなのか、それとも、スズだけが違うのか、と彼女は思案していた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
スズちゃんは、みんなのことを知りたいと思いながら、ほかのみんなは、他人にあまり話せない秘密を持っていたりするので、新米のスズちゃんに話すべきなのどうなのか、そこの調整が難しいんです……。
一方、スズちゃんも、他人には話せない過去がありますので、本人も悩んでおります。
一見、優秀な登場人物でも、実はとても悩んでいたり……など、人間関係の難しさを表せられたらいいな、と思っております。




