呼んだ名前
この物語は、十三歳(中学生)の橘スズちゃんが、パイロットとしての存在を自問しながら、平和維持組織のノヴァ日本支部の室長の青年や、パイロットたちと協力する話です。
スズが脱衣所で制服を脱ぎ、シャワーの蛇口を緩めてお湯を出す。その顔はうつむいて、どこかに瞳を向けている。
シャワーの水と、ごぽり、と排水口に吸い込まれていく音が、湯気に包まれた浴槽に響く。
スズは、黒いTシャツと灰色の半ズボンに着替え、脱衣所の扉をガラリと開ける。そして歩きながら、首にかかったタオルで髪を乾かす手を止めた。どこかで会ったこと、あるのかな?
タオルから手を離し、カエデの様子を見ようとベッドに近づく。でも、どこで……?
カエデは、すやすやと穏やかな表情で眠っている。左側を向き、左手に右手を上に重ねていた。
寝てる、のか……邪魔しないでおこう。スズは、そのとき、手首をつかまれた気がして、カエデを見ると、彼女がスズの手首をつかんで、枕に顔をうずめていた。
スズにとって、こんなカエデは初めてだったので、何も声をかけられない代わりに、ただ、カエデの手首につかまれたまま、立ちすくむしかなかった。久遠さ——。
「行かないでください。橘司令……ナギサ主任……」
スズはカエデの手を離さないまま、ベッドの近くに座る。
カエデはいまだに、眠ったままだ。スズは唇を引き締めて、口の中でつぶやく。
「なんで、お父さんとお母さんの名前、知ってるの?」
スズはベッドの上でため息をつき、まぶたがまどろみ始めると、夢の中へ行った。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
スズちゃんは、みんなのことを知りたいと思いながら、ほかのみんなは、他人にあまり話せない秘密を持っていたりするので、新米のスズちゃんに話すべきなのどうなのか、そこの調整が難しいんです……。
一方、スズちゃんも、他人には話せない過去がありますので、本人も悩んでおります。
一見、優秀な登場人物でも、実はとても悩んでいたり……など、人間関係の難しさを表せられたらいいな、と思っております。




