ハルトとアオ
この物語は、十三歳(中学生)の橘スズちゃんが、パイロットとしての存在を自問しながら、平和維持組織のノヴァ日本支部の室長の青年や、パイロットたちと協力する話です。
ハルトの自室の扉越しに、抑揚のない合成音声が響く。フェイトだ。
一基だけあるコンピュータは、実は、一基の中に三基の能力を持っている。ディケー(正義)・エウノミア(秩序)・エイレネ(平和)だ。
『総員戦闘態勢。繰り返す。総員戦闘態勢』
ハルトは、左腕に上着を挟みながら、自室の扉を開ける。
眼前には、慌ただしく対応しているオペレーターたちが大勢いる。そこは指令室だ。
彼は横幅十メートルもある巨大なメインディスプレイを見て、すうっと息を少し吸った。それから、彼は、いつもより声を張る。
「ウーゼは?」
すると、ウーゼ開発研究主任の女性が、スピーカーからよどみなく答える。
『三〇〇秒で、準備が完了します』
彼女に応えたハルトは、上着を着て、いつもどおり、背もたれが付いているワーキングチェアに座った。
「了解。林主任」
暗灰色のオペレーター服の中でも、指令室の二階デッキで目立つ、桜色のジャンパーを羽織った、紺色のつなぎ服の女性はうなずく。
しかし、指令室には、読んでいた文庫本を閉じた少年がいる。一色アオだ。
「あのさ、僕、パスしていい?」
ハルトは、その彼の言葉に、がくっと肩を落とす。
「あのな、一色パイロット。総員戦闘態勢なんだ。この総員って、全員って意味なんだからな?」
灰色の瞳が流れるように、黒と赤色の瞳を見る。
アオは鋭い声で言う。
「嘘でしょ、それ」
そのあとの彼は、とぼけるように肩をすくめた。
「そしたら、なんで、彼女は行けないの?」
そして、急に、アオは思い出したように声を上げ、左手の手のひらに右手の握り拳を重ねた。
「そっか。0号機は現在、強制停止中だったんだっけ。あー、そっかそっか」
プロトタイプ・ウーゼ0号機担当パイロットは、白髪の真白ユキだ。
ハルトは、アオが座るワーキングチェアの背もたれをもろ手でつかみ、自分の椅子の近くまでキャスターを移動させる。そして、ハルトは、アオの前に腰を降ろした。
「あまり茶化すな、アオ。今は緊急事態なんだし、それに、俺だっていつまでも、おまえたちをかばっていられないからな?」
「それもそうだね。ありがとう、室長」
ハルトは、パーソナルコンピュータに灰色の瞳を向けると、つぶやく。
「調子狂うやつ……」
それに対して、アオは、小さく首をかしげた。
「ん? なんか言った? 室長?」
「別に」
ハルトはぶっきらぼうに言うと、首を巡らせた。どうやら、誰かを探しているようだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
スズちゃんは、みんなのことを知りたいと思いながら、ほかのみんなは、他人にあまり話せない秘密を持っていたりするので、新米のスズちゃんに話すべきなのどうなのか、そこの調整が難しいんです……。
一方、スズちゃんも、他人には話せない過去がありますので、本人も悩んでおります。
一見、優秀な登場人物でも、実はとても悩んでいたり……など、人間関係の難しさを表せられたらいいな、と思っております。




