〝カオル〟
この物語は、十三歳(中学生)の橘スズちゃんが、パイロットとしての存在を自問しながら、平和維持組織のノヴァ日本支部の室長の青年や、パイロットたちと協力する話です。
二人が勝手に5号機に乗り込み、地上に出撃する。しかし、その5号機は動かなかった。
カエデが開いているプログのハッチから立ち上がり、勾配差があるプログの頂点に、左足を重心にして、歩く足を止める。
彼女がそこから見下ろすように見ている人物が、軽やかに手を振った。
「ダメだよ。無理しちゃ。カエデさん」
アオだ。彼は、黄色いウインドブレーカーのポケットに手を入れている。そして、にこやかに笑っている。カエデは、そうね、とうなずき、彼を見下ろしたまま話を続ける。
「あなたの言うことも一理あるわ。でも、5号機を行動不能に陥らせないでくれるかしら?」
「ああ……ごめん。まあ、昔みたいに粉々にするよりはマシでしょ? こうして、力制御できてるんだし」
彼女は、金属音を鳴らし、ケージに舞い降りる。アオは、ケージに降りたカエデを見ている。彼は、ケージの手すりに黄色いウインドブレーカーの袖を縛りつけた。
上着を脱いだのは動きやすさを重視したこともあるが、ケージの手すりに縛り付けたのは、5号機が起動したとき、風圧で吹き飛ばされないようにするためだ。
「でも、君は、その力を僕に使おうっていうんだ? 復讐のための相手ではなく。それって筋違いじゃない?」
アオはケージの手すりに、もろ手を後ろ手にされ、縛られる。黒い紐状のものは、影——カエデの能力だ。
「残念だよ、カエデさん」
カエデにはその影が彼を縛った途端、霧散したように見えた。
「僕を縛りたいなら、室長のあの手錠がなきゃ」
アオは痛そうに、手首を振る。
「それに乗るなら、スズを降ろしてくれないかな? あとさ、影がないと無理そうだよね? この能力?」
「いいえ」
カエデはアオから離れて、手すりに背をつけるが、カエデに似ている少女はアオの手首をつかんでいた。
そのカエデに似た少女を見つめるアオは、不敵に笑う。
「お出ましか。僕と会ったことあったかな? 〝カオル〟? その手を離してよ。痛いから」
カオルはカエデと同じ、凛とした声を発する。
「カエデを、彼女を傷つけないと約束して」
「うん。わかってるよ、彼女を傷つけない」
「傷つけたら、ワタシ……あなたを突き落とすわよ」
カオルは、紫色の瞳を細めた。カエデとは違い、彼女は紫色の瞳が特徴だ。紺色セーラー服の彼女は、厚さの薄い唇だけを動かす。
「深淵に」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
スズちゃんは、みんなのことを知りたいと思いながら、ほかのみんなは、他人にあまり話せない秘密を持っていたりするので、新米のスズちゃんに話すべきなのどうなのか、そこの調整が難しいんです……。
一方、スズちゃんも、他人には話せない過去がありますので、本人も悩んでおります。
一見、優秀な登場人物でも、実はとても悩んでいたり……など、人間関係の難しさを表せられたらいいな、と思っております。




