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リリムと贖罪  作者: 霧野うみ
初戦 出会い
28/260

〝カオル〟

 この物語は、十三歳(中学生)の橘スズちゃんが、パイロットとしての存在を自問しながら、平和維持組織のノヴァ日本支部の室長の青年や、パイロットたちと協力する話です。



 二人が勝手に5号機に乗り込み、地上に出撃する。しかし、その5号機は動かなかった。

 カエデが開いているプログのハッチから立ち上がり、勾配差があるプログの頂点に、左足を重心にして、歩く足を止める。

 彼女がそこから見下ろすように見ている人物が、軽やかに手を振った。

「ダメだよ。無理しちゃ。カエデさん」

 アオだ。彼は、黄色いウインドブレーカーのポケットに手を入れている。そして、にこやかに笑っている。カエデは、そうね、とうなずき、彼を見下ろしたまま話を続ける。

「あなたの言うことも一理あるわ。でも、5号機を行動不能に(おちい)らせないでくれるかしら?」

「ああ……ごめん。まあ、昔みたいに粉々にするよりはマシでしょ? こうして、力制御できてるんだし」

 彼女は、金属音を鳴らし、ケージに舞い降りる。アオは、ケージに降りたカエデを見ている。彼は、ケージの手すりに黄色いウインドブレーカーの袖を(しば)りつけた。

 上着を脱いだのは動きやすさを重視したこともあるが、ケージの手すりに縛り付けたのは、5号機が起動したとき、風圧で吹き飛ばされないようにするためだ。

「でも、君は、その力を僕に使おうっていうんだ? 復讐のための相手ではなく。それって筋違いじゃない?」

 アオはケージの手すりに、もろ手を後ろ手にされ、縛られる。黒い紐状のものは、影——カエデの能力だ。

「残念だよ、カエデさん」

 カエデにはその影が彼を縛った途端、霧散したように見えた。

「僕を縛りたいなら、室長のあの手錠がなきゃ」

 アオは痛そうに、手首を振る。

「それに乗るなら、スズを降ろしてくれないかな? あとさ、影がないと無理そうだよね? この能力?」

「いいえ」

 カエデはアオから離れて、手すりに背をつけるが、カエデに似ている少女はアオの手首をつかんでいた。

 そのカエデに似た少女を見つめるアオは、不敵(ふてき)に笑う。

「お出ましか。僕と会ったことあったかな? 〝カオル〟? その手を離してよ。痛いから」

 カオルはカエデと同じ、(りん)とした声を発する。

「カエデを、彼女を傷つけないと約束して」

「うん。わかってるよ、彼女を傷つけない」

「傷つけたら、ワタシ……あなたを突き落とすわよ」

 カオルは、紫色の(ひとみ)を細めた。カエデとは違い、彼女は紫色の瞳が特徴だ。紺色セーラー服の彼女は、厚さの薄い(くちびる)だけを動かす。

深淵(しんえん)に」

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


 スズちゃんは、みんなのことを知りたいと思いながら、ほかのみんなは、他人にあまり話せない秘密を持っていたりするので、新米のスズちゃんに話すべきなのどうなのか、そこの調整が難しいんです……。

 一方、スズちゃんも、他人には話せない過去がありますので、本人も悩んでおります。

 一見、優秀な登場人物でも、実はとても悩んでいたり……など、人間関係の難しさを表せられたらいいな、と思っております。

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