影
この物語は、十三歳(中学生)の橘スズちゃんが、パイロットとしての存在を自問しながら、平和維持組織のノヴァ日本支部の室長の青年や、パイロットたちと協力する話です。
5号機は、腰の後ろ辺りから左手でナイフの柄をつかむと、エンジェルに向かって、思い切り両手で大きく振り上げる。
スズは驚きながら、カエデを見る。
「うわあっ!? ちょ、待って! 待って、カエデさん! ストーップ!」
スズは叫びながら、両腕で顔を覆った。だが、聞いたこともないような高金属音が、周囲に響き渡りながら、その都市一帯を巻き込む。
5号機はエンジェルに突撃して、無様に地面に転がったが、すぐに体勢を立て直した。そして、黒い影にずぶずぶと沈んでいき、完全に巨躯を消した。
スズは肩で、息を荒くしていた。カエデも彼女と同様に、短い呼吸を繰り返す。
カエデとアオは、二人してつぶやいた。カエデは息が切れており、彼女はその息の切れ間に、訥々とつぶやいた。
「今の、プロテクトね」
アオはうなずく。
「うん。そうだね、カエデ」
しかし、アオの顔は、眉をひそめる顔つきになっていた。何か、彼の中で矛盾でも生じたのだろうか。
カエデは、突如現れた少女に問いかける。
「それに、あなた今何かした?」
カエデが彼女を見れば、スズは首を捻っていた。
「いや、したって言っても……私は、カエデさんを止めようとしただけだし……」
スズは唸って、また、うなじに片手を当てる。アオは、右手をあごに当てていた。その間、カエデは周りを見渡し、最適なルートを探る。
「そう……地上の右ルート、108は閉じられてるわね。なぜ?」
彼女がまた周りを見渡すと、再び、小さな電子音が鳴り響く。
「ここ、何?」
「影よ」
「え? ああ……そうなんだ」
ピピピッ、ピピッ、とズームを終了させたディスプレイに映し出されたのは、どこかの施設のようだった。アオは、ハッと気づく。
「この場所……支部のケージ?」
アオがディスプレイに触れ、そのケージを上下に滑らせて見れば、細長い通路状のものがずっと地上まで続いているみたいらしい。カエデは目を見開くと、スズに振り向く。
「あっ……どこかにつかまって」
スズは唇を引き結び、うなずく。
「うん。わかった——」
ズズンッと、衝撃がコックピットにも響く。
「おわっ……おお……」
スズは急いで、コックピットの背もたれに背中を預ける。カエデが振動に耐えていると、アオはカエデの細い、しなやかな肩を支える。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
スズちゃんは、みんなのことを知りたいと思いながら、ほかのみんなは、他人にあまり話せない秘密を持っていたりするので、新米のスズちゃんに話すべきなのどうなのか、そこの調整が難しいんです……。
一方、スズちゃんも、他人には話せない過去がありますので、本人も悩んでおります。
一見、優秀な登場人物でも、実はとても悩んでいたり……など、人間関係の難しさを表せられたらいいな、と思っております。




