カエデとの電話2
この物語は、十三歳(中学生)の橘スズちゃんが、パイロットとしての存在を自問しながら、平和維持組織のノヴァ日本支部の室長の青年や、パイロットたちと協力する話です。
カエデは靴を脱ぎ、短い渡り廊下を歩いているらしい。彼女が、どこかにカバンを置く音がする。
スズは、このまま電話を続けても大丈夫だろうか、と一抹の不安を覚えた。
こんなに人と、しかも友だちよりも、他人とすらも、彼女は長電話をしたことがないのだ。
だが、カエデに、先ほどよりも少し大きな声で尋ねられる。
『ところで、私から質問してもいいかしら?』
彼女は手を洗っているらしく、絶え間ない水音が携帯電話から聞こえる。
スズは首肯する。
「うん。何?」
カエデは蛇口をまたひねると手を拭いて、部屋の床かどこかの場所に腰を下ろしたようだ。
『あなた、私のその呼び方、抜けてないのね。ふふっ。ユキも、真白さんじゃない』
「いや、だって、なかなか呼びづらくて……」
『好きな呼び方でいいわ』
「じゃあ、カエデって呼んでいい?」
スズは、少し気恥ずかしくなった。
「あの、手紙、本当にありがとう。私が話したかっただけだから」
『そう? 私も楽しかったわ』
「うん。じゃあ、また明日。おやすみなさい。……カエデ」
『あ。そうだわ、すっかり忘れるところだった。ごめんなさい。スズ。今日、給料日なのよ。つまり、支部という会社から、私たちはお金がもらえるのよ』
「へえ。そうなんだね」
『ええ。一応、しっかりしているわ』
だが、カエデが話した内容は、スズにとっては、開いた口が塞がらない話だった。
『でも、パイロットの基本給金は、三千万円だなんて、私たちは何に使っていいかわからないものね。ユキはともかくとして、あなたなんてそんな大金もらったことないでしょう?」
彼女は自室の椅子から立ち上がると、思い切り膝をぶつけた。
ゴンッと、鈍い音が電話越しに響くと、カエデは、大丈夫? と彼女を心配する。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
スズちゃんは、みんなのことを知りたいと思いながら、ほかのみんなは、他人にあまり話せない秘密を持っていたりするので、新米のスズちゃんに話すべきなのどうなのか、そこの調整が難しいんです……。
一方、スズちゃんも、他人には話せない過去がありますので、本人も悩んでおります。
一見、優秀な登場人物でも、実はとても悩んでいたり……など、人間関係の難しさを表せられたらいいな、と思っております。




