カエデとの電話
この物語は、十三歳(中学生)の橘スズちゃんが、パイロットとしての存在を自問しながら、平和維持組織のノヴァ日本支部の室長の青年や、パイロットたちと協力する話です。
自室に戻ったスズは、ズボンの左ポケットから携帯電話を取り出す。
携帯電話から五回目の呼び出し音がなったとき、相手は電話に出た。
その凛とした静かな声は、彼女の耳の奥に届く。
『はい。久遠です』
「もしもし、久遠さん」
『スズ? 一体どうかしたの?』
「今、話してもいい?」
カエデの足音が聞こえる。それに、自動車の走行音や、歩行者信号機のぴよぴよとの効果音も、彼女の黒い携帯電話から漏れる。
『ええ、平気よ。家に帰る途中だから』
邪魔しちゃったかな? しかしスズは、少し微笑をする。
「手紙ありがとう。久遠さん」
カエデは歩行者信号機を渡っているのか、ぴよぴよという効果音が、だんだんと携帯電話から遠ざかっていく。
彼女は、ふふっ、と笑い、スズに尋ねた。
『一応、書き置きを残そうと思ったのだけれど、嫌じゃなかったかしら?』
スズは首を振る。
「ううん。初めてもらったから嬉しいよ」
多分、カエデは、金属でできた階段をカンコンと上っているはずだ。
『それはよかったわ。あなたは、もう部屋に戻ってるの?』
「うん。ちょっと、久遠さんと話したくて」
カエデは、自宅の前で立ち止まったみたいだ。
『そうなの?』
彼女は、持っていたカバンを漁っているらしい。カバンの金属音がしたときから、少ししても、チリンッチリンッと、何かの金属音がしている。
「うん。あ、サクラさんから、体調大丈夫だって聞いたよ。ホントによかった」
カエデの声は、一瞬聞こえづらかった。
『あなたにも心配かけたのね』
だが、携帯電話の奥で、チリンッと、また何かの金属音が鳴ったと同時に、カバンの蓋が閉まるような音も聞こえた。
「ううん。気にしなくていいよ、久遠さん」
別な、チリンッという音は、ガチャガチャという音にすぐに変わり、ガチャリッと鍵が開く音がした。
おそらく、カエデが玄関の外開きの扉を開けた音だろう。すぐに、玄関の扉の開閉音が携帯電話から聞こえた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
スズちゃんは、みんなのことを知りたいと思いながら、ほかのみんなは、他人にあまり話せない秘密を持っていたりするので、新米のスズちゃんに話すべきなのどうなのか、そこの調整が難しいんです……。
一方、スズちゃんも、他人には話せない過去がありますので、本人も悩んでおります。
一見、優秀な登場人物でも、実はとても悩んでいたり……など、人間関係の難しさを表せられたらいいな、と思っております。




